ー間桐邸ー
ここは間桐邸の地下、一般人が見れば卒倒するようなおぞましい虫たちの住み処である。しかし今はその虫たちがいない。いるのは1人の男、部屋の中央で座禅を組むように座り込んでいる。名は間桐承護、今回の聖杯戦争で間桐家からの参加者である。
「虫たちの調子はどうですかな?マスター」
そんな彼に暗闇から声を掛ける者がいた。
「最高だ、今までに無い感覚だよ。お前のお陰だ、アサシン」
その発言を受けて、アサシンは姿を現す。黒い1枚の布で覆われた躰、顔にあたる部分に張り付いた白い髑髏の仮面、紛れもなくアサシンのルーツとなった歴代のハサン・サッバーハの1人である。
「まさかアサシンの中に、これほど相性の良い人物がいたとは。最高のカードを引いたようだな」
「ははは、私ごときには勿体ないお言葉ですぞ、マスターよ」
「しかし、マスターである俺がサーヴァントに対して有効な攻撃手段を手にしたというのは、やはり大きな意味を持つ。これは誇っていいことじゃないか、アサシン」
しかしアサシンは軽く首を横に振る。
「マスターからそれほどの評価をされるのは光栄なことです。しかし私からすれば、結果を出してこそ意味があるものとなるのです。つまり、私が手を加えたマスターの虫たちが敵を仕留めて、初めて私はその評価を享受できるのです」
「わかった。ではより確実なものとするため最終調整を頼む、アサシン。刃はより鋭く、盾はより強固にな」
「御意。仰せのままに、我がマスター」
ー冬木市新都・ホテルの一室ー
2人の男が向かい合ってチェスに興じている。しかし片方の男には違和感しかない。何故なら、その男は狩衣、日本において平安時代の人間が着ていた服装だったからだ。そんな人物が欧州で発祥したチェスをおこなっているという光景には、違和感しか感じられない。
「西洋式の将棋もなかなか面白いですな、マスター」
「まったく、聖杯からの知識があるとはいえ、初めてやるくせに強すぎるだろ。それにお前、バーサーカーなのになんでそんなに理性がしっかりしてるんだよ」
そう愚痴る彼、ケイン・ギルバートの言うことは最もだ。本来バーサーカーは理性と引き換えに、ステータス強化の恩恵を受けるクラスのはずだ。中には会話が可能なものがいるそうだが、思考が固定され話が一方通行だったり、相手を自分が執着している人物にしか認識できない等、実際には会話が成立していない。
しかし目の前にいるバーサーカーは、そんな様子はなく会話が成立している。その目も普通に理性の灯った目をしている。
「仕方ないことですよ。狂っていたと言われるのは生前ではなく死後の話なのですから。実際、適正はアーチャーとキャスターの方が高いですし」
「こんなバーサーカーを呼び出したのは、俺が初じゃないかと思えてきたよ」
こんな2人の出会いは3日前に遡る。
ケインはロンドンにある時計塔で講師を務めていた魔術師である。彼は昔から信念を曲げない性格で、他人からどれだけ高く評価されても自分が納得できるものじゃないと満足しないほどだった。そんな彼の実績が評価され時計塔の講師となるも、待っていたのは彼には我慢できない時計塔の現状だった。
時計塔では実力よりも血筋が重要視されている。ケインが講師になれたのは、それほどまでに彼の功績が無視できないものだったため、異例中の異例といえるものだった。それを理解していたケインは『全員が平等であれば才能は開花させられる』という思想を持ち始めた。
しかしそれは、時計塔のロード達からすれば目障りとしか思えないものであった。そんな折、聖杯戦争が開かれこれを機にケインを時計塔からの監視者として冬木に派遣した。だが彼は研究に特化した魔術師であり、実戦には不向きな人間である。つまるところ、研究成果だけ回収され本人は用済みのため死地へと送られたのである。
彼もこの命令には逆らえず、冬木へと向かうことになった。そして到着した日の夜、彼の手に令呪が刻まれバーサーカーを召喚するに至る。
「まあ失望はさせませんよ。逸話こそ微かなものですが、それなりに武芸は嗜んでいますので」
「期待しないでその時を待つとするさ」
「左様で。チェック」
「…もう1回だ」
結局、ケインの5連敗で勝負がついたという。
活動報告・サーヴァント情報を更新しました。