「おはよー」
いつもと変わらない時間に登校。いつもと変わらない日常があると思っていた
席につけないと知るまでは。
教室で私の席は廊下から2列目の前から3番目。何故かそこだけ椅子がない。周りを見渡してみても隠されているような感じではなさそうだが、妙な視線を感じるのと、クスクス笑われているような感じがする
「あの、私の椅子知らない?」
「さあ?」
ねちっこい視線。アッキー……緑山あきな以外のクラスの人とはあまり仲が良くない。だからクラスの誰かを頼るなんて考えられなかったんだ。不運なことに、アッキーは今日に限って風邪で休みだ
「案外、窓の下に落ちてるかもね?」
男子の誰かが言った。朝のSHRまで時間はまだある
探そう
机にカバンの中身を移し、カバンを横にかけて窓の下、中庭へ。あの言葉を信じて飛び出したけど本当に――ああ、よかった、ありました
教室に戻って椅子を戻したタイミングで予鈴のチャイムが鳴り響く
「きりーつ、れーい、ちゃくせーき」
ガタタッ!って音がして椅子が崩れ、尻餅をついてしまった
「水島!大丈夫か!?」
「なんとか、はい」
「老朽化か……?とりあえず今日はパイプ椅子使え。明日新しいのに変えてやるから」
「……ありがとう…ございます」
確信した。いじめだ。なぜって?椅子は老朽化していない。誰かがネジを緩めておいたんだと思う。それとカバンを開けたら水が入ってた。チャック全開にして零れないギリギリの量。何で漏れないのか疑問に思ったけど、水を捨てたらすぐ分かった。内側にご丁寧にアルミシートが敷き詰められていた。これなら確かに水漏れはしないから私や先生が怪しまないもんね。私が中庭に行って椅子を持って帰るのにおよそ10分。その間にやったようだ
「なんで……こんなこと」
「ちょっと前に流行ったアイドルの真似事して人気取って、それで自覚なし?笑わせないで」
「真似事なんかじゃない!」
精一杯、私の苦悩を伝える。ジュエルの影響で、ぴのんちゃんを、トライアングルを継ぐことになったことや、ぴのんちゃんを継ぐという、その意味や使命を
そして何より、それさえなければ私だって「普通に」プリパラを楽しめたかもしれなかったということを。
伝えるってことはとても大切なことだと思う。主犯格の女子生徒が昼休みに私を呼び出して、「いじめは辞めさせる方向で話を進めるけど、期待しないほうが身のためだ」と意味のわからない忠告をしてくれた
――――――
プリパラに着いても気持ちが晴れることは無かった。むろ続けることで「またやってるよ」といじめが加速する未来しか見えない
「……アイドルやめたいぴっぴ」
「辞めさせないわよ。てかもうすぐトライアングルのステージだし」
「ぴ?」
薄紫色のサイドテールが風に揺れる。私達トライアングルの生みの親、のんちゃんだ。でもなんでここに?
「アンタのチームメイトに頼まれたのよ。落ち込んでるみたいだから話を聞いてやってほしいって」
「でも、私話すことなんて――」
「あるでしょ。些細な事でもいいから話してみて」
真剣で優しい眼差し。誤魔化しは効かないだろうし、この人になら喋ってもいいかもしれない
改めて伝えるってことはとても大切なことだと思う。自分が置かれている立場を再確認できるから。ぴのんちゃんの跡を継いだことが関係しているのか、それを理由に苛められていることをのんちゃんに全部話した
「なるほど…辛かったね。でもそんな事で泣いてるヒマはないわよ」
「え?」
「お姉ちゃん……神アイドル真中らぁらのこと、教えてあげる」
彼女の口から語られることは、信じ難い事ばかりだった。女神が赤ちゃんになって、それを育てただとか、書き換えられたシステムを相手に打ち勝つことで元に戻させたこと。
そして何より驚いたのは、校則で禁止されていたプリパラを認めさせたこと。それも2回
それら全てがプリパラだからこそ成し遂げられたという。やはり神アイドルは格が違う
「信じるものは救われる、とは言わない。でも、何もせずに諦めてハイ終了ってのにはまだ時期尚早なんじゃない?今は仲間を信じようよ」
「……うん」
「それとこれは個人的なお願い。お姉ちゃんみたいに辛い現実をひねり潰して、もう1回心から笑って。ぴのんはいつでも100%笑顔の子なんだから」
「はるかちゃんなら、絶対出来るわ」
「うん!」
――――――
「遅い」
「超心配しましたよー」
「ごめん、もう大丈夫ぴっぴ!それより今日のライブ、最高のものにしようね!」
「当然よ」
「はい!」
「ぴっぴでぱっぴでぷー!」
「超絶クールバタフライ」
「かのペロ!」
『トライアングル、アイドル・タイム、カウントダウン!!』
今はいじめに屈してる場合なんかじゃないんだ。アッキーたちパンドルや他のアイドルに負けないくらい輝かなきゃ!
「はるかたちのステージ、楽しんでいって欲しいぴっぴ!」
『聞いてください、かりすま〜とGirl☆Yeah!』