妖夢との稽古から一夜明け、今日はレミリア達紅魔館組がやってきた。
パチュリーとこぁも一緒なのは、俺の定期検診をしに来ている為だ。
で、暇だからと咲夜を誘って模擬戦でやりあう事にした。
その時、美鈴が何か言いたげな視線を送ってきたが、悪いけど今日は格闘よりナイフでやりあいたい気分なんだよな。
昨日は妖夢の為とは言え、不発で終わらせたから身体が疼いて疼いて……ってこんな事こっちに来てからよくある。
学園都市にいた頃はそういうのなかったんだけど、環境が変わったせいかな?
「それで、あの子とは昨日はそれだけやって終わったのかしら?」
「あぁ、あれだけやれば十分だろ。攻撃が読みやすいって言う弱点の1つは教えた。もう1つは自分で気付くか知らず知らずに乗り越えて行った方がいいだろ?」
「それもそうね。ふふっ、あなたも随分と師匠が柄に合って来たんじゃない?」
「そんな柄はいらないっての」
俺と咲夜は世間話をしつつも、ナイフとナイフでやり合っている最中だ。
逆手の強襲をすれば、咲夜は順手の連続突きで応戦する。
咲夜が蹴りを放てば、同じく蹴りで受け止める。
一進一退の攻防。咲夜はナイフだけではなく格闘戦も得意だ。
俺と咲夜は戦闘方法が似ている上、実力もほぼ互角。
だから、美鈴と同じく結構やり合っていて楽しい。
楽しいのだけど……
「咲夜、スカートなんだからそう大振りな蹴り技を使うのはどうかと思うぞ?」
「あら、大丈夫よ? 今日は勝負下着だもの」
「「「「ぶっ!?」」」」
ん? 霊夢達が一斉に噴き出したが、どうした?
「そうか、勝負下着か。だったら安心だな」
――ズルッ
あれ? 今度は一斉にずっこけたぞ?
あ、なぜか咲夜までこけている。
「あ、あのねぇユウキ。あなた勝負下着の意味分かってるの!?」
「えっ? 勝負下着って戦闘用に動きやすかったり、長時間履いていても皮膚に影響が出ないようなものだろ?」
俺がそう言うと、レミリアは開いた口がしまらないと言いたげに口をあんぐりと開けた。
霊夢とフランは深く溜息をして、パチュリーと美鈴とこぁは頭を押さえ、萃香は笑い転げている……って萃香いつのまにいたんだよ。
「はぁ~~~……慣れない事をしたり言ったりするものじゃないわね。そもそもこういうのってあのバカラスがやるべき事よね。と言うか、あなた知識に偏りがありすぎるんじゃないかしら!?」
「??? なんで文が出てくるのか、とかなんで怒られてるか分からないけど、まぁ、続けるか?」
「今日はもういいわ。ほら、お客さんが来たみたいよ」
咲夜が指さした方を見ると、空の向こうから妖夢が飛んできているのが見えた。
昨日もやったけど、2日続けて稽古に来る事はよくある。
そして妖夢は、俺の姿を見つけると眼前へと猛スピードで迫ってきた。
「こんにちは、師匠! 今日も稽古をつけてもらえないでしょうか!?」
「お、おう。いいぞ」
やけに爽やかで、それでいてやる気満々といった表情を浮かべている妖夢。
昨日の帰り際とは大違いだ。
何にせよ。咲夜と中途半端に終わってしまったから、このまま続けるのは願ってもない事だけど。
「ねぇ、この子に何をしたの? またテンションがおかしくなってるわよ?」
「俺に聞くなよレミリア。大方幽々子が何か言ったんじゃないか?」
「何を話しているんですか? さぁ、始めましょう! すぐに始めましょう!」
こんなにハイテンションな妖夢は珍しいな。
たまに頭のネジぶっ飛んでおかしくなる事はある。
霊夢やレミリア、咲夜達は見慣れていると言ってもいいけど、美鈴やこぁは驚いているな。
「何だか嫌な予感がするのよねぇ……」
霊夢が何か呟いたが、俺は聞かなかった事にした。
だって、俺も嫌な予感がすっごいするからな!
もう、考えるのは止める事にした!
「で、嫌な予感がするなら止めなくて良かったのですか?」
「あの子、今日はいつにもましておかしなテンションだし、どうなってもしらないわよ?」
「う~ん、ユウキさんは乗り気だし、危険な感じはしないからいいかなと思って」
私が呟いた言葉に美鈴と咲夜が反応した。
何だろう。どうも私が嫌な予感と言うと過剰反応してくるわよね、皆。
まぁ、私の勘ってば予知能力レベルとまで言われてるから仕方ないけど。
でも、今回の嫌な予感は危険という意味ではなく、何かこう別な意味で嫌な予感するのよね。
「では、いきます。はぁ!」
「こい!」
そんな事を考えている間にもう始まってしまった。
妖夢は昨日のユウキさんのアドバイスをちゃんと聞いていたようで、斬撃は相変わらず単調ながらも鋭さが増している。
ユウキさんもそれが分かっていて、今日はちゃんとナイフで裁いているわね。
「それにしても、あの動きは見事です。よほど剣の才能に恵まれているのですね」
「美鈴は妖夢の剣術見た事なかったのよね」
「私も初めてだよ。あのお姉ちゃんここまで強かったんだね!」
美鈴とフランは妖夢とユウキさんの稽古を見るのは初めてなので、結構楽しんでいる。
確かに見ている分にはあの2人のやり合いは見ごたえがある。
昨日は一方的だったけれど、それでもユウキさんのかわし方が円舞のようで綺麗だったわ。
「さーって、妖夢はどこで仕掛けてくるかねぇ」
「そうね……って萃香、妙な言い方するわね。何か知ってるのかしら?」
「んん? いやぁ、それは見てのお楽しみってやつだよ。いい酒の肴になりそうだし」
なんて言いながら、呑気に瓢箪の酒を飲む萃香。
というかこの鬼っ子いつのまに来たのかしら。
昨日もこっそりとユウキさんと妖夢の事見ていたみたいだし。
「あんたね。たまには普通に入ってきて見てなさいよ。覗き見とか趣味悪いわよ?」
「別に覗き見じゃないよ。ただ気付かれなかっただけさね」
「呆れた。ただの屁理屈じゃないそれ」
「ほらほら、そんな事より決着付きそうだよ」
萃香の言う通り、ユウキさんと妖夢との勝負は決着が付きそうだった。
2人共まだ一撃を加えられていないけど、息切れした妖夢の攻撃速度が鈍ってきて、逆にユウキさんはカウンターを仕掛けてきている。
最も、実戦形式の稽古なのだから決着も何もないわね。
「妖夢、そろそろ終わりか?」
「いえ、まだ、これからです!」
息切れを起こしているのに妖夢の目はまだ諦めていなく、これからが本番だと言わんばかりに燃えている。
これは何か秘策を用意したのかしら?
そして、その秘策に間違いなくこの酔っ払いが関わっているはず。
「へぇ、面白いな。いいぜ、来い妖夢!」
「はい、師匠!」
そうして妖夢は数回呼吸を整えて、深く息を吸い込んだ。
「……すきやき!!」
………………はっ?
――ドテッ
隣で萃香が素っ転ぶんでるけど、私は気にしなかった。
と言うかいきなり妖夢が素っ頓狂な事を言うので固まってしまった。
私だけではなく、咲夜やレミリア達も同様でユウキさんですら目をパチクリさせて固まっている。
「シッ!」
「あっ」
――パシッ
ユウキさんの間の抜けた声と共に、彼の持っていたナイフが宙に舞っていた。
そして、首筋には妖夢の持つ木刀がピタリと付けられている。
これは……勝負あり?
「~~~っ! やりました! ついに師匠から一本取れましたぁ~!!」
妖夢は両手を振り上げ、子供のようにはしゃいで喜んでいる。
異変前からこれまで全戦全敗、一撃を与えられずに完敗だったのだから、喜ぶのは当たり前、かな?
それよりも妖夢が言ったあの一言の方が気になる。
「あ~……今回はやられちゃったか、参った参った。隙を見せた俺の不覚だ。ところで妖夢、さっきはなんで急にすきやき、だなんて言ったんだ? 突拍子が無さ過ぎて思考停止しちゃったぞ」
「あ、あれはですね。師匠の好きなものを言ってみたんです。そうしたら隙が出来ると言う事でしたので」
「??? 話がさっぱり見えてこないけど、要するに妖夢は誰かからアドバイスを受けたって事だな?」
「はいっ! あ、すみません! 誰に教わったかは教えないと言う約束ですので……」
「へーふーんそーなんだー」
ギギギッとユウキさんの顔がある一点へと向けられる。
と、同時に私や咲夜達も同じ方を向いていた。
その視線の先では……
「あ、あたたたっ、ま、まさかこんな展開になるなんて、あの子天然とかそういうレベルじゃ……あっ」
縁側から盛大に素っ転んだ萃香が顔を上げると、沢山の鋭い視線が突き刺さっていた。
「す~い~か~? 妖夢に何を吹きこんだのかしら?」
「俺の弟子に何いらない事教えこんだ?」
「そこら辺を、詳しく聞かせて頂けますね、早急に」
「嘘はつかないわよね? 仮にも日本の鬼なんだもの」
「ホラ、サッサトハイテラクニナッチャイナヨ?」
私達に問い詰められ、流石の萃香もうすら笑いを浮かべながら後ずさって行く。
なんか、1名おかしな方向にいってる気がするけど。
「あ、あはははっ、私はそろそろ……って、あれ? なんで!? 霧化出来ない、ってユウキ!?」
「俺の能力停止の事、忘れてたか?」
どうやら萃香は能力で逃げようとしてたみたいだけど、ユウキさんが幻想支配で先手を打った。
さて、これで萃香は逃げ場を失ったわね。
「ま、待って下さい! 萃香さんはただ師匠に、すきやき、と言えばいいと教えてくれただけです。何も悪くありません!」
妖夢がそう言うと萃香はアチャーと言った風に額に手をあて天を仰いでいる。
うん、妖夢色々話してくれてありがとう。
でも、一点だけどうしても気になる事があるのよね
「……だから、なんですきやき?」
「えっ? 師匠は、すき焼きが大好物だからなのではないですか?」
「だからなんで!?」
ユウキが萃香から離れ、妖夢と話こんだ隙をついて私や咲夜は萃香に詰め寄った。
「ねぇ、あんた、本当は妖夢に何と言えって言ったの?」
「まさかとは思いますが……」
「うぅ~、お察しの通り、好きだ。って言えばいいよと言ったんだよ。でも、なんでか妖夢は変に解釈したみたい」
……なるほど。
すきってだけじゃ何でそうなるのか分からず、妖夢は自己解釈ですき焼きの事だと思ってしまったと言うわけね。
「これは妖夢の天然さに救われた。と言えばかしら?」
「そうね、咲夜。最も、妖夢がそのまま言った所でどうもならなかったでしょうけど」
彼にそんな言葉が通じるとは到底思えない。
だけど、そう言われた時の彼の反応があるのかどうかは、少し気になったけどね。
「まぁ、いい。ともかく俺の隙をついた時のあの一撃、今まで一番鋭くて力強かったぞ。多分隙をつかれなくてもあの一撃なら受け切れなかったかもな」
「っ! あ、ありがとうございます、師匠!」
妖夢の一言で唖然としてしまったけど、ユウキさんの隙をついた時の一撃は確かに今まで見た中で一番いい一撃だったと私も思う。
咲夜やレミリア、美鈴も同感のようで、あの一撃を褒めていた。
「あ、ひょっとして、萃香さんが言っていた一言って、すき焼き、ではなく隙あり、だったのでしょうか……」
「いや、忘れろ。馬鹿鬼に言われた事は綺麗さっぱり忘れろ。コホン、ともかくこれで分かったと思うけど、妖夢が本気を出せば俺じゃ受け切れない一撃が容易に出せるんだよ」
「しかし、あれはまぐれです! たまたまです! あんな鋭く重い一撃なんて未熟な私にはとても……」
「はいそこ。そこが妖夢の一番ダメな所だ」
ユウキさんは、テンションが下がろうとしていた妖夢の頭に手を置き、優しく撫でた。
「えっ? 師匠?」
「俺が言っていなかった妖夢の最大の弱点。それは自分を過小評価しすぎて自信をもたな過ぎって事だ」
「自信を、持たない?」
「そうだ。妖夢は元々すごい剣の才能とそれを十二分に引き出せる力があるのに、妖夢自身がそれを否定してうまく力を出し切れていなかったんだよ。本来、俺と互角以上に渡り合えるって言うのにさ」
ユウキさんはああいうけど、多分妖夢が自信を失った原因って彼に2度も完敗したせいよね。
ま、言わぬが仏と言うやつね。
「きっかけはどうあれ、妖夢は自分でその力を発揮して俺に勝った。どうだ? 少しは自信が付いただろ?」
「その、言われてみれば、少し身体が軽くなった気がしますけど、でもあれは偶然」
「偶然だろうが何だろうが、妖夢の剣は俺を上回ったのは事実。それを認めろ。それを誇れ。魂魄妖夢は俺に剣で勝ったんだ」
「……っ、はい!」
ユウキさんが言いたい事が分かったのだろう。
妖夢はさっきまでのどこか影のある笑顔ではなく、憑き物が落ちたかのような笑顔を浮かべていた。
「全く、弟子思いと言うか、随分と周り道して伝えたわね、ユウキさんは」
「私は剣の事はさっぱり分からないけど。今の妖夢が今までとは違うって事は分かるわ」
咲夜とパチュリーの言う通りだ。
きっとあれが本来の、自信と誇りを取り戻した魂魄妖夢の姿と言うわけね。
「さって、これで俺が教える事はなくなった。妖夢の師匠も今日で終わりだな」
「いえいえ! 確かに私は自信を持てましたし、師匠にも一本取れました。ですが、私が師匠に教わりたい事はまだ沢山あります! ですので、これからもずっと、いえ、永久に師匠と呼ばせて下さい!」
ユウキさん、これをいい機会とばかりに師弟関係を解消させる気だったわね。
でも、妖夢が今まで以上にユウキさんを慕ってしまったみたい。
今、ユウキさん、当てが外れてとても面白い顔をしてるわね。
「えっ、いや、もういいだろ? 俺より強くなったんだし」
「そんな事はありません! 例え師匠より強くなろうとも、私は師匠の側で色々教わりたいんです。ずっと側にいさせてください!」
……何だか段々と妖夢の言う事が過激になってきてないかしら?
それと、妖夢の顔がまるで紅魔館や文や妹紅みたいに、全く別の顔になってきてないかしら?
「人の事言えないんじゃない? 妖夢の顔、霊夢とも同じような顔になってきてるね。花見の時とは大違いだ。これはこれからまた楽しくなりそうだねー」
「う、うるさいわね! 大体元はと言えばあんたが悪いんでしょ、萃香!」
全く、嫌な予感ってこれだったわけね。
道理で危険な感じがしないと思ったわ。
けど、ユウキさんにとっては、これは良かったのか悪かったのか、どっちなのかしらね?
続く
はい、こう言う落とし所となりました。
これからフラグがどんな風に成長するのかお楽しみに!(笑)
次回はどのキャラメインで書こうかなー
書きたい話はあれど、順番とサブタイに迷います(笑)