四季映姫との初顔合わせです!
梅雨の時期もそろそろ終わろうかと言う6月下旬。
今日も寺子屋で慧音の手伝いをした。
最も、手伝いと言っても最近じゃ慧音と交代で授業を教える側になってしまったが。
「慧音先生、ユウキ先生、さようなら!」
「あぁ、気を付けて帰るんだぞ」
「また明日なー」
すっかり先生と呼ばれるのに慣れてしまった。
「あ、お兄ちゃん。あの小説読んでくれた?」
「あぁ、あれか。勿論、梨奈が勧めるだけあってなかなかに面白いな」
「私はもう何度も読んだから、しばらくお兄ちゃんジックリと隅々まで読んでね! じゃあねー!」
「……わ、わかった。またなー」
ある日、梨奈から突然恋愛小説を数冊渡された。
なんでも、外の世界の本をこっちに合わせて書きなおしたものらしい。
それをなぜか俺に是非読んで欲しいと渡された。
で、博麗神社で読んでいたが……
『似合わないけど、確かに読んだ方がいいわね。ユウキさんは』
『そうですね。色々参考にして欲しいです』
『今度、パチュリー様からこういうのを百冊ほど借りてきますね』
と、霊夢や文、咲夜にまで言われてしまった。
恋愛小説の何を参考にすればいいと言うのだろうか。
この主人公みたいに軽くなれって事か?
それこそ似合わない気がする。
「それにしても、なかなか先生が様になってるな、ユウキ君。妖夢への稽古と言い、君は教える側としての才能があるのだろうな」
「よしてくれ、これだけやってればいやでも慣れる。子供達どころか親からも色々教えてくれって言われるしな」
「そうだな……君の授業は私より評判いいからなぁ」
あ、慧音がまた凹んだ。
教え方が難しいって前は自覚なかったけど、最近ようやく自覚出てきたからな。
「慧音は中級者向け、俺は初心者向け教師。向き不向きは人それぞれだろ?」
「中級者……つまり私は子供達向けの教師ではないんだな」
「うわっ、逆効果!? ってかお前何だかすごくめんどくさくなってるぞ!?」
前からこんなキャラだったか?
「慧音―邪魔するよー」
その時、寺子屋に妹紅がやってきた。
そう言えば、今日は午後から約束してた事があるって慧音が言っていたな。
「慧音、迎えに来たよ。あ、ユウキも一緒か」
「よぉ、妹紅。ちょうど良かった。慧音を頼む、俺はもう帰る」
「あぁ、またねユウキ……って、えっ、ええっ!? ちょっと、一体どうしたの? なんで凹んでいるのさ慧音!?」
ほとんど押しつけるように凹んだ慧音を妹紅に任せた。
今度妹紅には何か奢ろうか……
「霊夢は出かけているんだったな。昼はどこで食べるかっと、あそこにするか」
何を食べようかと歩いていると、蕎麦屋を見つけた。
ここの蕎麦屋は甘味処も兼ねていて霊夢や咲夜、妹紅と何度か来た事があって、その度に店員に冷やかされてたっけ。
お昼時だから混んでそうだけど、その時は別の所に行くか。
「こんにちわーおばちゃん席空いてる?」
「あら、ユウキ君いらっしゃい。1つ空いてるわよ」
やはり店の中は混んでいたが、ちょうど2人用の席が空いていたのでそこに座った。
ここは蕎麦もうどんもデザートも美味しいから人気店だ。
店長のおばちゃんにはすぐに顔を覚えられた。
まぁ、毎回霊夢とか咲夜とかと来てれば目立つからな。
「あら、今日は1人なの?」
「まぁね。ここの蕎麦も餡蜜もうまいから、たまには1人で来てみようかと」
「嬉しい事言ってくれるわね。でも、隣に美少女いないと寂しいんじゃない?」
「そんな事ないっての」
寂しいと言うか物足りなさはあるな。
でも、おばちゃんのこういう話の振り方と言うか接し方は未だに慣れない。
学園都市にいた頃には身近にいなかったタイプだしな。
「さてと、今日は何を頼むかなっと、ん?」
メニューを見ながら考えていると、何か変わった気配を感じ辺りを見渡した。
すると、そこへおばちゃんの娘さん、琴葉さんがやってきた。
近々結婚予定だとかおばちゃんが自慢げに話してたな。
「あ、ユウキ君。ごめんなさい。実は相席をお願いしたいんだけど、いいかな?」
「いいですよ。俺は気にしませんから」
1人で来た事なかったからここでは相席は初めてだけど、他ではたまにあったしな。
ここの人達は悪い人はあまりいないし、結構気さくな人も多いから話相手にはちょうどいい。
「良かった。あのお客さん結構可愛いからユウキ君の好みかもね?」
「いや、俺の好みなんて言ってないし、そもそもないから!」
「ふふふっ、ごゆっくり~♪」
琴葉さんは分かっているのか分かっていないのか、親指を立てて行ってしまった。
全く、おばちゃんと言い親子だなぁ。
と、琴葉さんに案内されて女性が1人やってきた。
琴葉さんの言う通り、結構可愛い。
と言うか、綺麗だな。
「こちらへどうぞ。じゃ、ユウキ君。後は頑張ってね」
「ありがとうございます。失礼しますね」
「どうも。で、琴葉さん、何をがんばるんだ何を……」
見た目は俺と同じくらいに見えるけど、雰囲気的には少し年上くらいか。
それよりも服装が目立つ。まるで中国の時代劇に出てきそうな王朝っぽい服装をしている。
どこかのお姫様か?
いや、雰囲気や服装だけじゃないな。
彼女の存在そのものが異質だ。
感じる気配が人間ではないが、妖怪でも妖精でも亡霊の類でもない。
強いて言うなら、以前出会った痴女死神に近いか。
幻想支配で視てみようかと思ったが、視る理由がないので止めた。
「こんにちは。お邪魔してしまい、申し訳ありません」
「いや、1人で食べるのも何か物足りないかなと思っていた所だったから、ちょうどいいさ。俺の名はユウキだ」
「あなたの事はよく知っていますよ。あ、失礼しました。私の名前は四季映姫・ヤマザナドゥと言います」
差し出された手を握り返す。
見かけによらずしっかりとがっちり掴んできた。
それにしても、変わった名前だな。
ミドルネームなら普通、四季・ヤマザナドゥ・映姫、にすると思うけど。
そんな俺の考えが顔に出ていたのか、映姫はクスクスと笑っていた。
「ふふっ、分かりにくかったですね。ヤマザナドゥは名前ではなく役職名なのです。私は閻魔、ヤマザナドゥとは幻想郷の閻魔と言う意味です」
「なるほど、閻魔だったのか。流石は幻想郷なんでもありだな」
――ガクッ
あれ? 映姫の肩が落ちた気がした。
俺、何か変な事言ったか?
「そ、それだけですか?」
「それだけって何が?」
「私を閻魔と聞いて何も思わないのですか?」
「うーん、別に何も。吸血鬼やら亡霊やらいるんだからそれくらいいても不思議じゃないな。くらい?」
そう言うと映姫が頭を抑え始めた。
「え、閻魔が吸血鬼や亡霊と同じ扱いですか……ですが、これくらいは予想範囲内です」
「後は……」
「何ですか? まだ何かあるんですか?」
「前見た本だと髭もじゃのおっさんだったけど、実際の閻魔って結構綺麗なんだな。雰囲気も凛々しいし髪型も似合ってるし」
「っ!?」
阿求の所で見させてもらった本に書いてあったのは、定年間近の髭ぼうぼうのおっさんだった。
閻魔がどんなものかは知っているけど、学園都市じゃ本ですら見た事なかったからな。
おや、映姫の様子がおかしいな。
「こ、これも予想範囲、です……」
俯いたままプルプル震えてるな。
笑いを堪えているのか、顔が少し赤い。
って、冷静に考えたら初対面の人に綺麗だ、可愛いだのって俺は何言ってんだか……
俺……こんな軟派な性格だっけ。
あの小説を読んで影響受けたか?
思えば、資料やレポートは昔から沢山読んでいるけど、小説ってまともに読んだ事なかったかも……
「あーごめんごめん。初対面の人に失礼だったな」
「い、いえ、これくらいの反応は予想済みなので問題ありません! ただ、女性に御世辞を言うのはどうかと思います」
「お世辞とかは嫌いだぞ? 思った事言っちゃっただけだし」
「っ~~! 知ってはいても実際にされるとこうも違うモノですか……」
映姫はまたブツブツと独りごとを言いだしたかと思えば、急に立ち上がり俺にビシッと指を突き出した。
「と、とにかく、お世辞が嫌いなのや女性を褒めるのは悪い事ではありません。嬉しかったです、が! あまり素直に言い過ぎるのは問題です! そう、あなたは少し、いえ、かなり思った事を口に出し過ぎです! あっ……」
映姫はここでやっと、自分のあまりの大声に周りの客達や、外にいた通行人すら立ち止まって一斉に俺達に注目しだしている事に気付いた。
そして、コホンと、咳払いし何事もなかったかのように座った。
流石閻魔、肝が据わっていると言うかなんというか。
「失礼しました。今日はいつもと違って完全な休みにするはずだったのですが……」
特に恥ずかしがるわけでもなく真顔になっているが、冷や汗出てるぞ。
妖夢と別の意味で真面目なんだな。
閻魔やってるからこれくらいが普通か。
「俺は気にしてないからいいけど。今日は休みだったのか?」
「はい。死者が亡くなる日がないのと同じく、彼岸の裁判は年中無休です。ですが、閻魔はそうではありません。ちゃんとシフトを組んで交代交代で裁判を行っています」
死者とか彼岸とか幻想的な単語出てきたと思ったら、急に現実的な話になってきたぞ。
「なので今日は休みなのです。いつもは休日には幻想郷を見回って、皆が善行を務めているか見て回っているのですが、他の閻魔や上司から、仕事や役目を忘れて完全休日を過ごせ。と言われました」
それは、何とも反応しがたい話。
ワーカーホリックって奴か?
「別に過労で倒れる事はないのですが、それが私の善行。とまで言われてしまえば言い返す言葉もなく、こうして何もかも忘れて人里でのんびりしようかと思いまして」
「うーん、働き過ぎな日本人。って閻魔は人間とは違うか」
「そうですね。私、と言うか閻魔は神の眷属ですから。ですので、あなたの幻想支配でも私を視るのは難しいと思いますよ?」
「やっぱり俺の事色々ご存知か。観察にでも来たのか?」
うまく隠しているようだけど、俺を観察しようとする意思が感じるんだよな映姫から。
「ふふっ、半分はそうですね。ですが、ここであなたと会ったのは本当に偶然ですよ?」
「そっか、ならこれは運命の出会いって奴だな」
「ぶーーっ!?」
それを聞くと、映姫はお茶を噴き出してしまった。
ちょっと小説のキャラを真似てシャレっ気を出してみたのだが、やっぱ俺には似合わないな。
「けほけほっ、い、いきなり何を言うのですか? しかも、さっきと違って今回は確信的にからかいましたね」
「あ、分かったか?」
「全くもってあなたと言う人は! い、いえ……これ以上はやめましょう。今日は完全に休みなのですから」
「あらら、お客様大丈夫ですか?」
テーブルが濡れたので琴葉さんが布巾を持って来てくれた。
が、映姫の様子を見て、俺に意地悪な笑みを浮かべてきた。
「はは~ん、ユウキ君。またやったんでしょ?」
「いや、またって何を!?」
「霊夢ちゃんや咲夜ちゃんにも同じ事してたでしょ?」
「人聞き悪い事言わないでくれませんか? 彼女、今日初対面なんですけど!?」
変に誤解されたらどうするんだよ。
「あ、お構いなく、そういう事情も知ってますから」
「……あ、そう……流石、じごくみみ」
もう、どうでもいいや……
「あの~盛り上がっている所すみませんけど、そろそろご注文いいでしょうか?」
「「あっ!」」
そう言えば注文するの忘れていた。
満席だった周りの席も空いてるんだろうな。
と、思ったらなぜか帰らずに皆さん座ったまんま、お茶を飲んでいる。
「いやぁ~お茶が甘いなぁ」
「とびっきり渋いお茶頼んだはずなんだけど」
「今日はデザートはいらないわね」
……気にしないでおこう。
そんな事より、とっとと注文しちゃうか
「すみません。すぐ注文します! 俺はざる蕎麦の大盛りと、栗あんみつぜんざいセットで」
「も、申し訳ありませんでした。納豆蕎麦と……えっと」
映姫はどうやらデザートで迷っているみたいだな。
何となくだけど、ここには初めて来たように見える。
「あ、彼と同じものでお願いします」
結局、散々迷った挙句映姫は俺と同じものを頼んだ。
「ここに来るのは初めてなのか?」
「そうですね。いつもは人里に来る事はあっても食事をする事はありませんね。と言うよりも、人里を見回りに来ているような物なので、そういうのが良く分かりません」
「なるほど、生真面目なんだな」
「そうだ。良ければ人里を案内してもらってもいいですか?」
「案内? 外来人の俺が?」
はて? 俺はまだここに来て半年も経ってない。
「最近やっと慣れてきた程度の俺よりも、昔から幻想郷の事知ってる映姫の方が詳しいだろ?」
「む、昔から……いえ、さっきも言いましたが、私は見回りこそすれど、どういう店がどこにあるのかまではよく見ていないので、よくわからない部分が多いんです」
人里全体は知っていても、実際にどこに何があるか細部が分からないって事か。
だから、有名なここに来るのも初めてで何を頼めばいいかも分からなかったのか。
中途半端な箱入り娘だな。
「何か?」
「いや、何も」
口に出さない方がいいんだよな、うん。
「いいぜ。今日は午後予定ないし。たまには色々見て回るのもいいだろ」
「それは良かったです。では、よろしくお願いしますね」
それから俺達は蕎麦とデザートを食べながら雑談して、人里巡りへと向かって行った。
「四季様がちゃんと休んでるか観に来たんだけど、なんで彼をデートに誘っているんだろう? いや、四季様あれで男関係天然な所あるから気付いてないんだろうなぁ。でも、相手が彼だから大丈夫……かな?」
続く
あれ……普通に顔を会わせるだけのはずが、なんでこういう話になったかな?
なんで、映姫こういう性格になったかな??
細かいことを気にするのはやめよう、うん!