今回からシリアス率がどんどん下がります。
全くなくなるわけではないですが…
夕日がまるで今の私の気分のように沈んで行く。
「はぁ~……」
それを見て、今日何度目か分からない溜息を吐く。
気分もテンションも何もかもが最悪。
昨日、竹林で殺し合いをした男、ユウキさんは月からの刺客でも何でもなかった。
彼はただの外来人、つまり普通の人間だった。
普通の、と言うには納得できない部分は多い。
アレから一晩明けて、お師匠様やてゐ達からその事を聞かされて、私はショックを受けた。
月の者ではないただの人間に、私は殺されかけた。
結果的に、私は彼に勝ったけれど、トドメを刺される瞬間、彼は正気に戻り自分で自分の腕を刺して私への攻撃を止めてくれた。
なのに、それを隙と見て私が攻撃した。
つまり、あの時、本当なら私が殺されていたはずだった。
これでも依姫様に鍛えられて月の兎達の間でも1、2を争う精鋭のつもり、だった。
まぁ、逃げだした私が精鋭なんて傲慢過ぎるけどね。
それでも人間程度は簡単に倒せると思っていた。
なのに、地上人である彼に負けかけた。
プライド、なんてとっくの昔に無くしたけれども、ショックなのは変わらなかった。
「ウドンゲ? 入るわよ?」
「あ、はい。大丈夫です」
お師匠様の声に、我に返る。
いけないいけない。
「具合はどうかしら?」
「もう、すっかり良くなりましたよ」
元々、彼から受けた傷はどれも大した事はなく、お師匠様の薬ですぐに治った。
これも、彼が無意識に手加減してくれたおかげ、らしい。
「そう。それは良かったわ。彼も気にしていたからね」
「彼、あの人間ですか? 目が覚めたんですか?」
彼は私よりも怪我がヒドイと思っていたのに、もう目が覚めたのね。
「えぇ、自分の事よりあなたの事を最初に聞いてきたわよ? てゐや妹紅達が気にいる人間だけはあるわね」
「……そう、ですか」
「昨日の事は全部自分が悪い。あなたは悪くないから気にしてない。そうも言っていたわね」
それを聞いて、更に気分が落ち込んだ。
昨日、あの殺し合いの彼は、やはり私の能力で気が狂っていたせい、なのね。
「そんなに落ち込んじゃって。ショックなのは分かるけどね。気にし過ぎると彼に気を使われるだけよ。でも、反省はしっかりしなさいよ」
「はい、分かっています」
落ち込む理由は、彼に負けかけただけじゃない。
目が覚めてから私は、お師匠様だけではなく、てゐやお京、妹紅や慧音先生に散々怒られた。
お師匠様からは、能力を使って人を狂わせる事を禁じられていたのに、それを破った事。
安易に刺客と判断して、人間を殺しかけた事。
それと、黙って外の世界の武器を竹林のあちこちに隠し持っていた事を怒られた。
妹紅さんと慧音先生、それとてゐとお京からは彼を殺しかけた事を怒られた。
特に、てゐとお京に怒られたのが効いたわ。
いつもは悪戯などで私が説教する事はあっても、彼女から怒られる事は、多分初めて。
しかも、普段あれほど大人しくて引っ込み思案なお京が、目に涙を浮かべて真剣に怒っていたのには、私だけではなくお師匠様や姫様も驚いていたわね。
「それと、武器は全て回収して処分したわ。月の武器は厳重に保管してるけど、もう使ってはダメよ?」
「はい、すみませんでした」
数時間みんなの説教を受けた後、お師匠様に私が竹林に隠した武器の場所を教えて、回収してもらっていた。
外の世界の武器を隠し持っていたのは、私が思っていた以上に危険な事だったらしい。
更には、月から持ってきた武器までも隠していた事は姫様からもこっぴどく説教された。
曰く、あれが他の妖怪や、人里の人間などに渡った場合、どんな惨劇を引き起こすか分からない。
事実、昨日彼は私が隠した武器を使って、私を圧倒していた。そのような事が幻想郷のあちこちで起きる可能性がある。
いつか来るであろう月の刺客達を迎え撃つためとは言え、私のした事は浅はかにも程があったわね。
「もうその事はいいわ。あなたも十分に反省しているようだし。では、本題に入るわね」
そう言うと、お師匠様は暖かい笑顔から一転して、険しい表情を浮かべた。
それ見て、私も沈んだ表情を引き締める。
お師匠様が言った本題は、とても重要な事だからだ。
「ウドンゲ、あなたが月から入った通信。明後日に月から使者が来るのは間違いないのね?」
「はい。間違いありません」
「そう、ならいいわ。この話はこれでおしまい」
「えっ? えぇ~!?」
お師匠様は、それで話を終了させてしまった。
さっきまでの真剣な表情はどこへやら。
「お師匠様!? そんなあっさりとしていいんですか!? あ、ですよね。私1人を迎えに来るのですから、私がここから出ればいいのですよね」
そう。ここには月の罪人である、姫様とお師匠様がいる。
でも、使者の狙いはあくまで私のみ。
私がいなくなればいいだけの話。
「何を馬鹿言っているの、あなたは」
「あいたっ!?」
そう思っていたらお師匠様に思いっきりどつかれた。
結構痛いです。
「そんな事するくらいなら最初から匿ったりしないわよ。いずれ使者が来るのが分かっていた。だから備えはしていた。重要なのはいつ来るかよ。それが分かった以上、何も恐れる事はないわ」
「備え? 何か対策があるんですか?」
「当然。だから、あなたは深く考え込む事はないわ。ただ、問題はユウキ君とあの天狗ね」
「天狗? あぁ、まだいるんですか彼女は」
射命丸文と名乗った天狗は、妹紅と一緒に彼の側を離れずにいる。
私達へのけん制らしいけど、けん制が1割心配で離れたくないが9割とはお師匠様の見立て。
「でも、それは何とかなりそうだし、それより彼があなたに会いたがっていたわよ? 夕食前に一度話をしてみなさい」
「そ、それは、その……」
本気の殺し合いをした相手にそんな気軽に会えるわけがない。
「大丈夫よ。彼は、あなたに謝りたがっていたし。それに姫様が彼に興味を持ってしまってね」
確かに姫様なら彼に興味をもちそうね。
あの妹紅があんなにして彼を守ろうとしていたわけだし。
でも、姫様もお師匠様もなんでそんなに簡単に彼を信用するのだろう。
確かに彼は月の使者ではなかったし、てゐや兎達も彼に懐いている。
それでも、危険人物には変わりないのに。
「いいから、気まずい空気のまま一緒に食事するよりはマシでしょう?」
「はい……えっ? 食事?」
「そうよ。怪我が治ったばかりの彼をこのまま出すわけにはいかないでしょう? それに備えをしているとはいえ、明後日の事もあるわけだし。勿論妹紅や天狗もね」
お師匠様は一体何を考えているのだろう。
なんにせよ。少しの間とは言え、彼が永遠亭に滞在するのは確定のようね。
それにあの妹紅と天狗は、私を目の敵にしているし。
はぁ……憂鬱だわ。
そして、お師匠様に言われた通り、彼がいる部屋まで来た。
恐る恐る襖に手をかける。
「……うん、よしっ。失礼するわ……「なんでよー!?」……よ?」
深呼吸を何度も繰り返し、意を決して襖を開けようとすると、中から姫様の怒号が聞こえてきた。
何事かと襖を開け、中に入る。
彼か、もしくは天狗が何かしたのだろうか。
「離してよ慧音! こうなったら私の逸話を徹夜で叩きこんであげるわ!」
「待て、輝夜! 気持ちは分かる! 分かるから落ちつけ!」
「ぶふっ、あはははははっ!」
「ひぃ~だ、ダメだ。お腹が痛い……あなたやっぱり最高だよ、ユウキ!」
???
部屋の中には、顔を真っ赤にして怒っている姫様と、それを後ろから羽交い締めにして止めている慧音。
何がおかしいのか腹筋崩壊して笑い転げている妹紅と天狗。
それに困惑した表情の彼。
え、えーっとこれは一体どう言う状況?
永琳に言われたように寝ようと思ったけどなかなか寝付けなかったので、文と色々話していたらもう夕方になっていた。
「それじゃあ文は俺を探してたのか?」
「えぇ、ちょーっとお願いしたい事がありまして、人里かなーと思って飛んで行ったら竹林から普段は滅多に出てこない兎が慌てた表情で飛びだしてくるのが見えて、何か嫌な予感がして竹林に入ってみるとあなたとあの兎が殺し合いをしててって所です」
文は迷いの竹林と、そこに住みつくてゐ達の事は知っていたけど、永遠亭の事は知らなかったようだ。
「そっか、迷惑かけて本当にごめん」
「いえいえ、まぁ、確かにあの時のユウキさんは普段とギャップがありすぎて驚きましたけどね。人里の子供や氷精達には見せられませんね」
「あ、あはは……」
確かに、梨奈やチルノ達があの殺し合いを見たらトラウマ与えそうだな。
「それでもおかげで竹林の奥にこんな屋敷があるのが分かりましたし、そこに住む住民達の事も分かりましたから結果オーライですよ」
これぞ棚から牡丹餅ですねー。と文は陽気に笑っている。
でも、あの時文が来てくれなかったら多分死んでいた。
それは別にどうでもいいけど、助けられたのは事実だ。
「で、俺に頼みごとって何だ? 助けられたんだし、何でも言ってくれ。あ、変な事なら受け付けないぞ?」
「変な事って。私そんな変な事頼んだ事ないじゃないですか」
「どーだかな。ま、借りはキチンと返す主義だからな。今回は特別だ」
「じゃ、じゃあ丸一日デー 「ちょっと待った!」……ちっ」
そこへ、さっき姫さんと喧嘩しに出て行った妹紅が戻ってきた。
外から何やら爆音が聞こえてきてたけど、弾幕ごっこでもしてたのだろう。
「全く油断も隙もあったもんじゃないわね!」
「あやや~お早いお帰りで。あ、ユウキさんの事は私がしっかり面倒見ますから、お2人はじっくりのんびり何だったら永遠に遊んでて構わないですよ?」
「へぇ~私相手に 【永遠】 なんて口にするなんてね」
何が面白かったのか、姫さんはクスクスと笑いだした。
「ところでさ、姫さんの名前はなんて言うんだ? そっちは俺の事よく知ってるみたいだけど、俺は全く知らないんだが?」
「あら、そうだったわね。これは失礼いたしました。蓬莱山輝夜。妹紅と同じ蓬莱人です」
「蓬莱さん、家具屋か。なるほどなるほど」
きっとこの人は、蓬莱人の姫様なんだろうな。
もしくは、家具屋の姫さんかな。
確かに竹を使った家具なんてのは元いた世界にもあったし、だから竹林に住んでいるのか。
「……あなた、何か勘違いをしていないかしら? 私の名前を聞いても何も思わないの?」
「ん? 何が??」
「あぁ、もう。私はかぐや姫! これでどう?」
何をいらついているのだろう?
「幻想郷の家具屋の姫として有名なんだろうけど、俺は分からないな。一応外来人だし」
そう言うと、姫さんはガクっと肩を落とした。
文はあぁ、と何かに気付いたようで、妹紅は妹紅で笑いを堪えているようだ。
「かぐやの姫って何よ!?」
「ユウキ君。彼女はかぐや、と言う名前で竹取物語に出てくるかぐや姫そのままの存在だよ」
そこへやってきたのは苦笑いを浮かべた慧音だ。
ん? 竹取物語のかぐや姫? あぁ~そっか、俺が勘違いしてたのか。
「よっ、慧音。今回は迷惑かけてごめん」
「全くだ。色々言いたい事はあるけど、妹紅と文に言われただろうから私からは何も言わないでおこう。霊夢にはうまく誤魔化したが、詳しい言い訳は考えておいた方がいいぞ?」
「あ、あははは、そうするよ」
霊夢への外泊の言い訳も考えないとな。さて、どう言おうか……
本気の殺し合いをした。だなんて言ったら鈴仙に迷惑かかるだろうし。
「ちょっと、私を無視しないでよ! 私、これでも結構な有名人だと思ったのに、特に外来人で日本人のあなたなら、竹林でかぐやとくればピンとくると思ったのに、まさか家具屋と勘違いしていただなんて……」
姫さん、かぐやは地面に手を付いてショックを受けている。
かぐや姫って結構有名なのか。
名前を聞いた事は確かにある。
学園都市の衛星の1つ、ひこぼしⅡ号にいる天埜郭夜は、現代のかぐや姫って呼ばれていた。
けど、それがどういう意味なのかは興味なかった。
会った事も話した事もないし、宇宙事業には関わってなかったしな。
「……ねぇ、まさかと思うけど、竹取物語って知ってるわよね?」
ジト目で睨む家具屋……もとい、輝夜。
竹取物語と言う名前は聞いた事あるけど、詳しくはどんな話だったか何とか思い出した。
「確か、川に洗濯に行ったおばあさんが、流れてくる光る竹を見つけてその中から生まれたお姫様が、鉞かついで亀に連れられて竜宮城で鬼退治する話だっけ?」
――ズコッ!
と、思わず擬音が出そうな程綺麗にずっこける輝夜。
「ぶふっ!?」
「あははははっ!!」
とうとう噴き出して笑い転げる妹紅と、それにつられて爆笑する文。
「なんでよー!?」
アレ? 間違えたか??
「えっと、ドラゴンに乗ってレンガの家に逃げ込む途中で、ガラスの靴を落としたんだっけ?」
「なんでドラゴン!? 私、純和風よ!? それ思いっきり西洋の童話じゃない!」
これも違ったか。
思わず、立ちあがって物凄い形相で詰め寄ってくる輝夜を慧音が止めた。
「離してよ慧音! こうなったら私の逸話を徹夜で叩きこんであげるわ!」
「待て、輝夜! 気持ちは分かる! 分かるから落ちつけ!」
「ぶふっ、あはははははっ!」
「ひぃ~だ、ダメだ。お腹が痛い……あなたやっぱり最高だよ、ユウキ!」
妹紅が笑いながら肩を叩いてくるけど、俺はそんな輝夜を馬鹿にするつもりは全くない。
本当に分からないんだよな。
うーん、てゐの時もそうだったけど、もっと童話の事調べておくべきだったかな。
一応魔術的な伝承については色々調べてたんだけどな。
「あははははっ、あーおかしい。慧音、寺子屋で竹取物語とかは教えてなかったっけ?」
「彼が来る前にはやっていた。が、今更ながらやっておきべきだったと後悔してるよ。彼の知識は隔たりがありすぎる」
その時、いつの間にか襖が開いていて、口を空けてポカーンとしている鈴仙がこっちを見ているのに気付いた。
着ているのはブレザーではなく、俺と同じく白い浴衣のような看護服だ。
笑い転げていた妹紅や文もそれに気付いて、笑顔を消してジッと鈴仙を見ている。
輝夜と慧音も黙って部屋の隅に移動した。
「あ、ど、どうも」
「こんにちは、いや、もうこんばんは、かな?」
夕日はもう半分以上沈んでいるから、こんばんわの方が自然だったかな。
鈴仙はチラチラ妹紅と文を見ながらも、部屋に入ってきて俺の目の前に座った。
「あ、あの……えっと」
「昨日はごめん。怪我、大丈夫か?」
鈴仙が何かを言う前に、畳みに手を付いて頭を下げた。
まずは俺が謝るのが普通だ。
仕掛けたのは俺が先何だしな。
彼女はただ俺を竹林から遠ざけようとしただけだ。
「「「「はぁ~」」」」
と、背後から四者四様の溜息が聞こえてきた。
なんで皆してそんな顔をするんだよ。
「っ!?」
鈴仙は突然驚いた顔をして、逃げるように部屋から走り去って行った。
ま、こうなるんじゃないかと思ってたけどな。
――ゴンッ! むきゅっ?
「へっ?」
鈴仙が部屋を飛び出した直後、外からまるでタライが頭にぶつかったような音がして、パチュリーのような短い悲鳴が聞こえた。
「はーい、鈴仙ちゃんもう一回やり直し~♪」
「あ、てゐ?」
てゐが頭にタンコブを作って目を回している鈴仙を担いでやってきた。
意外と力持ちなんだな、てゐって。
「全く、こうなるんじゃないかと思ったよ」
「てゐ、ナイスよ。じゃ、私達は退散しましょうか」
「そうだな。ほら、二人共。気持ちは分かるが、後は当事者の問題だ」
「……分かりましたよ。では、ユウキさんまた後で~」
「がんばれよ」
あの? 皆さん? なんでぞろぞろと部屋を出て行くの?
妹紅、がんばれの意味が分からないぞ?
最後に、てゐと輝夜が親指を立てながら襖を閉めた。
なんのこっちゃ。
で、俺と伸びている鈴仙を残してどうしろっての?
続く
ユウキの欠点の1つが、有名な童話やおとぎ話を中途半端に覚えている、です。
昔から興味のない事にはとことん興味を示さなかったのでこうなりました。
さて、次回は鈴仙回、フラグになるのかどうか……?