うん、最近月1更新に……気を付けなければ(汗)
血だまりに沈む秋沙が目に入り、呼吸も心臓すらも止まったような気がした。
次に、頭から全身を怒りと憎悪と殺意が駆け巡った。
でも、秋沙の名を叫びながら包帯を巻いている小萌先生の姿が目に映り、殺意も何もかもが一瞬で消し飛んだ。
人ごみを強引にかき分け、秋沙の元へかけより状態を確認したが、誰が見ても瀕死の重傷だ。
「小萌先生、何があったんですか?」
「ゆっ、ゆうきちゃん……姫神ちゃんが、姫神ちゃんがぁ~!!」
小萌先生は、大粒の涙を流しながら、必死に包帯で秋沙に応急処置を施そうとしていた。
「話はあと。今は秋沙の手当てが先。これ使いますよ」
小萌先生が持っていたのは、棒倒しの時に傷だらけの青ピ達の為に用意していた救急箱だ。
急いで救急箱の中身を確認して、思わず小さな舌打ちが出た。
一目で見てわかってはいたが、秋沙は重傷で救急箱程度では焼け石に水にすらならない程だ。
それでもやらないよりはマシだ。急いで全身の傷に包帯を巻いていく。
この包帯は消毒も兼ねているので巻いていくだけでいい。
けど、巻けども巻けども血は止まらず、包帯を赤く染めていくだけだ。
隠れアジトやバイクに常備している物ならもっと的確な処置が施せるけど、ないものねだりしても仕方ない。
「救急車はもう呼んでありますか?」
「は、はい」
これだけ動揺して震えながらも的確な処置を施して救急車まで呼んでいる小萌先生を流石と思いながら、応急処置を続けた。
やっと包帯を巻き終えたところで、人ごみの向こうから見慣れたツンツン頭と赤髪が見えた。
「姫、神?」
それは当麻とステイルだった。
当麻は、血まみれの秋沙を見て、言葉を失っている。
ステイルですら、驚愕の表情を浮かべている。
「なんで、そんな……姫神、一体どうして!?」
小萌先生は涙声で何が起きたのかと話出した。
少し前、2人は金髪の女性とぶつかり、その時小萌先生の持っていた水が秋沙へとかかった。
金髪の女性は最初なんでもない風にしていたが、びしょ濡れになった秋沙を見て表情が一変。
いきなり怖い顔をしたと思ったら、秋沙の体が見えない何かに切り裂かれたようになったという。
間違いなく、その金髪の女性はオリアナだ。
「でも、なんで秋沙を?」
「それは恐らくアレの仕業だろうね」
忌々しげにタバコを吐き捨てながらステイルが指差した先には、いつもは秋沙が首から下げている十字架のネックレスが落ちていた。
それは、秋沙の能力である 【吸血殺し】 を封じるためにイギリス清教が作った特別なネックレスだ。
吸血殺しは吸血鬼を呼び寄せて殺す危険な能力で、秋沙はその能力ゆえにある事件に巻き込まれた。
「なるほど。オリアナの奴、間違えたか」
「間違え、た?」
「あのネックレスはイギリス清教が作り上げた特別製。俺達に追われていたオリアナは偶然それを目にすることで、秋沙が強力なイギリス清教の魔術師だと勘違いしたんだろ。自分を追ってきた魔術師、つまり敵としてな」
「なんだよ、それ。それだけで、それだけで姫神をこんな風にしたっていうのか? ふざけ 「あぁ、ふざけてやがる」 ユウキ?」
当麻は思わず手近の壁を殴りつけようとして、その手を止めてこちらを驚いた顔で見つめた。
「あぁ、全くふざけた話だ。制理も秋沙も何もしてない。ただ大覇星祭を楽しんでいただけの一般人だったてのにな」
「お、おい、ユウキ?」
「ん? どうした?」
見ると当麻と小萌先生が何か怖いものを見たような目で俺を見ている。
「君、とても怖い顔をしているよ。それは彼らには毒だからやめた方がいい」
ルーンカードを取り出して、人払いの結界を発動させたステイルに言われて、ハッとなった。
鏡は持っていないけど、今の俺の顔、すごい事になっているようだ。
それくらい怒っている。ここまで怒っているのはミクの死を知った時以来だな。
と、自己分析した所で、両手で頬を強く叩き、表情を元に戻す。
感情的になる前にやる事がある。
ふぅ、俺もまだまだだな。
「まずいな。色々足りなすぎる。ステイル……って、お前治癒術式使えないんだったな。ホント、使えないやつ」
法の書事件の時、ステイルを視て使える術式は一通り把握している。
それによると、ステイルは火傷の治癒はできても裂傷などそれ以外の怪我は全く対処できない。
「っ、一言余計だ! それに出来る限りの応急処置をしたところを見ると、救急車の手配も済んでいるのだろう? なら、さっさと大通りまで行って誘導しろ。ここにいても救助隊はやってこれない」
「……あぁ、そうだな」
人払いの結界のおかげで野次馬は去ったが、結界の作用で救急車が到着してもここを発見できない。
だから俺が結界の外からここへ誘導する必要がある。
必要な処置、いや、出来る限りの処置はした。
さっきいた野次馬達に使える能力者がいればよかったのだけど、どいつもこいつも無能力者ばかりだった。
これ以上は、何も出来ない。
知識はあっても、それを活用できる道具が、全くない。
だから、今の俺に出来るをするが、秋沙が持たないかもしれない。
姫神はそれほどの重傷を負っている。冥土帰しに診せる前に、救急隊員が来る前に、手遅れになるかもしれない。
けど、これ以上俺が出来ることはない。
急いでこの場を離れて誰か適切な能力や道具を調達できればいいけど、それも時間の無駄になる。
「お、おい、待てよ! 姫神は俺達のせいで巻き込まれたんだぞ! その姫神をこのまま放っておく気かよ!」
当麻にはそう見えただろうな。
現にステイルは血まみれの秋沙の上をまたいでオリアナの追跡を再開しようとしている。
俺は、救急隊員をここへ誘導するために離れようとしたんだけど。
あぁ、姫神の容体を冥土帰しに伝えないとな。
「調子に乗るなよ、素人が」
ステイルは当麻の髪を掴み、強引に秋沙へと目をむかせた。
「このままここにいて、この少女に何が出来る? プロの僕ですら何も出来ないんだ。素人の君が一体何が出来る? 手を握れば傷が癒えるか? 叫べば彼女の痛みは引くのか?」
ステイルは怒っている。が、その怒りは当麻だけに向けられているのではない。。
元凶のオリアナと、傷ついた秋沙に何もできない無力な自分に向けられているみたいだ。
「その怒りが君一人だけのものだなんて思うなよ。学園都市の闇に生きる彼だって取り乱してあんな顔をした。それに僕にだって思うところがある。誰だって、平静でいられるわけじゃない」
秋沙と知り合うきっかけとなった事件でも、ステイルはこんな表情を浮かべた事がある。
自分と同じ任務に失敗し、惨殺された魔術師の死体をみた時もこうだった。
死ぬ覚悟があったであろう同業者の死体を前にしてもああだったのだ。
友人とまではいかないが、命がけで助けた秋沙が無関係な事件でこんな目にあわされたのを観れば、怒りは当然湧いてくる。
「当麻、これが俺やステイル、元春がいる裏の世界だ。何の罪もなく無関係な一般人が巻き込まれて死ぬ事もたくさんある。けど、そこで止まっていられないんだ。俺達に出来ることは元凶を一刻も早く潰す、それだけだ」
「………」
当麻は何も言い返すことが出来ず、ただ黙ってゆっくりと立ち上がった。
瀕死の秋沙を治すためではなく、オリアナを追跡するために。
が、それよりも目に留まった光景があった。
立ち上がった当麻の先、小萌先生が何かをしていた。
小萌先生は、いつの間にか小石や空き缶を集めて秋沙の周りに置いていった。
あまりの光景に頭がイカれたのではないかと思うくらいだが、彼女はそういう人間ではない。
どんな状況だろうと、生徒の為に何かをする先生だ。
ならば、今彼女は一体何をしようとしている?
「君は何をやっている?」
ステイルもその光景に驚いたような顔をしている。
「シスターちゃんの時はこれでなんとかなったのですよ」
シスターちゃん、インデックスの時なんとかなった?
それを聞き、ある事を思い出した。
記憶を失う前の当麻から聞いた事がある。
当麻がインデックスと2回目に出会ったとき、彼女はひどい傷を負っていた。
それを小萌先生がインデックスのサポートを受けて、治癒術式で治したというのだ。
「まさ、か。あなたが?」
ステイルは火織からその事を聞かされていたと思ったが、それが小萌先生とは気づかなかったのかな。
「せ、先生ちゃんと覚えているのですよ? なのに、どうして、どうしてうまくいかないのですか!?」
小萌先生は一生懸命にその時の術式を再現しようとしているようだが、何も起きない。
ただ並べただけで発動するような簡単なものではないのだろう。
せめて、インデックスがここにいれば……
「違う、そうじゃない」
「えっ?」
ステイルが小萌先生の隣に座りこみ、懐からルーンカードを出して並べていった。
「海の水をバケツですくうように、まずは 【箱庭】 で領域を設定するんだ」
ステイルはまるで教師が教え子に問題の解き方を教えるように、術式について補佐をし始めた。
それを見て、何をしようとしているのか分かった。
「上条当麻、君たちは先に行って、オリアナを追跡しろ。土御門の新しい携帯番号を教える」
「ステイル……」
「期待はするな。僕にとってこれは専門外だ」
それでも、ステイルは小萌先生と共に秋沙に治癒術式を施そうとしている。
小萌先生は、以前使ったインデックスの知識を基にした治癒術式に使った陣形の配置を覚えていた。
ステイルはそれを補佐して再発動させるつもりだ。
正直、俺と当麻がここにいても邪魔どころか、幻想殺しで術式を破壊しかねない。
「当麻、行くぞ。ステイル、秋沙を頼む。ここで最高の名医の元へ運ぶ手配はする。だから、それまでの時間稼ぎだけでもいい」
「期待はするなと言ったはずだ。早く行け」
「わかった。ごめん、姫神、ナイトパレードが始まるまでには全て終わらせて戻ってくるからな」
当麻が秋沙の頬にそっと手を当てると、彼女の目が僅かに動いたように見えた。
「当麻、俺は一旦別れる。この恰好じゃ下手に動けないしな」
「えっ!? あ、あぁ、そうだよな」
さっき秋沙の応急処置をしている時に結構返り血着いちゃったからな。
アジトとはちょっと離れているけど、そこに行くしかない。
着替えのほかに、やる事もある。
「土御門に伝えろ。オリアナが街を徘徊していた理由、単に俺達の追跡を逃れているわけじゃない。何か別の狙いがあるってな。あいつならそれで何か掴めるだろ」
「オリアナが、街を徘徊していた理由? あ、そうか!」
当麻は珍しく俺が言いたい事を瞬時に理解してくれた。
「今度こそ、絶対に逃がさない。確実に、潰す」
「ま、また怖い顔になってるぞユウキ!?」
「あぁ、悪い。そういうわけでこっちから連絡する」
そういって、俺は急いで冥土帰しに電話しながら近くのアジトへ向かった。
アジトへ着くと、俺は着替えをしながら尼視へと連絡を取った。
『苦戦しているようだな。それに加えてえらく不機嫌そうだな』
「お前の戯言に付き合うつもりはない。全力でオリアナとリドヴィアを追跡する」
それだけで俺のしようとしている事に気づき、少しだけ目を見開いた。
『正気か?』
「お前に正気を疑われる覚えはない。あっちに回していた追跡のリソースを最低限だけ残してこっちに回す」
『……なぜそこまでする? お前の本題はこっちではなくあっちだろう?』
「あっちは操祈達がすでに動いているからな。少しの間ならそれで十分だ」
尼視は少し考える素振りを見せたが、すぐに邪な笑みを浮かべた。
『しくじるなよ?』
「誰に言っている?」
通信を切り、オリアナとリドヴィアの情報を入力して追跡を再開した。
最も、今度の追跡に使うのは監視カメラだけではない。
体臭・体温・その他もろもろの身体情報や人の流れなど、俺が使えるすべての追跡装置を使う。
「最初からこうすべきだった……俺のミスだ」
あの時もこうしておけば、秋沙は傷つかなかったはずだ。
また頭に血が昇るが、同時に頭に浮かんだのは、御坂ミクの事。
あの時のように、暴走してはいけない。
早急に、確実に、アイツらを追いつめる。
と、同時に当麻の携帯の通話を傍受した。
どうやら元春と使徒十字について話しているようだ。
会話に混ざってもいいが、あの2人だけで色々進んでいるようだし、黙って聞かせてもらおうか。
「使徒十字の発動条件は、星座が関係してる、か」
オリアナが街を徘徊している理由。
刺突杭剣の取引をお囮にした使徒十字が使えるようになるまでの時間稼ぎ。
それと、使徒十字の発動にかかせない星座の光を利用する為に最適な場所を探す為という結論になったみたいだ。
それについて、何か元春には思う所があるようだが、俺も何か違和感はあった。
オリアナの役目はともかく、リドヴィアの役目は何かだ。
オリアナが探した場所でリドヴィアが儀式を行う。
それが2人の役割分担……か?
標的が学園都市だからと言って、敵地である学園都市内部で儀式を行うにはデメリットが大きすぎる気がする。
そう考えていると、ステイルの携帯から当麻へ着信が入ったようだ。
「ん、これはまさか!」
急いでつなぐと、当麻の少し上ずった声が聞こえた。
『もしもし、ステイルか?』
『女学生の手当てが終わった』
『姫神は!?』
『もうあんな術式は2度と使いたくないね。とりあえずショック症状からは脱した。あとは医者の仕事だ』
「……ふぅ~」
それを聞いて、全身の力がふっと抜けた。
良かった。後は冥土帰しの仕事だが、あの人ならば大丈夫だろう。
心配だったのは、冥土帰しの所に行くまでに秋沙が死ぬことだった。
それでも、あの人なら治しそうだけど、最悪からは脱した。
これで、集中してあいつらを追う事が出来る。
何やらステイルはお礼を言いたい小萌先生から執拗に追われているようだけど、それは俺の知った事ではない。
「……っ、そうだ」
一つ思いついた事があり、急いで俺達がオリアナに遭遇した場所とそこを起点にして、オリアナの今日の行動パターンを逆算させた。
そのルートを元春の携帯に送信して、電話をかけた。
「元春、今送ったのはオリアナの今日、徘徊したルートだ」
『ユウやん? いきなり何を送ってきたのかと思ったぜい。てか、それよりその口ぶりだと俺達の通話は』
「あぁ、ばっちり聞いてたぜ。別に驚くことじゃないだろ?」
『それはそうだにゃー……で、これを使って星座に纏わる何かを探せ、か。他にお前は何か思うところは?』
「オリアナもそうだが、リドヴィアだ。アイツの役割が何であれ放ってはおけない。2人を同時に追跡する。俺の使える全ての手段でな」
『OK。なら、俺達は使徒十字の事に専念させてもらう』
「あぁ、それでいい。何か分かったら連絡する」
これで俺はオリアナとリドヴィアの追跡に、元春達は使徒十字の事に専念できる。
使徒十字について完全科学サイドな俺があれこれ考えるより、元春とステイルに任せた方が早い。
で、学園都市内をウロウロしているオリアナとリドヴィアの追跡は、俺の方が適任だ。
「ほんと、最初からこうすればよかったな……けど、俺を本気にさせたこと、後悔させてやる」
続く
姫神秋沙の出番完全終了!
ありがとう、姫神。君の事は忘れないよ!
セリフ1個もないけど(爆)
さて、あと1、2話でオリアナ戦を終わらせて次に行きたいですよねー
でも、まだまだ今回の過去編は終わりませんけどね。