幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
沖田オルタに使い過ぎたので、しばらくは無課金。
さらばナポレオン!


第136話 「脱出」

アニェーゼからこの船に囚われているルチアとアンジェレネの居場所を聞き、俺達はその部屋へと向かった。

幸い、この船にはそれほど多くの人は乗ってはないく、さらにアニェーゼが旗艦に移る為、艦内が手薄になっていた。

誰とも出くわすこともなく目的の部屋が見えてきた。

部屋の入口に人はいなく、代わりに氷でできた鎧人形が飾られていた。

それを見た瞬間、嫌な気配がした。

 

「2人とも、止まれ」

「っと、どうしたんだ?」

「誰か、見張りがいるのでございますか?」

「見張り、ねぇ。間違ってはいない、な!」

「わっ!?」「キャッ!」

 

当麻とオルソラを後ろに突き飛ばすと同時に、目の前に鎧人形が音もなく現れた。

氷で出来ているからか、一瞬でここまで滑ってきたようだ。

 

「な、なんだこれ!」

「見張りだよ!」

 

鎧が手に持った棍棒を振り下ろすより速くその胴元に蹴りを叩き込む。

流石にこれで壊せるとは思っていない。

けれども、この一撃で体勢は崩せた。

 

「ほら、出番だぜ当麻!」

「なにをー!?」

 

すかさず後ろに下がっていた当麻の右手をつかみ、鎧の方へと投げた。

 

――パキンッ

 

当麻の右手が触れた瞬間、あっという間に鎧はバラバラに砕け散った。

 

「こ、これは一体何なのでございましょう?」

「多分、自動迎撃システムみたいな、魔術的にはゴーレムの一種なんだろ。外見はともかく、シェリーのよりは中身的には雑な造りだけどな」

「船の一部が姿を変えて、という言うことなのでしょうね。シェリーさんのゴーレムとはまた違っているようですね」

「そっか……って、シェリーを知ってるのか?」

 

オルソラの口からシェリーの名前が出て、当麻が驚いた声を上げたが俺も驚いた。

あの一件後でのシェリーの処罰はイギリス清教へと一任した。

けど、それからどうなったかは知る由もなかった。

どうやら、オルソラはイギリス清教内ではシェリーと同じ部署で働いているみたいだ。

 

「って、今はそんな事どうでもいいだろ」

「あ、はい。そうでございましたね」

 

部屋の中から人が出てくる気配はない。

まだこっちの騒ぎは気づいていないみたいだ。

部屋の中の気配を探ると、部屋には5人ほど気配を感じる。

うち2人はルチアとアンジェレネとして、見張りは3人か。

 

「部屋には見張りが3人だな。これなら簡単に制圧できる。準備はいいか?」

「あ、ちょっと待っていただきたいのでざいます」

 

そう言って、オルソラは鎧が持っていた棍棒の一部を手に取った。

 

「オルソラ?」

「私の武器でございますよ」

 

硬い氷で出来ているとはいえ、砕け散った棍棒の一部なんて武器としては心もとないのでは、と当麻は思っているのだろう。

俺も少し疑問に思ったが、すぐにオルソラの狙いが分かった。

 

「あーなるほどな。オルソラ、実働部隊出身じゃないのに、なかなかすごい事思いつくな」

「ふふっ、あなた様におほめいただき光栄です」

 

頭に?マークを浮かべたままの当麻だったが、気にせず部屋のドアを開けた。

いつもの手なら素早く入って、即座に無力化するところなんだけど、折角だからオルソラ流に行こう。

部屋の中は監禁部屋というより、医務室のような2段ベッドがあり、その中に縛られた状態で部屋の隅に座らされているルチアとアンジェレネがいた。

それから、3人の魔術師が見張りとしていたが、俺たちが入ると驚いた様子で立ち上がった。

 

「動くな!」

「「っ!?」」

 

突然、オルソラが今までののほほんとした声色を一変させ、どっかの機動部隊が犯人を制圧するかのような強い口調でしゃべりだした。

そのあまりの変貌ぶりに当麻も俺も一瞬、ぎょっとなった。

俺達がそんな状態なのを知りもせず、オルソラは手に持った棍棒の欠片を地面に転がした。

 

「それ、なんだかわかりますよね。どうやって壊したと思います?」

 

意味ありげに袖の下に手を入れ、自信満々に告げるオルソラ。

この時、初めてオルソラをすごいと思ったかもしれない。

この場面でこの手のハッタリは効果抜群だ。

あの氷の鎧をここまで砕くのは、よほどの武器か魔術でなければ普通に考えれば無理だ。

パッと見、俺達に手持ちの武器はない。

ならば自分たちの知らないトンデモナイ武器、魔術礼装を持っていると勘ぐってしまうだろう。

現に、魔術師共はオルソラ1人におよび腰になっている。

 

「あら、思わず日本語で話しかけてしまいましたが、分かりますよね?」

「……ぐっ」

「おっと、動くなよ?」

 

それでも魔術師の1人が何かをしようとしていたので、俺も武器を取り出した。

 

「おまえ、こうなりたいのか?」

 

俺が見せたのは、鎧の頭部の一部。

比較的形よく残っていたので持ってきたのだが、効果は抜群だ。

 

「ユウキ、お前悪役みたいな顔してるぞ」

「……ほっとけ」

 

悪役みたい、じゃなく、ほんとは悪役なんだけどな。

 

 

オルソラと俺の脅迫に、魔術師たちはあっさりと降参した。

部屋にはロープがなかったので仕方なく奴らのベルトできつく縛り上げ、ローブで目と口もふさいだ。

そして、念のため気絶してもらった。

と、ここでオルソラが深く息を吐き、今までの強気なオーラはどこかへすっ飛んでいき、いつものほんわか空気が戻ってきた。

 

「さて、お二人とも、助けにきたのでございますよ」

「そんな言葉を私達を信じると思うのですか。そもそも、なぜあなたたちがここにいるのです」

 

やっぱりというか当然というか、少し前に殺し合いをしたばかりで本来なら遠い海の向こうにいるはずの俺達にルチアもアンジェレネも信用するはずもない。

なので、アニェーゼ同様にここまでの事を簡単に話した。

 

「それでアニェーゼが言うには、ここから脱出する魔術をお前らが持ってるって」

「だから俺達はお前らを助ける。どう? 利害が一致してるだろ?」

 

アンジェレネはアニェーゼの名前が出ると、若干信用したようだがルチアは違い、逆に警戒心を強めてしまった。

 

「ここは敵の本拠地、アニェーゼさんの名前を利用してまであなた達を助けに来る理由が、他に想像がつかないのでございますけれど」

 

なので、ここは交渉術に長けたオルソラが2人を説得した。

それに完全に敵対した俺や当麻より、自分達が加害者となって迫害したオルソラに説得してもらった方が説得力がまだあると思った。

効果は覿面で、ルチアは難しい顔で少しだけ考え込んだが、俺達を一応は信用してくれた。

 

「分かりました。そちらの言い分も確かに一理はあるようです」

「よかった。で、脱出ってどうやるんだ?」

「口で説明するよりも、シスター・アンジェレネ」

「あ、はい」

 

ルチアとアンジェレネは手を合わせると壁へと向けた。

すると、壁に人が通れそうなほどの穴が空いた。

幻想支配で視ていたが、どうやら自分達を縛っている拘束服を逆に利用しての干渉術式らしい。

この術式で船に穴をあけ、コースターを作って脱出する手順のようだ。

と、その時だった。

 

「ぅ、いたたっ」

「どうしたんだ!?」

「や、やっぱり拘束服にも迎撃術式を組み込まれてしまったみたいですね」

 

突然2人が頭を押さえてしゃがみこんでしまった。

どうやら、2人が魔術を使おうとすると頭についたサークルが締め付けるという仕組みのようだ。

 

「ちっ、想定外ではないが、ちょっとこれはまずい事態だな」

 

最悪の場合、脱出に使う術式は俺がルチアかアンジェレネの魔力をコピーして、と思ったがその手は使えない。

あの術式は2人の魔力と拘束服が必要だが、俺は1人しかコピーできないので意味がない。

 

「げ、迎撃術式の一部を破壊すれば、済む話です」

 

ルチアはテーブルの上にあったペンを手に取り、自分の服に編み込まれた術式を破壊しようとした。

魔術に疎い俺が手伝えることなのかと思っていると、当麻が右手を出してきた。

 

「壊す、なら手っ取り早く俺の……うごっ!?」

 

右手でルチアに触れようとした当麻を、オルソラと俺が両脇から同時に肘内を食らわせた。

 

「まぁまぁ。まさか彼女達までも素っ裸にしたいのでございますか?」

「学習しろ、エロ当麻」

「は、はい……すみません」

 

どつき漫才をしている俺達をいぶかしげに見ながら、ルチアとアンジェレネは自分達に組み込まれた術式を解いていった。

 

「ところで、シスター・アニェーゼとはいつ合流できるのでしょう」

 

アンジェレネがぽつりと呟くように尋ねられ、俺達は顔を見合わせた。

これから言うことがいかに残酷な事なのか、理解はしているつもりだ。

でも、言わなければならない。それも早急に。

 

「悪い。アニェーゼは、来ない」

「えっ? ど、どういう意味ですか!?」

「俺達とお前達を逃がす隙を作る陽動の為に、旗艦へ行った」

 

それを聞いた2人の目の色が変わった。

少しの希望が見え始めていたのに、一気に絶望に落とされた。

そんな風に見えた。

 

「冗談じゃありません! 私たちがなぜ脱獄なんて選んだと思っているのですか! シスター・アニェーゼが危険にさらされているからなんです!」

「なっ!? ど、どういうことだよ、それ!」

 

やっぱり、か。どうやら思った通り裏があったみたいだなこの女王艦隊は。

ルチアとアンジェレネが話してくれた内容によると、この艦隊の本来の目的は旗艦である 【アドリア海の女王】 を護衛する事。

そして、アドリア海の女王という、旗艦と同名の大規模魔術を行う為に 【刻限のロザリオ】 という別の術式を必要としている。

さらに、その刻限のロザリオにアニェーゼが、文字通り使われるという事だった。

大規模魔術がいかなるものかまではルチア達も知らないようだが、発動すればアニェーゼは……

 

「間違いなく脳は破壊されます。心臓のみを動かされるだけの存在として扱われるでしょう」

「な、んだよ、それ。なんなんだよそれは!」

 

泣きそうな顔で話すアンジェレネ、ルチアも今にも泣きそうだ。

そして、それを聞いた当麻は激しい怒りを咆哮に乗せた。

俺も、今すぐにでも叫びだしそうな程、怒りに燃えている。

アドリア海の女王が、一体何をする気か知らないが、1人の勤勉な修道女を使っていいはずがない。

アニェーゼは言葉も悪いし、ドSと見せかけた隠れドМだが、それでもローマ正教徒としては、オルソラにも負けずに熱心な教徒だ。

そんな彼女の信仰心と、大切な仲間への想いを利用する奴らが、許せない。

 

「……アニェーゼの一大事なのは、正直予想がついていた。けど、今の俺達にはこれしか道はない」

「なっ、シスター・アニェーゼを見捨てて自分達だけ逃げることがですか!?」

 

ルチアが怒りの表情で詰め寄ってきた。アンジェレネも同様に涙目で俺をにらんできている。

 

「あぁ、逃げる。()()()()()()()()()()()()()

「助けるために逃げる? どういう、意味ですか?」

「今の俺達がこれから旗艦に攻めたとして、何ができる? やられるか捕まってアニェーゼに対しての人質にされるだけだ」

「でも、だからって!」

「だからこそ! 今は逃げる。逃げて、態勢を立て直して、確実にアニェーゼを助ける為に戻ってくる」

 

正直、今の俺達はあまりに無力過ぎる。

敵の情報もろくに揃ってなく、規模も不明。

対してこっちは装備も何もない状態だ。

こんな状況では、例え俺1人だったとしても攻め込むのは自殺行為だ。

けど、今逃げれば、すぐにでも体制を立て直せる。

問題は、タイムリミットがいつまでかって言うことだけどだ。

 

「本当に? 本当にシスター・アニェーゼを助けられるんですか?」

「あぁ、約束する。必ずお前らだけじゃなく、アニェーゼも助ける。俺は、約束は守る」

「俺もだ、アニェーゼには世話になったしな」

「ふふっ、及ばずながら私も何かのお役に立てるのでございますですよ」

 

当麻もオルソラも決してアニェーゼを見捨てる事はしない。

例え、今は逃げる事になろうとも、助けると決めた人を決して諦めない。

 

「あなた達……本当に、バカなのですね」

 

さっきまでの険しい表情はどこへやら、ルチアもアンジェレネも、少しだけ笑顔を見せた。

その時、猛烈に嫌な予感が、死の予感がした。

 

「伏せろ!」

 

――ドゴンッ!

 

「「「っ!?」」」

 

叫ぶと同時にが砲撃音がして、壁が吹き飛んだ。

 

「攻撃? でも、どこから?」

 

壁に空いた穴の向こうに、他の艦隊から砲撃が撃たれているのが見えた。

 

「ちっ、味方ごと沈める気か!」

「この船の素材は海水です! どんなに破損しても修復や新たな造船もすぐに可能です!」

「エコロジーだな、まったく!」

 

とっさに腕時計を見た。

あれからどれくらい経った?

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もうすぐだと思うが、仕方ない。

あいつらに期待するしかない!

 

「みんな、海へ……」

 

飛び込め、と言おうとして船室が大爆発を起こした。

どうにか横目で全員を確認し、そして、全員海に沈んだ。

激しい衝撃と降り注ぐ船の破片を全身に受け意識が飛びそうになる中、海の底に潜水艦のような影が見えた気がした。

 

「頼んだぜ、天草式」

 

 

そのまま、俺の意識は沈んでいった。

 

 

続く

 




すみません。PCが壊れて新PCの設定でいろいろ手間取りました。
Windows10やらワード2016やら色々変わってますなー(笑)

さて、脱出回、どんな形であれあの船からは脱出です(笑)

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