最近左目や左足やら左が不調になってます・・・
「はぁ~……最近色々あったわねぇ」
私は、永遠亭の庭を眺めながら誰に言うわけでもなくポツンと呟いた。
ここは、月の都にいた頃よりは遥かにマシ。
地上に来て、また月に戻って今度は永琳と2人で地上に逃げてしばらく彷徨って、迷いの竹林へと辿り着いて暮らし始めて数百年。
引き籠りながらも妹紅と出会って殺しあって、それがだんだんマンネリ化してきた。
そう思ってたら月から逃げてきた鈴仙がやってきて、続けてユウキもやってきた。
鈴仙と本気で殺し合いをしているのを見て、最初は色々な意味で驚いた。
月の精鋭でもある鈴仙相手にただの地上の人間が互角以上に戦えてるのも、そんな彼が鈴仙を殺す一歩手前で踏みとどまったのにも驚いた。
けど、そんな彼が妹紅が私に土下座までして助けたいと思うほど、心から愛してる人間だと知った時の方が驚いた。
まぁ、これ言ったら妹紅といつもの殺し合いになりかけたけどね。
「ふふっ、今思い出しても笑えて来るわね」
彼女が土下座をしてまで私に頼み事をして来た時の事を思い出すと笑いが止まらなくなる。
ま、そんな彼に実際に会ってみて、竹取物語のことを全く知らなかったのにはかなり拍子抜けさせられたけどね。
そうだ。今日は、彼の所へ行ってみよう。
「何か面白い事ありそうだしね」
ユウキの周りには女性が多く集まり、いつも何かしらの騒動を起こしている。
加わる気はないけど、傍から見ている分には面白いのよね。
「うーん、いっその事。私に振り向かせたら妹紅が悔しがるわね」
「いやいや、それだけはやめておいた方がいいよ。姫様でも返り討ちにあって大火傷を負うだけが関の山―」
「あら、てゐ」
いつの間にかてゐとお京がいた。
てゐは呆れ顔だけど、お京はなんだか私を睨んでる?
「おにいさんをたぶらかしたら……あ、姫様じゃ無理ですね。はい、頑張ってください」
「ちょっと、それどういう意味かなー?」
お京ったら最近キャラ変わりすぎじゃないかしら?
前までは大人しくて口数も少ない兎だったのに、これも彼のせいかな?
「姫様でたぶらかされるようなら、もこたんも鈴仙ちゃんも苦労しないよ」
てゐは、昔からこうだった、ような気がするけれども、どうだったかしら。
「やってみなければ分からないじゃない。これでも求婚者が絶えなかったのよ?」
「姫様、それ死亡フラグだから」
「そんな事ないわよ! と、言うわけで博麗神社に行ってくるわね! 永琳が帰ってきたらうまく誤魔化してね」
永琳は、今鈴仙を連れて人里に往診に行っている。
つまり今がチャーンス。
「えっ? ちょっ、私が!? こういうのは鈴仙ちゃんの役目じゃ!?」
てゐとお京がポカンとしてる隙に私は永遠亭を文字通り、飛び出した。
目指すはユウキのいる博麗神社!
と、意気込んで博麗神社に乗り込んだのだけど……
「はぁ!」
「まだまだ!」
当の本人であるユウキは、なぜか絶賛戦闘中だった。
「なにこれ?」
私の目に映るのは、二本の刀を振るい勇猛果敢に切り込む魂魄妖夢と、2本のナイフで華麗にさばいているユウキの姿。
2人は師弟関係にあって、たまに博麗神社で稽古をしているのも宴会で聞いた。
だけど、真剣で本気で斬りあっていてこの迫力はとても稽古とは思えない。
そんな2人を境内に座って呑気にお茶を飲みながら見物している人がいた。
確か、冥界の主で妖夢が仕える西行寺幽々子だったわね。
「あら、あなたは竹林のお姫様ね? いらっしゃい。と言っても私もお客なのだけどね」
「こんにちは。ちょっと暇つぶしに来たのだけれど、あの2人は何をやっているのかしら?」
「見ての通り、稽古よ」
いや、とても稽古には見えないって。
「ふふっ、実はね。妖夢が彼にお願いしたの。本気の彼に稽古を付けてもらいたいって」
普段、妖夢に稽古を付けているユウキは手加減をしている。
ユウキはいつも全力と言っていたけれど、妖夢にとっての彼の全力は戦い方の問題らしい。
刀を主体にした妖夢に合わせた戦い方で稽古を付けているけど、それは彼本来の戦い方じゃない。
だから、今日は気遣いなしで彼本来の戦い方で稽古を付けて欲しいというのが妖夢のお願い。
2人の普段の稽古がどうやっているか知らない私だったが、少し納得した部分があった。
竹林で鈴仙と戦っていた彼は、真っ向勝負な剣士ではなく兵士、もしくは暗殺者らしい戦い方をしていた。
きっと、あれが彼本来の全力なのだろう。
「ふーん、なら私も見物しましょうか。彼、私が来たの気付いてないみたいだし」
せっかく私が遊びに来たって言うのに、ユウキったら見向きもしない。
まぁ、あれだけ真剣にやりあっていれば気付かないのは当たり前、なのだけどね。
今も、ただ黙ってナイフを構えながら妖夢の一挙手一投足に気を配っていて、全く隙が無い。
永琳に鍛えられたのを思い出して、なんだか懐かしさが感じられるわ。
「その様子だと、お姫様だからとはいえ、蝶よ花よと育てられてきただけじゃないみたいね」
「あら、分かる? 教育係の永琳に昔から英才教育の一環として、護身術も習わされたのよ。永琳は昔から心配性だったわ」
「私も妖忌に、しごかれたわ~おかげで薙刀の心得はあるのだけれど。あ、妖忌って言うのは妖夢の祖父で先代庭師で、剣の師匠なの」
「えっ? 妖夢って師匠いるの? ならなんでユウキに教わっているの?」
宴会じゃそこまで詳しくは聞かなかった。
ユウキは確かに強いけど、剣ではなくナイフだし妖夢の戦闘スタイルとは違っているのに。
「ふふっ、ユウキ君とは色々あったのよ。あの月の兎ちゃんとユウキ君に色々あったようにね」
「………」
どうやら彼女は鈴仙とユウキの事に勘付いているようね。
流石は、あの八雲紫の友人ね。
「そう警戒しなくてもいいわ。宴会での兎ちゃんの様子が、以前の私や妖夢と被ったから、何となくそうなのかしらーって思っただけよ」
「なるほどね。それで大体分かったわ」
察するに、彼女達が妹紅土下座事件の元凶と言った所かしら。
なら尚更ユウキが妖夢の師匠をやっているのもおかしな話だけど、お人よしの彼の事だからそれも察せられるわね。
「これじゃ、鈴仙も妹紅も苦労するわけね」
「あら? あなたは違うのかしら? てっきりそうだとばかり。だから今日も1人で彼に会いに来たのかと思ったわ」
「私? あー違うわ。妹紅への当てつけにならないかと思っただけよ。そういうあなたは?」
「うーん、彼は悪くないのだけど、なんだか紫と喧嘩しちゃいそうだから……様子見、かしら?」
なんのことやら分からないけど、なんだか私と同じく面白半分で彼にちょっかいを出しそうな雰囲気ね。
「ほらほら、そんな事より見物見物。彼の戦い方って見ていると面白いわよ?」
「それは、知ってるわ」
多分、鈴仙を相手にしたのが彼の本当の本気、でしょうからね。
ユウキと妖夢は、さっきまで激しく切りあっていたが今は一歩も動こうとしない。
互いに相手の隙を伺っている。
でも、それはユウキ本来の戦い方じゃない。
「師匠、言ったはずです! 本気で来てくださいと。私に遠慮して、合わせないでくださいと!」
「別に遠慮していたわけじゃないんだけど、な!」
そう言ってユウキは両手に持ったナイフを妖夢に向けて投げ飛ばした。
「っ!?」
予備動作がほとんどなしで投げられた事に、妖夢も一瞬虚を突かれた顔をしたけど、すぐに冷静にナイフを弾いた。
だけど、弾かれるのは彼も予想済み。
「えっ?」
妖夢が目を向けると、既にその場にユウキはいなかった。
彼は、博麗神社の森へと駆け出していた。
木々の間を跳ぶように翔けるのが彼の得意戦法なのよね。
竹林では綺麗な程に駆け回っていたわ。
あれ? なにか彼の手元が光ったような?
「そうはいきません!」
妖夢もユウキの戦法は熟知しているようで、すぐに走りながら左手の刀を彼の行く手を阻むように投げ、彼を足止めした。
けど、彼はその刀を抜き、すぐに方向転換して今度は妖夢に向かって駆け出した。
「しまった!」
「まだ、甘いな」
―キィン!
ユウキが持つ刀と妖夢の刀がぶつかり合う。
と、そこで妖夢の動きが止まった。
「いつの、間に」
ユウキは、妖夢の喉にナイフを当てていた。
彼は、先ほどナイフを2本とも投げて妖夢に弾かれて遠くに飛ばされていたはず。
「自分の得物は大切に。もしもの為の備えも忘れずに」
「あっ、ナイフに釣り糸が!?」
なるほどね。先ほどユウキの手元が光って見えたのは釣り糸だったのね。
よく見ると、彼の腕に輪っかが着いていてそこから釣り糸がナイフの柄に伸びている。
「幻想支配があるとはいえ、俺の武器はこれだけなんだ。万が一落としたりしたときの備えをするのは当然だろ? こういう小細工をいくつもするのが、俺の本来の戦い方だ」
「流石です。師匠」
小細工、ねぇ。暗殺者というより、工作員みたいな事言うわね。
「とても面白かったわよ、2人共。お疲れ様」
「こんなの見てて面白いのか。って、輝夜? いつの間に来てたんだ?」
「流石のあなたも気付いてなかったのね。まぁ、来たのは少し前よ」
私が神社に来てからかれこれ30分は経っているのに気付かれなかったのはショックではあるわね。
「んで、今日は1人みたいだけど、何の用があってきたんだ?」
「たまには1人で出掛けたい時もあるわよ。それに、そっちこそ霊夢はどうしたの?」
「魔理沙と出掛けている。だから、こういう事も出来る」
「こういう事?」
鬼の居ぬ間に洗濯、みたいなものかしら?
まぁ、本物の鬼も今日はいないみたいだけど
「霊夢ちゃん、ユウキ君と妖夢が真剣で稽古をするのをすごく嫌っていたのよ。だから今日みたいな本稽古は出来なかったというわけ」
「へぇ。やっぱり弾幕ごっこじゃないからダメなのかしら?」
博霊の巫女らしく、弾幕ごっこに厳しそうだったものね。
と、そういうと幽々子は何がおかしいのか笑い出した。
「ふふふっ、いえ、失礼。霊夢ちゃんが嫌うのはそういう事じゃないわ。ユウキ君が怪我でもしないか心配なのよ」
「えっ? あー……そういう事。随分と過保護なのね霊夢は」
「全くだ。稽古くらいで大怪我するわけないだろうに。そこら辺の分別くらいついてるってのに。なぁ、妖夢?」
「えっ、あの、その……そ、そうですね」
突然ユウキに同意を求められ、慌てる妖夢。可愛いわね。
「師匠は私が怪我しないように気を遣ってくれています。けれども、私の方はそんな余裕がないので……」
ユウキ相手じゃ、妖夢は手を抜けないって事ね。
「そんなことないぞ。前ならともかく、最近の妖夢は結構強くなったから俺だって手を抜けないぞ」
「そうねぇ。最近の妖夢はユウキ君に不覚を取る事少なくなったわね。今日は久しぶりにやられちゃったけど」
「うぅ……正直、今日なら勝てると思ってました」
普段のユウキ達は知らないけど、確かに今日は割と互角だったように見えた。
でも、それはユウキが正面から妖夢と斬りあっていた時だけ、ユウキが攻め方を変えたらあっという間にやられちゃったわね。
「妖夢は搦め手に弱すぎるんだよな。真っ向勝負には強くなったから後はそういう所直そうか」
「そうはいっても、あんな小細工してくるのここじゃあなたくらいな気がするわ」
普通の妖怪は力任せに攻め立てるのが普通と永琳もてゐも言ってたわね。
鈴仙なら事前にトラップを仕掛けて追い込んだりはするでしょうけどね。
「でも、私は師匠に勝ちたいんです!」
「ほら、最近の妖夢は、ユウキ君に教えを乞うだけじゃなくて、勝ちたいって必死なのよ」
「へぇ~妖夢はユウキに勝ったら何かしてもらいたい事でもあるのかしらぁ?」
我ながら今、嫌な笑み浮かべてるだろうなぁ、と思いつつも妖夢をからかってみる。
「し、師匠にしてもらいたい事ですか……そ、そうですね。それは……その……」
あらら~顔を真っ赤にして俯いちゃったわ。
まだまだ若くて初心なのね。
「俺は一体妖夢に何をされるんだ……」
こっちはこっちで変な方向に解釈しちゃってるし。
「うふふっ、あまりうちの妖夢で遊ばないでね。それじゃ、そろそろ帰りましょうか、妖夢」
「は、はい!」
ここら辺が潮時ね。そろそろ永琳達も戻ってくる頃でしょうし。
それに、霊夢が戻ってきたら多分面白い事にはなりそうだけど、それ以上に面倒に巻き込まれそうだわ。
「私も帰るわ。それじゃあ、ユウキ、妖夢に幽々子も、気が向いたら永遠亭にいらっしゃい。歓迎するわ」
「おう、それじゃまたな」
「輝夜さん、さようなら」
「あなた達も、今度白玉楼に遊びにいらっしゃいねー」
ふむ。不老不死の私が冥界に遊びに行くのも、また一興かしら?
永遠亭に戻ると、永琳達はまだ戻ってきてはいないようだった。
早速てゐとお京に博麗神社で見た事を自慢げに話したのだけど、2人共微妙な顔をした。
「それで、帰ってきたというわけですか。これは予想外です」
「ねっ? 京ちゃん、心配する事なかったでしょ?」
「何よ、2人してその顔は」
せっかく面白い見世物の事話してあげたのに。
「いや、姫様全く関係ない事を自慢げに話されても私ら反応に困るよ。それに、ゆーちゃんを誑かしに行ったんじゃなかったんですか?」
えっ? ユウキをたぶらか……あっ。
「すっかり、忘れてたわ」
「ふぅ~ちょっとは面白い事にならないかと思ったけど、姫様予想の斜め下を行きますね」
「う、うるさいわね。そんな事より面白そうな事してたからちょっと忘れただけよ。お京もそんな顔しない!」
やっぱりこの2人、ユウキの悪影響受けている気がするわ。
続く
妖夢とは、真っ向からの勝負や弾幕ごっこではユウキが負ける事も増えてきています。
でも、まだまだユウキが負けていない部分もあります。
輝夜は永琳指導で護身術を習っているので剣術や体術はある程度できる設定です。
活かされるかどうかわからない設定ですけど(笑)