幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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第152回 「新人研修」

文の新聞取材に付き合う事になった俺は、最初の取材場所である竹林に向かっていた。

日影が多い森の中でも所かまわずありとあらゆる花が咲き乱れている光景は異様としか思えない。

これが誰かが起こした異変ではなく、自然現象としての異変なのだからタチが悪いな。

で、そんな異様な森の中を俺と文は歩いている。

 

「なぁ、飛んでいかないのか?」

 

飛んでいけば早く着くのに、文は歩いて行こうと言い出したのだ。

依頼主である文の言う事には従うけど、迷いの竹林へは結構な距離がある。

今回の取材は幻想郷の色々な所へ行く。

なら、歩いていくのは効率が悪いと思う。

 

「大丈夫ですよ。永遠亭へは時間の指定はしていなく、今日行くとしか言っていませんから。それに新聞なのですから、弾幕ごっこだけではなく道すがらに色々な風景もカメラに収めたいんですよ」

 

普段の風景ならともかく、今の花だらけの風景を撮ってどうするんだろ。

異変中だからこそ風景撮りたいのだろうけどな。

 

「で、腕を絡ませるのは取材になんの関係があるんだ?」

 

神社を出発してから文はずっと俺の左腕に自分の右腕を絡ませて歩いている。

それで左手はしっかりカメラを構えて、時折写真を撮っているのだから流石に器用だ。

 

「そんなの私がユウキさんと腕組みしたいからに決まってるでしょ」

 

分かり切った事を聞いてるのかとでも言いたげな顔をして、文はあっさりと自分の欲望をさらけ出した。

しかも、いつもの取材口調ではなく素の口調でだ。

文は最近、素の口調で話す事が増えてきている。

 

「欲望に忠実なのは前からか」

「そうそう。今更何を隠す事があるのよ。それに、こんな事しても無駄って分かってるしね」

 

と、腕組しながら胸を押し付けつつもどこか悟ったような顔をする文。

 

「無駄と分かってるならやめたらどうだ?」

「……そういう反応されるのも予想済みですよーだ。どうせ動きにくいとか言うんでしょ?」

「いや、この程度の拘束じゃどうって事ないぞ」

 

学園都市にいた頃に、相手の能力で両腕に重しがついたような状態で戦闘した事あるし。

 

「色仕掛けを拘束って言いきる辺り、もうどうしようもないわ」

「そんな事よりも、写真写りのいい弾幕ごっこの風景ってどういうのだ? 新聞に載せるような写真なんて撮った事も撮られた事もないから分からないぞ」

 

たまに美鈴や妖夢との組手は撮られるけど、あれは弾幕ごっこじゃないしな。

 

「あら、それはなんだか意外。ユウキさんでもやった事ない事あるのね」

「暗殺用や破壊工作の為の写真なら撮る事あったけどな」

 

カメラを使う事はほとんどなかったな。

ロシアに行った時もスマホのカメラ使ったし。

 

「……やっぱり、そういう所はユウキさんらしいわ」

 

なぜか文は諦め顔でそう言った。

まぁ、観光客みたく和気藹々とカメラを撮りまくるなんて俺には似合わないけどさ。

 

「別にそこまで気にすることはないわよ? 永遠亭で紅魔の主従コンビとやった時みたいにすればいいわ。しいて言うなら派手に動いてくれればいいわよ。シャッターチャンスは逃さないから」

「派手に、か」

 

普段の弾幕ごっこって俺は基本的に走り回ったり、飛び回ったりして回避中心だったからなぁ。

鈴仙と一緒にやったアレは、派手と言えば派手だったか。

 

「あ、そうだった。忘れるところだったわ。ユウキさん、これは依頼というかお願いなんだけど、私の新スペカを考えて欲しいの」

「新スペカ?」

「そう以前も紅魔異変の時に氷精を励ます為に新スペカを考案したでしょ? それにこの前の永夜異変の時も月の兎とコンビネーションスペカで紅魔の主従を蹴散らしたし。だから私にも新スペカを考案して欲しいのよ」

 

新スペカねぇ。

そう言われてもチルノの時も鈴仙の時も単に思いついたからやってみようって感じだった。

幻想支配で視た力は本人に出来る事は何でもできる。

だから、俺がわざわざ開発しなくても本人はいずれ思い浮かんでたであろう使い方なんだけどな。

 

「ま、考えておくか」

「よろしくね。それにしても、本命に行く前に練習、ううん、研修はしておいた方がいいかもしれないですね、わね」

 

ん? なぜ今わざわざ言い直したんだ?

 

「だー! もうダメです、ダメ! やっぱりこっちの口調の方が話しやすいですね」

「???」

「いやぁ~ユウキさん相手だと、こっちの口調の方が違和感なくて話やすいなーと思いまして」

「別に俺はどっちでもいいけど、素の口調だろうと取材口調だろうと」

「いえ、私の方が違和感あるので」

「なんだよそりゃ」

 

と、その時複数の気配がこちらに向かってくるのを感じた。

毎度の如く異変でハイテンションになった妖精達かと思ったが、それはチルノ達だった。

 

「おーい、ユウキー!」

「ユウキさーん!」

「わはー! ユウキだー!」

「やっほー、おにーさん」

「こんにちはユウキ先生」

 

チルノに大ちゃん、ルーミアにリグルにみすちー、いつもの仲良し5人組だ。

 

「よっ、今日は5人そろってどうしたんだ?」

「せっかく幻想郷中がお花畑になったから、今日は1日花見をしようと思って」

 

花見って、まぁ間違いではないか。

 

「それでせっかくだからおにーさんもどうかと誘いに行くところだったんだよ」

「ユウキーユウキー、お弁当作って一緒に行こう!」

 

ルーミアは俺の手を取りせがんできているが、目的は俺じゃなく俺が作る弁当なんじゃないか?

 

「生憎だけど、俺は今仕事中なんでね。また今度な」

「仕事?」

「そーです! ユウキさんは私の助手として取材中なんですから、お子様たちと遊んでいる暇はないんです!」

 

と、ここでチルノ達との間に文は割り込んできた。

 

「あ、えっと……ぶんちゃんだ」

「こんにちは、バ鴉さん」

「わーい、鶏肉~♪」

「おや、天狗さんもいたんだね」

「文さん、こんにちは」

「ちょっ!? 私ずっとユウキさんの隣にいましたよね? 皆さん気付いていなかったんですか!? しかも、チルノと大ちゃんは私の名前覚えてください! ルーミアは私の事肉としか思ってないんですか!? リグルさん、みすちーさん、お2人だけですよ私をまともに挨拶してくれる……ってお2人も私の事気付いてなかったですよね!?」

 

自分の存在に気付いてなかったチルノに一気にツッコミを入れる文、なんだか楽しそうだな。

 

「楽しくないですよ! 名前で弄られるのは私のキャラじゃ 「ユウキの仕事ってなーに?」 ちょっとルーミア!?」

「文が今度の新聞に載せる用に弾幕ごっこの写真を沢山撮りたいんだってさ、その手伝いだよ」

「ふーん。だったら、あたい達も協力するよ!」

「うん。面白そうなのだー」

 

唐突にチルノがそういうと、ルーミアも頷いた。

 

「協力ってなにをだ?」

「私達と弾幕ごっこしよう、おにーさん?」

「うんうん、そうすれば新聞のネタになるよ」

「私は、その、弾幕ごっこ苦手だから協力できないかな」

 

リグルとみすちーも乗り気で、大ちゃんだけは不参加のようだ。

俺としては別に構わないんだけど、文はどうかな?

 

「うーん、そうですねぇ。では、ここはユウキさんの新聞記者としての新人研修ステージという事でお願いしましょう!」

 

新人研修って、それに俺は手伝いはするが新聞記者は関係ないと思うんだが。

まぁ、チルノ達と弾幕ごっこは久々だからいっか。

 

「やったー! それじゃあたいがいくね」

「えーチルノはいつも遊んでもらってるから私がやりたいー」

「ルーミアだって遊んでもらってるでしょ。先生とは私が遊ぶの!」

「いやいや、みすちーよりも私の方がおにーさんに遊んでもらってないよ!」

「わ、私も……でも、私じゃユウキさんを満足させられないよね」

 

……言葉だけ聞くとすごく誤解されそう。

 

「いやはや、相変わらずチルノ達に大人気ですねぇ、この妖精たらしさん♪」

「妖精たらしってなんだよ」

 

冷やかすように文が俺を肘で突っついてくる。

顔は笑ってるけど、どことなく不機嫌そうに見えるのは気のせいだろう。

 

「でも、正直言って研修とは言え、チルノ達1人1人を相手にしても絵的には物足りないかと、すぐ終わりそうですし。そうだ! どうせでしたら皆さん一斉に相手をしてはどうでしょうか、ユウキさん?」

「幾らなんでもそれはチルノ達をなめ過ぎだ。彼女達だって怒るぞ」

 

と思ったのだが、とうのチルノ達は。

 

「おー! みんなで一緒に遊んでいいの!?」

「ふっふっふっ、これならユウキに勝てるー!」

「いやいや、今私達ものすごく馬鹿にされたよね?」

「でもさ、みすちー? おにーさん相手なら私ら全員でも勝てないと思うなぁ」

「リ、リグルちゃん、本当の事だけどそれは言っちゃダメだと思う!」

 

意外と皆素直に受け入れているな。

チルノとルーミアは言われた事分かってないようだけど。

 

「ユウキ! あたい達全員と弾幕ごっこで勝負だ!」

「勝ったら、お弁当作ってお花見だー!」

 

なんか勝手に報酬まで決められてた。

 

「みんな、絶対に勝とうね!」

「だ、大ちゃんが燃えてる!」

 

大ちゃんまでやる気満々だ。

しょうがない。文に頼まれた新スペカの事もあるし、ちょっと本気で行くか。

既に幻想支配で文を視ているので、準備は万端だ、

 

「では、弾幕ごっこ、開始!」

 

文の号令と共に、チルノ達が一斉に向かってきた。

さてと、見栄えのいい弾幕ごっこにするには、普段みたいに回避に専念するよりこっちもスペカを使って迎撃した方がいいかな。

 

「みんないっくぞー! 合体スペカで先生攻撃だー!」

「チルノちゃん、それ字が違う! あ、ユウキさん先生だから合ってるの、かな?」

 

チルノ達は、大ちゃんを除いて一斉にスペカを使用するようだ。

 

「【雪符・ダイアモンドブリザード】」

「【闇符・ダークサイドオブザムーン】」

「【蛍符・地上の恒星】」

「【声符・木菟咆哮】」

「って! その位置で皆がスペカ使ったら……(ピチューン×4)……互いに被弾して危ないぞ。と、遅かったか」

 

チルノ達はお互いのスペカで互いに被弾しあってあっという間にピチュってしまった。

後に残ったのは、アタフタとする大ちゃんのみ。

 

「ひょっとしてこうなるかもと予想はしていましたが、まさかこうもあっさりと予想通りになるとは思いませんでしたよ」

 

と、言いつつもしっかりと文は、シャッターチャンスは逃さなかったようだ。

 

――ヒュゥ~

 

残された俺と大ちゃんの間に夏とは思えない冷たい風が吹いた。

 

「あー……大ちゃん、どうする? 仕切りなおす?」

 

このまま続けてもいいけど、流石に大ちゃん1人では荷が重いと思う。

 

「いえ、私の負けです。では、ユウキさん……負けた私を好きにしてください」

「いや、どっからそういう話になったんだよ」

 

大ちゃんは負けたのに全く悔しそうではなく、モジモジしながらその場にへたり込んでしまった。

 

「はーい、そこまでです! この勝負はユウキさんの勝ちー! ではでは、私達は次の取材はありますのでこれで失礼しますねー!」

 

文は俺の手を掴み、空へと飛びあがった。

 

「なんだよ、文。歩いていくんじゃなかったのか?」

「もうとっとと行きましょう! どうやらあの大妖精は異変にあてられて様子がおかしいようですからね。さっさとこの場を離れましょう!」

 

異変で妖精の気がおかしくなるのは経験してるからわかるけど、大ちゃんの様子がおかしいのはそれとは別な気がする。

 

「そういうわけだから、大ちゃんまたなー! チルノ達の事よろしくー」

「あ、はーい! 今度会った時はめちゃくちゃにしていいですからねぇー!」

 

大ちゃん、酔っぱらってるみたいだな。

 

「今回の異変は自然現象ですからね。妖精達への影響も普段より大きいのかもしれませんね。さー! 永遠亭に行きましょう!」

 

研修の段階でこんなにぐだぐだで、今回の取材はちゃんと最後まで出来るのは不安に思いつつ、俺達は魔法の森を後にした。

 

 

続く

 




コロナのせいで色々と冗談抜きで世界が変わってきてますね、現実世界の大異変と言った所ですね。
テレワークで快適生活を満期中なので、堕落せずにゲームを頑張ろうと思います!マテ

えっ? 大ちゃんが変? いつもの事です、諦めてください。

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