幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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前半はフラン、後半は霊夢視点です。


第17話 「不器用な姉妹(後編)」

私の手がお姉様へと伸びる。

 

―ネェ? 壊シチャオウヨ?

 

伸ばした手の中に、

 

いやだ。私は誰も壊したくない!

 

―ウソデショ? 壊シタイカラアノ人ヲ呼ンダンデショ?

 

違うもん! あのお兄ちゃんは……お兄ちゃんなら、私と……

 

―同ジダト思ッタ? デモ拒絶サレタ。

 

それでも、だからこそお兄ちゃんは私に教えてくれた。私には……お姉様が、家族がいるって! 今も私に手を伸ばしてくれてる!

 

―ソンナノ幻想ダヨ。幻想ダカラ、ホラスグニ壊レル。結局私は1人ナンダヨ。1人ニナッチャウンダヨ。

 

 

 

私の右手にはお姉様の【破壊の目】がある。これを潰せばお姉様は壊れる。

 

「ダメ、ダメ! 私は……お姉様を壊したくない! 今目の前にいるお姉様は幻想なんかじゃないもの!!」

「そうだ、フラン。それは現実だ、幻想なんかじゃない! そして、言ったはずだ! お前の幻想は……俺が支配すると!」

 

破壊の目が潰される寸前、お姉様は微笑み、離れていた咲夜や美鈴達がが叫び声をあげたけど、それよりも鮮明に耳に入ったのはお兄ちゃんの優しい声。

 

その声と共に、私の右手が握られた。

 

……だけど、何かを潰した感触がない。

破壊の目を潰した感触がない。驚く私の手をお姉様が優しく包み込むように握った。

 

「もう大丈夫、フラン。私はどこも壊れていない。あなたはなにも壊していないわ」

「お姉様、良かった、良かっ、う、うわぁぁ~~~」

「ふふっ、泣き虫なのは変わらないわね」

 

お姉様に抱きつき、思いっきり泣きじゃくってしまった。

それでもお姉様はそっと私を抱きしめて、大丈夫と耳元で囁いてくれた。

久々の、何百年ぶりか忘れちゃったけど、お姉様は暖かい、この暖かさは覚えている。

ずっと地下で引き籠って、みんなを拒絶していたのに、それでもお姉様は私を受け入れてくれたのがすごく嬉しい。

 

「はぁ……っ、良かったな、フラン」

「グスッ、お兄ちゃん……ありがとう、お兄ちゃんがしてくれたんでしょう?」

 

何をしたかは分からないけど、お兄ちゃんが何かしてくれたから私はお姉様を壊さずに済んだのは分かった。

 

「俺の奥の手だよ。相手の能力をコピーするだけじゃなく、支配して封じる。だから幻想支配。これ結構体力とか消耗しちゃうし。相手の能力を封じている間こっちの動きに制限かかるから。使い道間違えると危ないんだよな」

 

なるほど、確かに今の私は能力だけじゃなく、弾幕も打つ事が出来ない。妖力そのものを封じられているようね。

でも、体に特に異常はなく、力を封じられているのだって言われるまで気付かない程。

 

「人生初の破壊相手が実の姉、なんてどっかの三文芝居のような悲劇は御免だからな」

「……えっ?」

 

お兄ちゃんのその言葉に違和感を覚えた。人生初の破壊の相手? まるでそれまで私が何も破壊してないような言い方に、お姉様も驚いていた。

 

「お兄ちゃん? 何を、言っているの?」

「フラン、お前は……その能力で物しか壊した事がないだろ。人も、妖怪も、動物も……生物を壊した事は一度もない!」

「う、そ……?」「「「っ!?」」」

 

私はこの能力で生き物を壊した事がない。

嘘だ。私はこれで今までに何度も……あれ? 今まで何を壊したっけ、ぬいぐるみ? 岩? 壁? 部屋の扉?

お姉様や咲夜達もお兄ちゃんの言葉に固まっている。巫女と魔理沙はわけが分からないって顔だけど。

 

「その様子だと、咲夜達も知っていたみたいだな」

「お嬢様、まさかユウキ様にその事は……」

「……それを話す前に霊夢が来ちゃったのよ」

 

お姉様はバツが悪そうに顔を背ける。その仕草が可愛いと思ってしまった。

 

「ありとあらゆるものを破壊する能力、この能力のせいで昔から精神が不安定。たまに気が狂い暴走する事がある。俺が聞いた説明だが、咲夜達もそんな説明だろ? 事実これ以上ない的確な説明だと思う。だけどな、不要な情報と思ったかそれとも別の意図があったから伏せていたのかは知らないけど。フランはこの能力で生物を壊した事がないのも、事実」

 

そうだ。思い出した。私がなぜ地下にいたのかを。お姉様に閉じ込められたんじゃない。自分で閉じこもったんだ。

それはなぜか、私がこの能力でお姉様を、誰かを壊すのが怖かったから。

 

「でも、どうしてお兄ちゃんはそれに気付いたの?」

「さっきフランの能力を自分で使ってみて分かった。あの力を生物相手に使うの心を削るってな。あれで生物を、命を破壊してマトモでいられるわけがない。気が狂うどころの話じゃない。むしろフランは、生物を破壊しなかったからこそ情緒不安定程度で収まったんだ」

「あっ、あぁ……」

 

何だろう、目頭が熱くなってきた。こんな事初めて。

 

「それにフランの目は人を殺した眼をしていない。分かるんだよ、俺には。元の世界で散々人殺しを見てきたからな。大義だ正義だと、自分以外の存在を悪と認定し殺す偽善者を。自分の目的の為に他者を消耗品扱いして浪費するクズを。他にも沢山いたさ、どんな気高い主義や信念を持っていても、人を殺してしまった奴も。フランの目はそんな奴らと違った。だから気付いたんだよ。ま、その偽善者のクズってのは俺もだけどな。だからこそ気付けたって所もある」

 

自嘲気味に笑うお兄ちゃんの表情はここからは見えない。けれども、どこか辛そうに見えた。

 

「だからさ、レミリア。自分がいる事で不安定になったフランが、誰かを壊すのを恐れるなよ。何かあった時の為にすぐにフランの元に来れるような転送魔法を準備したり、吸血鬼の力を幻想郷中に見せつける事でフランに不用意に近寄らせない為に紅霧を出す事もない。ただ、大事に思っているのなら、側にいてあげるだけでいいんだ」

 

お姉様は頬を染めて半ば睨むようにお兄ちゃんを見つめていたけど、やがて柔らかいを浮かべて一言、そうね。とだけ呟いた。

 

「フランも、自分は1人だって思って引き籠らないで少しずつでいい。外へ出てみるといい。大丈夫、フランは優しいから誰も壊したりしないし。もし、そうなったら、止めてくれる家族がフランには沢山いるだろ?」

「うんっ、うん!」

 

涙が止まらなかった。私を理解してくれる人がいた。もう昔に諦めていたのに、私はこの能力があるからずっと1人でいなきゃいけないと、誰にも関われないと諦めていたのに。

そんな私に気付いて、理解して、道を教えてくれる人がお姉様以外にもいた。

その事がたまらなく嬉しかった。

 

「……あ、悪い。少し……寝る。流石に、力、使い……すぎ、た」

「お兄ちゃん!?」「ユウキ!」「ユウキ様!」「ユウキさん!?」

 

力なく呟くお兄ちゃんの瞳から銀色の光が消えた途端、口から血を流しながら倒れてしまった。

私やお姉様、霊夢達の声が重なり、慌てて駆け寄る。

さっきまでお兄ちゃんから血の匂いがしなかったのに、今は体中から血の匂いがする。

それもそのはず、お兄ちゃんの全身が赤く染まって行き、特に左手は真っ赤だった。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

「ユウキさん傷だらけじゃない! でも、さっきまであんなに普通に動けていたのになんで!?」

「落ち着きなさい、霊夢。さっきまでこの人は妹様の妖力を使っていた。なら、それで全身を覆って自己回復しようとしていたのね。でも、この短時間じゃ治らない程の傷を負っていたから、力が解除された途端に傷が開いちゃったのね」

「診断はいいから早く治しなさいパチェ! 絶対に死なせたらダメよ!」

 

お姉様がここまで焦って怒鳴る姿は珍しかったけど、私はそれどころじゃなかった。

これは間違いなく最初に戦った時に出来た傷。

なら、私のせいで。私のせいでお兄ちゃんが壊れちゃったの?

 

「大丈夫よ、妹様。左手が複雑骨折しているけど、見た目より傷自体は浅いわ。今すぐに傷口を塞げば……魔理沙、あなたも手伝いなさい! 治癒魔法も出来ないわけじゃないでしょ?」

「おう、任せておけ! 全く、だから私に任せて安静にしてろと言ったのに。フラン、ちょっとユウキから離れててくれるか?」

「パチュリー様、包帯など必要なもの一式は用意しました」

 

時間を止めて咲夜が持ってきた薬や包帯を用意しながら、魔理沙とパチュリーがお兄ちゃんに治癒魔法をかけ始めた。それでも、私は震えが止まらない。もし、このままお兄ちゃんが目を覚まさなかったら……

 

「フラン、あなたは誰も壊さない。ユウキはそう断言したのよ。当の本人がそれを覆すはずないでしょ?」

「そうですよ、フラン様。ユウキさんとパチュリー様達を信じましょう」

 

頭をなでられながらお姉様と美鈴に言われても、私の不安は消えなかった。

 

 

 

 

ユウキさんの治療を終えて、客室のベッドで寝かせてから少し時間が過ぎた。

魔理沙はユウキさんに色々聞きたい事があるけど、それはまたにする。と言って自分の家へと戻って行った。

パチュリーという魔法使いも、魔法を使い過ぎたと自分の部屋で休んでいる。

今紅魔館のリビングには、私とレミリアと咲夜、そして文だけがいる。

フランは眠っているユウキさんから離れたくない、と言って側にずっと付いている。

文は、門番の仕事に戻った美鈴と代わるように紅魔館に入ってきた。レミリアがもう通していいと言ったからだ。

 

「いやぁ~、すっかり門番さんに不覚を取ってしまいました。少々天狗のプライドが折れそうです」

「少しくらい鼻が折れた方が、マシになるんじゃない?」

「霊夢さん、それは偏見すぎます! あんなに鼻の長い天狗はいません! あれは要職を示すお面です!」

 

そんな事はどうでもいい。

 

「鴉天狗、あなたは確かここに来るまでユウキとずっと一緒だったのよね?」

「えぇ、まぁ。護衛と道案内を代償に同行取材を……どっちもいらないようでしたけど、そこは無理やり?」

「それで、ずっとユウキさんと行動を共にして、あなたの感想は?」

 

真剣な表情でレミリアと私が問いかけるのを見て、文も自然といつもの取材顔ではなく天狗としての顔になる。

 

「お二人がそこまで気にする理由、それを私が明かす理由、何かありますか? 前者に関しては予想できますけど」

「あらあら、その話なら私も気になりますね。1名追加でお願いしますわ」

 

ここにはいないはずの声に顔をしかめる。レミリアと文は何か予想していたように、少しだけ溜息をついていて、咲夜はお茶の用意をしますと出て行った。

スキマのような空間が現れ、その中から八雲紫が現れた。

 

「出たわね、スキマ妖怪」

「随分と嫌われているようですけど、私は今回あなた達に御礼を述べに来たんですよ?」

 

不機嫌そうに敵意すら籠った視線を向けるレミリアに対して、紫は上機嫌で友好的な笑みを浮かべている。

 

「御礼? 幻想郷中に異変を起こした私達を断罪しに来たのかと思ったのに」

「それはそこにいる霊夢の役目。私はスペルカードルールが定まってから初の異変を起こし、見事に退治役になってくださった紅魔館の当主にお礼を申し上げにきたのですわ」

「つっくづく、人のプライドを削り取る言い回しするわね、スキマ妖怪」

 

レミリアのこめかみがひくひくとしているが、紫は構わず話を進めて行く。

 

「それと、貴方の妹であるフランドールの件も、無事に解決したお祝いも申し上げにきました。もし、あの情緒不安定のまま何かのはずみで紅魔館から飛び出したりしたら……私が消す、予定でしたもの」

「っ! 貴様!!」

 

レミリアは怒りの表情を浮かべ、今にも紫に襲いかかりそうだ。でも、その脇で何食わぬ咲夜が文に紅茶を出している辺り、このメイド長は色々とデキるわね。さり気なく紫の死角に入って私に紅茶を注いでいるし」

 

「冗談ですわ、冗談。私が自らそんな手間をかけるわけないじゃないですか」

「幻想郷に害をなすものなら、あんた自ら手を下す事もあるでしょ? で、いい加減ユウキさんに関して何か分かった事は?」

 

実は、ユウキさんが異世界から来た事など、そこらへんの事情はレミリア達に話してある。

フランや美鈴はかなり驚き、悲しそうな顔をしていた。レミリアと咲夜、それにパチュリーも何かしら予想はしていたようで、それでも辛そうな表情を浮かべていた。

出会ってからまだ間がないだろうに、ユウキさんはどうやら私以上に紅魔館の彼女たちと親しくなったようだ。

どこか気にくわない。

 

「そうそう、そうでした。可愛らしい吸血鬼ちゃんで遊ぶのは楽しいですけど、本題に入りましょうか。ブン屋さん、ここまでの道中、ユウキさんと一緒にいて、どうでしたか?」

 

それは幻想支配に関しても、ユウキさん自身に関しても、と言う意味が込められている。

 

「……ここで黙っていても後で吐かされそうですね」

 

深く溜息を吐きながら文は話し始めた。ルーミアやチルノに対して、弾幕ごっこではなく、あくまで話し合いと餌付けで突破した事も。

餌付けの話で、なぜそうなった? と疑問に思ったが、あの腹ペコ妖怪ならありえそうな話。

そして、話を聞けば聞くほど私の中で違和感が芽生え、それはあっという間に膨れ上がった。

それは、紫やレミリア達も同じようで、困惑した表情を浮かべ始めた。

 

「……以上は、私が知る限りのユウキさんの道中ですが……皆さんも私と同じ事を考えたようですね」

「えぇ……ん? 誰か客が来たみたいね」

 

文の言葉に頷いたレミリアだったが、ふと窓の外正確には門の方へと視線を向けた。

どうやら誰か来たようね。それも侵入者など物騒な相手ではなさそう。

その時、パタパタと廊下から足音が聞こえ、メイド妖精が入ってきた。

 

「あなた! ちゃんとノックをしなさい!」

「ご、ごめんなさいメイド長! あ、それより、レミリアお嬢様! 藤原妹紅と言う見慣れない方が、ここに来た外来人に会わせてほしいとやってきていますが、いかがなさいますか?」

 

藤原妹紅? 確か、慧音の親友で竹林の案内人をしている不老不死の蓬莱人。

そんな彼女がユウキさんに何の用……って、そんなの慧音から頼まれて様子を見に来たくらいしか思い浮かばないわね。

 

「……通して良いわ」

「はい!」

 

レミリアは紫の方をちらりと見て、それからメイド妖精に指示をだした。

どうやら妹紅も含めて話を進めようとしているみたい。紫もそれに賛成している。

ユウキさんの事を知る人が増える事が、はたしてユウキさんの為になるのか、と言う自分でも分からない疑問が頭に浮かんだ。

 

 

つづく

 




紅魔郷編も後1,2話で終了です。
それからユウキの過去話Ⅰと日常編をする予定です。
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