博麗神社
Side 霊夢
外来人が背負っていた女の子を探しに来た慧音に引き渡し、私は改めてさっき有り得ない事をした人物を見た。
「さっきのは見間違え……な、わけないわよね。当の本人の私が間違えるわけない」
「ですよねー。と言う事はやっぱりこの人は博麗霊夢の霊力を使い、博麗霊夢の弾幕を使った。と言うわけですよね」
「……やっと出てきたわね鴉天狗」
私の背後から、さも最初からいたかのように降りてきた黒い翼と赤い下駄を履いた天狗、射命丸文(しゃめいまる あや)
外見は若いけど、私の数百倍は生きてる 【風を操る程度の能力】 を持ったカラス天狗。
「あやや~霊夢さんには気付かれてましたか。いやぁ、外来人がいるなー程度にしか観察してなかったんですけどね。人里から離れた人間なんて襲われるのは当たり前ですし」
私がこの外来人を見掛けた時から、気配を感じてはいた。
文は新聞記者で、天狗にしては珍しく人里にも新聞を配り、人間に敵対もしていないし、むやみに襲ったりもしない。
が、やはり妖怪らしく襲われた人間を観察はすれど、進んで助けようとはしない。
「嫌ですよ霊夢さん。私だって新聞を御贔屓にしている人間だったら助けますって。お得意さんなんですから」
と言う事は、人里の人間は誰も文には助けてもらえないわね。
「そんな事よりぼさっとしてないで、この人運ぶの手伝いなさいよ。どうせ取材する気なんでしょ? 見た目よりガッシリしてて結構運ぶの大変なのよ」
「この人すごく筋肉もついてますし、傷跡もチラホラありますし、いつもみたいなひ弱な外来人じゃないですね」
「わざわざ服までめくって観察する前に運べー!!」
こうして、外来人を博麗神社まで運んだ。幸いにも外傷はないから、布団に寝かせて濡れた布巾を頭にかぶせて様子を見る事にした。
「で、この人が目覚める前にどうしても確認したい事があります」
眠っている外来人に目を向け、文はさっきまでと打って変わって真剣な眼差しを向けてきた。
「……分かってるわ、この人があの狼妖怪を退治した時、確かに私の弾幕を使ったわ」
「それは、霊夢さんから力を奪って弾幕を使用した。という事ですか?」
「違うわ。私は何もされていない。この人を最初見かけた事は何も力も感じなかった。けれども私の弾幕を使った時、たしかにこの人から私の霊力を感じた」
「そうですか。今は霊力も妖力も何も感じませんが、この人本当に人間なんですよね?」
「えぇ……」
文がここまで真剣になる理由。それはこの外来人が私、博麗の巫女の力を使ったから。
妖怪を退治できる人間は幻想郷も大勢いるけど、博麗の巫女はその中でも群を抜いて妖怪退治の専門家とも言える。
更に、博麗大結界の要でもあり、特別な存在。
その博麗の巫女を使える人間が博麗以外にも現れ、しかもそれが外来人ともなれば文達妖怪にとっては由々しき事態。
「全く、なんで冬眠してるはずの紫はこんな外来人を連れてきたのか……もしくはこの力があるから連れてきたのか」
「心外ですわ。私今回は何も関与していませんのに」
声と共に空間が裂け、リボン付きの裂け目から扇子で口元を隠した金髪の女性が降りてきた。
名は八雲紫。 【境界を操る程度の能力】 を持ったスキマ妖怪で、幻想郷の賢者と呼ばれる実力者。
本来なら冬の今は寝ているはずなのだが。
「あんたら妖怪は、少しは普通に現れるって事しないのかしら?」
「だから真っ正面から現れましたのに……ま、そんな事よりも、この外来人。どうやってここに来たのかしら?」
「はっ? あんたが連れて来たんじゃないの?」
博麗大結界には綻びも穴もなく、異常は全くなかった。ともすればこのスキマ妖怪が外の世界から連れて来る以外にはないはず。
「私はついさっきまでずっと冬眠してたのよ? でも、何か変な気配がして起きてみたら、霊夢の力を使った外来人がいるじゃない。眠気もすっ飛んだわよ」
紫の言葉にウソはないらしい。いつも物事をはぐらかした言い方をする事はあっても、ここまではっきりと否定する限りは本当の事はないだろう。
「と、なると誰かが連れてきた……もしくは外の世界で事故か何かでここに飛ばされた、ですか?」
文が別の可能性を言ったが、紫は難しい顔をして口元の扇子を閉じ、じっと外来人を見つめた。
「今のところは謎ですわ。でも今藍が結界の様子を丹念に調べてるから、もう少ししたら分かりそう……あら? どうやら何か分かったみたいね。では、少し離れるわ。また来るから、この子が目覚めたら幻想郷の説明とかお願いね~」
「あっ、ちょっと!」
ひらひらと扇子をはためかせ、紫はスキマへと消えて行った。
「人に面倒事押しつけて」
「まぁまぁ、原因が分かりそうなんですから、待ちましょうよー」
文も文で"メモ帳に今の会話を書きこんでいる。情報を整理しているのだろう。
普段なら面白おかしく取材しているけど、今回は割と真面目に動いているわね。
「あ、霊夢さん霊夢さん。この人目が覚めそうですよ!」
文の言う通り、眠っていた彼の瞼が動き、ゆっくりと開かれていった。
瞼を開けた彼の瞳は、青く輝いてはいなかった。
「うっ……ぅ~ん、こ、ここは……どこだ?」
「気が付いたかしら? ここは博麗神社。私の家よ」
「……俺が背負って、た……あの子は?」
自分の状態よりも、助けた子の心配か。お人よしね。
「大丈夫よ。あの後すぐに家に送ったわ」
「そう……か」
心底安心した笑みを浮かべる。うん、良い人だ。
見た目もそうだけど、話し方も日本人のようね。
「私の名前は博麗霊夢、霊夢でいいわ。それで、色々話したい事や聞きたい事あるんだけど、大丈夫?」
大丈夫だ、と言って起き上がった彼に文が水の入ったコップを渡した。
「ありがと……?」
文を見て困惑の表情を浮かべる彼。見知らぬ人がいる。と言う反応でもないわね。
「あっ、私は射命丸文といいます。新聞記者をしていていまして、こちらの霊夢さんの友人です。森の中であなたを見つけて霊夢さんとここまで運んできたんですよ。それであなたの名前はなんというのでしょうか?」
文は取材対象に向けては丁寧語になる。自分が天狗である事を明かさないのは無暗に混乱させない為、一応取材対象には気遣いするのよね。
勝手に友人扱いされたけど、訂正しても面倒だからほっといてあげるわ。
「俺は……ユウキ、年は16、高校1年生。部屋で寝ていたらいつの間にか森の中にいたんだ。で、女の子が変な化け物に襲われてたから、助けたんだけど……お前ら、何者?」
その言葉に文と2人で少し、ドキッとした。
人間なのか? と言う意味が籠っているように感じたからだ。と、言っても私は人間だけど。
そして、私達を見つめるその瞳がうっすらと波打つように輝いた。
「え、えっと……それはどういう意味ででしょうか? 通りすがりの新聞記者、と言えばいいでしょうか」
「そういう意味じゃない。2人共見た目はただの美少女だけど、そっちの巫女は変な力感じるし。あんたに関して言えば、人間じゃないだろ? 人間じゃ感じない力を感じる」
驚いた。会って瞬時に文の正体に勘づくなんて。幻想郷の力ある妖怪には見た目は人間なのが多い。
中には角や翼が生えているのもいて人間らしくない外見なのもいるけど、今の文は翼を隠していて、何も知らない外来人には普通の女の子にしか映らないはず。
知らずに私も文も警戒を強めていた。良い人には違いないけど、森での事もあるし彼には何かある。
なので、私は単刀直入に聞く事にした
「その質問、そのままあなたに返すわ。森であの妖怪を倒した時に使った力、アレは何? あなたが使った力は私の力よ? あなたこそ、人間なの?」
「俺は……能力者だ。幻想支配(イマジンロード)、そう学園都市では呼ばれていた。目に映った異能の力を支配する能力……俺は昔からその力が使える。だから、あの時は目に映った君の力を使った。とっさだったし、今まで触れた事のない力だったからあの程度しかできなかったし、すぐに頭痛が起きて倒れたけど」
聞き慣れない単語はあったけど、けど彼の力は大体分かった。
「能力者とかはともかく学園都市? 聞いた事ない言葉ね。良いわ、先にこの世界の話をしてあげる。ここは幻想郷、場所としては日本だけど、結界を張って外の世界とは隔離された世界よ。ここでは人間と妖怪が暮らしているわ。あなたの言う通り、文はカラス天狗、妖怪よ」
どうも~、とペコリとお辞儀する文に動じる事なく、ユウキさんは先を促した。
「幻想郷には文みたいな天狗以外にも、鬼や河童、妖精に吸血鬼、神様もいるわ。外の世界で人間が忘れ去った存在がここにはちゃんと存在している。妖怪と人間にはある決まりがあるの。【妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を退治する】これがあるから幻想郷の人と妖怪はバランスを保って共存しているの。ここまではいい?」
長く喋ったけど、ユウキさんはちゃんと理解しているらしく、納得したように頷いていた。
適応力が高いと言うか、少し物分かりが良すぎじゃない? たまに迷い込む外来人にこの説明するとみんなポカーンとするか、信じられないと激昂する事もあるのに。
「ま、いいわ。で、幻想郷には人間の人里があって、そこでは妖怪は絶対に暴れてはいけない決まりがあるの。更に言えば、人里以外では人間は妖怪に襲われる。あなたもあの女の子もだから襲われた。そして、私は妖怪の退治屋、人間を守る仕事を持つ博麗の巫女としてあなた達を助けたと言うわけ」
ふぅ、決まりごとではないけど、こうも長い説明すると喉渇くわね。
「あの~私からも1つ。ユウキさんの事とか、学園都市と言う物とか色々聞きたいので、取材をさせてもらってもいいですか?」
幻想郷の説明を聞いて、特に混乱もせずに受け入れた彼を見て、文が新聞記者として我慢していた事をし始めた。
あんな事聞いてすぐに取材に応じるとは思えないけど、そこは彼次第ね。
「……俺は構わないけど」
うん、ホント大した人だわ。まるで当たり前のことを聞かされたかのようにあっさりと受け入れてるし。
彼のいた世界にも妖怪がいるのかもしれないわね。
ともかく、私も彼に興味あるから取材をすると言うなら聞かせてもらいましょうか。
「はーい、一旦ストップよー」
取材をしようと身を乗り出した文と、彼を遮るように紫が現れた。意外と早く戻ってきたわね。
文が音速で私の横にまで戻ってきたわね。そこまで嫌なのかしら。
「取材も良いけど、大事な事を先に話さないとダメでしょ?」
「またいきなり現れて、で、大事な事って何よ?」
「彼の世界への帰る方法とか、どうして幻想郷に来たかよ」
「あっ……」
本当に大事な事を忘れていた。彼のあまりの適応力に外来人であることを忘れかけていたわ。
学園都市と言う所から来たなら、そこに帰さないといけない。それに彼がどうして幻想郷に居たのかもはっきりさせなきゃ。
でも……そこで私は妙な違和感を覚えた。彼は今までの外来人と色々違うけど、それでも感じる違和感。
「はじめまして、ユウキ君。私の名前は八雲紫。ゆかりんと呼んでね☆」
「は、はぁ……」
妖怪とか聞いても平然としていた彼の表情が固まった。
ゆかりんはないでしょゆかりんは。
「こほん、それは冗談として」
本気だったでしょ。
「場を和ませる為よ、霊夢。これから大事な……彼にとってショックを受ける話をしなきゃいけないんだから」
「……どういう事ですか、紫さん?」
「ゆかりんでいいのに。まぁいいわ。ユウキさん、霊夢と天狗からこの幻想郷の事はあらかた聞いたと思いますけど、結界で隔離された幻想郷になぜあなたがいたのか、それをお話ししますわ」
「……はい」
何だか興味なさそうな返事ね。表情にも変化ないし。紫もそれを不自然に思ったけど、すぐに話し始めた。
「あなたのように幻想郷の外から来た人間を【外来人】と言います。結界に綻びが出来て、それに巻き込まれた人間が結界の外から入ってきたり、私が面白そうな人間を見つけて、神隠ししたり」
さらりと恐ろしい事を言われているはずなのに、ユウキさんの表情に変化はない。
「そして、外来人はここ博麗神社で霊夢や私の手によって外の世界に帰されるわ。中には人里で暮らす人もいるのですけれど。さて、ここからが本題。ユウキさんは確かに外来人ですが、結界の綻びによって外から来た人間ではありません」
外の世界に彼みたいな強力な能力者がいるとは、少し考えにくいからこれは予想出来た。
ま、たまに紫が連れて来る中にはいるけど。
「そして、私が神隠しで連れてきた人間でもありません。今まで結界などを調べて他の事故によってここに来た人間、でもありませんでした」
事故ではないなら、誰かが幻想郷に送り込んだのだろうか?
とすれば、侵略? 確かに私の力ですらコピー出来る彼の能力は強い。
でも、彼は幻想郷を全く分かっていなかった。
「幻想郷には外の世界と倫理的に断絶する博麗大結界の他にもう1つ、 【幻と実体の境界】 という結界が張られています。これは外の世界で幻想となり、忘れされた妖怪や物を幻想郷に導く為の結界……」
ここまで言って紫は少しだけ、ほんの少しだけ辛そうに息を少し吐いた。
私は次に紫が何を言うのかに気付いた。そんな事は有り得ないはずなのに。
「ちょっ、ちょっと待って下さい! それってまさか!? 有り得ない事じゃないんですか!?」
文も気付いたみたいね。この慌てよう、幻想郷が生まれて初めての事なんでしょうね……でも。
「私も文に同感ね。彼は外の世界ではなく、別の世界の人間なんでしょう?」
「藍と2人で結界を調べて分かった事、これは事実よ。とはいえ、私も初めての、想定外の経験です。ユウキさん、あなたは……あなたの世界で忘れさられて、幻想となってこの地へ流れついた、残酷な言い方をすれば……」
【世界に捨てられた外来人】
続く
・霊夢と幻想郷に住んでいる妖怪・神は大体知り合いの仲、レミリア達、吸血鬼も幻想入りした事くらいは知ってます。面識はありませんが。
・幻想郷の外の世界以外の異世界から幻想入りする事は不可能という設定。
と言う独自設定になります。