よく世間は狭いだの、世界は広いだのという言葉を聞くが、学園都市は狭い範囲なのか広いと言える範囲なのかどっちだろうか?
なんて思っている俺の目の前では、学園都市で7人しかいない超能力者、レベル5第3位である御坂美琴がナンパをされている。
路地裏に連れ出されたけど、相手はレベル0だらけのスキルアウト(ロリコン)集団だから、俺が出る幕は全くないな。
それに路地裏に連れ出されたように見えるけど、余計な被害出さないように美琴が自分から行っているようにも見える。
どうしてそういう気遣いを俺には出来ないのかねぇ。
「なぁなぁ、これからどこいく? こんなしけた路地裏じゃなくてさぁ」
「それともこんな誰も来なさそうな狭い場所がお好みなのかい、お嬢ちゃんは? いっひっひっひっ」
「そうね……ここなら能力使っても特に問題なさそう、ね!」
「へっ? ぎゃはぁ~~!?」
案の定、誰も来なさそうな路地裏に付いた途端、美琴が電撃でバカどもを1人残らず痺れさせた。
見張りに立っていた1人がいるけど、そっちは風紀委員の白井黒子が来たから大丈夫か。ここにも向かっているみたいだし。
風紀委員の白井黒子、俺が表向きは統括委員会公認の探偵もどきの何でも屋をやっている関係で、何度か事件で捜査協力したりして顔馴染みだ。
今日はバックアップ担当である初春飾利は177支部で、情報収集しているみたいだな。
黒子の耳につけたイヤホンで指示を出してるみたいだ。一応監視カメラの死角にいるから俺には気付いていないよな?
「ジャッジメントですの! 暴漢に襲われそうな女子生徒がいると通報を受けて……って、お姉様!?」
「あっ黒子、といい加減降りてきなさいよ、ユウキ」
黒子が毎度のように、右手に付けた風紀委員の腕章を引っ張り得意のポーズを決めて登場したが、まさか暴漢に絡まれているのが美琴だとは思っておらず、ぽかーんとした顔をしている。
美琴の方は、やってきた黒子に目を向け、そのまま真上に視線を上げた。
「やっぱり気付いてたか。よっ、美琴、黒子」
そこにはさっきから事の顛末を傍観していた俺が、壁に足をつけて立っていた。
「ユウキさんも!? で、なんで壁に立っているんですの?」
「ん? レベル5のチビっ子をナンパしようなんて、バカなロリコンいるなーと思って、文字通り高みの見物。壁に立っていられるのはさっき、重力変化系の能力をコピーしたから」
「誰がチビっ子よ!」
今俺は幻想支配で、名もしらぬ通行人の能力をコピーしている。
この能力、壁だろうと天井だろうと足が付けばそこが自分にとっての地面になる能力だから、結構便利だ。
能力名はバンク見なきゃ分からないけど、別にいいや。
「いい加減慣れましたが、こう会う度に違う能力をお使いになっているのを見ると、能力者の常識を疑いますわ」
「能力は1人につき1種類、俺にそれは当てはまらない。ま、だからこそレベル0だけど、結構研究所とかに呼ばれたりするんだよな……それよりも、よっと」
能力を解除して、美琴と黒子の間に降り立つ。と、同時に美琴の脳天に割と本気のチョップをかました。
「っ~~!? い、いきなり何するのよ!」
「敬語を使え、ってまでは言わないが、年上の俺を初対面時からずっと呼び捨てだろうが、教育だ教育」
こいつの場合、砥信先輩相手でもこうだろうな。それはそれで面白いもの見られそうだ。
「それと、涙目の上目遣いはその手の輩には大好物だろうが、俺はもう1度見て携帯に保存してるから要らないぞ?」
「あ、あんたとアイツ以外にはちゃんと敬語使ってるわよ! って今なんて言ったの? 私の涙目画像持ってる!?」
「どーいう事ですの、ユウキさん! お姉様の涙目画像!? ジャ、ジャッジメントとして見過ごせませんわ、ささっ、早く見せてください!」
「それジャッジメント関係なく、お前が見たいだけだろ」
そう言いながら俺は、携帯を取り出しとある写真を見せた。
そこには確かに涙目で、少し怯えた表情の美琴が写っている。
「なっ、な、な……」
「お、おお、お姉様に一体何をしたんですの!? 場合によっては逮捕致しますわ!」
美琴はそれを見て口をパクパクさせて固まり、黒子は宝物を見つけた海賊のようなギラついた目になった。
足元に転がってるナンパ共ほっといていいのかよ、風紀委員さんよ。
「鼻息荒げて興奮するなよ黒子、お嬢様台無し。それにこれは美琴に勝負を挑まれた時に撮った写真。言っとくが、俺は美琴に怪我もさせてないし、触りもしなかったぞ?」
そう、それは数か月前の話。不良能力者数人にカツアゲされそうになり、面倒だから能力をコピーして撃退したら、運悪く美琴がそれを見ていて、勝負を挑まれた。
まぁ、手から炎やら水やら出している能力者見たら興味を持つのは、分かる気がするけどそれで勝負を挑もうとは。
レベル5唯一の常識人と言われても、やはり美琴もどっか壊れてるなー。
と適当に相手をする事になり、結果美琴の能力をコピーし、放電や磁力による攻撃やら悉く相殺し、とっておきの超電磁砲を放とうとした時、幻想支配で能力を封じ、動揺した所で殺気を出しながら殴ろうとしたら……さっきの表情になったと言うわけだ。
「なるほど……で、本当にそれから殴ってはいませんの?」
「俺が、こんなガキ相手にそんな事するわけないだろ」
仕事だったら殴る程度じゃ済ませないけど。
「先程お姉様の脳天にチョップしておきながら、どの口がおっしゃるのやら」
「あれは躾のなっていない世間知らずなお嬢様に先輩としての、教育だ」
黒子は胡散臭い通信販売員を見るような目で俺をみたが、深く溜息をつきながらも渋々分かったようだ。
「はぁ~……そう言えば、お姉様が能力を真似されたとか機嫌が悪かった日が2カ月程前にありましたけど、ユウキさんとその時に知り合ったのですね」
「そうそう、それ以来妙に美琴が俺に絡んできてさ。何度か勝負受けたけど、全戦全勝な」
本当はレベル5相手での幻想支配がどう通じるか、っていう個人的な実験の意味合いもあった。
軍覇や沈利、操祈とは何度かそういうのちゃんとした実験場でやったけど、美琴とはまだだったし。
おかげで、美琴の能力にも慣れて結構使いこなせるようになった。
「……はっ!? ちょっとあんた! 全戦全勝って私はまだ一発も食らってないんだから負けてないわよ」
「負け犬の顔~♪」
「はぐっ!? だ、だからその画像はいつのまに撮ったのよ! 消しなさいよ!」
子供じみた事言う美琴を、満面の笑みを浮かべさっきの画像をみせる事で沈黙させる。
「お前が勝負勝負としつこくしてこなきゃ、今すぐこの携帯から削除してもいいんだけど?」
「ぐぐぐっ、わ、分かったわよ。もうあんたに勝負は挑まない、これでいいでしょ!」
「契約成立♪ ほい、削除っと」
甘いな美琴。俺は 『この携帯から削除』 としか言ってないぞ? どっかのサーバーとかパソコンに保存しているものまで削除するとは言っていないぞ?
「ぁぁ~せめて、せめて削除する前に黒子の携帯に転送を~!」
「すんな!!」
……黒子に貸しとしてあげれば良かったかな?
「それより、いい加減こいつら片付けろよ、ジャッジメント」
未だに地面で痙攣しているバカ共を足でちょんちょんと小突く。
「あ、すっかり忘れていましたの」
こんなのが風紀委員って、大丈夫か学園都市。
そんな事があってからもう1カ月、街中で美琴と遭遇しても勝負ふっかけられなくなったので平和だ。
代わりに物凄く嫌な顔されるようになったけど、それくらい慣れっこだ。
『天敵、天敵よあんたは!!』
まぁ、レベル5と言うか、能力者にとって天敵みたいな物だから幻想支配は。
そう言えば、俺に勝負を挑まなくなった代わりなのか、当麻がしょっちゅう美琴に狙われているらしい。
あいつの右手にはあらゆる異能を無効化する 【幻想殺し】 があるからなぁ……それに本人の不幸体質と重なって、俺と美琴みたいな出会い方をしたようだ。
やっぱ、美琴ってバトルジャンキーだよな……レベル5で唯一のまともな常識人と評されているけど、俺と当麻は真っ向からその評価を否定したい。
そして、今日俺は学舎の園に来ている。
5つのお嬢様学校で構成されている学舎の園は、男子禁制。本来は例え警備員でも入れないが、俺は学舎の園の学長達からの招待状がある。
ここに来る事は実は意外と多い。やれ幻想支配の研究やら、表ざたに出来ない事件の解決やら……俺が【木原】だから、ってのもあるんだろうな。
正直、学舎の園からの依頼は断わりたいオーダーランキングの2位に入っているが、来ないわけには行かないか。
ちなみに第一位は勿論尼視のババアからの依頼関係だ。
「はい、木原勇騎さんですね。話はうかがっていますので、こちらで服を着替えてから入場して下さい。荷物は1つだけですか?」
「あぁ、これだけだ。ありがとう」
学舎の園の入場ゲートで、身分を明かし音声と指紋認証を終えて学舎の園内部で着る服に着替える。
いくら特別な許可証があるとはいえ、男性が入るのには色々厳しい制限がある。
音声と指紋認証による本人照合は勿論だが、学舎の園内部で着る服も決められている。
これは外部からの侵入者との判別を付けさせるためで、一目で許可を持って入っている男性と分かるようにするためだ。
「服はお預かりしますので、お帰りの際に返却いたします」
カバンを片手にいざ、学舎の園へ。
「相変わらずここは独特の空気だなぁ。まるで外国に来たみたいだ」
日本、と言うか学園都市から出た事は数回しかないけどな。
「あー……やっぱり目立ってるな、俺」
道行く女子学生達が俺を奇異な目で見ている。この服を着ているから通報される事はあまりないが、それでも警戒心丸出しだ。
「ここは文字通り箱入り娘の巣窟だもんなぁ。通報される前にとっとと早く仕事を終わらせるか」
今回の依頼内容は簡単に言えば、運び屋。
とある実験のデータ資料を学舎の園に持ち込む事。通信で送れるデータだけではなく、現物もあるから俺に頼んだらしい。
場所が場所だけに秘密裏に潜入して、っていう方法を取る所だけど、今回は無理。セキュリティー高すぎて割に合わない。
だからこうやって特別な処置をしてもらっているわけだが……
「俺は宅急便じゃないんだけどな。ってかなんで俺だよ」
男子禁制の場所なんだから、女性使えばいいのに。思いっきり目立ってるじゃないか。
知り合いに会わないといいな。変に誤解されそうだ。
「あ。ユウキさんじゃないですか! なんでここにいるんですか!?」
と、思ったら早速見つかった。でもこの声は、本来ここで聞くはずのない声だが?
後ろを振り返ると、そこには花輪を頭にどんと載せた少女、初春飾利。もう1人、こちらを興味津々に見ている髪の長い少女がいた。
2人共同じ制服と言う事は、この髪の長い少女は飾利のクラスメートか何かだろう。
「よぉ、飾利。俺はここには仕事だ、仕事。ちゃんと許可証もあるし、服もそれに着替えてるだろ? お前こそこんな所で何をしてるんだ?」
「私達は白井さんに招待されて、常盤台中学の見学です。佐天さん、この人が噂のユウキさんですよ」
「おぉ! この人が噂の♪」
どんな噂だ、どんな! どうせ碌でもない事だろうけど。
「初めまして、私は初春のクラスメートで佐天涙子って言います。ユウキさんの事は白井さんや御坂さんから色々聞いています! よろしくお願いしますね」
やけにフレンドリーに挨拶された。こういう子なんだろうな。
それより俺の事を何と聞いているのか気になるな。あいつらの事だから、ある事ない事吹き込んでそうだ。
「よろしくな、涙子」
「あ、あはは、はい、よろしく、お願いします」
ん? 何だ? この反応は? 照れているような苦笑い浮かべてるけど……あ。
「や、やっぱり話には聞いていましたけど、すごく恥かしいですね」
「悪い。つい癖で。ホントごめんな。名字で呼ぶ事にするよ」
初対面だろうが相手を名前で呼ぶ癖は、幼い頃から癖で直そうと思ってもなかなか直らない。
「いえいえ、ユウキさんは誰でも相手を名前で呼ぶのは、初春からよく聞いてたので、ユウキさんの呼びやすい呼び方で読んでください」
「そうか、お前良い子だな……黒子や美琴にも見習わせたいくらいだ」
「いえいえいえいえ! 私なんてあの2人に比べたら月とスッポンですよ。それに私、レベル0ですし」
さっきからいえいえばっか言ってるな涙子は。それにレベル0と自分で言った時に一瞬だけ彼女の表情が曇った。
自分でも無自覚な事だったのかもしれないけど、涙子は間違いなくレベル0と言う事に劣等感を抱いているな。
でも、それは涙子だけに限った事じゃない。半数以上が無能力者とは言え、学園都市は能力者の街。能力があってこその学園都市だ。なんて極論言う人は研究者にも学生にもいる。
そんなんだから、スキルアウトなんて集まりが出来るわけだし。
俺も一応レベル0だけど、だからといって俺がどうこう言っても何にもならないからな。深く突っ込まなきゃいいだけの話だ。
「あいつらが月、ねぇ……自販機を蹴り倒したり、強い能力者相手に所構わず戦闘しかけたり、少女趣味全開のレベル5どころか1000くらいのバトルジャンキーと、能力を最大限使って街中だろうが人ごみだろうがストーキングやセクハラしまくる変態痴女。レベル0の俺から見れば、高位能力者になっても、ああはなりたくない。っていう良い反面教師だな」
「ユ、ユウキさん、少し言い過ぎじゃぁ、全く否定出来ませんけど」
「流石はあの2人が揃って天敵だ! って断言するだけの事はあるなぁ」
涙子にまで天敵と言ってたのかあいつら……
そして飾利は、さり気なくヒドイ事言ってるし。
「おっと、もうこんな時間だ。待ち合わせに遅れる。じゃあな2人共、美琴と黒子にくれぐれもよろしく、と伝えておいてくれ……笑顔で言っていた。とそう言ってくれれば尚よし」
「あ、あはは~そう伝えておきますね。また支部に遊びに来てくださいねー」
「ユウキさん、お仕事がんばって下さい!」
「おう、ありがとな」
笑顔で手を振る2人と別れ、俺は待ち合わせの場所へと急いだ。
その時だった。ふと路地に歩いて行くお団子頭の女の子の後ろ姿が目に止まった。
顔の表情は分からなかったけど、あの子が手にしているのは、スタンガンに見えたのは気のせい、か?
つづく
学舎の園への入場の仕方はオリジナルです、独自設定です。
当麻やインデックスの出番はもう少し先かなぁ。