でも、まずは幻想御手事件が優先されます。
7月20日
「……なんか、ダルっ。少し頭も痛いか?」
寝起き一番で体全体が妙にダルい。風邪をひいたわけではなさそうだけど、これは精神的ストレスか?
せっかく幻想御手の有力な情報を手に入れたと思えば、全くのスカ大ハズレの残念賞。
おまけに美琴がバカしたせいで広範囲で大停電と来た。
俺の住んでるマンションには被害はなかったが、いくつかセーフハウスが停電の影響を受けたかもしれない。
後で、見周りに行かないと……その前に例の爆弾魔に会いに行くか。
そう思ったが、警備員の詰め所に確認した所、予想外の返答が返ってきた。
「介旅初矢が……急に倒れた?」
爆弾魔・介旅初矢が警備員の取り調べ中に急に倒れ、病院に緊急搬送されたらしい。
捕まえる時に強くやり過ぎたか? と一瞬思ったが、力加減は間違えてないし、俺が原因ならもっと早くに倒れるはず。
「となると、考えられるのは幻想御手の後遺症?」
と、こんな所で考えてても始まらない。急いで家を出て、病院へと向かった。
倦怠感は大分抜けてきた。もしまた変になったら病院で診てもらうか。
病院に着くと、そこには美琴と黒子がいて、医者から説明を受ける所だった。
「美琴、黒子。お前らも来てたのか」
「っ、なんでまたあんたに会うわけよ」
「ユウキさん、昨日はよくも私に支払いを押しつけ……って、今はそんな場合じゃありませんわね。あなたも介旅初矢の件で?」
「あぁ、それで介旅初矢の容体は?」
「突然意識不明となって、最善は尽くしていますが戻る気配はありません」
医者の話を聞き、美琴と黒子が意味深な視線を俺に向けてきた。
「まさか……あんたがこの前やりすぎたせいじゃ?」
「俺は誰かさんと違って力加減を間違えたりはしないぞ?」
「へぇ~、誰かさんって誰の事かしらぁ?」
「さぁーなー、誰かさんは誰かさんだ。それにしても暑いなぁ、ここ冷房効いてないのか? あ、そっかー昨日の停電騒ぎの影響かー」
わざとらしくそう言うと美琴はぐむむと唸りそうな顔で睨みつけてきたが、まさか自分のせいとは言えず黙っている。
「ぐむむむっ……」
と思えば、本当に口に出して唸ってた。
「お、お二人ともこんな時まで何をしていらっしゃるんですの。それで、外傷や脳に異常はありませんでしたか?」
「いえ、頭部どころか身体的な異常は全く見受けられません。それと……」
医者は手に持ったファイルを開き、俺達に見せてくれた。そこには患者リストとして数人の能力者が載っていた。
その中には以前学びの園で常盤台襲撃事件を起こした、重福省帆もいた。
「最近原因不明の昏睡患者が増えているんです。他の病院でも次々運ばれてくるようになりました。それも全員原因不明で」
「ウイルスや細菌、精神操作系の可能性は?」
「その点も含めて精密検査は何度も行いましたが、何も検出されず可能性は低いかと」
外傷はなく、身体的異常もなし、ウイルスでも能力操作でもない……なら、残る可能性は。
「それでも彼らには共通の何かがきっとあるはずです。それが分かれば……」
黒子の言葉を聞き、俺はPDAを取り出し2人に見えないように操作をした。
警備員、風紀委員のデータベース、更に学園都市の総合データベース 【書庫(バンク)】 にもアクセスする。
本来ならば一部の人間しか入れないデータベースばかりなので、黒子達には気付かれないように操作した。
その結果、分かった事がいくつかあった。
「少なくともこの病院に収容されている患者達は、幻想御手使用の疑いがあるな」
「どうしてそう言いきれるのよ?」
美琴に聞かれ、医者の持っているリストを指さしながら説明する。
「昏睡の患者、介旅初矢や重福省帆をはじめとした彼らは、みんな様々ないざこざや事件を起こしている。で、その全てが登録されているレベルでは起こり得ない事件になっているんだ。今言った2人も事件の時はレベル2程度の能力じゃなかったろ?」
「確かにその2人は、レベル2や3程度の能力ではなかったですわね」
「じゃあ、幻想御手を使用すれば全員こうなっちゃうってわけ?」
「それに関しては、確定とは言えないけど、可能性は高いな」
そこへ看護師は1人やってきて、医者と何かを話ししていった。
「情けない話ですが、当院のスタッフや設備ではこれ以上は限界なので、外部から大脳生理学の専門チームを招き入れる事にしました。そのチームが他の病院を見てからこちらに来る事になっています」
やはり、脳に何かあったと考えるのが普通だよな。大脳生理学の専門、冥土返しは別の病院で離れられないだろうし、他にもいくつか有名所は知っているけど、誰が来るかな。
何にしてもまだ来ないんじゃ、ここで待ってても始まらないか。それに下手に俺が木原と知れば、良い顔しないかもしれないし、美琴と黒子に任せるか。
「俺はもうここに用はないし、任せた2人共」
「あら、意外ですわね」
「あんたも話聞くつもりじゃなかったの?」
「ここに来たのは介旅初矢の容体を聞きに来ただけだ。幻想御手に関しての事は後でお前らに聞くさ。それに、昨日の停電の後始末、しないといけないしな」
後半をわざとらしく強調して言うと、美琴はそれ以上何も言えずバツの悪い顔になり、黒子は額に手をあて深く溜息をついた。
病院を後にした俺は、バイクを駆り第7学区にあるセーフハウスの見周りをした。
セーフハウスは武器や爆薬などを揃えた武器庫や、スーパーコンピューターなど情報操作に向いたタイプなど様々ある。
その全てに水と食料、非常電源もあるがどれも正常に機能していたのが幸いだった。
公園で一休みして、時計を見るともう1時を回っていた。
「結局昼過ぎまでかかったな。そう言えば、朝飯食べてなかった」
道理でお腹がすくはずだ。何を食べようかとベンチから立ち上がり、去ろうとすると視界の隅にふと白い何かが移った。
「何だあれ、布? ゴミか?」
それは大きい白い布の塊のようなものだった。ゴミならすぐに清掃ロボが片付けるだろうと思っていると、その布がごそごそと動き出した。
布の下からは銀色と水色が混ざったような明らかに髪の毛でだと思われるものが見えた。
「ひょっとして……人か?」
面倒事の予感がしたが、好奇心と暇つぶしも兼ねてその物体に近付き、指で軽くつついてみる。
「……ぅ~」
まるで壊れた人形のようなか細い声が聞こえてきた。とりあえずは生きているようだ。
「なんだ、生きてるのか? こんな所で寝てると、俺みたいな悪者か掃除ロボに拉致されるぞー」
「……ぉ」
「お?」
「おなかへった……」
そう声を絞りながら白い人物は僅かに顔をあげた。
顔や声でこの物体は少女と分かり、学園都市に似つかわしくない服装をしている事から外部の人間と判断。
「侵入者か? そうとは思えないけど、ま、どうでもいいか」
放置するのが一番だが、どうにも餓死寸前の様子の子を放っておくほうが後で面倒そうだ。
念の為幻想支配で視てみるかと思ったが、何か変な感じがしたので止めた。
外部の人間を視てもどうしようもない事が多いしな。
仕方なく少女を抱きかかえ、近くに見えるバイキングレストランに向かった。
何となく……本当に何となく勘で普通のファミレスよりこういう方が良いと言う予感がした。
「今回ほど俺の勘に感謝した事はないかもな」
「ん? どうしたの?」
目の前の少女がテーブルに満載した料理の山を一気に平らげて行くのをみて、つくづく自分の勘の鋭さに感謝する。
食べ放題のバイキングでこうなのだ。ただのファミレスだったら、恐らくメニューに乗っている料理全部食べきってしまう事だっただろう。
こんなチビっ子のどこにあれだけの料理が詰め込まれているのか、尼視が知ったら解剖したがるだろうな。
「んぐんぐっ、ふぅー……たくさんごちそうしてくれて、ありがとうね」
「満足してくれたようでなによりだ。んで、お前は一体どこの誰だ? 学園都市の人間じゃないだろ?」
「うん、私の名前はインデックスって言うんだよ。あなたの名前は?」
「俺の名はユウキだ。変わった名前だな、日本人には見えないからそういう名前もいるか」
外国人にも数人あった事はあるけど、学園都市から出た事があまりない俺には外国人は新鮮だ。
歳は美琴とあまり変わらなさそうだな。見た目はぱっと見可愛い部類には入るか、その道の人間が見たらお持ちかえりしたくなりそうな人形のような少女だ。
「本当はもっと長い名前があるんだけど、インデックスが一番わかりやすいと思うから」
「なるほど、で、インデックス。次の質問、お前あんな所で何してたんだ? 今更だけど、お前シスターだよな?」
本物の修道女は見た事ないし、教会とは無縁なのではっきりとは断言できないが、こういう格好の人をテレビや本で見た事はある。
「そうだよ。私はイギリス清教のシスターだよ。何をしていたのかって聞かれると……朝、魔術結社から逃げるの失敗してとうまの部屋のベランダに引っ掛かってそれで……っ!?」
そこまで言ってインデックスは何かを思い出したのか、顔を真っ赤にして自分の服をギュッと抱きしめるように掴んだ。
いや、そんな事よりも気になる単語がいくつか出てきたぞ?
「俺の聞き間違いでなければ……魔術結社? それにとうま? 前者はともかく後者はとんでもなく聞き覚えあるんだが、まさか上条当麻と言うウニヘッドの事か?」
「えっ、とうまを知ってるの!? あなたとうまのお友達なの!?」
あっ、やっぱりか。話は大体わかった。経緯は知らないけど、当麻が助けた女の子その百、いや千か? ともかく当麻が助けた女の子の1人って事か。
あの天然フラグメーカーめ。
「友達、と言うかクラスメートだな。で、あいつのベランダに引っ掛かったって、インデックスは跳躍強化とかそういう類の能力者か?」
「能力者? 違うよ。私は確かに魔術側の人間だけど、魔術も能力も使えないよ?」
また出た聞き慣れない単語、魔術。
「そのさっきも出てきた魔術とか魔術結社って何だ?」
それを聞くと、インデックスはしまった、と小声で言って何やらすごく困ったと言う顔をした。
「あー言いたくないなら別に言わなくていいぞ? 魔術ってのは察するに学園都市の外の力とかそういう類と自己完結しておくから」
「うん、物凄く簡潔にあなたに分かりやすく言うならその通りかも。でも、あなたは魔術って聞いて信じるの?」
「ん? 別にお前が嘘ついてるようには見えないし。学園都市の外の事はよく知らないからな。そういうものだってあるかも、とは昔から少し思ってた」
学園都市が世界の全てではない。なら、能力者以外の何かだって存在してもおかしくない。
尼視が昔そう言っていたのを思い出した。
「ゆうきってとうまのお友達なのに、理解力がすごいあるんだね!」
なぜか褒められた。当麻はどうやら魔術やらを胡散臭い何かと思い、インデックスの言葉を信じていなかったみたいだな。
だからさっき俺に魔術や魔術結社の事言うの躊躇ったのか。
「ここは科学の街で、非現実的なオカルトは否定されるのが当たり前と聞いてたから、何だかすごく嬉しいかも」
「あーそれはあるな。一応俺も科学者でもあるから心霊とか妖怪とかは、否定するべき側なんだろうけど、なんか否定出来ないんだよな。あるかもしれない程度の認識ってやつ?」
昔からこうだ。有り得ない事は有り得ない。テレビゲームで死者が蘇ったり、巨大な鬼とかが現れるなんて非現実的でも、有り得ないと笑う事が出来なかった。
ガキらしい。と数多や他の木原共は笑ったけどな。
「へぇ、なんだか夢見る子供みたいだね、ゆうきって」
「ぶふっ!?」
あまりの場違いな評価に、思わず飲んでいたコーラを吹きだしかけてしまった。
「ひ、否定はしないけど物凄くストレートに言ってきたな」
「気にしてたならごめんね? でも、ゆうきって面白い人だね。それじゃあ私はそろそろ行かなくちゃ、御飯本当にありがとう」
「もう行くのか? ってさっき追われてると言ってただろ。警備員に保護してもらうとか必要なんじゃないか? そういうのよくわからないなら俺が手配するけど?」
その言葉にインデックスが僅かに驚いていたが、言った俺も驚いた。
俺はなんで、初対面の外部の人間にここまでするんだ?
「ううん、その気持ちだけ受け取っておくよ。大丈夫、私だってただ逃げてるだけじゃないし、行くあてもそれなりにあるからね」
「ならそこまで送ろうか? 乗りかかった船だし」
ホント、なんでここまで世話焼く必要あるんだ?
俺はロリコンじゃないし、なんだ? インデックスを見て少し懐かしい、って気持ちが心の中で沸いたからか?
「ふふっ、ゆうきはとうまみたいに優しいね。ありがとう」
インデックスはやんわりと拒否した。それは好意を受け取らないのではなく、これ以上受け取るわけにはいかないという気持ちが籠っていた。
それにしても、俺が当麻みたいに優しいと言うのは間違いだろと否定したいな。
「分かった。ならここで別れよう。あ、そうだ。最後に1つだけ聞いていいか?」
「何かな? 私で答えれる事ならなんでもこたえるよ?」
それはこのバイキングレストランに入って、インデックスの全身を改めて見てからずっと疑問に思っていた事。
「イギリス清教ってのは、そんな安全ピンだらけの修道服を着るものなのか? ひょっとして、お金なくて貧乏? もし、そうなら変な事言ってごめん」
「……それについてはこたえたくないんだよ」
ふっと全身に陰が入ったかのような、ものすごく暗い雰囲気をかもしだしたインデックスに俺はそれ以上何も聞けなかった。
きっとあの針のむしろのような修道服の事は、インデックスにとっては思い出したくない出来事の産物なのだろう。
「分かった。これ以上はもう聞かない」
「うん、それじゃあ今度こそ行くね。ありがとう。ばいばい」
それはもう会う事はない。会ってはいけない。と暗に言っているような別れの挨拶だった。
「インデックス、か……魔術とか魔術結社の事もっと聞きたかったけど、仕方ないか」
幻想御手の事が片付いたら、調べてみるのもいいかもしれない。
そう思いながら、俺は会計をすませてバイキングレストランを後にした。
だけど、これが俺の運命を変える大きな出来事の発端になろうとは、その時は思っていなかった。
つづく
インデックスは当麻のヒロインなので、ユウキのヒロインにはなりません。
フラグは立つけど、恋愛フラグじゃありません。