アイテムと別れて午後からどうしようかと公園で考えていた時、久しぶりに芹亜先輩から連絡が入った。
「久々ですね、先輩。で、今日はどういった事で?」
『あぁ、久しぶりに君に仕事の依頼だよ。能力者を誘拐して外部に引き渡す事を企む連中がいる。すでに誘拐は実行されていて、6人ほどやられているんだ。まぁ、全員レベル1,2程度だから誘拐できたのだろうけど』
能力者の誘拐、それを聞いて木原の誰かの仕業かと思ったが、違うようだ。
『犯人は外部と接触して引き渡すつもりらしい。で、現場に一番近い君達に依頼したいんだよ』
「君、達?」
『そう。外部からの支援者と誘拐実行グループはアイテムを使うのだけど、君は誘拐された6人の救出をお願いしたい』
「あー、あいつらじゃ救出なんてデリケートな事無理でしょうね」
破壊と殺戮をもって粛清するのがアイテム。これは彼女達向きじゃないな。
ま、それは俺にも言える事だけど。
『これからデータを送る。外部の回収は夜行われるが、それまで誘拐された者たちはそれぞれバラバラに監禁されているようだ。しかし、君なら問題はないだろう。結構分散されて監禁されているなら移動が面倒そうだけど』
「了解。根こそぎ排除でやりますよ」
『で、だ。今回の報酬だがいつも通りの金銭でもいいけど。私の妹の御奉仕でどうだ? もちろん、色々な意味でだ』
「ブゥー!?」
思わず飲んでいたソーダを吹き出してしまった。
「おまっ、じ、自分の妹に何をさせる気ですか!?」
『いや、最近経験値がたまらないとか言っていたからな。これも良い経験になると思ったのだ』
「謹んでお断りします……鞠亜によろしく伝えてください、それじゃ」
これ以上話を続けていると何かトンでもない事に巻き込まれそうなので、急いで電話を切った。
するとすぐに仕事に関するデータが送られてきた。
「さてと、久々にアイテムとの仕事が入ったわけだけど、沈利の奴今頃文句タラタラだろうな」
今回は、直接は俺が絡んでいるわけじゃないけどな。
一仕事終えた頃にはすっかり夜となってしまった。
居場所は掴んだけど、それぞれ監禁場所の距離が離れ過ぎていた為、誰かを助けると別の学生が危険にさらされる可能性が高かった。
なので、誘拐された人達が外部に引き渡す為に一か所に集められた直後を襲い、纏めて救出した。
俺が救出した直後に、沈利達が犯人達を全員始末した。
その時、彼女達の仕事ぶりを遠目で見たけれど、やはりアイテムは暗部の中でもチームワークが格別だな。
「あーなんだかんだでこんな時間か、晩飯どうするかな」
などと考えながら俺は人気のない道路を走りながら、帰路へと付いていた。
この辺りは工業地帯のハズレで、昼間でも滅多に人がいない。
なのに、俺は急に違和感を覚え、バイクを停めた。
「なんだ、この感覚? 学びの園やセブンミストで感じたような……嫌な感じだ」
ヘルメットを脱ぎ辺りの空気を吸い込んでみると、やはり何かが違っていた。
目に見える範囲で異変はないはずなのに、妙に胸がざわめく。
――ドンッ!
その時、確かに爆発音が聞こえた。
「あっちか!」
音がした方へと急いで向かった。
爆発音と共に銃声までも聞こえ始めてきたので、バイクを駆動音がしないサイレント走行へと切り替えた。
そして、何かが起こっているであろう場所へとたどり着き、バイクを降りてゆっくりと近づいていた。
さっきまで聞こえていた爆発音も銃声も聞こえなくなり、代わりに誰かが騒いでいる声が聞こえた。
「ギャハハハッ、おいおいなんだァ? まだ始まって20分も経ってねぇゾ?」
気配を殺して更に近付き、コンテナの影から声の主を見ようと顔を出して、目を見開いた。
「とっとと立ち上がらねェと、これでゲームオーバーだァ。さァ、コンテニューする気はあるかァ?」
とがったナイフのような鋭い口調で話す声の主は、真っ白い髪と細長い手足をした俺と変わらない年頃の少年だった。
しかし、俺が驚いたのはその少年にではない。
アイツが声をかけている相手、少し離れた場所でボロ雑巾のように血まみれで倒れている少女を見て驚いた。
その少女は常盤台の制服を着て、昨日共にテレスティーナと戦った超能力者、御坂美琴だった。
だが、何かがおかしい。
顔も身体付きも美琴だったが、何かが変だ。
よく見ると、美琴らしき少女の側にはゴーグルのようなものが砕けて落ちていた。
「はァ~、つまんねェ。もうちょっとで1〇〇〇〇の大台にいくってのに、全く進歩がみられねェ。お前らちゃんと学習してンのかァ? とっとと終わらせてコーヒーでも飲ンでた方がまだ有意義だなァ」
少年は心底失望したような顔をしながら、ゆっくりと美琴らしき少女へと歩いて行く。
恐らく、トドメを刺すつもりだろう。
その時、俺はその少年の正体に気付いた。
一方通行、学園都市レベル5の頂点に君臨する最強の能力者。
本名は知らないし、アイツの専属である数多も名前ではなく能力名で呼んでいた。
なんでアイツがこんな所で美琴……らしき少女を殺そうとしているのかは分からない。
何かの実験なのか、それとも個人的な喧嘩なのか。
ただ今分かるのは、確実に少女は一方通行に殺されようとしている事だ。
俺は自然と、懐から拳銃を取り出し一方通行の足元目がけて撃った。
――バキュン
「……ンァ? なンだァ?」
一方通行に銃撃は効かない事は分かっていた。
アイツはこの世のあらゆるベクトルを操作出来る能力。
銃弾だろうがミサイルだろうが、アイツに反射されて自分がやられるだけだ。
だから、足元を撃って動きを止め意識をこっちに向けた。
「おいおい、なンだ乱入かァ? 聞いてねェぞ。誰だ、てめェは?」
訝しげな表情を浮かべる一方通行を無視して、美琴に似た少女に駆け寄る。
「おい、大丈夫か?」
幸い骨を折っているようではないが、出血がヒドイ。
「あ、あなたは誰ですか? とミサカは突然現れたあなたに驚きと戸惑いを隠さず尋ねます」
意識ははっきりとあるようで、虚ろな目で俺を見てきた。
焦点の合わないその目を見て俺は確信した。
この少女は、御坂美琴のクローンだと。
そして、俺はとある単語が頭に浮かんだ。
「……量産型能力者計画」
「あなたは実験の関係者なのですか? とミサカは重ねてあなたに尋ねます」
レベル5の能力者のクローンを作る計画は知っていた。
だけど、それは実行前に失敗作として中止になったはずだ。
尼視曰く、とてもお粗末な計画で三流科学者の考えそうな内容だったそうだ。
「お前、御坂美琴のクローンなのか?」
「はい……ミサカは検体番号9939号です。とミサカは未だ事態を把握できずに答えます」
無機質な声、デパートなどの機械音声の方がまだ感情が籠っている。
「待て、9939? それに、実験……10000の大台、まさか……」
今までの情報を整理すると、最悪の結果が瞬時に浮かんだ。
今行われているのは実験で、美琴のクローンは最低でも9939人作られ、その全てが一方通行に殺されている、と言う事。
「一方通行……お前、まさか」
「正解、正解、だいせいかァ~い! ンで、人をご機嫌に無視してくれたキミは一体どこの三下だァ?」
「………」
無言でゆっくりと一方通行に向き直る。
頭が一瞬にして怒りであふれかえった。
火織にやられた当麻を見た時の、涙子の涙を見た時もこんな気持ちになった。
それでも、すぐに怒りを鎮める。
相手は今までとは違う。ある意味で火織よりもバケモノな学園都市最強の能力者、一方通行だ。
頭に血がのぼったままじゃすぐにやられる。
「あン? なンだその面は? まさかとは思うが……オマエ、そいつを守ろうとしてるのかァ?」
今の俺がどんな顔しているか分からない、頭から血を引かせたつもりでも心底ムカついているのは確かだ。
「あぁ、悪いか?」
「ぎゃは、ギャハハハハハッ! どこの物好きだァ!? だが、いいねェ~最近マンネリで退屈してたンだァ。そういうサプライズは大歓迎だぜェ!」
次の瞬間、目の前に一方通行のニヤケ面があった。
けど、俺は何にも驚かない。
一方通行のデータは既に何度も見ている。アイツの能力で出来る事は分かっているつもりだ。
今のもただベクトルを操作して、ものすごい速さで飛んできただけだ。
「まァ、せいぜいがんばってくれや。白馬に乗ったヒーローさンよォ!」
一方通行の右手が伸びてくる。
あれに捕まったら、いや、触れるのもダメだ。
とっさに身をかがめ、地面を転がるようにその場から離れた。
「いい反応だァ、ちっとは楽しめそうだなァ。けど……いいのかァ? 大事なお姫様を放っておいてよォ?」
一方通行の足元には、動かない9939のミサカがいる。
「ちっ、やっぱそっちを狙うか!」
一方通行が足を振り上げ、9939の頭を踏みつぶそうとしている。
出来るかどうかわからないけど、幻想支配を使うしかない!
今までにレベル5の能力者相手に幻想支配を使った事はある。
だけど、一方通行とどこにいるか分からない第六位には使った事がないし、軍覇相手にはなぜか使えなかった。
他の美琴や沈利、操祈や帝督相手に使った時は、長時間持たなかったし頭痛も酷かった。
今回初めて一方通行に使うが、恐らく長くは持たない。
だからと言って、躊躇う事は一切ない!
「……あン? てめェ、今何をした? なンだその青い目は? てめェ、能力者か? しかも、今使ったのは俺の能力だと?」
「あなたは何をしているのですか? とミサカは今何が起きたのか分からず困惑しながら尋ねます」
俺が何をしたかと言えば、幻想支配で一方通行の能力を使い、踏みつぶされる寸前の9939を抱きかかえ救った。
まぁ、その際お姫様だっこという形になったけど。
「美琴……いや、9939、あぁ、もうメンドクサイ! 美琴っぽいの、ちょっとここにいろ」
「えっ、あなたはだから何を? それより、っぽいのとは何ですか? とミサカは混乱しながら尋ねます!」
離れた場所に美琴っぽいのを置き、改めて一方通行の前に立つ。
一方通行はさっきまでの余裕の笑みを消して、心底不機嫌そうな顔をした。
「てめェ、一体何者だァ? 人の能力をパクる能力者なんて聞いた事も……いや、待てよ。まさか……てめェは!」
「俺の名前は、木原勇騎……一応初対面だが、俺の事は知っているのか、一方通行?」
「グフッ、アギャ、アヒャヒャヒャ! 他人の能力を操る変わり者の木原がいるとは聞いた事あったが、実際にいるとは思わなかったなァ」
「変わり者ねぇ。いい加減耳にタコが出来るくらい言われてるっての」
ホント、これで何十人目だ。
「俺も認めてやるよ。確かにてめェみたいな木原は見た事ねェよ。ヒロインのピンチに颯爽と駆けつけるって、どこのヒーロー様だァ?」
「ヒーローヒーローうるさい奴だなぁ。そんな単語は小学生で卒業しとけよ中二病モヤシ」
「……いいぜェ、てめェが何もンだろうが、ブっ殺す事には変わらねェ!」
中二病と言われた事か、それともモヤシと言われた事が頭にきたのか、怒り狂った表情の一方通行が足元の地面を大きく蹴った。
蹴られた地面はベクトル操作により大きな穴があき、石や土がマシンガンのように襲いかかってきた。
「流石は小学生、石蹴りが好きなようだな。もうちっと大人な攻撃しろよ」
俺もベクトルを操って空中に飛び上がり攻撃をかわすと、すぐに両手を大きく振った。
両手の動きに合わせて空気のベクトルを操作して、空気弾を作り一方通行へ投げ飛ばす。
「キャハッ! 流石は俺の能力を使ってるだけあるなァ! けどよォ、本家である俺に勝てると思ってんのかパクリ野郎!」
空気弾は一方通行の手前で霧散された。
同じ能力での攻撃は同じ能力で無効化される。
「次は俺のターンだァ、一方通行ってのはァ、これくらいは当たり前なンだぜ?」
一方通行が右手を軽く上へと振う。
それを見て、アイツが何をしたか予測し、急いでその場を離れた。
次の瞬間、一方通行の周りに巨大な竜巻が発生した。
「あぁ、てめぇの能力ぐらいお見通しだっての!」
こちらも竜巻を作り、一方通行にぶつける。
それだけで辺りは静寂へと戻った。
「チッ、本当に俺と同じ能力が使えるみたいだなァ。だが……だからと言って、てめェが俺に勝てるわけでもねェなァ」
「ハァ、ハァ……っ、このままじゃラチがあかないな」
初めて一方通行を視たせいで、頭痛がしてきた。それにもう使える残り時間が少ないはず。
レベル5で一番初めに能力を視た相手は、操祈だった。あの時みたく2、3分で倒れないだけマシか。
この分だと能力停止も使えそうにない。
どうやって一方通行を倒す? ……いや、一方通行を倒しからって何になる?
実験が中止になる? あの美琴っぽいのが助かる? そもそも、俺は助けたいのか? なぜ一方通行を倒そうとした? 何のために?
疑問はわき出てくるが、今はそれを無理やりにでも押しこめる。
今考える事はただ一つ、一方通行を倒す事。殺す事は多分無理。そこまで余裕はない。
「ン? お前、息が上がってるぞォ? ハハァ、さては能力に限界があるようだなァ。そりゃそーだ、何のデメリットもナシで他人の能力使えるわけねェーもンなァ!」
まずい、すぐに弱点に気付かれた。
まぁ、能力だけじゃなく演算能力も学園都市トップクラスなんだから、それくらいすぐに気付くか。
帝督にも見破られたしな。
けど、どうする?
「……互いに反射がある以上、真っ向勝負じゃ無理。次で決めるくらいでないと……」
ベクトル同士がぶつかっても、相打ちがせいぜいだろうな。
ん? ベクトル、反射……待てよ?
実際に能力を使ってみて分かったけど、一方通行の反射は自身に向かってくるベクトルの向きを自動的に逆転させている。
ベクトルの向きを変えられる境界線でこっちが先に向きを逆転させれば、反射は無効化されるはず。
要は一方通行の目の前で寸止めをすれば良い話。
言葉にすれば簡単だけど、それを実際に実行できるかは別の話だ。
だけど、今の俺は一方通行と同じ能力、同じベクトル操作、同じ反射が使える。
俺は、一方通行に勝てる。そう確信した。
「どうしたァ? そのまま突っ立ってても、時間切れになるだけだぞォ?」
「だったらお前から攻めて来ればいいだろ? それともお前実は攻めるより攻められるのが好きな、真性のドM変態だったのか?」
「クカカカッ、いいねェ、三下らしい安っぽい挑発だァ、受けてやンよォ!」
そう叫びながら一方通行は俺に向かって突進してきた。
それに合わせるように、俺も突進する。
真っ向からの激突なら、ベクトル操作もしやすい。
これで、決める!
「うおぉりゃぁ~!」
俺と一方通行、同じ能力を持った2人が同じ速度で今……
続く
オリジナル御坂妹登場!
今回の舞台は8月10日なのでこれくらいの検体番号かなーと思いました。
実験って何月何日から始まったんでしょうね?