幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

69 / 160
えー、題名にあるミクは某ボーカロイドとは一切関係ありません<(_ _)>


第68話 「ミク」

美琴に似た妹達の1人、9939号は個人サロンの一角でメニューを凝視していた。

 

「ふむふむ、チョコミントアイスの程良い甘さを堪能できたので、次は王道のバニラかイチゴミルクか迷います。とミサカは真剣に悩みます」

 

色々な料理を目の前にして、あえてデザートを先に食べる9939号。

 

「……なんだこの状況」

 

実験の関連施設に潜り込もうとした矢先、昨日出会った妹達の1人がやってきた。

何の用か尋ねようとしたら、唐突に彼女の腹がなった。

仕方なく先に朝食を食べる事にしたが、包帯だらけとはいえ美琴のクローンである彼女がファミレスなど目立つ場所に行くのは色々と危ない。

いや、包帯だらけだからこそ逆に目立っているけれど。

なので個室サロンを借りて、食事はそこで頼む事にした。

勿論、念の為監視カメラやその他の類はない事は確認済みだ。

 

「この料理の多さ、食べ盛りの男子と言う事なのでしょうね。とミサカは推察します」

「食べ盛りと言うか、昨日の昼から何も食ってないんだよ。いいからアイスばっかじゃなくてお前も食べろよ」

 

特に好き嫌いはないそうなので、色々頼んでみたが彼女はなぜかデザートばかり食べている。

こういう所はやはり女の子……なのか?

 

「ふぅ~おそまつさまでした。とミサカは手を合わせて言います」

 

あれだけあった料理は見事に空となった。俺も結構食べたけど、9939も意外と食べるんだな。

 

「言葉を微妙に間違えてるけど、お前ホントに学習装置で色々学んだのか?」

「はい、それは勿論。例えば、若い男女2人が1つの部屋にいれば起こり得る事なども……いたっ!? な、なんでミサカは叩かれたのですか? とミサカは涙目で訴えます」

「やかましい! せめてホントに涙目になって言え、真顔うで言うな! 誰だ、お前にそんな情報埋め込んだ奴は!」

 

妹達はクローンで生まれた時から美琴と同じ体格とは言え、当然知能や人格は0歳児だ。

1からじっくりと教え込む時間もないので、学習装置で基本的な知識などを埋め込んで行っている

どんな知識が埋め込まれているかは知らないけど、碌なものはなさそうだ。

そう言えば……

 

『それに学習装置は今別件で忙しいからな』

 

幻想御手事件の時、尼視は確かにそう言っていた。

あのババァ……まぁ、それを今言っても仕方ないか。

 

「さて、ではこれで失礼します。とミサカは頭を下げます」

「待て」

 

お腹一杯になって満足した彼女はペコリと頭を下げ個室を出ようとしたので、慌てて手を取った。

 

「? なんでしょうか? やはり、デザートにお前を食べる。と言われてしまうのでしょうか、とミサカは頬を赤らめます」

 

言葉と裏腹に彼女は相変わらず無表情で言葉も淡々としている。

 

「だから真顔で言うな! ってかそんな事吹き込んだ奴マジで誰だ!? そうじゃなくて、お前はなんで俺に会いに来たんだ!」

「おぉ、そうでした。大事な事を聞く為にあなたを探していたのでした。とミサカはピコーンと古典的な表現をします」

 

何だか思いっきり疲れた。本当に美琴のクローンなのかと疑いたくなる。

 

「んで、なんで俺に会おうとしたんだ? まぁ、どうやって俺の居場所を掴んだのかは大体想像できるけど。それに昨日の怪我の治療はいいのかよ?」

「怪我でしたら、特に大した事はありません。この包帯も変装の一環です。とミサカは余分な包帯を解きながら答えます」

 

どうやら出血の割には大した怪我ではなかったようで、頭と腕の一部以外の包帯を解くと確かにそこは怪我はしていないようだ。

なんでミイラ女に変装したのかとかはともかく、思っていたよりは重傷ではなかったか。

 

「実験は延期のままか?」

「はい。実験の再開は連絡待ちです。とミサカは答えます」

 

何にせよ、すぐに彼女が殺されないと分かっただけでも良かった。

そう安堵すると彼女は真顔のまま少し首をかしげた。

 

「あなたは、どうしてそこまでミサカの事を気にかけるのですか? とミサカは昨日から抱いていた疑問をなげかけます」

「どうしてって? 別に理由はないぞ?」

「ミサカは実験を行う為だけに生み出されたクローンです。18万円と言う金額とボタン1つで簡単に作られる紛い物です。なのに、なぜあなたはまるでミサカを普通の人間として扱ってくれます。なぜですか? とミサカは問います」

「……人間、ねぇ」

「さらに付けくわえるのなら、あなたは立場上一般人なのではなく、実験を 『行う側』 なのではないのですか? とミサカは再度問います」

 

9939号はそこまで俺の事調べたのか、それとも誰かが教えたのか。

 

「確かに俺は実験を行う側だろうな、木原だし。でも、今回は加われとは言われてない。なら好き勝手にやらしてもらうさ」

 

病理が出てきた以上、俺が妨害すると碌でもない事になりそうだけどな。

ただし、それが直接的な妨害か間接的な妨害かにもよる。

 

「言っている事はよく分かりませんが、とにかくあなたは不良少年と言う奴なのですね? とミサカは尋ねます」

「どこをどう受け取ればそんな答えになるのか分からないけど、間違っているとは言えないな」

「ではでは、あなたは偽善者という奴なのですか? とミサカは更に尋ねます」

 

ホント、学習装置で碌な知識与えられてないな……それとも尼視辺りの入れ知恵か?

 

「偽善、それは違う。そもそも根本から間違っている。俺は自分を善と思った事はないし、善になろうとも思ってない。自分から進んで人を殺した事もあるし、昨日も一方通行を殺そうとした」

 

当麻や美琴などこっちに無関係の表の人間が裏側に関わらないように動く事はあるけど、それは下手にこっち側に来られると見動きがしにくくなるからだ。

 

「ですが、それでもあなたはミサカを助けてくれました。それに、今も実験を止める気なのではないですか? とミサカは尋ねます」

 

相変わらずの真顔だったが、視線がさっきよりも鋭くなった気がする。

 

「実験は……止める」

「それは、なぜですか? とミサカは重ねて尋ねます」

「その前に聞くけど、俺にその事を聞きに来たのは、誰の指示だ? それとも自分の意思でか?」

「これはミサカの意思です。ミサカは治療を終えた後、ずっと考えていました。ミサカがクローンと知っても、あなたの見る目は他の科学者達とは全く違う目をしていました。ここで先程尋ねた事の繰り返しになりますが、なぜミサカを助けたのですか? とミサカは同じ問いをします」

 

下手に誤魔化す気はなかったが、彼女の目を見ると答えに困ってしまった。

 

「なぜか、は俺も分からない。昨日は本当にたまたまあそこを通りがかっただけだ。で、一方通行と血まみれのお前を見たら、気が付いたら駆け出していた、後は知っての通りだ」

「分かりました……つまり、あなたは単純バカなのですね。とミサカは結論付けます」

「ブーッ!? バ、バカと来たか……そう言われたのは初めてだな」

 

真顔で馬鹿と言われるのは結構キツイな、それも美琴顔で。

 

「でも、実験を止める理由ならはっきり言えるぞ。こんな実験は気にくわないからだ」

「気にくわない、とはどういう事ですか? とミサカは尋ねます」

「勝手に生み出されて勝手に殺されて、お前らの犠牲にするのが大前提なのが気にくわない」

「ミサカはその為に生み出された模造品です。むしろ実験の為に死ぬのは当たり前です。とミサカは……」

「違うっ!」

 

自分でも驚くくらい大声を上げてしまった。

9939号も流石に驚いたのか、目を大きく見開いている。

 

「お前は確かに御坂美琴のクローンとして生み出された。だけど、それでも今のお前は立派な人間だ! 実験動物なんかじゃない!」

「ミ、ミサカの存在意義は……それに、ミサカは18万円という単価で簡単に作られる作り物の体と借り物の心を持った実験動物、人形と言われてもその通りですと答えるだけです。とミサカは答えます」

「お前は実験動物でも人形でもない。ちゃんと意思と心を持った人間だ! 少なくとも俺や実験を企てた連中よりはマシな人間だ!」

 

体中がアツイ。開いた口から絶えず言葉が出続ける。

それにムカついてもいる。実験の事だけじゃなく、自分を人形と言い切る9939号にもだ。

 

「ミサカに意思と、心があると? とミサカは自分の胸に手を当ててみます」

「お前はなんで俺の元に来た? 誰かに命じられたわけでもない。お前は自分で考えて疑問に思ったから俺の元に来たんじゃないのか!? それは紛れもないお前自身の意思だろ!」

「……ミサカの意思、心……」

 

ボーっとしながらも何かを考え込んでいる9939号。

今更だけど、こいつに名前がないな。

 

「あーお前、9939号が検体番号だったよな?」

「はい、確かにミサカは9939号ですが、とミサカは首を傾げながら答えます」

 

うーん、だったら安直だけどこれがいいか。

変に捻った名前よりはマシだろう……ってなんで俺は子供が生まれる父親か!?

 

「よしっ、今日からお前の名前は 『ミク』 だ!」

「……はい? ミサカには既に9939号と言う……」

「それは名前じゃないだろ? ただの番号。俺は人を名字ではなく名前で呼ぶ癖があってな、いい加減お前、とかそういう呼び方するのは性に合わなくなってきた。だから、俺は今からお前の事をミクと呼ぶ。それがお前の名前だ」

「は、はぁ。とミサカは意味が分からず困惑します」

 

そりゃ突然お前はミクだ、なんて言われても普通の人間でもピンと来ないか。

 

「あなたの言いたい事は相変わらずよく分かりませんが、とにかくミサカは今から 『ミク』 と名乗れば良いのでしょうか? とミサカは混乱しながら尋ねます」

「おう、よろしくなミク」

 

俺が手を差し出すと、ミクは俺の顔と手を交互に眺めながらも、しっかりと手を握った。

 

「ミク、それがミサ、ミクの名前……ミク」

 

正直、自分でもなんで名前を付けたのかよく分からないけど、仕切りにミクが自分を実験動物と言い張るのを見て名前で呼びたくなった。

ミクは自分の名前を噛みしめるように呟いていたが、一瞬だけ口元に笑みが浮かんだのは見間違えではないと思う。

次にミクが顔を上げた時はいつものような真顔になっていた。

 

「しかし、9939号だからミクとは少し安直過ぎませんか? とミクはあなたのセンスに愕然とします」

「うっ、や、やっぱりか……」

 

ジト目で睨まれてしまった。もっとよく考えれば良かったか?

美琴のクローンだからミコン、怪獣みたいだ。みこと……みこな? ないな、うん。

 

「ですが、ミクと言う響きはとても気に入りました。とミサカは感謝を述べます」

 

今度は見間違えじゃなかった。

ミクは確かに笑みを浮かべて、俺に頭を下げた。

俺は今更気恥かしさがこみ上げて来て、思わずミクから目をそらした。

 

「……そ、それでこれからどうするんだ? 怪我が治ったら実験が再開されるんだろ?」

「はい、そうです。実験のスケジュールは細かく管理されていましたので、僅かな調整でも困難を極めます。ですが、今回の件は既に調整が行われています。とミサカは与えられた情報をそのまま伝えます」

 

ミクの怪我が治ったら実験が再開は間違いない。

なら、それまでにケリを付けなきゃいけない。

こっちはまだ実験の裏まで掴んでないと言うのに……

やはり一方通行を殺すしかないのか? いや、例えそれで実験が終わったとしてもミク達はどうなる?

最悪、学園都市そのものに喧嘩を売る事にもなりかねない。

ま、それはその時に考えるか。

 

「なら、ミクは実験に拒否の意思を示せ、拒否がダメなら体調不良でも何でも理由付けて実験の延期を申請しろ」

 

要は時間稼ぎ。こんなのが通用するとは全く思わないけど、とにかく今は時間が足りなさすぎる。

 

「それは……不可能です。ミクはやはり実験に参加する事に存在意義があります。とミサカは若干辛そうに答えます」

 

今回も真顔、ではなく少し眉が垂れさがっている? 残念そうな辛そうな表情になっていた。

 

「またそれか! 存在意義くらい明確に持っている人間なんていないっての。後でいくらでも考えればいいし、実験が中止になったら俺のアシスタントでもやってくれればいい」

「あなたのアシスタント、ですか? いえ、それよりも実験が中止? とミサカは動揺しながら尋ねます」

「そうだ。さっきも言ったけど、俺は実験を潰す。だから、ミクはそれまで生きろ。で、実験が中止になったら、他のミサカ共々面倒見る! それでいいだろ?」

 

俺の言葉にミサカは今までで一番驚いた表情を浮かべた。

 

「そ、それは……プロポーズですか? とミサカは狼狽します」

 

なんでたー!? とつっこもうとしたが、よくよく考えれば確かにそう捉えられそうな事を俺は言ったな、うん。

 

「あーいや、ほら、仮に実験が中止になったら俺の責任だろ? だったら後の面倒を俺が観るのは、当然……あぁ~もう、それは後! とにかく、俺は実験を潰す。ミクは実験にこれ以上参加しない。これでいいだろ!?」

「わ、分かりました。とミサカはまだ頭がパニック状態のまま返事をします」

 

個室サロンを出て、気がつけば昼を大分回っていた。

研究施設への侵入は夜に行こうかと思っていたが、早めに動かないと。

 

「それでいい。じゃ、俺は行く所があるから……またな、ミク」

「はい、御馳走様でした。それと、素敵な名前ありがとうございます、ユウキさん。とミサカは顔をあつくしながら見送ります」

 

ミクはこのまま施設に戻るらしい。

送ろうかと言ったが、ゆっくり景色を見ながら帰りたいと言うのでここで別れた。

最後にミクが俺に手を振ってくれたが、今朝までの無表情とは打って変わって柔らかい笑顔だった。

 

 

 

続く

 




関係ないですが、ボーカロイドに手を出そうとした事は何回かありますが
ソフトの多さと高さと学生時代の音楽成績を思い出し、その都度断念しました……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。