幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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大変お待たせしました!
これにて過去編Ⅱ終了です。


第76話 「最弱VS最強(後編)」

学園都市にいくつも建てられている風力発電用のプロペラに異変が起きた。

風もないのに回転を始め、しかも、すぐに普通では考えられない程速く周り出した。

その異変は学園都市中に散らばっている妹達が、上空に浮かぶ巨大なプラズマを作り出している一方通行の計算式を乱す為に起こしている。

辺り一面に一方通行が起こしているのとは別の風が吹き荒れ、巨大プラズマに変化が起きた。

 

「あン?」

 

綿密な計算式の元で作りだされているプラズマが大きく歪み、拡散され始めた。

最初は何が起きたのか分からないような顔をしていた一方通行だったが、プロペラの異常な回転に気付きこちらを向いた。

 

「てめェか! ぶっ潰す!」

 

御坂妹の見ている映像がミサカネットワークを通じ他の妹達に流れている事を悟り、一方通行が攻撃をしかけようとしてきた。

 

「「させると思う(か)!?」」

 

俺と美琴が一方通行の前に立ち塞がる。美琴の手にはコインが握られている。

俺達が一方通行に手を出したらどうなるかは分かっている。でも、これ以上御坂妹に手出しはさせない。

もう少しで一方通行の力をコピー出来るようになるが、さてどうするか。

一方通行を殺すだけならいくらでもやりようはある。

 

「理解できねェな。あっちに転がっている三下もオマエらも、なンで人形を庇う?」

 

人形と言われ御坂妹が僅かに体をこわばらせた。

それを横目で見た時、何か今までの妹達とは違うと感じた。

自分達の事を実験動物とはっきりと自覚していて、実験の事もなんとも思っていなかったはずだ。

だけど、御坂妹は人形と言われはっきりと反応を示した。

 

「なんで? 愚問だな。第一位の頭脳あるくせにそんな事も分からないほど馬鹿なのか?」

「あン? 何だと?」

「そうね……そう、この子を守る理由なんてとっても簡単な事だったのよね」

 

美琴も御坂妹の反応を見て、何か答えが出たようだな。

 

「私はこの子達の姉で、この子達は私の妹だもの。妹を守るのは、姉として当然の事でしょ?」

 

それを聞き、一方通行も御坂妹も呆気に取られたような顔をした。

 

「今更姉面する資格はないのは分かってるわ。それでも、今はこの場に立つ事、許してくれる?」

「……ハイ」

 

御坂妹は俯き加減で小声ながらも、しっかりと姉に対して返事をした。

 

「カッ、カカッ……クッ、カーッハハハッ! いきなり何茶番を始めたかと思えば、人形と姉妹ごっこかよ。くだらねェ!」

「黙れよド三流! この御坂妹も他の妹達も生まれ方はクローンでもな、ちゃんと生きてんだよ。俺やお前よりもよっぽど純粋な人間としてだ! てめぇには一生理解できないかもしれないけどな」

「理解、ねェ。おれァ、お前こそ理解できねェなァ。なァ? どうして木原のお前がそんな所でそんな風に立っていやがるンだァ? 」

「……木原?」

 

一方通行俺を木原と呼んだ事に、美琴は意外そうな顔で俺の方を向いた。

そう言えば美琴は俺の名字が木原って知らなかったな。

 

「なンだ? 第三位ともあろうお方が知らなかったのかァ? ソイツは木原だ。人形を作ってこんな実験を始めた科学者共の同類なンだよ。ンで、その木原サマがヒーローごっこたァ、笑わせてくれるぜェ」

 

ヒーロー、ごっこ……ねぇ。

 

「ぷっ、くくっ…はっ、はははははっ!」

「あン? 何がおかしい!」

 

美琴や御坂妹も突然笑い出した俺を気にも留めていない。

それどころか、俺や一方通行すら見てもいない。

彼女達の視線は、さっきから一方通行の後ろへと向いている。

 

「だってさぁ、よりにもよってヒーローごっこと来たもんだ。あはははっ、あーおかしい……俺は俺がやりたい事をやっているだけだ。木原も何も関係ねぇよ。ヒーローごっこをしてるつもりもない。それに、ヒーローならお前のすぐに後ろにいるぞ?」

 

その時やっと美琴達の様子がおかしい事に一方通行が気付いたようで、恐る恐る後ろを振り向いた。

 

「バッ、バカな……」

 

そこにはボロボロになりながらも、上条当麻がしっかりと立ちあがって一方通行を睨んでいた。

体中に傷があり、脚もがくがくに震えて今にも倒れそうだったが、当麻は倒れない。

その瞳に宿る光に衰えは見えず、しっかりと一方通行へと向けられている。

 

――ジャリッ

 

「っ!?」

 

それは一方通行が当麻から一歩後ずさった音だった。

学園都市で最強の能力者である一方通行が、無能力者である当麻を恐れ、臆したのだ。

 

「……面白ェよ、オマエ……最っ高に面白ェぞっ!」

 

臆した事を認めたくないのか、一方通行は叫びながら一直線に当麻に向けて跳んだ。

両手を振りかざし、今度こそ当麻にトドメを刺す為に。

美琴も御坂妹も信じられないと言うような顔ををして何も動けず、美琴の手からコインが零れ落ちた。

俺はニヤリと笑っただけだ。

 

「やっちまえ、ヒーロー」

 

一方通行が襲いかかったが、無意識なのかそれともただ単に怪我で崩れ落ちたのか当麻の体が沈み、一方通行の右手が空を切る。

続けて一方通行の左手が振われたが、当麻が右の拳で殴りはらった。

 

「ぐっ!!」

 

両手が払いのけられ、今の一方通行は完全に無防備だ。

当麻は倒れこむように一方通行に迫り、眼前で小声ならがらもはっきりと呟いた。

 

 

「歯を食いしばれよ、最強――俺の最弱は、ちっとばっか響くぞ」

 

 

そして、当麻の右手が一方通行の顔面に深く突き刺さった。

どこにそんな力が残っていたのかと不思議に思うくらい、その拳には力が籠っていた。

一方通行はすごい勢いで殴り飛ばされ、地面を転がり五体を力なくさらけだし、動かなくなった。

 

ここに最強の超能力者、一方通行は――最弱の無能力者、上条当麻に破れた。

 

 

 

「冥土帰し、俺だ。全部終わった。重傷者が2名、1人はいつものアイツ、それでもう1人が妹達、2人共骨に異常はないけど出血がヒドイな」

『分かった。もうこっちの準備は整っているよ。すぐに手配させる。君は大丈夫かい?』

「俺は今回何もしてないからな。無傷だ。それじゃ、当麻と御坂妹は任せたぜ」

 

全てが終わり、冥土帰しへ連絡して当麻と御坂妹の手配を頼んだ。

倒れて気を失った当麻へと駆け寄り、脈などを軽く診断したが、命に別条はなさそうだ。

 

「おい、御坂妹」

 

姉妹揃って呆けている2人に声をかけると、御坂妹はこっちを振り向いたが、美琴はまだボーっとしている。

 

「は、はい、何でしょうか? と、ミサカは目の前で起こった事に理解が追いつかず、混乱しながら答えます」

「後少しで救急車が来て、アイツと病院に運んでもらう。んで、後の事は冥土帰しって凄腕の医者に任せてあるから、色々話を聞け」

「あの……彼は、大丈夫ですか?」

「当麻は問題ない。見た目よりは軽傷と言ってもいいくらいだ。同じ病院へ運ばれるようにしてあるから、自分の治療が終わったら見舞に行ってやってくれ」

 

御坂妹も怪我はヒドイが、当麻ほどではない。

ま、それでも寿命の調整のための入院はするだろうけど。

それからすぐ救急車がやってきて、当麻と御坂妹を運んで行った。

美琴はまだ気が抜けたようにずっとしゃがみこんでいたけど、俺が無理やり救急車に詰め込んで行かせた。

3人に色々話す事はあったが、それは後回しだ。

今は真っ先に話をしないと行けない奴がいる。

 

「おい、生きてるんだろ、一方通行」

「……なんだ、まだいたのか、木原」

 

一方通行は起きてはいたが、両手両足をダランと広げ地面に寝転がったままだった。

コイツも左指が骨折してるし、それなりの怪我もしているので病院に運んだ方がいいか。

そう思っていると、電話が入った。

相手は木原尼視だ。

せっかくだからとスピーカーにして、一方通行にも聞こえるようにした。

尼視も俺がそうするだろうと思っていたようだ。

 

『お疲れさん。お前の目論見通り、絶対能力進化実験は一時凍結が決まった。一方通行や妹達のこれからは……ま、当分はお前の方針に沿う形になるな。妹達の寿命調整に関しても、こっちは中止させる気はない。むしろ、推し進めてくれて一向に構わない』

「……ちっ、結局そうなるか」

 

俺がしてきた事ややろうとしてきた事、どこまでお見通しなのか分からないが、恐らく全部だろうな。

中止ではなく凍結と言うのが気になったが、それは後で調べよう。

 

『おや、不満かい? 何だったら妹達の1人や2人、お前が自由にしても構わないぞ? あの子の代わりとして相棒として雇っても……』

 

これ以上尼視の声を聞きたくなかったので一方的に通話を切り、電源もオフにした。

一方通行は表情を変えず、黙って俺と尼視の会話を聞いていた。

 

「と、言うわけで実験は凍結、まぁ中止になったわけだ……で、お前はどうする?」

「……どうするって、どういう意味だァ? 俺はお役御免でオマエが俺を殺すかァ?」

「そうしたいのは山々だけどな。そんな無意味な事するつもりはない」

 

そう。今更コイツを殺してもどうしようもない。

殺すなら、実験に関わった全員を殺す……が、それも無意味だな。

 

「とりあえず、病院へ行け。アイツらとは別のお前専用の所への手配も済んでいる。すぐに迎えが来るぞ」

「……一つ教えろ」

「なんだ? 俺がここまでする理由か?」

「ンな事どーだっていい……アイツは、あの三下は一体何者だァ?」

 

一方通行はただ単純に知りたがっているように見えた。

御礼参りに行きたいとか、そういう感じで当麻の事を知りたいわけではなさそうだ。

 

「アイツは……ただの馬鹿さ。んで、俺やお前みたいな奴にとっては天敵だ」

「……そォかよ」

 

その答えだけで満足だったのか、一方通行は眠りについたようだ。

俺が何もしないのを分かっているのか、随分と無防備な事だ。

一瞬落書きでもしてやろうかと思ったが、暗部の回収係が来たので渋々その場を去った。

 

 

 

 

あの後、携帯の電源を入れると尼視から1通のメールが入っていた。

さっきの件の嫌味か何かかと思ったが、開けてみると妹達の今度についてと見慣れない研究所の名前と、住所のみが記載されていた。

妹達の今後の処置について決まるのが早過ぎるとは思ったが、やはり妹達は絶対能力進化以外にも目的があって作られたようだな。

その辺りは置いといて、今は送られてきた研究所へ行ってみるか。

 

「ここに一体何があるんだろう? 見た所、普通の研究所に見えるが」

 

それから30分後、俺は送られてきた研究所の前にいた。

その研究所は、巨大な倉庫が並んでいる施設の横にあった。

念の為武器を持ち、研究所へと入る。

いつものように裏から侵入しようかと思ったが、明りが付いておらず、人の気配もなかったので表から堂々と入った。

中のセキュリティーはなぜか俺のIDが通じていて、ほとんど素通りに近い。

俺を殺す罠ならもっと別の方法を使うはず、ならばここにはどんな意味があるのか分からない。

 

「……ここも絶対進化能力の施設だったか」

 

所内は特に混乱があったという形跡もなく、ただ今が真夜中だから暗いだけ、と言う感じだ。

パソコンやネットワークは生きていたので色々調べてみると、ここもどうやら実験関係の施設のようだ。

しかも、セキュリティーレベルが半端なく、俺や美琴が調べた時には引っ掛からなかった研究所だった。

 

「まさか、ここに打ち止めが?」

 

などと甘い予測を立てたが、これが大正解。

ここは俺がずっと探していた打ち止めがいる。

急いで目的の研究室を見つけ中に入ろうとすると、人のいる気配がした。

 

「っ、誰!?」

 

向こうも俺の事に気付いたようだ。無人だと思って油断しすぎたか。

しかし、この声は聞き覚えのある声だ、確か名前は……

 

「……久しぶりだな、芳川桔梗」

「あなたはっ!? どうしてここに?」

 

芳川桔梗、遺伝子専門の研究者で、何度か会った事がある。

学園都市の研究者にしては、色々と甘い所がある。

 

「打ち止めがここにいると聞いてな」

「……そう、仕事、と言うわけね。ま、実験は中止と聞かされてから覚悟はしていたけれど、こうも早いとはね」

 

桔梗は深く息を吐き、手に持ったカップを置いて両手をあげた。

どうも何かを勘違いしているようだ。

 

「俺は別にお前を消す依頼は受けてないし、仕事で来たわけでもないぞ?」

「あら、そうなの? じゃあ一体何のために?」

「打ち止めの事を調べる為に来た。彼女はどこにいる?」

 

それを聞いて桔梗が訝しげな表情を浮かべた。

 

「……あなた、そういう趣味があったの?」

「そういうって、どう言う趣味だ?」

「打ち止めはあっちにいるわよ」

 

桔梗が指さした部屋に入ると、そこには……

 

「なっ!? この子が打ち止めなのか!?」

 

他の妹達と同じく全裸でシリンダーに浮かんでいる、10歳ほどの幼女がいた。

 

「妹達の管理個体としか知らなかったからてっきり、少し他の御坂妹より年上に作られているのかと思ったが……まさかの幼女かよ、っておい桔梗! さっき言っていたそういう趣味って」

「そう。てっきり幼女趣味のあなたが打ち止めに興味を持って、実験中止に伴って連れされに来たのかと思ったのよ」

「ふざけるな! 俺にそんな趣味はない!」

 

割と真面目に憤慨すると、彼女は悪びれもせずにあら、ごめんなさいね。とだけ言った

 

「で、お目当ての打ち止めはこの子だけど、どうするつもりなの?」

「……お前がどこまで聞いているか知らないが、実験中止に伴って妹達は全員寿命や体のバランスの治療に入る事になった。で、打ち止めも保護しに来た」

 

本当は目的も何もなくなっているんだけどな。

実験が中止になった以上、打ち止めを使ってあーだこーだする気もない。

ひとまず、この子を冥土帰しの元へ連れて行って後の事はその時決めよう。

メールには打ち止めの事は書いてなかったし、桔梗の様子から察するに学園都市として打ち止めをどうするかの判断はまだここには来ていないようだ。

 

「そう。けどそれならちょっと待って頂戴。この子は他の妹達とは違って特殊なの。ここの施設で後数日預からせてくれない? それからあなたに引き渡すわ」

 

打ち止めが入ったシリンダーをもう一度見上げ、桔梗へ向き直る。

桔梗の言葉に嘘は感じられなかった。

冥土帰しも優秀だが、この子の専門家は桔梗だ。

ならば、桔梗に任せた方がいいだろう。

 

「一応言っておくがコイツに変な真似したら、俺が消すぞ」

「肝に銘じておくわ。それにしても……実験が凍結と聞いてすぐにあなたが来たけれど、まさかあの実験、あなたが止めたの?」

 

桔梗が興味深そうに聞いてきた。

仕事上、実験を止めそうなのが俺しかいないと思うのは当たり前か。

 

「俺は何もしてねぇよ。俺は……何も出来なかった。それだけだ」

 

それだけ行って俺は研究所を後にした。

 

そう、俺は……無力だ。

 

 

 

続く

 




はい、過去編Ⅱ終了です。
Ⅰと違い、ユウキは色々動いているようで、結局は何もできないまま終わり……です。

次回からは幻想郷での日常編Ⅱです。
ラブコメになるといいなぁ……
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