しばらくぶりに寺子屋へとやってきた。
怪我も治りリハビリも済んだのでやってきたのだが、実は少し気が進まなかったりする。
これまでのみんなの反応から、寺子屋で何か起きるかは大体想像がつく。
ま、なるようになるか。
今日は確か寺子屋にはフランやチルノ達はいないはず。
なぜいないのかと言えばフラン曰く、今日は梨奈ちゃん達の番だから、とか言ってたな。
「おはよー、慧音来た…「お兄ちゃん!」…グホッ!?」
寺子屋の戸を半分開けたところで、中から梨奈が突進してきた。
倒れこんだりはしなかったけど、ちょうどみぞおちにこられたので結構きつい。
なんでフランといい梨奈といい、人の急所を的確にタックルできるかな。
梨奈は俺が寺子屋に入った途端か、俺の姿を見た時に突進してくるだろうとは思っていたけど、まさか戸を開けてる途中で来るとは思わなかった。
こうなるのはここに来る前から予想していたし、神社に寝ていた頃から何度も合った事でいい加減慣れてきた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
俺を見上げて不安げな顔をする梨奈。これ以上この子に心配をかけたくなかった。
本当に俺の事を何も知らないこの子に。
「あぁ、大丈夫だ。心配かけたな、梨奈」
「良かったぁ、えへへっ」
軽く頭を撫でてあげると、安心したようで腰に抱き付いた腕から力が少し抜けた。
なんかこう、子供の対処の仕方が慣れちゃったなぁ……まぁ、梨奈はフランやチルノと違って、涙子や美琴と同じくらいだからセーフか?
「ふふっ、朝からお熱い事だな2人共」
「あっ、ユウキお兄ちゃんだー!」
「おはよーございます!」
「よぉ、慧音。それに久しぶりだな、みんな」
奥から慧音と他の子供達が顔を出してきた。
遅く着たつもりはないけど、今日はみんな来るの早いな。
あっという間に子供達に囲まれた。
「君が今日から来ると聞いて、皆早くから待っていたんだよ」
「ったく……不意打ちで来た方が良かったか」
慧音の意味深な笑みに、思わず苦笑いが零れる。
「兄ちゃん、また来れるようになったの? 風邪大丈夫?」
「あぁ、海斗。今日からまたよろしくな。ってそんなに待ちわびてるとは思わなかったな」
「だって、慧音先生の授業も楽しいけど、ユウキお兄ちゃんの授業の方が分かりやすいんだもん」
「うんうん、おにいちゃんの授業もっと聞きたい!」
「絵里、由麻、気持ちは分かるけど、せめて慧音のいない所で言ってあげような?」
子供達の後ろで微笑んでいた慧音の表情が固くなって、眉がピクピクしてる。
俺のせいじゃないと思うが、そんなに笑顔のまま睨まないでほしいんだが。
それから午前中、俺と慧音が交互に授業を行った。
子供達に言われた事を気にしていたのか、慧音にしては分かりやすい授業だった。
そして、授業が終わり今日の昼食は皆でピクニックをする事になっている。
と言っても、人里から離れた場所ではなく、近くにあるお花畑でだが。
そこも人里の一部で、妖怪は襲ってはいけない事にはなっている。
俺と慧音がいる以上、襲ってくる命知らずはいないと思うけど、用心はしておくか。
人里を出て小高い丘に付くと、そこは一面色々な花が植えられていた。
お弁当を食べる前に子供達はおいかけっこや、首飾りを作り始めた。元気な事だ。
「へぇ、こんな場所が近くにあったのか」
「最近まで雪で覆われていたからな。君が気付かないのも無理はない」
「ここは私達のお気に入りの場所なの。幽香お姉ちゃんが手入れに来てくれるんだよ」
「幽香が? へぇ」
確か幽香は太陽の畑と言うここよりも、もっと広大な草原で主に向日葵に囲まれて過ごしていると文から聞いた。
ここみたいな花畑も彼女から見れば、自分に関わりがなかろうと見過ごせない場所なのだろう。
花の大妖怪なのだから当然と言えるか。
「君はあまり驚かないのだな。大抵幽香がたまにここの手入れをすると聞いて驚くのだが」
「人里にもよく来て花屋の店主と会話してる。と言うのは聞いた事あるし。それより梨奈が普通に幽香を知ってて親しげなのには少し驚いた」
「うーん、幽香お姉ちゃん優しいよ。去年、ここでお花の事教えてもらった事あるし。怒ると怖いけど」
この子、何気にすごいな。俺へもだけど、幽香にもそういう事言うのか。
梨奈はひょっとして、怖いもの知らずと言う奴なのではないかな。
「梨奈はすごいな。ま、幽香は自分から誰かれ構わず喧嘩売ったり、ちょっかい出したりはしないし」
沈利みたく分別はわきまえている……はず?
「彼女をそこまで断言出来る君もすごいぞ。それに、宴会で喧嘩を売られた君が言う事でもないな」
後半の危ない部分は梨奈に聞こえないように小声で言ったが、その表情は不安げだ。
俺も忘れていたわけじゃない。それに喧嘩を売られたと言うか、いずれ相手をしなきゃいけないってくらいだな。
「? 2人共どうしたの?」
「いや、なんでもない。じゃお昼にしようか」
その時、何かが近づいてくるのを感じ、空を見上げると真っ白い誰かが飛んできた。
「みーつーけーまーしーたー!!」
「リリー!?」
そのまま俺の胸に飛んできた白い影はリリーホワイトだった。
結構なスピードで飛んできたけど、どうにか堪える事が出来た。
最近、こう言う事多いな。胸や腹に何か仕込んでおいたほうが……いや、それは何かが違う気がする。
「ユウキさーーん、お久しぶりです! 探したんですよー! なかなかお礼を言いに行けなくてごめんなさい。春の到来遅かったせいで色々忙しかったんです!」
「お、おいおい。分かった、分かったから離れてくれ、リリー」
横目で梨奈達を見ると、梨奈はあんぐりと口を開けていて、慧音は生温かいならがもまたかと言いたげな目をしていた。
「おやおや、リリーホワイトにまで懐かれるなんて、君はやっぱりすごいな」
「リ、リリーちゃん、久しぶりー」
「……あっ、えっと……お、お久しぶりです。慧音先生、梨奈ちゃん」
2人の視線に気付いたリリーは、一瞬で顔を真っ赤にして素早く俺から離れた
うん、羞恥心がある子で良かった。
「ユウキさん、ずっと会いたかったんです!」
「言いたい事は分かるから、その言い方は誤解を招きそうだから控えてくれないか?」
ここに文とか面倒なのいないから、多分大丈夫だと思うけど。
「お兄ちゃん、リリーちゃんに随分慕われているんだね?」
いたー!? 梨奈が結構よく見かけるような怖い表情になってる……
梨奈はそういう類の中には、絶対に入らないで欲しかったんだけどなぁ。
慧音は他人事だと思って笑ってるし。いや、他人事だけどさ。
「え、えへへっ、ユウキさんは命の恩人さんなんですよ」
「へー、私とおんなじだね」
……梨奈って確か、14だったよな。能力も何もないただの女の子だったよな。
何でこうもプレッシャーを感じるかな。
「ははっ、梨奈もそのくらいでいいだろう。リリー、良ければこれから一緒に昼食にしないかい?」
「えっ、慧音先生いいんですか? ……じゃあ!」
一瞬チラリと俺を見て、それを見た梨奈が俺を見て、と言うなんだこれ。
「おーい、みんな。そろそろお昼にしよう」
「「「はーい!」」」
時間もいい頃合いなので、慧音が作ってきた弁当を食べる。
大きい風呂敷を持ってきたのは俺で、てっきり遊び道具かと思ったが全部重箱に入った弁当だった。
俺が来る事を知っていたからなのか、かなり大量に作ってきたな。
これならリリーがいても……いても多すぎないか?
「慧音、がんばりすぎじゃないか? いくら育ちざかりと言ってもまだ幼い子も多いんだぞ?」
「は、はははっ、君もいるからこれでも少ないかと思ったのだが、確かに多かったかもしれないな」
「でも慧音せんせーのお弁当美味しいから、おれたちいくらでも食べられるよ!」
「そう言ってくれると先生も嬉しいよ、修太」
山のようなお弁当箱にも子供達は目をキラキラさせて、果敢に挑んでいる。
「リリーも梨奈も何か食べたい物あるか?」
「私は何でも食べられますよ。では、煮豆取ってもらっていいですか?」
「お兄ちゃん、私は卵焼きと佃煮下さいな」
他の子達に遠慮してか、弁当箱から離れた場所に座っている2人に皿に盛って渡す。
慧音も、他の子達に渡したりと忙しそうだ。
「ユウキ君も食べてくれないと困るな。この前の料理をお礼も兼ねているのに」
「この量だ。食べ損ねる事はないだろ。それに、慧音だって食べてないだろ」
「私は君と違って取り分けながら、ちゃんと食べているぞ?」
ん、何だろ。慧音今視線を梨奈やリリーに向けたな。なんか、いやーな予感がしたぞ?
「お兄ちゃん、これどうぞ」
「ユウキさん、これはどうですかー?」
同時に差しだされる2人の箸。これも何度も見た光景だな。
違うのは、2人共彼女達と違って無邪気って所か。
何だか今日はデジャブを感じる事が多い日だな。
さて、これを断ると恐ろしい事になりそうだ。主に背後から早く食え。と言う慧音のプレッシャーがすごい。
「じゃあ、頂きます……モグモグっ、うん、うまい。やっぱり慧音は料理上手だな」
一時期寺子屋で寝泊まりしていた時に、慧音の手料理は食べたけど咲夜に負けず劣らず上手だ。
「そう言ってもらえると、作った甲斐があると言うものだ……2人にはお返しはしないのかい?」
「あぁ、それもそうだな」
慧音が、何か重い立ったように、そっと耳元に小声で囁いてきた。
お返し。つまり俺がされた事を2人にもしろって事か。
「じゃ、ほれ、梨奈。この煮物美味しいぞ」
「ふえっ!? あっ、はい、頂きます」
「で、リリーには菜の花の天ぷらだ」
「ご、ごちそうになります」
2人共呆気に取られた顔をして、俺が箸を出すと食べてくれた。
一応噛んではいるようだけど、2人共何だか動きが機械的だ。
そう言えば、こういうのされてばっかでした事なかった。
うん、今度霊夢や咲夜達にもやらないとダメだな。
「ふっ、あはははっ、本当に君は面白いね」
「どうしたんだよ、慧音。急に笑いだして」
何かがツボにハマったらしく、慧音はお腹を抱えて笑いだした。
「慧音せんせーどうしたの?」
「梨奈お姉ちゃんもリリーちゃんも顔真っ赤だよ?」
「また風邪引いちゃった?」
食べたりしゃべったりに夢中だった他の子達は何が起きたのか分からず、みんな首をかしげている。
「全く、こういう空気にだけは慣れないなぁ……ん?」
深く息を吐いてふと周りを見渡した時、見ている景色に違和感があった。
あっちゃいけない物があるとか、あるべき物がないとか、そういうのではない。
「あ、そうか、そういうモノか。こういう違和感は久々だな」
学園都市にいた時、何度か感じた違和感。
学舎の園、ケーキショップで視覚阻害の子を視た時と似ている。
つまり、誰かが光学迷彩かそれに似た何かで俺の視界のどこかに隠れている。
悪意や敵意は感じないから放っておいてもいい。
が、一方的に見られるのは気分が悪い。
せめて、出てきてもらうか。
「……見つけた」
試しに幻想支配で無作為に視てみると、離れた草むら反応があった。
この感じは、チルノやリリーのような妖精の力。
でも、力自体はあまり強くない。これなら能力停止も簡単にできるな。
「さーって、姿を現してもらおう、か」
「「「っ!?」」」
能力停止を使うと、チルノよりも小さい妖精が3人も現れた。
「ちょっとルナ! 何で能力止めちゃったのよ。見つかっちゃったじゃない!」
「わ、私何もしてないわよ!? あ、あれ? なんで能力使えないの!?」
「あーこれは、逃げられない、かなぁ」
それぞれ違う格好をしていて、どうやら光学迷彩っぽいのは縦ロール髪の子、ルナと呼ばれる子が使っていた能力のようだ。
「お前ら一体誰で、ここで何をしてるんだ?」
「え、ええっと、ですね。私達はその……」
「ユウキ君。サニー達を怖がらせてはダメだぞ」
そこへ慧音がやってきた。
怖がらせる為に睨んだつもりはなく、むしろ呆れたような目をしていたつもりなんだけど。
警戒心、と言うよりは怖がっているな。
「慧音、この子達知っているのか?」
「あぁ、彼女達は光の大妖精と呼ばれている。3人共、彼はユウキ君と言って、私やチルノ達の友人だ。怖がる事はない」
今回はメルランの時みたいに何かしたわけじゃないのに……あ、能力停止したままだ。
「あ、あれ? 戻った! 力が戻ったよ!」
「もう遅いわよ! 全く……でも、慧音やチルノ達の友達なら、大丈夫、よね。私はサニーミルク、この子がルナチャイルド」
「そして、私はスターサファイア。よろしく」
日に月に星、だから光の三妖精か。
「初めまして。俺はユウキだ。普段は博麗神社にいて、たまに寺子屋にいる。で、さっきは何をしていたんだ?」
何をしていたか尋ねると、彼女達は内緒話を始めた。
「どうするのよ。あっさり見つかっちゃって」
「でも、慧音先生がああいうんだから、大丈夫じゃない?」
「サニーは楽観的すぎるわね。でも、別に私達悪い事してたわけじゃないんだしね」
思いっきり目の前で作戦会議。会話が丸聞こえすぎる。
慧音が苦笑い浮かべて軽く頷いたので、ここは聞こえていない風にしておこう。
丸聞こえな内緒話が終わり、俺が能力を止めたルナが代表するように前に出てきた。
「私達、リリーホワイトを追ってきたんです。いつもより様子がおかしかったんで、後を付けてきたらここに辿りついて。あんなリリーホワイト初めて見て、それで気になっちゃたんです」
「ふふっ、なるほど。確かにあんなリリーホワイトは初めてだな」
あんながどんななのかは、聞かない方が身の為だと俺の勘が告げている。
「なぁ、慧音。せっかくだから3人共一緒にお弁当どうだ?」
あの大量のお弁当を消費するには、この子達にも協力してもらおう。
「いいんですか?」
「私は構わないよ。彼女達も寺子屋に来る事があるから、子供達とも顔なじみさ。遠慮なく食べるといい」
「それじゃいっただきまーっす!」
「あ、ちょっとサニー!」
「一目散とはまさにこの事ね」
慧音がそう言うと、赤と白の服を着てオレンジがかった金髪の少女、サニーミルクが物凄い速さで駆け出した。
それをルナチャイルドとスターサファイアが呆れた目で見ていた。
「ははっ、元気があっていいじゃないか。子供達も大歓迎しているようだし」
「そうだね。私達も食べようか、ルナ」
「うん」
2人もサニーミルクに続いて子供たちの輪の中へ入って行った。
俺も慧音と2人、肩をすくめて昼食に戻る事にした。
「へぇ、ユウキさんって他人の能力を使えたり、止める事出来るんですね」
「さっきはそれで私の力止められちゃったのね」
「便利ねー」
それからお弁当を食べ終え子供達は慧音を連れてまた花畑に遊びに行き、俺はリリーと三妖精達と食後のお茶を飲んでいた。
「便利と言えば、三人共凄い能力持ってるじゃないか。色々使い勝手よさそうだし」
三人の持っている能力を聞いたら、物凄い能力だった。
サニーが光を屈折、ルナが音を消す、スターが動く気配を探る事が出来る。
「かくれんぼなら無敵なのよ!」
「ならユウキさんは三人の天敵ですねー」
リリーが言うと、三人共ギクッとなった。
確かに俺はさっきのように光を屈折させても違和感に気付くし、音を消されても気配で分かる。
けど、動く気配を探る能力で俺の位置を把握されながらだと、近付く事も出来ないな。
「それにしても、リリーホワイトに本当の意味で春が来るなんてねー?」
さっきの仕返しとばかりに、意地悪な笑みを浮かべてサニーが言うとリリーの顔がまた赤くなった。
「わ、私に春だなんて、そんな……でも、間違いじゃない、かなぁ」
チラチラとこちらを見るリリー。
反応したら多分もっとドツボにはまりそうだから、敢てスル―しておこう。
「でも、これでチルノや大ちゃん、ルーミアまで何か変わったように見えた訳わかったわね」
「そうね。でも、そんなにこの人すごいのかな?」
三人共、じーっと音が出そうな程俺を見てきた。
物欲に塗れた目ではない、本当に好奇心の塊みたいな目ってのは、何だか苦手だ。
「ユウキさんはとにかくすごいんです!」
いや、何が? 俺の何がとにかくなんだ、リリー?
「確かに能力はすごいけど、ねぇ?」
「うん、さっきちょっと怖かった」
ルナとスターはまるで出会った事のメルランやリリカみたいな反応だ。
「そうかな? 今は怖くもなんともないよ?」
「「えっ?」」
サニーだけは、笑顔で俺を見ている。
絵に描いたような明るい笑顔、流石は日の妖精って所か。
「サニー、あんたまさか……」
「まさかのまさか?」
「ちっがーう! そう言う意味じゃない!」
どういう意味……いや、何も言うまい。
下手に口出しするとロクな事がない。
「どうしたんですか、ユウキさん? 何かを悟った様な顔をして空を見上げて」
「何でもない。ただ、流れに逆らうより、身を任せた方がいいって事さ」
「はぁ……そうですか」
それから三妖精の喧騒を聞き流しながら、リリーと二人でただ空を見上げていた。
……平和だなぁ
続く
ぼけぼけ日常が続きまーっす。
次回の舞台は……竹林です♪