幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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歪な萃香戦です。


第93話 「自分」

突然現れた鬼、伊吹萃香。

身なりは小さいが、頭に生えた立派な角と秘めたる力は鬼そのもの。

私は西洋の鬼である吸血鬼だけど、これが東洋の鬼なのね。思っていたよりは小さいわね。

そんな鬼がいきなりユウキの前に現れた。

スキマ妖怪みたいな空間移動でも、咲夜みたいに時間停止したわけでもなくいきなり現れた。

そして、驚く暇もなくユウキを見て敵意を隠そうともせずに言い放った言葉。

 

「最初に言っておく。私は、お前のような大うそつきは……大嫌いだ」

「「「っ!?」」」

 

いきなり現れた時以上に、その場の空気が強張った。

咲夜はナイフを取り出し、美鈴は拳を握り、パチュリーは魔導書を取り出した。

魔理沙は八卦炉を構え、アリスも人形達を呼びだした。

私とフランもすぐにグングーニルとレヴァーテインを出せる体制。

ただ、文は目を大きく見開いて驚いてるだけ。

で、言われた本人であるユウキはと言うと……

 

「ふ~ん、そっか」

 

――ズコッ

 

その場にいたユウキ以外全員、一斉にずっこけてしまったわ。

さっきも萃香が鬼だと分かったのに、彼は何も反応しなかった。

今回も敵意丸出しで嫌い発言したのに、警戒心も何もない。

どれほど危険な状況か彼が分からないはずはないのに。

 

「そ、それだけ!?」

 

思わず萃香も驚いた声をあげる。

流石に虚を突かれたようで、敵意がふっとんでしまってるわね。

 

「それだけも何も、初対面の相手に嫌いです。って言われてもどう反応しろと?」

「いや、それはそうかもしれないけど……あぁもう! なんなんだお前さんは!」

 

それには同感ね。

彼は鬼というのがどういうのか分かってないんじゃないのかしら?

天狗の文がここまで怖がるのだから、この萃香も相当な実力者なのに。

 

「あ、そうだ。萃香、聞きたい事あるんだけど?」

「ん? 何? お前さんを嘘つきといった理由かい?」

「いやそんな事じゃなくて、今回の異変……と言っていいのか分からないけど、首謀者はお前だろ?」

「「「っ!?」」」

 

これまた直球ストレートでせめてきたわね。

私も萃香を見て、すぐに妖気の正体がわかったけど。

それにしても、嘘つきと呼んだ理由をそんな事扱いとはね……

 

「ぷっ……あはっ、あーっはっはっはっ! いやぁ~これは参ったねぇ。いきなりそう斬り込んでくるかい? こっちのペースを崩しておいて、すかさず自分のペースに引きずり込むなんて」

「だって、鬼は嘘が大嫌いなんだろ? 書物にちゃんと書いてあったよ」

 

ユウキのあのすました顔、まさかここまでの展開は予想していたと言うの!?

 

「あはははっ、いかにも。私の能力は 【密と疎を操る程度の能力】 物質だろうが精神的なものだろうが何でも集めたり散らしたり出来るのさ」

「なるほど。じゃあ一度目の花見の時、みんなが自前のお酒を持ってきたのも、2回目の時妙にテンションがおかしかったのも」

「そう。私の能力でやった事だよ。色々なお酒飲みたかったからね」

「で、今いきなり現れたのは自分自身を散らさせたのを、集めたからか。なんでもありだな」

「へっへ~すごいでしょ」

 

私達吸血鬼も似たような物だけど、本当になんでもありね。

だけど、それ以上に能力の説明を少し聞いただけで、そこまで言い当てれるユウキもなんでもありな気がするわ。

 

「じゃあ最後に2つ、なんでこんな事をしたのか。ただ単に宴会がしたかったわけじゃないだろ? あともう1つ、なんでこの場に現れた? 霊夢がいないからか?」

 

ユウキの疑問は私も思っていた事だった。

今まで影も形もなかった異変の首謀者がこうして簡単に姿を現すなんて……ってそこまで深い異変じゃなかったのだけどね。

 

「もう終わりが近いし、言ってもいいかな。異変を起こした理由は、お前さんの予想通りただ宴会がしたかっただけさ」

 

そう言いながら萃香はほとんど散ってしまった桜を見上げた。

 

「今年は冬が長すぎて、春があっという間に終わったからね。花見も満足にできなかった。だから、せめて宴会だけでも多くやろうと思ったんだよ。流石に毎日じゃアレだから3日おきに、ってね」

「あー……そりゃお気づかいドーモ。んで、それだけじゃないだろ?」

「うん。でも、目的の大半はそっちかな。他の目的はそうなればいいかなー程度にしか思ってないよ」

 

嘘嫌いのこいつが言うのだから間違いはない、と思うのだけど。

どうにもしっくり来ないわね。

異変の犯人が自ら名乗り出て、その目的もペラペラ話すなんて、一体何がしたかったのか。

魔理沙達も同じようで、困惑した表情を浮かべている。

 

「ちょっと待った。他の目的って一体何なんだ?」

 

たまらず魔理沙が萃香に問いかけた。

 

「別に大した事じゃないよ。こう大勢で騒いでいれば、幻想郷に鬼が戻って来ないかなー、とね」

「サラリと飛んでもない事いいますね、萃香さん!?」

「ん? あ、文。久しぶりだねー何百年ぶり? それとも千年以上ぶり? まぁ元気そうで何よりだよー」

 

絶叫する文に陽気に手を振り答える萃香。

鬼と天狗の関係は分からないけど、何となく予想がつくわね。

 

「ちょっ、何百年って! あ、違いますからねユウキさん。確かに萃香さんとは会うのは久々ですけど、そんな何百年もなんて……」

「そんな事で動転するなよ、文。お前が数千年程度生きてるなんて今更知っても驚かないって」

「ちょっ!? 桁がおかしいですよ! 私はまだそこまで生きてません!」

 

……おかしいわね。さっきまで緊迫して殺気立ってた空気が、あっという間にふやけて桃色に変わってるわ。

 

「文が実はこの中で一番長生きしてるおばあちゃんだってどうでもいい話は置いといて」

「よくないです! なんで私がおばあちゃん扱いなんですか!?」

「2つ目の質問にも答えてもらえるかな?」

「無視ですか!?」

 

文、哀れね。美鈴とフランが肩に手を置いて慰めてるのがまたシュール。

 

「2つ目は簡単だよ。博麗の巫女がこんなに早く動くとは思わなかったからね。それに他にも私の妖気に気付いて動いているのが予想よりも多かったから。下手に見つけられるより、自分からタイミング見計らった方がいいと思ったんだよ」

「ふーん、てっきり俺に用事があるから出てきたのかと思ったけど?」

「……本当に鋭いね」

 

また、空気が変わったわね。

 

「霊夢の勘が悪い方で当たりましたね。お嬢様、ここは私があの鬼を退治します」

「咲夜、動いてはダメよ。美鈴もフランもパチェもいいわね?」

「えっ? お姉様どうして!?」

「彼がそれを望んでいないわ」

 

あの鬼はユウキに用があって出てきた。

ならそれに私達が横やり入れるのを、彼はよしとしない。

さっき私をチラ見した目が、そう言っていたわ。

霊夢の心配は見事に的中しちゃったようね。

勿論、大怪我しそうならすぐに止める。

 

「だからってレミリア、いいのかよ?」

「彼女は彼よりもはるかに強いのよ?」

「いくらユウキさんでも無謀すぎます!」

 

案の定、魔理沙もアリスも文も反対してきた。

私だって反対したいわよ。でも、さっきの彼の目は本気だった。

全く。鈍感なのか敏感なのか分からないわね。

いや、少なくとも、自分の事には鈍感なのだけど。

 

「で、俺に何の用なんだ?」

「別に。ただちょっとお前さんに言いたい事があって出てきたんだよ。そうしたら面白い話をしてたから乗ってみようかとね」

「俺用のスペルカードの話か。なんだ相手してくれるってのか?」

「そうそう。幻想支配の力、ちょっと興味あるからね」

「俺の事嫌いなんだろ?」

「嫌いさ。でもそれとこれとは別問題だよ」

「分かった。ならやろうか」

「おいおい。ちょっと待てよ」

 

ユウキと鬼が対峙して、戦おうとした時、魔理沙がそれを止めた。

 

「何だよ魔理沙。今からいい所だってのに」

「……萃香、私からも質問だ。ユウキを嘘つきといったけど、あれはどういう意味だ?」

 

魔理沙、それを今聞いちゃうのね。

萃香がなぜ彼を嘘つきといったのかは、大体予想がつく。

けど、それを明らかにするのがはたして良い事なのか、悪い事なのかは分からない。

なにせ、彼の運命は出会った時からずっと読めないのだから。

 

「どういうも何も、言った通りだよ? 彼は嘘を突いている。あんた達にって言う意味じゃないよ。彼は自分に嘘をついているんだよ」

 

それを聞いても、ユウキに動揺してる様子はない。

ただ無表情で聞いている。

 

「人間は嘘をつく。これは今も昔も変わってない。そこの吸血鬼はどうかしらないけど、私達鬼は嘘が嫌いだ。でもね、他人に対しての嘘なら、嫌いでもしょうがないとも思えるさ。そうやって人間は生き延びてきたんだからね」

 

嫌いな物は嫌いでも割りきってる部分もあると言う事ね。

 

「でも、彼は違う。自分を騙して誤魔化して嘘を付いている。私はそういう人間は特に嫌いなんだよ」

「お兄ちゃんが自分に嘘をついてるって、何の嘘を付いてるって言うの?」

 

魔理沙もだけど、フランも少しイライラしてるわね。

それは咲夜やパチェ達も同じ。

私も鬼の言いたい事は分かるけど、イライラするのも事実。

 

「はぁ~……あんた達も本当は分かってると言うのに、わざわざ言葉にしないとダメなのが、甘いねぇ」

「回りくどい言い方は止めて、とっとと要点を話しなさい」

 

黙って聞いているだけのつもりだったのに、イライラが募ってつい口を出してしまったわ。

ん、この気配は……どうやら 【彼女達】 も聞き耳立ててるようね。

 

「あんたと文は特に気付いている事だろ? ユウキは、自分に対して何の感情も持ってないんだよ」

「っ……」

 

やっぱりその事を突いてきたわね。

思わず握った拳に力が入る。

 

「元いた世界に、友達に、家族に、仲間に忘れられて捨てられてこんな所に飛ばされたのに、お前はその事を悲しまないし怒りもしない! 幻想郷でこんなにお前を心から慕う友が増えたのに、喜ばない!」

 

萃香は感傷的に叫ぶけど、ユウキの表情には若干戸惑いが見えるだけ。

 

「感謝もして安堵もしてる。だけど、それは誰かの真似をしているだけだ! 彼女達に心配をかけたくないから、誰かを真似ているだけだ! 仮面をつけているだけだ!」

 

魔理沙とアリスの顔色が見る見る変わって行く。

咲夜も美鈴も文も辛そうに顔を歪めていく。

パチェとフランは萃香を睨みつけている。

叫ぶ度に萃香から敵意が溢れ出て来る。

日本の鬼は仲間意識が強い。

だからこそ、ユウキの事が許せないのかもしれない。

この鬼、ユウキが幻想郷にきてからずっと見ていたような口ぶりね。

 

「あんたは他人の事は心配して怒りもしたり悲しみもする。けど、自分にはそれを向けない。他人の事には本気になるのに、自分の事には本気にならない! あんたには、自分というものがまるでない! あるように自分と他人を誤魔化しているだけだ!」

 

そう。彼はいつだってそうだった。

フランの事を気にかけて、わざわざ紅霧の中を会いに来て、命がけで目を覚まさせてくれた。

春が来ない事を落ち込むリリーホワイトの為、白玉楼まで行き、妖夢と幽々子の為に西行妖に命をかけて挑み、救った。

それ以外にも、自分の為に行動しているようで、実は誰かの為だった事ばかり。

でも、自分を軽んじている風には見せなかった。

だから、気付かなかった者も多い。

 

「……どうして」

 

自然と口から出た、疑問の言葉。

ここまで言われているのに、なぜユウキは何も言わないの?

なぜ、肯定も否定もしないの?

なぜ、動揺もしないの?

そんな彼がとても痛々しく見えて、悲しくなっていった。

 

「……なぜ、言い返さない?」

 

萃香も何も言わないユウキに問いかけた。。

 

「ん~言い返す事がないというか、強いて言うなら、萃香はなんでそこまで言うのかは気になるかな」

「な、に?」

 

淡々と話すユウキが、まるで機械のように見えた。

ここまで感情が消えた彼を見るのは、初めてね。

 

「萃香はずっと俺を見てきたようだけど、俺は萃香を知らないし。鬼の事だってついこの前知ったばかりだ。見ず知らずの他人をそこまで言うなんて、優しい鬼だな。とは思うけどさ」

 

今までのユウキとは別人に見えた。

もう誤魔化すのはやめた、という事かしら?

 

「なにを、言っているんだ?」

 

言い負かしているはずの萃香が逆に動揺している。

ここまで言い放ったのに、ユウキにはまるで応えていない。

いや、届いていない?

 

「萃香の言いたい事は分かるけどさ。正直、俺は別に何か意識してって事はないぞ? 元いた場所でだって、別に友達も家族も元からいなかったし。こっち来て色々世話かけっぱなしなのは申し訳ないと思ってるし。その分何でも屋でもやって返そうとしてるだけだ」

 

これには私も目を丸くし、呆気に取られた。

いや、私だけじゃなく、萃香も咲夜達も驚きを隠せていない。

フランですら、ユウキの異常さに言葉を失っている。

その時だった。

 

「そこまでよ!」

 

突然上空から霊夢が現れ、ユウキと萃香の間に割って入るように降り立った。

さっきまで隠れて話を聞いていたのに、これ以上は我慢できなかったようね。

 

「お、霊夢、早かったな」

「ユウキさん、大丈夫……そうね。咲夜、レミリア、あんた達何突っ立ってたのよ。こういう事にならないようにする為にわざわざ呼んだって言うのに」

「ごめんなさいね。止められる空気じゃなかったのよ。でも、ナイスタイミングね。えぇ、本当に」

 

ジト目で睨むと、霊夢はバツが悪そうな顔をしてすぐに萃香に向き直った。

 

「……博麗の巫女か、ちょうど良かったよ。このままだと私の方が変になりそうだったよ」

「ユウキさん。後は私に任せて、下がってて」

「霊夢、今から俺がやろうとしてたんだけど、もう少し待っててくれないか?」

「いいから、下がってなさい!」

「は、はい……」

 

あまりの迫力に、ユウキは思わず後退りした。

鬼気迫るとはまさにこれね。

今の霊夢は、鬼よりも鬼らしい迫力があったわ。

 

「ユウキ、いいよ。この勝負は私の負けさ」

「はぁ?」

 

萃香のいきなりの敗北宣言。

魔理沙達は呆気に取られてるけど、私には萃香の気持ちが分かった。

 

「完全な読み間違えだったよ。お前さんは嘘つきなんかじゃなかった。実際にはもっと、タチが悪かった。あのまま戦っててもきっと私は負けてたね」

「えっ、ちょ、えぇ~?」

「……ひとまずは、良かった。と言っていいのかしら」

 

魔理沙とアリスは目を白黒させ、文はひとまずユウキと萃香の物理的な激突が無い事に安堵した。

 

「何がいったいどうなってるの、美鈴?」

「私にも分かりません。咲夜さん、パチュリー様、分かります?」

「分かるわけないでしょ」

「萃香は言葉で負けたのよ。精神的ダメージとは少し違うけれどね」

 

パチェの言う通り、萃香は弾幕ごっこではなく、妖怪の弱点を突かれたと言ってもいい。

ユウキの異常さが、予想を越えていて理解が及ばず、逆に心を折られかけた。

現に萃香にあれほど自分の心を見透かされたと言うのに、ユウキはケロっとしている。いや、少しばかり困惑してるけど、それは勝負を挑まれたのに何もしないまま不戦勝して納得いかないと言った顔ね。

 

「何が何だか分からないけど、まぁ勝負は勝負って事、なのかな。ま、いいか。霊夢、無茶するなよ」

「ユウキさんにだけは絶対に言われたくない言葉ね……で、萃香だっけ。あんたには色々言いたい事あるけど。それは後、まずは意味不明な異変、今ここで終わらせてあげるわ」

「はぁ、色々と想定外すぎるけど、気持ちを切り替えて、勝負だ、博麗の巫女!」

 

想定外なのは、私もよ萃香。

こんな運命、視れるはずもなかったわ。

なにはともあれ、鬼とユウキが正面衝突するのは回避出来たのは、重畳ね。

 

嫌な予感が未だに拭いきれてないのが、気掛かりだけど。

 

 

 

続く

 




はい、萃香戦ひとまず終了~ユウキの異常性が浮き出ただけでしたー

萃香はユウキの歪さを指摘しましたけど、すこーしだけズレてます。
すこーしだけ。
何がズレてるかが、幻想入りした原因だったりしますけど。

萃夢想編は次回か、その次で終了予定です。
その後は、過去編魔術師激闘編、シェリー戦と法の書事件の予定です。
予定は未定であり決定ではない!(キリッ
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