鉄血の薩摩兵子 <参番組に英才教育> 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
雪の積もった荒野を、二本のレールを跨いだ列車が滑るように走っている。それは、ギャラルホルンに補足されるよりも圧倒的に早くオセアニアを脱出した鉄華団が、モンターク商会の所有する貨物船で荷物を運び終え、雪原となったアラスカの大地に引き継がれたためだった。
鉄華団の基地が存在した地域は火星でも比較的温暖な地域で、火星の地軸の傾きから地球で言う季節のような物も無かったため、鉄華団のメンバーは初めて雪を見たのだった。
「おい三日月、見たかよアレ!あんなに氷が積もるんだな、地球は!」
「シノ・・・ビスケットが火星でも北か南に行けば降るって言ってたよ」
「まじかよ!おっとわりぃ!ヤマギと鹵獲したグレイズの調整するって約束だったんだ。また後でな!」
「うん」
言葉だけを聞けば、まるで見た目や年齢が逆である。
「三日月、団長が呼んでたぞ」
「そう・・・それは?」
「ああ。昌弘が強くなりたいって言うもんだからな、トヨさんの所に連れ居ていくところだ」
「ふーん。俺も後で行くよ」
まるで米俵のように担がれた昌弘から、三日月は興味を無くしたように視線を外した。後は、仲間になるかどうかが三日月の興味の分かれ目だった。
或いは、強敵なら記憶に残っただろうか。
ともかく、三日月は先頭近くのオルガや蒔苗の乗る車両へと歩いて行った。
◇◇◇◇◇◇
「おう、ミカ。今マクギリスから私兵のデータを受け取ってたところだ」
「ふーん」
『久しぶり、でもないかな?三日月・オーガス』
胡散臭い笑顔で、マクギリスが挨拶をした。三日月は目礼を返すのみだ。
「それで、あんたのオヤジの私兵ってのは・・・海賊みたいなもんなのか?」
『傭兵、というもので、君たちがどういった人間を想像するかは分からないが、それなりに人間は出来ているタイプだ。ただ・・・』
「なんだよ」
マクギリスが、少々言い淀んだのを見て、オルガが先を促した。これをガエリオが見ていれば、珍しい物を見たと騒ぐだろう。
「まあ、イズナリオ・ファリドの噂を聞けば、想像はつくがの」
蒔苗は、顔を顰めていた。
『恐らくは、貴公の想像通りです。あの部隊は、イズナリオ・ファリドの男娼で構成されている部隊だ』
「とんだクソ野郎だな」
聞いて、オルガも顔を歪めた。三日月は、よく意味が解らなかったので後でクーデリアに聞いてみようと思った。
「それで?結局強いのか?そいつらは」
『少なくとも、君たちが今まで叩き潰してきたギャラルホルンの正規部隊よりは』
マクギリスは、心の中でアリアンロッドには及ばないが、と但し書きを着けた。今、鉄華団が知る必要のある情報ではない。
『私も、君たちの直接的な援護に最終的には回るが・・・今は、余りにも時期が悪い。強襲ポイントはほぼ間違いなく、送ったデータの場所だ。そこだけは君たちで凌いで欲しい』
フミタンが、コンソールでデータを処理し、ディスプレイに予想地点を表示した。更に、列車の現在地点をリアルタイムで表示させる。
「あと半日、ってとこか」
『まあ、指揮を執っているのがカルタ・イシューである以上は、先ほどの予想はほぼ確実だと言える。君たちには理解し難いだろうが、彼女は命よりも名誉を重んじるタイプでね』
「へぇ、あれ、女だったの?」
『ああ、そうだ』
「じゃあ、生かしとかないといけないね」
『まあ・・・できれば五体満足が助かる。うまい具合に誘導すれば、それなりの能力は発揮する人間だ』
排除は、決定事項なのである。後はそのやり方で、此処には豊久の教えが生きていた。
「女の首は恥ってなんでしょ?殺しはしないよ」
『まあ、君に万が一は無いだろう』
場所が分かっているような奇襲で、ミカが負けることは無いと、オルガには確信があった。
「それで、他に連絡は?」
『我々の最終目標地点、アーブラウ首都で不穏な動きがあるが・・・残念ながら、こちらは詳しいことは分かっていない。相当用心深く何かを進行しているようだ』
その頃には、私も参戦するがね、とマクギリスはため息とともに呟いた。
「ともかく。此処は鉄華団が必ず凌いで見せるからよ」
『ああ。君たちの力とこれまでの戦績を、私は信頼しよう』
通信が、切れた。車内には、喧騒の前の少しざわついたような尖った空気が漂っていた。
「あと半日はあるんでしょ?俺はトヨとトレーニングしてくるよ」
「程々にな」
「ふぉふぉ、頼もしい限りじゃな」
それは、平常心の三日月やオルガに向けられた言葉だった。フミタンは、戦場が住処とでも言うような鉄華団のメンバーに、後ろ暗いような悲哀のような感情を抱えていた。
果たして、これは正しいことなのか。一般的な幸せの感覚とは、きっと乖離しているのだろう。だが、こうしなければ生きていけない現実の厳しさも、フミタンにはよく分かっていた。
それで、フミタンが採った行動は・・・
「辛かったら、いつでも言ってください。私でよければ、こういう事くらいは」
三日月を、軽く抱きしめていた。
「?分かった」
三日月も、無頓着、という訳ではなく一応は頷く。オルガは、赤面して顔を逸らし、蒔苗はそんなオルガを見て笑っていた。
◇◇◇◇◇◇
「それで、俺はどうすれば強くなれるんだ?」
「ひたすらそのぱいぷば振れい」
後部車両では、極寒のモビルスーツ格納庫で昌弘が鉄パイプをひたすら振っていた。
「そいでまず肉ばつけよ。飯ば食え。肉を食えば肉ん付く」
「肉なんてあんのかよ!クソっ、うらやましいなアニキは!」
「そりゃ最近の話だ・・・テイワズの傘下になってから台所事情が良くなったとかなんとか」
正確には、テイワズのアミダにアトラが気に入られ、定期的に食料を貰えるようになった、というのが正しい。今では、以前より良い肉が時々食事に出る。
「飯を食わんではいくさもできぬ。食え食え!」
丁度、アトラが昼食を運んできた。今日は、本物のベーコンを挟んだサンドイッチである。
「うめぇ!」
「なかなかだな」
非常に好評だったが、アトラの視線は一点に固定されている。
「その、今日のは自信あって、クーデリアさんと一緒に作ったんだけど、どうかな」
「ん。美味しいよ。アトラのご飯は美味しいけど、クーデリアのご飯も美味しいね」
「でしょでしょ!」
うまい、という返事に、目を輝かせるアトラの心中は、その場にいる豊久と三日月を除いた全員に察せられるほどには分かりやすかった。肝心の人物には伝わっていないが。
「あれ?三日月もうシャワー浴びたの?」
「いや・・・なんで?」
「なんかいつもと違う匂いがする」
自分の腕をクンクンと嗅いで、三日月は原因に思い当たった。
「さっきフミタンがぎゅっとしてきたからそれかも」
「えー!!クーデリアさんだけじゃなくてフミタンさんも!?」
「まじかよ三日月!くぅーうらやましぃ!!ぐふっ!?」
あっという間に昼食を食べ終わり、グレイズから降りて来たシノは、ヤマギに叩かれた。裏拳だったが、豊久が感嘆符を浮かべるくらいには良い拳だった。
「三日月!どうでしたか?今日のお昼ご飯は」
そこへ、クーデリアが入ってきた。どうやら、食事の感想を聞きに来たらしいが・・・
「大変だよクーデリアさん!フミタンも三日月の事好きなのかもしれない!」
「ええー!?どういうことですか?!」
「どうしてそんなことになったの?」
三日月の質問も尤もではあるか。多分フミタンにそんな感情は無いだろうと三日月は思ったし、実際無い。ただ、この二人の暴走乙女に有る事無い事を吹聴されてその気になることはあるかもしれないが。
いい加減にトレーニングを始めないのかと呼んだ豊久に、今行くから、と三日月は二人から離れた。
今日から、パイロットに加わりそうなシノも昌弘と一緒に参加しているらしい。二人とも、まずは素振りからだった。既に練習を重ねている三日月や昭弘は、体捌きや打ち合いになる。
今日こそは一本取ると毎日意気込む二人だが、今日の不意にカーブで横揺れするという悪条件も手伝ってか中々上手くいかない。
そろそろ、と、休憩を取った頃には、流石にクーデリアは落ち着いていた。
「クーデリア、今何時?」
「えっと、団長さんからそろそろモビルスーツで待機してほしいとのことです」
「わかった」
もう基礎はうんざりだと昌弘が豊久に挑みかかり、一瞬で蹴り転がされて後頭部を強打していた。見てはいたが、三日月は全く違う事を考えていた。
「そういえば、あの時の隊長女なんだっけ」
生かして捕らえろとは、そういう意味だろうか?
◇◇◇◇◇◇
『では、我々から』
「ええ。捻り潰してちょうだい!」
雪原に、白く塗装を施したゲイレールが並んだ。最新式のグレイズでこそないが、乗り慣れた機体で発揮される力はギャラルホルンの正規兵にも決して劣らないだろう。自分の部下に課した鍛錬が、この域に達していなかったことが惜しいとも思えた。
線路は、壊さなかった。どうせ、自分の指揮の元、正当な敵討ちとして此処を不法に利用する者どもは死ぬのだ。必要の無い事は、必要が無い。
自分にそう言い聞かせても、それでも、部下たちが次々に消えていく光景を思い出したカルタの体は震えた。何度、あれは自分の指揮の些細な間違いからの悲劇だとか、言い聞かせても拭うことが出来ない。
本来、内外へ誇りの高い質のカルタが、言い訳をしているというだけで異様なのだと、誰も指摘はしなかったのだが。
やがて、列車がセンサーに表示された。既に、車両上に一機のモビルスーツが鎮座していた。部下を滅ぼしつくした片割れの、憎き白いモビルスーツである。
そして、カルタは与り知らぬところだが、ゲイレールに乗ったイズナリオの私兵部隊は、その端正な顔を一様に引き攣らせ、張り詰めた空気を共有していた。
ゆっくりと、列車が止まる。完全に止まる前に、こちら同様に白いモビルスーツは、ゆっくりと立ち上がった。酷く、人間的な動きだった。居取りのように、しかし腰ではなく背に据えられた剣を鯉口から抜き放って、停車した車両から浮かび上がり、そしてまたふわりと雪原に着地した。
ゆっくりと、歩き始めた。まだ、遠距離攻撃が有効な距離ではないと、私兵部隊は判断した。データを見る限り、この機体の反応速度は異常の域に達しているし、ナノラミネート装甲の強度も被弾が無い事から未知数だ。
データ称号がバックグラウンドで完了し、ディスプレイに情報が追加される。
Type-GUNDAM_Frame・・・機体名、バルバトス。示される情報との不一致から、何らかの改造は施されているのだろう。
距離情報を凝視していた。機体だけを見ていても、余りに堂々としていて距離感が掴めなかった。
丁度100mのところで、バルバトスは停止した。此方は、鶴翼に構えている。此方へ突進することも十分考えられるので、牽制として即座に取り囲むことが出来るように構えているのだ。
もちろん、弱点である先端には、隊で最も強い二人組を配置しているが・・・
バルバトスが、片膝をついた。一瞬、降伏かと自分でも馬鹿な考えと思えるものが脳裏によぎった。当然違う。自分が今までに学んだ度のような戦法とも違うそれは、短距離走のスタートダッシュのようにも思えた。
そして、何も分からなくなった。
◇◇◇◇◇◇
カルタ・イシューは見ていた。本来、鶴翼の陣は牽制の両先端を攻め落としていくのが常道なのだが、目の前の怪物は牽制など知った事ではないとばかりに中央の一機を瞬時に斬り落としてしまったのだ。
ナノラミネート装甲は、と疑問に思ったが、どうやら首のフレームが露出した部分から袈裟にされているらしい。
勝てると思った。自分の部下を超える実戦経験を見せつけた部隊が、為す術も無くやられていく。
パイロットスーツの下から鳴っている吸引音と、搭乗したグレイズ・リッターの四肢の破砕音を耳に残しながら、カルタ・イシューの意識は暗転した。
◇◇◇◇◇◇
「終わったよ。
作業スペースに投げ出されたグレイズ・リッターの胴体部分は、ダンテのハッキングによって開錠された。運び出された指揮官は、拘束と共に顔写真をマクギリスに照会され、本人であると確定。意識の無いままに、牢となっている車両に放り込まれたのだった。
「これで、後は・・・えーと」
「エドモントン、ってとこに行きゃ良いだけだ。よくやってくれたな、ミカ!」
肩を抱き寄せるオルガに、別に、と呟いて火星ヤシを口に放り込んだ。
エドモントンまで、あと1日。約束の期日までには、もう一週間ほどあった。
「これで、上がれるんだ・・・」
そう、オルガがつぶやくのを聞いたのは、三日月だけだった。
不穏ですよねぇ、終わり方。
ちなみに三日月がバルバトスでやったのはトヨさんの薩摩ダッシュです。一瞬で距離詰めるタイ捨の歩法的な何かだと勝手に思っています。
もうすぐエドモントン・・・不穏でしょ?