鉄血の薩摩兵子 <参番組に英才教育>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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Black LAGOON買いました。
そしてFate/Apocryphaのアニメ版見ました。
>>確かにカルナのPVがあった。このままだと次のホワイトデーPUで財布が空になる。


白銀の鎧

暗い水たまりを、三日月は見ていた。いや、クーデリアによれば、湖か池だったような気がする。良く違いは判らないが、大きい物が湖というようだ。なら、目の前のこれは湖だろうと思った。海とは違うにおいがするし、何より向こうにある森がかすむ程大きい。

時間は夜だ。満月が辺りを照らしている。ふと、違和感を覚えた。

地球に降りたばかりの頃だ。月は、厄災戦で欠けてしまったと、誰かが。

 

「夢?」

 

月には見たことのない模様が入っている。海で見た、はさみのある生き物に似ているだろうか。

 

「何をしているんだい?」

 

振り返りざま、銃を構えた。しかし、声の主はこちらを見ていない。ただ、声には覚えがあった。

 

「アキレウス…?」

 

だれか、見たことのない人間と話していた。

 

「死んだ仲間と話をしていた」

 

返事をしたのは、いつの間にか三日月のすぐ近くに居た男だった。どうやら二人とも、自分の事が見えているというわけではないらしい。

アキレウスの夢を、外から見ている。そんな感じたろうか。

 

「死人と、話をしていた。どうかな。いつも、そちらの世界に引きずられているようにも見えるよ、お前は」

「それでも、そんな死人とばかり話をしているような男が、作ったんだよ」

「阿頼耶識か」

「そうだな。そして、そのおかけで俺たちは戦えている」

 

三種類目の声に、視線が勝手に声を追う。森林から姿を現したのは、金髪の男だった。マクギリスに似ている。たしか…

 

「アグニカ・カイエル…?」

 

そう呟くや否や、世界に穴が開いた。いや、消えたのだろうか。森へ歩いていく三人が、景色もろとも黒い霞に覆われていく。ほんの少し最後まで見えていたのは、こちらの方を眺めるアグニカ・カイエルの赤い瞳だった。

 

「或いは」

 

最後に、そんな言葉を聞いたような気がした。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ん」

 

どこか高いところから落ちたような浮遊感で、目が覚めた。いつも自分が使っている、ベッドのにおいがする。うっすらと目を開くと、クーデリアの寝顔があった。頭に疑問符を浮かべて反対を見ると、腕にアトラが抱き着いている。

そう言えば、昨夜は一緒に寝ようといわれてベッドに上がり込まれたような気がする。

まだ外は薄暗く、目を覚ますような時間ではなかったようだ。

ふと、目の前にいるクーデリアの胸に手を伸ばした。

 

…やわらかい。こちらの方が良く眠れそうだと、寝ぼけた頭で判断した三日月はクーデリアの胸に顔を埋めた。

夢から覚めるよりも簡単に、三日月の意識は溶けた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

朝。若干不機嫌そうなアトラと顔を紅潮させたクーデリアを連れて、三日月が現れた。

 

「来たか、ミカ」

「うん、今日、何か実験をやるって言ってたよね」

 

書類を小脇に抱えたオルガは、若干疲れた顔ではあったが、三日月をみて顔を綻ばせた。

 

「ああそうだ。つっても、俺はこれからちょっと用事があってな…」

「団長、ガランのオッサンが昼飯を要求してます!カツドン?が欲しいとかなんとか…」

「タカキ!口にレーションでも突っ込んどけ!」

「はい団長!」

 

ため息をついたオルガは、再び三日月を見た。

 

「今日はマクギリスが来ててな、俺も後で行くんだが、先にガエリオに呼ばれててよ。今基地の外で荷物の積み下ろしを石動が見てるはずだ。居場所はあいつが知ってるから先に行っといてくれ」

「分かった」

 

アトラは食堂に、クーデリアは少年兵へ先生をやるために分かれ、三日月は一人で外へ向かった。

基地の物資搬入口には、トレーラーが止められており、フォークリフトのようなパーツがついたモビルワーカーが積み下ろしをしている。

 

「そう、その荷物は3番だ…む、君か」

 

かなりの荷物を差配するのは、ギャラルホルンの制服を脱いだ石動だった。

指示を少し出して一旦作業の手を止めた石動は、。

 

「今回の物資は大きく分けて二つある」

 

そう前置いた石動は、背後にあるコンテナを後ろ手に叩いた。

 

「一つはこれだ。阿頼耶識用のシミュレータ、その完全版だ」

 

ゆっくりと、目の前にある大きなコンテナを指さした。

 

「もう一つの物資、我々はあれを、銀の腕(アガートラム)と呼んでいるんだがね。あれをバルバトスに接続できないかと考えている。シミュレーターはその前実験用だ」

「それって、俺とマクギリスが潰した、あのモビルアーマーってやつの尻尾?」

 

まるで何か別の生き物のように、形を変えていた銀色の金属塊。あれが、バルバトスにくっ付くのだろうか。そう思った時、三日月はふと思った。アキレウスはどう思うだろうか?まあ、今までも既に色々と作り変えている。ただただ、面白そうに笑うだけだろうと、三日月は結論付けた。

 

「おもしろそうだね」

「ファリド候もそう仰っていた。格納庫にいらっしゃるよ」

 

 

三日月は頷いた。それで話は終わりだと言わんばかりに、石動も仕事を再開した。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

バルバトスのコクピットに、三日月はいた。すぐ近くにはグシオンやピンクに染まったグレイズ、流星号が鎮座し、やはりコクピットには人が乗っていた。

それを、マクギリスとどうにか仕事を終わらせてきたらしいオルガが見ている。

 

「いつも通りでいいんだよね?」

『らしいな。いつものシミュレーターと一緒だ』

 

いつも通り、バルバトスに繋がり、起動する。何時からか、呼びかけるようになっている。

 

「いくよ」

 

網膜に投影された映像は、火星の荒野だった。近くに、僚機であるグシオンや流星号も立っている。動こうと思ったところで、違和感に気付いた。

どうやら周りから見ても目立つらしく、目が四つに増えていると騒ぐシノの声が聞こえてくる。

 

「これは…」

 

不思議な感覚だった。まるでコートを羽織っているようなのに、コートの端まで感覚が行き渡っているかのような、操作できることが、やり方が、分かる。銀色のコートが、自分が想像した通りの形で変形し、自分の体を…バルバトスを覆っていく。その感覚に、思わず三日月は笑った。

 

 

するすると、まるで最初からそれが正しかったのだと思えるような自然さで、銀色のコートがバルバトスを包んでいく。装甲のいくらかに、へばり付いた様に銀色の線が入っている。まるで消えてしまったように見えるが、バルバトスの体をあまりに自然に覆っているためにそう見えるのだろう。

昭弘は、一つ呼吸をして、次の瞬間には滑空砲を腰だめで打ち込んでいた。

 

決まるとは思っていなかったが、どうやらバルバトスの小手部分の装甲に弾かれたらしい。一瞬、小手の部分に銀色が集まるのが見えた。次の瞬間にはその脅威を認識したのか、シノが追撃をかけていた。アックスの一撃は、何時も使っている太刀に防がれている。いや、よく見れば、太刀の柄部分をうまく使って、アックスの持ち手の指を潰している。

鍔迫り合いに、バルバトスが一歩優勢かと思われた次の瞬間、流星号の肩を銀色のスパイクが貫通した。それはバルバトスの肩から伸びており、その先端が生き物のように曲がり流星号を捕らえた。最後に太刀で一閃され、流星後は腰から下が切り落とされる。

これは不味い、そう思うや否や回避行動をとった昭弘の頭上を、流星号の上半身が飛んでいく。目が回るという何とも間の抜けた断末魔を残して、岩壁に衝突した流星号は動作を停止した。

来るなら来い。そう念じながら、シールドをペンチ型に変形する。ジャンプからの上段切りを、シールドで受け流しながらバルバトスの腰を蹴り飛ばす。

 

地面を削りながらも、銀色の足か手がバルバトスを姿勢復帰させている姿を見て、昭弘は息を荒げる。

 

「いいな。それでこそ倒し甲斐があるぜ!!」

 

地を這うようなダッシュで距離を詰めるバルバトスに、グシオンがシールドを振り下ろした。浅い。それでも、僅かに頭部を歪ませたように見える。ホールドしようと腕を伸ばした瞬間に、バルバトスが上空に跳ねた。太刀を逆手に構え、シールドでさえ貫通してみせるとでも言いたげな勢いで降下してくる。直ぐに、捨てる場所は決まった。右肩を前傾に構えて、左の腕と副腕に意識を集中する。

投げる。豊久に鍛えられ続けた戦闘術の中でも、三日月に勝っていると明確に思っている業だ。

 

コンタクトの瞬間。目を見開いて見ていた。肩を前に突き出して体を構えた瞬間、バルバトスは空中で()()()。見れば太刀はすでに手放しており、何処から取り出したのか長大な、バルバトスの身の丈に迫るほどの刀身を振り下ろす寸前だ。

 

あれが。何時かあった死ぬ寸前のように、全てがゆっくりと流れている。それでも、これは躱せない。

大音響と共に、コクピットが圧壊する映像が目に映っていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「凄まじいな…」

 

シミュレーター内部の様子を映したカメラ映像を見て、マクギリスは感嘆の声を上げた。三人のパイロットたちは再戦しているが、一戦毎に三日月のバルバトスは動きが良くなっていく。

先ほどまではメイスを使った時のように慣性で機体を浮かせたり鈍器として相手のモビルスーツを叩き潰す程度だったが、今やグシオンのサブアームとつかみ合いを繰り広げながら地面に体を固定し、流星号の射撃にシールドを張っている。

射撃武器を投げ捨て、姿勢を低く突撃してきた流星号に、硬鞭を生成し叩き落とそうとするが、流星号は先ほどのグシオンのように一撃を受け流し、バルバトスのコクピットに一撃を叩き込んだ。

 

「どうなんだ、トヨさん。あれ」

「あん馬鹿ぁ、浮足立っとるど。逆に、昭弘は良か。自分の出来っ事ば知っておる」

「自分の役目、か」

 

強い。確実に、自分とモビルアーマーを倒した時よりも強くなっているだろう。それでも、不足というのか。なら、強さの果てとは、何なのか。否、果てがあるものなのか。

果てがないとすれば、常に何かが上にいるとすれば、強さの意味とは何なのか。

5回戦目にして、漸く戦いは終わった。豊久に引きずられていく三日月を追いかけようとするオルガを引き留めて、マクギリスは問うた。

 

「君は、戦いの終わりはどこだと思う?」

「それを、俺に聞くのかよ」

 

一瞬驚いたような顔をしたオルガは、呆れるようにマクギリスを見返した。

 

「それはよ、あんたが決める事じゃねぇのか?それとも、あれか?今更自分に自信が無くなったとでも言いたいのかよ」

「いや、単純な興味だったんだ。あの三日月・オーガスですら、目指す高みがある。ならば、それを従える君は?とね」

 

こんな人間は初めて見たとでも言いたげなオルガだったが、結局口を開いた。

 

「楽になりたかった。楽になりたかったんだよ。最初はな。けど、気づいたんだ。今俺は鉄華団の頭ってことでそれなりに苦労してるだろ?上に行けば楽になれると思ってたが、違う。背負うモンが増えるだけだ」

「そうだな」

 

期待していなかったと言えば嘘になる。衝動的に呼び止めた自分を、何をしているのかと我に返って驚いたほどだ。しかし、意図してか知らずか、今聞いている言葉は正に欲しかったそのものだ。

 

「マクギリス、あんた自分を労われよ」

「それは、どういうつもりで言っているのかな?」

 

相当に間の抜けた顔をしているのだろう。してやったり。オルガはそんな顔をしている。

 

「あんた、頭はあるが、だからなのかね。何でも一人でやりすぎる」

「しかし…」

「限界があるんだよ、人間には。能力にも、命にもだ。最近自分の顔を見てるか?あんた、遠くないうちに死んじまうぜ」

 

投げ渡された鏡を見て、マクギリスは苦笑した。頬は翳り、眼窩は窪んで幽鬼のような顔だ。思わず苦笑する。

 

「ガエリオだな、指金は。確かに疲れているかもしれないが…」

「おいおい、そりゃあ過労死寸前って言うんだぜ」

「君だって、最初に見た時に比べれば随分と酷い顔をしていると思うが」

 

いや、と呟きを漏らしはしたが、水掛け論になるだけだと思ったのかオルガはそのまま口を噤んだ。

 

「俺は、目的を遂げるまで死ぬつもりは無いんだ」

「つい最近、名瀬の兄貴にも言われたよ。強く、上に行きたがるのは早く楽になりたいだけじゃないのかってよ。俺とあんたは、似てる…かもしれないな」

 

マクギリスは立ち上がった。

 

「戦局は殆ど均衡を保っていると言っていい。お互い、裏も表も予想して手を打ち続けるせいなのか、はたまた。倦んでいた。それが疲れているよりも正しい答えだと思う。俺は、新しくなったバルバトスから、三日月・オーガスから何かを受け取りたかったんだ」

「それは、受け取れたのか?」

「間違いなく。君との会話でそれが何なのか、少し掴めた。これで、また迷いなく戦えると思うよ。感謝する」

 

幾分生気を取り戻した目で、マクギリスはMSドックを後にした。

地球圏を揺るがす事態がマクギリス派に伝わったのは、その次の日の事だった。




次回から終局に入ると思います。。
話があっちこっち行って文章が汚い気がするので後で修正はいるかもです。

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