鉄血の薩摩兵子 <参番組に英才教育>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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気づけばめちゃくちゃ期間が空く不思議。

今回のサブタイは精霊の守り人シリーズからいただきました。
作者は「蒼路の旅人」のシーンでも、チャグム殿下があちら側に溶けて消えてしまいそうになるシーンが語彙力を喪失するほど好きです。

☆☆☆☆☆☆

一つ前までのあらすじ

安定生活権と火星関係の発言権が欲しいオルガはモビルアーマーの最重要拠点が有ると目される大西洋到達不能極を目指し、船旅を続けるのであった…


蒼路の旅人

周囲は蒼一色だった。

蒼天の向こう側が宇宙(ソラ)だという事を誰もが知っているが、実感を与えてくれるのは天頂の薄黒い程の蒼さである。逆に、幾らか波立った海も、蒼天との境界線である水平線から視線を下げれば、深淵の薄黒い蒼さがまたある。

 

「鏡でもあるまいに、色は同じか」

 

甲板に出ていたマクギリスの呟きは、波と風の音に紛れた。ふと船の艫の方へ目を向けると、哨戒から帰還したグレイズが着艦しているところだった。大きい船であることも相まってか、殆ど船は揺れておらず、少し意外そうにマクギリスは眉を上げた。

 

「そろそろ、油を売っていられる時間でもないのだろうが…」

 

石動が探しに来る事は無い。聊か忠実に過ぎるきらいが有るのかとも勘繰るが、自分という人間を理解しているとも言えるのではないかとも思える。

 

「まあ、ガエリオが心配をするかな」

 

指揮官がそんなところに居るものではないと、先日も言われたことを思い出す。名残惜しさを感じつつも、マクギリスは暗く口を開けた室内へつま先を向けた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

夢を見ていた。

 

以前もこんな事が有ったので、覚えている。以前は暗い、地球の何処かだった。

今、三日月の眼前に映っているのは、火星の飽き切るほど見慣れた、火星の赤い空と焦げた色の荒野だった。視界の中心で、怪物が目まぐるしく動いている。

 

敵、という言葉が重なった。

 

「俺…アキレウス?」

 

眼前の敵から放たれた光の奔流が、一瞬でパージされたバルバトスの装甲に乱反射され、お互いの眼を焼くかとすら思われたが、お互いが何の逡巡もなく連続稼働する。三点射で放たれた銃弾を、怪物は羽を輝かせて加速し避ける。怪物の背後の岩山が弾着と同時に爆発した。岩石の雪崩を、怪物は再加速して避ける。

 

「クジャン!!!」

 

言うや否や、遠方から幾本もの火線がついに怪物を刺し貫いた。光り輝いていた鳥のような翼からは煙が上がり、目に見えて速度が落ちた。

 

「よくやった!!」

 

アキレウスは、弾着が必然だったと確信しているかのように距離を詰めていた。金色の穂先が突き出され、モビルアーマーのボディからエイハブリアクターが弾き出される。

 

そして、再び目が焼かれるような閃光と共に、今度は何見えなくなった。

 

「あれ…?さっきの敵、倒して…」

「もう、あれで俺は人間としては死んでしまったからね、この話はここでおしまいなんだ」

 

何時の間にか、真っ暗な空間の横にはアキレウスが立っていた。

 

「まあ、状況証拠からして自爆したんだろう。戦力の少ないこちらを効率よく削る策だよ」

「それで気づいたら、バルバトスの中に居たんだ?」

 

やや間が有って、アキレウスは答えた。

 

「厳密には、君がバルバトスに乗り始めてようやく自分の自我が有ることに気付いた、と言うべきかな。正しく仏典で語られる阿頼耶識の如く、自分を認識していたわけだ」

 

私の頭は爆発の衝撃で砕けていたのだし、正に自我を知ったとは、皮肉なものだ。そう呟きながら、首を傾げる三日月に、アキレウスは父親が子供にそうするように頭に手を置いた。

 

「判らなくてもいい。君にこの機能を使われるわけにはいかないのだし…それに、早く起きた方が良いんじゃないか?」

 

瞬きをした三日月は、モビルスーツのコクピットに居た。

 

「やっと起きたか…つっても、1分も無かったが」

 

おやっさん…雪之丞の声が、コクピットの上、出入り口から降ってくる。そっか、俺はトヨが指揮してる昭弘、昌弘にやられたんだっけ。

 

「シミュレータでも気絶しちまうのは、阿頼耶識との繋がりが他の奴とは違うからなのかねぇ…三日月、体が動かないとかないよな?」

「うん、別に」

『対モビルアーマー用にリミッターが外れていると、モビルスーツを損傷した時に体の同じ個所が動かなくなる、という症例は有ったよ』

「そうなんだ…」

「厄災戦のパイロットだっただけあって阿頼耶識に詳しいよな。でもよ、そういう事はもっと早く教えてくれよ」

 

ギャラルホルンの兵士たちも初耳、かつ同意見らしく、アキレウスの言葉に対するシノの返答に頷いている。

 

「まあ、もしそれで体が動かなくなっても別にいいよ。相手倒すのが優先だろ」

 

あっさりとそう返事をした三日月は、再びシミュレーターの回線を開いた。やや納得した顔の昭弘、昌弘とは対照的に、ギャラルホルン兵士の顔は引きつっていた。

 

「じゃあ、えっと…30の次…31回戦、いくよ」

 

水中用の装備に慣れるため、出港してから連日、ずっとシミュレータを回していた。10回戦を超えたあたりから、話を聞きつけた豊久が指揮官に名乗りを上げ、オルガ・イツカは鉄華団団員を呼び、マクギリスに声をかけられて暇を持て余したギャラルホルン兵士たちが覗きに集まり、只二人の遊撃兵、三日月、アキレウスと他小隊の戦闘を観戦している。

 

「三日月さん、これで何敗?」

「お豊とオルガが入ってから…11回で、それまでは10回やって3回だったから…」

「指揮無しなら勝ち越し、指揮が入っても半分近くかー、やっぱすごいよな、三日月さんは」

 

ライドとタカキの掛け合いに、オルガが満足げに頷いた。

 

「おい、オルガ、今は三日月敵だろ、褒めてどうする」

「そうだそうだ、それより早く作戦考えようぜ」

「その通りだ、オルガ・イツカ。ようやく1勝、勝ち越しているんだ」

 

ユージン、シノ、アインの声に、オルガは苦笑いした。

 

「すまん、つい…」

「良いって」

 

アルトランド兄弟チームの指揮官は豊久である。

 

「良か!昌弘、次も突っ込めぃ!!」

「それしかないのか、アンタは!!」

「おう、薩摩兵子ん戦はそれ以外無か。次は昭弘も突っ込めぃ!!」

「そうだな、そろそろスタイルを変えても良いか…」

 

何も考えていなさそうで、豊久は実に相手の嫌がる配置、戦法の選択指示があまりに上手かった。事実、勝利の7割はアルトランド兄弟チームが取ったものである。何も考えていなさそうなのに、何故。そう数え切れない程考えた昌弘は、ある結論に至っていた。

 

―多分、あの人いくさの天才なんだ。数え切れないくらい、いくさ、いくさってやってて、呼吸をするように戦のことばかり頭にあるから…何も考えてなさそうな事しか言わないけど。

 

オルガチームが準備を完了し、何度目なのか、モビルスーツが水中に投げ出され、シミュレーションが再開された。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

マクギリスの私室には、マクギリスと向かい合う形でイオク・クジャンが座っていた。

 

「それで…私に何の御用かな、クジャン公。立場もある。余りこの場に居る事が御身にとって良いとは思えませんが」

「私は…」

 

返答でなく、短い言葉だけがイオクの口か漏れた。瞼が固く閉じられ、手が震えている。所謂恐怖による震えではなく、あまりに力が入っていることによる震えだ。

 

「マクギリス・ファリド!!私と呑め!!」

「…構いませんが、今は職務中ですので。それと、作戦行動中は如何なクジャン公と言えど、私を呼び捨てにするのは憚りください。一応、指揮官ですので」

 

思わず、肯定の言葉が口から出た。嗜める様な言葉も。今、自分はどんな顔をしているだろうか。少なくとも、目の前のイオク・クジャンよりはまともだろうと信じたかった。目の前では、安堵、不信、驚き、怒りのような感情で数秒おきに顔色が変わる顔面が有った。

 

「失礼、クジャン公。過ぎた発言でありました」

「いや…その、立場の分からない言葉であ…でした。失礼というのなら私の方だ…です」

 

セブンスターズの議会であれば鼻で笑われ皮肉の10や20が乗り、おまけに家の品格がどうと痛烈な痛罵を浴びそうな言葉遣いであるが、マクギリスは破顔した。

 

「しかし、話は分かりました。20時にはお相手を務める事が出来るでしょう…他に同席が必要な人間は居ますか?例えばジュリエッタ…」

「あの山猿は要らん!しかし…その、もし呼べるというのであれば、三日月・オーガスを呼んではくれまいか」

「彼を。…彼は今言ったような礼儀、というものをあまり重視しない人間です。作戦の重要戦力でもありますし、失礼があったとして…」

「構わん!」

「そうですか。呼べば、他の鉄華団の人間も来るとは思いますが?」

「呼んでくれ!なるべく多くと話したいのだ!」

 

目を輝かせ、大手を振って弁を紡ぐ様子は、ラスタル・エリオンが見れば漸く何時ものイオク・クジャンに戻った、そうコメントするであろう快活ぶりだった。

 

「酒は、食料物資として私が樽で持ち込んでいる。場所は…ファリド公、良い場所は無いだろうか?」

「そうですね、一般兵用の食堂でしょうか。おそらく、酒が飲める年齢の者は全員来ますから。席が普段とは違って安物ですが、構わないのでしょう」

「無論だ」

 

その後も幾つかの話をして、イオク・クジャンは席を辞した。

 

「エリオン公の指金だな、これは」

 

同じ釜の飯を食らう、という食事外交は、正にイオク・クジャンのような屈託のない男には、そして、ある意味現金な鉄華団の面々には打って付けだろう。実際、もしマクギリスの陣営の人間が死んだ後のことを考えれば、派閥取り込みの布石としてはこの上ない。

 

「それでも、いい機会だ」

 

何人死ぬか。死ぬ前に、せめて。そう考えてしまう程には無茶な作戦なのだから。そうしてマクギリスは、報告書とフィアンセに宛てた手紙を書き上げ、船の揺れに合わせるようにゆらりと立ち上がった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「それで、今日の勝敗は?」

「結局三日月が一位だ。まあいつも通りだな」

 

マクギリスの質問に若干悔しそうな色を滲ませつつ、オルガ・イツカは杯を口元に傾けた。

 

「それで、あのお偉いさんはなんでこんな所に居るんだ」

「そういえば、君は以前クジャン公に会った事が有ったね」

「セブンスターズの党首と殴り合いとは前代未聞だぞ…」

 

上からオルガ、マクギリス、ガエリオのコメントだ。話題の三日月は、イオク・クジャンが相当に気に入っていないらしく、勢い喋り続けるイオクの言葉に、傍目で見てわかる程度には適当に相槌を打ち、偶に料理には手を出すもののポケットから取り出した火星ヤシの実を食べ続ける時間の方が圧倒的に多い。

 

「私は、エリオン公の指金と睨んでいる」

「戦後の派閥取り込みの一環だと?まあよくもそうホイホイと次の一手を打ち続ける、あの方は。あまり上手くはいっていないようだが」

 

或いは、シノやユージンあたりから手を付けていれば或いは、といった所だったかもしれないが、そう言った迂遠な手を回すには、あまりにも直情な男だった。

 

「あるいは、失敗することを見越して、君に『その気が有る』事を知らせられれば十分と考えたかもしれないな」

 

喋るマクギリスを胡乱な目で見たオルガは、天井を見上げ、息をついた。

 

「回りくどい…」

「まあ同意はするがな」

 

目を閉じて、ため息をつきながらガエリオも同意した。

 

話を聞きつけたジュリエッタ(曰く山猿)の参戦に、先ほどとは別の感情ベクトルで声を大にするイオク・クジャン。余計に辟易した、という顔で火星ヤシを摘まむも、ジュリエッタに聞かれ一粒を差し出す三日月。

 

「この私の酒より!!山猿の相手をするというのか!!」

「うるさい」

「うるさいですよクジャン公」

 

正にけんもほろろ、といった所である。鉄華団の面々には親しみやすい、といった風で受けているようだが。

 

「明日が決戦なのか、マクギリス」

 

ガエリオを発見し、風のように攫っていったジュリエッタを目で見送り、オルガは尋ねる。

 

「そうだな、指定の座標には明日の昼頃には着いてしまうだろう」

「着いちまう、か」

 

櫛が刺されたオリーブの実をくるくると回す。

 

「私は君たちの為と言いつつも、結局は死地に連れてきてしまっている、そうだろう?」

「まあ、話だけ聞けばその通りだよな」

 

齧る。酸味が、少しだけ頭の霧を晴らすような気がした。

 

「けど、必要なんだ。おかしいよな、地球で生まれた連中は、此処まで苦労しなくても『上がれる』んだろ?」

「ああ、おかしい。だから変えたい。だから力が居る。そして、持ちすぎてもいけない…悩ましいな」

 

マクギリスも酔っているのか。顔色が変わっている訳でもないのに、オルガにはそう思えた。

 

「なかなか、人間は彼の様には生きられないものだ」

「彼?」

「彼だ。島津の…」

 

大笑いする鉄華団年長組の中で、高笑いしながら1Lほどの焼酎を飲み干そうとしている豊久を見ていた。

 

「生きやすく生きたい、その為にやりたくも無い事をやっているとは、何とも矛盾だ」

「トヨは違うってか?」

「彼も苦労を知らない人間ではないだろう。それでも、不意に羨ましくなる。君もそうなんじゃないか?」

「そう…かもしれないな」

 

死んで来いと言えるのだ、豊久は。笑って死ね。俺も最後まで笑いながら、地獄の底まで走りぬいてやると。

 

「現場の大将としちゃ、俺以上だよ…俺は、あいつらに死んで来いなんて言えねぇからな」

「それでも、まっとうに生きたいなら。君が、手綱を握るしかない。其処から此方へ来るのは辛いぞ、団長」

「俺の仕事だってか?」

「そうだ。君は死ぬな、そう言う大将であればいい。どちらも必要だ」

 

幾らか沈黙して、オルガは杯をテーブルに叩きつけた。

 

「俺も混ぜろよ、ユージン!」

 

目を白黒させた昌弘の頭部から手を放し、豊久が新しい杯を放って寄越した。

 

(おい)は明日死ぬる。ゆーじんも、しのも、三日月もそうよ…だから飲め。今んうちに」

「俺は…鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ。明日の作戦がどうってことあるかよ!!」

 

叫んだ。あの豊久に啖呵を切ってやったんだと、半ばヤケクソな勢いで、注がれた酒を一気飲みした。オルガは倒れた。

 

「ああ、良か。お(まん)はそいで良か。維新斎さまん如くなぁ、お(まん)が生きて帰れば(おい)らん勝ちよ」

 

倒れたオルガの頭をガシガシと撫で、豊久は近くの椅子にオルガを放り投げた。朦朧としたオルガの意識は、喉を通過する多量の粘性液体と同時に落ちた。




え、前回の投稿日まじ?
と毎回なっている気がする。海底のMAと戦う話は書いてて無理がある気もするものなぁ…と、悩んで、あるいは気が乗らず進まなかったですね。
結局飲み会である。

さすがに次回からは戦闘です。

さて、何人死ぬでしょうね。名有は。(考えてない)
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