「エミナちゃんおつかいかい?えらいねぇ」
内地の野菜店で野菜を買った帰り道。
エミナ=イェーガーは調査兵団の兵士に出くわしていた。
「砂の雪原?」
エミナ=イェーガーは調査兵団三番隊隊長ユダ=ラインポートに聞き返した。
男はりんごをかじってこたえた。
「ああそうさ。まぁ俺も見たことはないんだが。壁の外は広いよ。
砂の雪原だけじゃない。塩の湖や、流れる炎や、いろんなものがあるらしい。そこらへんはお前の父親のエレンも知ってることだろうさ」
エミナは少し考えてみた。
そういわれても、父親であるエレンからそのような話を聞いたことはなかった。
エレンは訓練兵団時代にミカサと結婚し、憲兵団として内地で暮らすようになっていた。
自分がそのときにできた子供であることは知っている。
もしかしたら両親は自分を兵士にしたいとは思っていないのかもしれない。
「それは、それはとても興味があるよ。私も外の世界が見てみたい。もうシーナの壁を見るのもあきあきしてるよ」
ユダは笑った
「そうだろうそうだろう。だがなエミナ。調査兵団は生易しいものじゃないんだ。毎回かなり死ぬ。だがエレンとミカサの子供であるお前なら
さぞやいい兵士になるんじゃないかな」
「そういうものかな。私はお母さんほど強くないし、お父さんほど死にたがりでもないよ」
◇
「エミナも訓練兵に志願できる年だろ。まぁ考えてみるといい」
ユダと別れてエミナはイェーガー邸に向かった。
「ただいまーお母さん」
エミナがイェーガー邸の扉を開けると黒髪の女性がエミナを出迎えた。
「おかえりエミナ。少しおそかったようだけど」
エミナは野菜をミカサに渡した。
「うん、途中でユダさんと会って、ちょっと話してたら遅くなっちゃった」
ミカサがピクリとする。
「エミナ、あなた・・・」
「お母さん」
エミナがミカサをさえぎる。
「あの、訓練兵のことなんだけど・・・」
少し言いよどんだエミナの顔を見て、
ミカサは少し考えるとエミナをつれてリビングに向かった。
「エレン、エミナが・・・」
ミカサが声をかけたのはリビングに座っていたエレンだった。
エレンはいすに座って手紙に目を通していた。
◇
「あれお父さん今日は早いね」
憲兵団勤めのエレンは夜遅く帰ることが多かった。
そのエレンが早く帰ってきているのは、読んでいる手紙が原因だろうか。
「ああエミナおかえり。ミカサ、ちょっとこれを読んでみてくれ」
エレンに手紙を手渡されて、ミカサがそれに目を通す。
「どうしたの?」
エミナがたずねる。
「ああ、まぁそこまでたいした事件じゃないんだが。外地の狩猟地でえらくでかい熊がでるってらしいんだよ。
それで現地じゃ手におえないってことで、内地に援軍要請が出てるんだ」
エレンが続ける
「それで、その話は駐屯兵団にまわしてもいいんだが、ちょうどいいからこの問題は俺たちで片付けようと思う」
エレンがエミナのほうを向いていった。
「エミナ、かえってすぐで悪いが出かける準備をしよう。エミナははじめて外地に出ることになるな」
いわれて、エミナは顔を輝かせた。
◇
時は少しさかのぼって外地の狩猟地付近の森
巨大樹に囲まれて狩猟者が三人、森を歩いていた。
手には弓を構え、一人は背中にウサギを背負っている。
「ちくしょうグレンよぉ。俺が先にそのウサギを見つけたんだぞ」
グレンと呼ばれたウサギを背負った男は笑っていった。
「カカカ、そりゃあお前、先に殺したもん勝ちってもんだろう・・・シッ」
言って森の先の暗闇から出てきた鹿を弓で狙う。
狙ったとき、別の男が放った弓が鹿をしとめた。
「やっほおおおおおおう。なんだ?確か先に殺したもの勝ちだったよな?こいつぁ大物だ!」
バキ!!
そのときグレンは何がおこったかわからなかった。
目の前で喜んでいた男に何か黒い塊が衝突し、男の首がちぎれとんだ。
その近くの木にべちゃっとあたり。木が赤く染まった。
「いっひいいいぃぃい!?なんだ!?」
グレンともう一人の男が振り返ると、4M以上の巨大な熊がそびえたっていた。
「いひいいいいっ!?」
もう一人の男が反射的に弓を引き絞り巨大な熊に射掛けた。
男が放った矢が巨大な熊に突き刺さる。
その矢はなにごとでもないかのように、
巨大な熊がその手を矢を放った男にうちつける。
「ぷぎらっ!!」
男は巨大な黒い腕に上からプレスされて血を撒き散らしながら圧縮された。
残されたグレンはしりもちをついてあとずさる。
「ひっ、いいいああああああああああ!!」
巨大な熊がプレスした肉塊を持ち上げてほおばった。
ニチャッニチャッといやな音が聞こえる。
グレンはそれをきいて、はねるように振り返り全力で走り去った。
◇
狩猟地
「ふぅ、やっとついた。エミナは疲れてないか?」
「ううん!ぜんぜん!馬になんてはじめてのったよ!空を飛んでるみたいだった!」
エレンが笑ってエミナの頭に手を置く。
「そりゃあよかったな。馬を好きに使えるんだから憲兵団もまだ捨てたもんじゃないな」
「エレン・・・」
ミカサがエレンの名を呼ぶ。
「なんだよ?」
「・・・」
ミカサがそのまま黙ってしまう。
「なんだよ、何かあるなら言えば・・・」
「・・・」
「・・・ミカサは疲れなかったか?」
「大丈夫。私はこの程度で疲れることはない。それじゃあいこう」
そういってミカサは村にむかった。
「・・・じゃあわざわざ目でうながさなくていいだろ」
エレンは頭をかくと、エミナをつれて狩猟村に向かった。
◇
三人が村長の家を訪ねる。
「誰じゃ、おまえは!!?」
入るなり。老人が怒鳴ってくる。
「私の夫です」
間髪いれずミカサが答える。
エレンが前に出る
「いや、そうじゃねぇだろ。先日の要請を受けてきた憲兵団のエレン=イェーガーです」
言って書状を見せる。
「お、おおおぉぉぉぉ」
老人が書状を確認する。
「おーおーよくいらしてくださいました。そちらの美女は奥様でいらっしゃる?」
「おっしゃるとおりです。あなたとは仲良くなれそうです」
ミカサが答える。
「ではこちらのかわいいお嬢さんはお子さんで?」
「まぁ、はいそうです。なんだか照れますね」
エミナが照れるそぶりをする。
「二人は私の家族です。早速ですが本題をお願いします」
エレンに言われて、村長である老人が承諾する
「そうですな、しかしご家族を連れてくるのはいささか危険だったかもしれません。これグレン」
グレンと呼ばれた男が口を開いた
「いやだっ、俺はいかねぇ。俺はいかねぇからな!」
「何を言っておるグレン、貴様あのおお熊を放置してなんとする。この村いっさい食われるつもりか?」
老人が続ける
「すいませぬ。このグレンという男はおお熊に遭遇した唯一の生き残りでしてな。少し錯乱しておるのです。森の案内役はこのものがします。
あとは二人ほど猟師をつけますので、そちらのものに先導させてくだされ」
老人がマント姿のエレンとミカサをしげしげ観察する
「してイェーガーさん。おお熊を倒すとなると、それなりの装備はお持ちで?」
エレンが答える
「ええ、私とミカサが立体機動装置を装備してきています。万が一のときはこれで討伐しますよ」
そういってすこしマントをはだけると、エレンの腰に鈍く光る立体機動装置がのぞいた。
エレンたち三人と猟師三人が村長の家を出て巨大樹の森に向かう。
町長は無事熊が退治されることを祈りながら万が一のときはといった言葉を少し不可解に思っていた。
いずれにせよ、巨大熊が退治されれば問題はないのだが。
◇
エレンたちは巨大樹の森を歩いていた。
猟師がグレンにたずねる。
「なぁグレン、4Mの熊だって?そりゃあいくらなんでもでかすぎだろう。お前の勘違いだったんじゃねぇか?」
別の男がいう。
「そりゃそうだ。それに矢をいても気にしないって、普通熊でも矢をいられりゃひるんで逃げるもんだ」
グレンが悪態をつく。
「くそっ、言ってろ。しかしおお熊が出てからじゃ遅い、その場所まで案内したら俺は帰るからな」
エレンが言う
「ええ、それで結構です。それにしても」
エレンが巨大樹を見上げる。
「こんな巨大樹の森も久しぶりだな。ずいぶん懐かしい気がするよ」
森を見上げると日中にもかかわらず暗く、放射線状に伸びる木々の中心にすいこまれそうになる。
ミカサが言う
「エレン、立体機動は鈍ってない?私は大丈夫だけど」
エレンがかえす
「そこは大丈夫だよ。たまに訓練もしてるしな」
「そう、ならいい。エレンは104期生で第5席だったし、信頼できる」
それを聞いてエミナがたずねる
「第5席って、5番ってこと?訓練生って何百人もいるんでしょ?」
ミカサがエミナの頭に手をのせる。
「そう、エレンは優秀だった。それは今でも変わらない」
エレンが少しためいきをつく。
「そりゃあ嫌味かミカサ?お前は主席だったじゃねぇか」
「主席って1番ってこと!?お母さんもすごい!」
「兵士としてはそうかもしれない。でもあのときの私たちは無知だった」
ミカサが続ける
「まさかあれでエミナができるとは知らなかった」
◇
「あっ、ありゃあ鹿じゃねぇか!?」
歩いていると猟師の一人が鹿を発見した。
「何!?そりゃぁ大物だ。俺がいただく!!」
もう一人の猟師が走り出し、森の中に入っていった。
グレンがうめく
「おいっ!・・・いっちまいやがった。まぁここはおお熊が出たとことはまだ遠いから大丈夫か」
二人の入っていった暗闇からグシャリ、ベチャっという音が聞こえる。
「ひっいいあああああああああああ!!」
ついで悲鳴。それも途絶える。
「なんだ?」
エレンがそちらのほうを警戒する。
20M向こうの暗闇から黒い巨大な手が伸び、巨大樹の5Mあたりのところをつかんだ。
そのつかまれたところが血で赤くそまる。
「ああ、あれは・・・あれは・・・」
グレンがあとずさる。
森の奥の暗闇から4Mを越す巨大熊が姿をあらわした。
グレンがしりもちをつく
「で、でた。・・・・でたああああああああああああ!?」
エレンがグレンに言う
「グレンさん、ここはもう結構です、逃げて・・・」
エレンがグレンのほうを見ると、グレンはすでに逃げ出していた。
20M先の巨大な熊が三人を確認し、そしてほえた。
ぐおおおおおおおおおおおおおああああ!!
熊の巨大な口から発せられる轟音が20Mさきのエレンたちの皮膚をビリビリ振動させる。
エミナが不安そうにエレンにたずねる。
「お父さん、私ちゃんとやれるかな?」
エレンがエミナの手を握る。
「ああ、大丈夫だ。エミナには、はじめての実戦だな」
ミカサがエミナの頭にポンと手を置く。
「危ないときは私たちがあれをやる」
「う、うん。わかった。じゃぁいくね」
エミナはそういって一歩前に歩き。
右手の指輪を操作してパチンと刃を出した。
「お父さん、お母さん、ちゃんと見てて!」
指輪のちいさな刃がエミナの指を切る。
稲妻のような音があたりにとどろく
がああああああああああああああああああっ!!
咆哮とともに5Mの巨人が巨大熊の眼前に現れた。
◇
エレンが5Mの巨人を見上げてつぶやく。
「や、やっぱり俺たちがやったほうがいいんじゃないか?」
ミカサがこたえる
「これはエレンが言い出したことでしょう?エミナは巨人の力を支配しなければならない。それは、イェーガー家の宿命なのだから」
5Mの巨人は首までかかる黒い長髪で体は女型でマッシブな体系をしており、体からは蒸気を上げていた。
その巨人が眼前の巨大熊に歩いていく。巨大な足がズシンズシンと音を上げる。
その巨人を確認して巨大熊が咆哮した。
があああああああああああああああっ!!
そのまま両足立ちのまま、巨人に向かって黒い巨大な腕を振りぬく。
「エミナあぶない!」
エレンがさけぶ
熊の黒い巨大な腕がエミナの顔をとらえる。ガァンと轟音が響く。
巨人はなぐられてたたらを踏むと、うなりながら右腕をふりかぶり、
それを巨大熊にたたきつけた。
エミナの巨大な腕が巨大熊の腹部にめり込む、
熊はふきとばされて後ろの巨大樹にめり込み、巨大樹を倒すと。
叫びながら唾液をまきちらしてエミナに突進してくる。
があああああああああああああああああっ!!
エミナもそのまま巨大熊にダッシュする。
ダンダンダンダンダンダン。
巨大な右腕を振りかぶり、巨大な熊の腹に打ち込む。
「ぐるあああああっ」
うめいてよろめく巨大熊の腹にさらに左腕をアッパー気味に打ち込む。
ガァン!!
轟音がとどろき、5Mの巨大熊の巨体が少し浮き上がる。
巨人はさらに右足を高く掲げる。
ピキピキピキピキと音がして右足が硬化していく
「がぁぁぁぁっ!!」
巨人が叫び、巨大な右足をよろめく巨大熊にふりおろす。
高速の右足が熊の脳天を直撃し、そのまま巨大熊の体を裂き。
地面まで到達すると巨大熊は脳天から真っ二つに両断されてそれぞれ地面に倒れた。
◇
巨大熊が真っ二つに両断されて地面に崩れ落ちると、
5Mの巨人も地面に倒れ、ついで崩れ始めた。
「エミナ!!」
エレンとミカサが巨人のうなじにかけよる。
巨人のうなじから、ズボッという音とともにエミナが顔を出した。
エミナがエレンのほうを向く
「お、おとうさん、なんだか疲れた」
エレンがエミナを抱きかかえる。
「エミナ、よく、よくやったぞ」
エレンは半泣きでエミナを抱きしめた。
◇
エレンはエミナを背に馬を走らせていた。
隣にはミカサの馬がついてきている。
「ねぇお父さん」
エミナが話かける
「私、私訓練兵に志願しようと思う」
言われて、エレンはしばらく黙って、言った。
「いいだろう。この力は兵団の中で組織的に使ったほうがいいんだ。でも命がけになるぞ」
エミナが答える
「いい。私、怖くない」
二頭の馬の影が伸び、細長い影が前後する。
怖くないわけはないだろう。エレンは思ったが口には出さなかった。