美少女になって生まれ変わったら周りが全員美少女な件について 作:生後一ヶ月で課長になった男
唐突だが、とある男の話をしよう。
その男は、まぁまずまずといった容姿と能力、そして少々偏った趣味を持ち合わせていた。
こと現代の日本においては一般的というレッテルを貼り付けられやすい人種であり、かと言って弛まぬ努力によって何かしらの功績を残そうとした訳でもなく、単純に言葉で表せば「平凡」だ。
そんな彼が大した目標を持たないままに、高校生活の、余りにも自由過ぎてむしろ束縛すら感じるような時間を無気力に満喫していた頃、その瞬間がやってきた。
ボーッと道を歩いていた彼が最期に見たのは、自分に顔を向けているトラック。
端的に言うと、彼は死んだ。
本来なら話はそこで終わりである。ああ、なんとも不運な事だと一言投げかけられるだけで済むような、取るに足らない話。
だがしかし、彼はその後、いつの間にか何処かに立っており、一つの人らしきモノと対面していた。
ソレはこう言った。男を別の世界へ生まれ変わらせる、と。
それは現代日本のポップカルチャー界隈で人気の、転生というやつではないか!?という極めて論理的な推測により産み出された結論によって、彼はソレを仮に神と呼ぶ事にした。
更にテンプレートな事に、一つだけ思い通りの能力なり道具なりを贈ってくれるとの事、これには男も大歓喜した。
そして彼が何と願ったか、それが、
「美少女にしてください!オナシャス!」
コレである。
彼にはとある願望があった。それがこの、美少女になる事だ。
傍目から見て余りに愚かだが、心が広いのか意外とこういう要望が多いのか、神は一切の躊躇もなく了承した。
そうして彼は転生し、二度目の人生を幸せに過ごした、なんて事は無かった。
もう一度言うが、彼は平凡である。それ故に前の人生では大した事もせずに、無気力なままに人生を終えた。
そんな彼が、容姿が変わったというだけで急に物事に意欲的になるかと聞かれれば、答えは否である。
というより、なまじ小中学校等は既に経験済みなのもあって無気力さに拍車がかかり、結果、前回では少なからず居た友達も最早少ないとも言えない程の数しか作れず、一番の友達は深夜アニメであるという状態。
更に言うのなら、容姿だって特別優れたものではない。
この世界の女性は軒並みレベルが高く、ちょっと街を歩いてみれば美少女なんてすぐに会える。
むしろ、生まれてきてからなんのケアもしていない分、劣っているのではなかろうか。
つまりは、前回と何も変わっていない、否、悪化しているのだ。
そして、そんな彼もとい彼女は、何を隠そう散々顛末を語ってきた私である。
ああ、正直に告白しよう。私は人生を舐めていた。
自分が平凡なのは容姿が平凡だからであると思い込んでいた節があるのは否めない。私はどうしようもなく愚かであった。
まぁ、かと言って今更どうしようもないというのもまた事実。結局、私は私であるというだけの話だ。
それに、今日からはなんと!高校が始まるのである。
高校生活、それはいわば青春というものの代表的スポットと言えるであろう。多くの人はここで恋をしたり、部活に励んだり、なんか特別な集まりを作って絆を深めちゃったりしているのだろう。
いやまぁ、実際に体験した事はないし、内心では、そんなまさに青春と言った感じのイベントなぞ、ある筈も無いと思っているが。
しかし、希望を抱くだけならば自由。実行に移さないのならば、どんな妄想をしてもOKです。
耳をすませばのような恋愛は本当にあるかもしれないし、テニス部は皆何かしらの能力を持ってるかもしれないし、何処かの学校では文芸部が乗っ取られてSOS団なるものが出来上がっているかもしれない。
そう、未来は無限大、だって可能性感じたんだ。いっそ思いっきり悪目立ちする方向性でも良いのではないだろうか。
なんだコイツおかしいな、という風な感想を引かれない程度に抱かせて、交友関係を築く。考える程名案な気がしてきた。
そうして、私は明日へ進む為の一歩を踏み出した。
「皆さんこんにちは!戸山香澄15歳です!」
一歩目から躓いたでござるの巻。
なんだコイツは、強烈過ぎる。何故年齢を言っている。ここに居る全員同い年だろ。
いかん。これはいかんですよ。題して「へっ面白ぇ女だ」作戦を実行すれば良くて苦笑、最悪、初日から教室中を凍りつかせた女として名を馳せてしまうだろう。
「キラキラ、ドキドキしたいです!」
終わった。二重の意味で。今もほら、可愛いなんて感想を苦笑混じりに呟かれているではないか!大体、星の鼓動ってなんだ?素敵ワードすぎる。しかも言った後に小首を傾げてる辺り、コイツ天然だ。
無理、これには勝てない。これの後で印象付けるのは唯でさえ至難の技であろうに、私はよりによって、
「
その、直後であった。
「やっぱり、地道にやるしかないよね」
人生に楽な道はない。そんな事はこの二回目が始まってから嫌というほど思い知らされてきたではないか。故に私はめげない。
別に、ここで友達を作ってしまっても構わんのだろう?という訳で初対面なのにいきなり一緒に下校するという、割と日常系アニメなんかではお馴染みなような気がしなくもない手段を取ろう。
そう思い、席から立って周りを見てみるが、なんと、誰も彼もが早速徒党を組んでいて、最早一人だけなのは私のみという勢いである。
どうしよう、普通に寂しい。
自分だけ一人なのはどうしても嫌だったので諦め悪く探してみると、居た。名前は確か、花園たえ、だった筈だ。正直、戸山さんの自己紹介が強烈過ぎて、名前以外、殆どどんな人物なのか分からない。
それでもやっとの思いで見つけた同士、ここで手放す道理はないが、しかしそれは些か自分勝手ではなかろうか。所詮、このシンパシーを感じているのは私だけだ。
彼女の立場で見れば、私は一秒たりとも視線も言葉も交わらせた事の無い相手。そんな奴が急に一緒に帰ろうと誘ってくる。不気味というほかない。
泣く泣く私は諦めた。同じく一人で帰る人が居る、それだけでこんなにも心が救われている。自分の身勝手さに少し泣きそうになる。
家に帰った私はなんとなくギターを弾くことにした。なんとなくである。決して友達作り用に作戦を考えるも、行き詰まったからその気分転換に、なんて事は決してない。
半ば物置のようなその部屋にそのギターは眠っている。所謂、アコースティックギターというやつだ。元々は姉の物であるのだが。
姉という女は、まぁ平凡と言うに相応しい人物であった。それが何を血迷ったのか、高校に入った途端、急に音楽をしたい等と言い出した。
そうして必死に働いた姉が、バイト代と多少のお小遣いから苦労して買い上げたのがこのギターという訳だ。
私はギターを携え、暫く考える。
「……アレにしよ」
『You make me feel so bad 』個人的にかなり好きと言うのもあるが、この曲を選んだのは単純に、久しぶりに姉の顔を思い出したからだろう。
「煙草の吸いがらが燃えている 空気清浄機のフィルターに反応してしまう」
私にとって姉という存在は不愉快であった。その平凡ながらなんの努力もせず、ただ日々を無為に過ごす様が、まるで
「思い出して 更にムカついて」
そんな姉がドヤ顔でギターを持ってきた時は苛立つと同時に、何処か自分が感動しているのが確かに分かった。
「思い出して 更にムカついて」
ああ、ちゃんと目標が出来たじゃないかと、それがどんな些細な事でもちゃんと見つけられたと言うのが私には無性に嬉しかったように思う。
「二度と会いたくない」
そしてそんな姉は、ギターを買って半年もしない間に死んだ。
「You make me feel so bad」
いつだって、あなたは私を不愉快にさせる。
書いてて気付いた。一話の時点でバンドリ要素全然無いなって。