美少女になって生まれ変わったら周りが全員美少女な件について 作:生後一ヶ月で課長になった男
さて先日の、ちょっと痛い系女子を演じて交流を試みる、という計画を天然という最大にして最強の障害に台無しにされた私は無論の事、あらゆる方向性から未来の友達候補へコミュニケーションを試みていた。
そう、私はここ数日、ずっと他人とのコミュニケーションについて研究していたと言っても過言ではない。それくらいの心意気で私は対話に挑んでいた訳なのだが、どうにも結果は芳しくない。
何故だか知らないが、私が幾らにこやかに話しかけようとも何処かぎこちなさを感じるのである。
これはもしや会話術以外の要因があるのでは、と思い至り、早速情報を収集、というか昼休みにトイレで偶然会話を聞いたところによると、曰く、ずっと無表情で、中学の頃から話しかけづらい印象があったとか。
「表情……かぁ」
盲点でござった。そりゃあぎこちなくもなりますわ。
相手にしてみれば、眉一つ動かさない癖に会話には偉く積極的に参加してくるのである。これは怖い。
いやあんまり鏡とか見ないしね。こう、まさに愛想を体現している!って感じの表情を常にしているつもりだったのだが、まさか全くもって出来ていないとは。
なんにせよ、このままではダメだろう。ひとまず表情筋を動かすという事を知らなければ!
「かたっ」
めっちゃ堅い。私の表情筋、テコでも動かんと言った感じだ。何とか笑みを作っては見ても、なんかこう、曲げてはいけないところを曲げている感じがある。
おかしい。前回ではここまで意識せずとも笑顔の一つや二つ作れた筈なのだが。
こうなれば最終手段、名城式スマイル術を実行せねばならないだろう。仕組みは単純、人差し指で頬を持ち上げれば良い。
「むぅ」
中々に不細工ではあるが一応笑っているようには見える。後はこの形を維持したまま……とそこまで思考した瞬間。
「名城さん?」
私は一瞬で真顔になった。
「笑顔の練習?」
と、そう訊いて来るのは先程、私が醜態を晒したばかりの山吹紗綾である。
「そう」
結局、大方話してしまった。
あの状況ではどう足掻いても言い訳出来ぬで候。せめて「かたっ」とか言ってる時なら良かったのに。ままならない。
「変かな?」
「いやぁ……ただ、ちょっと意外かなーって」
意外とは、それこそ意外である。
多かれ少なかれ人とは他者と交流したくなるものだ。その為の練習というのは、不自然であっても不思議では無いと、私なんかは思うのだが。
「名城さんって、なんか自分から一人になってるってイメージ勝手に持ってて。ごめん……」
「いや、別に気にしてない」
それについては自分でも心当たりがある。
非常に不愉快ながら、姉の死というのは存外、私の精神にショックを与えたらしい。
中学生の頃、姉が死んでから暫くの間、私はどうにも他人との付き合いというものを鬱陶しがっていたのだろう。
「それで、友達作りだっけ?」
「当分の目標」
結局の所、自分で蒔いた種という事だろう。ならば尚のこと、私が努力せねばなるまい。
「とりあえず、練習を続けようと思ってる」
「笑顔の?」
「うん」
「無理しなくても、普通に話してればそのうち皆慣れそうだけどね」
「私としては、もっと円滑に事を運びたいと言うか……」
それにこの、前まで出来た事が出来なくなっているというのは、個人的に少し具合が悪い。
まるで『前の自分』という存在が自分の中ですら消えかかっているような気がしてきて、恐ろしくすらある。
未だに未練じみたモノを抱えているらしい自分に、内心では苦笑してみせたものの、成程、ぴくりともしていない。
「うーん」
「どうしたの?」
「いや、苦笑いしたつもりだったんだ」
「そ、そうなんだ?」
こんな事を話している間にもうじき教室である。
私が山吹さんに時間を取らせてしまった事を謝罪しようとした、その時であった。
「あっ!さーやと……名城さんだ!」
そう私達を呼ぶ声がしたのは。
戸山香澄と山吹紗綾は仲が良い。確か初日にはもう一緒に帰っていた筈だ。さぞかし付き合いも長いのだろうと思って訊いたのだが……
「ううん。さーやと私、会ったの入学式の時が初めてだよ?」
え、なにそれこわい。これは戸山さんの社交性に驚くべきなのか山吹さんの寛容さに驚くべきなのか。
「それはなんか、凄いな」
「あはは……」
「そうかなぁ?……あ、そうださとりん」
「さとりん?」
なにその幻想感溢れるフレーズは。
「え?だって、さとりだよね?」
「うん」
「だからさとりん!」
「あぁ……うん、そうだね」
もうそういう事でいいか。私は今、ここが前とは違う世界であるという事を痛感していた。
「そうそう!それでね、さとりんはなにか部活、入るのかなって」
「部活は……」
率直に言って興味は無い。放課後にわざわざ残って何かするくらいならアニメを見るなり何なりしたい、というのが私の意見である。
「どこにも入らないかな、多分」
「そっかぁ……さとりんもかぁ……」
「も?」
「あぁ、私も」
「なるほど」
山吹さんも同士だったとは。いやまぁ、私のように単純に面倒だからなのかは分からないが。
「そういえば香澄はもう決めたの?部活」
「それがまだ……」
「戸山さんは探し中なんだ」
「うん!剣道にテニスに将棋とか……色々見てみたんだけど、どれも全部楽しそうで……決められないんだよね」
それは大変アクティブで結構な事だ。彼女はきっと今が楽しくて仕方ないのだろう。私には、どうにも真似できそうにない。
「まぁ、焦らなくても大丈夫じゃないかな。」
「え?」
「うちの姉なんか、高校になってから急に音楽がしたいーなんて言ってギターまで買ったくらいなんだし。」
「音楽……」
「そう、だから……うん、戸山さんのやりたい事、きっとすぐ見つかると思う」
なんとも投げやりな助言であると自分でも思うのだが、実際、「やりたい事」なんて急に見つかる物だと私は思う。
何故かと根拠を尋ねられると困るのだが、強いて言うのなら、そう、私が未だに、姉が音楽を始めようと考えた理由を全く知らないからだろう。
あんなにも無気力であった姉が急に音楽に目覚めたりしたのだから、その気に満ちている戸山さんに「やりたい事」が見つからない筈もないだろう。彼女はそれぐらい、輝いている。
「さとりーん……!」
「ちょっ」
急に抱きつかれるのはびっくりする。
「……戸山さん、あの」
「香澄でいいよ!」
それはちょっとハードルが高すぎませんかね。
結局あの後、香澄と共に紗綾まで名前呼びする事になった。交友関係が一気に二人も増えた事は喜ばしいのだが、やはり少々気恥ずかしいものがある。
それにしても、
「やりたい事か」
なんとも説得力のない事を言ってしまった。前回が高校生までという短い期間だったとはいえ、二回もの人生を経験しておいて、私はやりたい事なんて一つも見つけていない。
「違うな」
正確には、見つける努力もしてこなかったのだ。
別に、自分以外にこんな人間が居ないとは思っていない。むしろ、過程はどうであれ、やりたい事が無いなんて有り触れているのではないだろうか。
しかしながら自分の場合、なんの努力もしてこなかったというのが致命的である。そのせいで私は、なにもしていないのに自身の無意味さを嘆くという、この世で最も傲慢なる所業をしているのだ。
本来死ぬべきは姉ではなく私の方ではなかったかと、たまに思う。
駄目だ。どうにも夜は自己嫌悪に陥りがちである。今聴いていた曲のせいだろうか。
「お風呂入ろう」
こういう時は気分転換をするのが一番良い。
「バンドやるんだ!」
次の日の朝、教室へ向かう途中で香澄がそんな事を言った。
どうやら、彼女は早速見つけたらしい。
無理矢理原作キャラと絡ませていくスタイル。あと紗綾と香澄の話し方はこれで良いのか……ぶっちゃけアニメの会話のレベル高すぎて再現無理。