シチリア 4日目
シチリアIS学園
「明日はシチリア南部の大洞穴の調査と決まったよ。今日は調査に備えるということでも休日にするらしい」
シチリアIS学園の談話室でサラ=ハースニールがセシリアに言った。
「あら、そうですのね」セシリアが答える。
それじゃあ今日はどうすごそう。セシリアは想像をめぐらせた。
シチリアIS学園都市に行くのもいいし、海岸を歩いてみるのもいいかもしれない。
先日のカフェで紅茶を楽しむのも悪くないだろう。
「あ、そういえば今日は郊外で大会がありますね」
アルジャー=アウシェンビッツが言った。
「そういえばアルジャーは大会に出るんだっけ」と、その隣のハリー。
「大会ってなんの大会ですの?」セシリアが尋ねる。
アルジャーがセシリアにこたえていった。
「狙撃大会ですよ。シチリアで数ヶ月に一度開かれるんです。クレーと地面からでる標的を狙撃ライフルで打ち抜く競技ですよ」
「へぇ、狙撃ですか」とセシリアがつぶやくようにいった。
「アルジャーは毎回いいところまでいくんですが、いつも優勝はのがしてるんですよ」とハリー。
「じゃあアルジャーは今日も大会に行くのかい?」と言ってサラが続ける。
「私は今日は明日の調査の会議で会議室に詰め込みだよ。まぁ大会にはそんなに興味がないからいいけどね。それじゃぁ夜は学園都市までサレルノ楽団を聞きにいかないかい」
セシリアがアルジャーにいう。
「アルジャーさん、わたくしもその大会に少し興味がありますわ。もしよろしければわたくしも連れて行っていただけませんこと?」
「セシリアさんも来てくれるんですか?ええ、ぜひお願いします」とアルジャーが快諾する。
「ありがとうございます。ラウラさんもいかがですか?」セシリアがラウラに尋ねる。
同じテーブルでコーヒーを飲みながら新聞に目を通していたラウラが顔を上げる。
「ふむ、そうだな。私も今日は特に予定を考えていないし、かまわんぞ」
「それでは決まりですわね」
セシリアが両手を合わせていった。
「それでは午前はそちらにまいりましょうか。アルジャーさんよろしくお願いしますわね」
アルジャーがうなずく。
「はい。会場へは電車で40分ほどです。それじゃぁいきましょう」
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シチリアの沿岸を電車が走っていく。
電車の中からは紺碧に輝くエーゲ海が見渡せた。
電車の横長のイスにラウラ、セシリア、アルジャーと並ぶ。
電車に揺られながらラウラが口を開いた。
「それにしてもツーコアの無人ISとは、ここの研究もかなり進んでいるんだな」
アルジャーが答える。
「そうですね。シチリアのIS学園都市にはかなりの研究企業がひしめいていますし、サラさんのグラビティカの演算データなどもかなり研究データとして役立てられているそうですよ」
「あの専用ISのデータならどの研究企業ものどから手が出るほどほしがるはずですわ」とセシリア。
「それにサラさんもどこか超然としているというか、おととい無人ISを撃破したあとにもすぐに訓練を再開なさいましたし、そのあとわたくしも海まで投げ飛ばされましたわ」セシリアが少しガックリしたように言った。
それを聞いてアルジャーが少しわらった。
「アハハ、サラさんはちょっと抜けてるんですよ。IS機動になればまるで精密機械ですけどね。学園都市にはほかにもいろんな施設があるので大体のことはできますね。最近はトレーニングジムまで作られて、そこがえらく本格的なんですよ。私たちはIS学園のトレーニングルームがあるのでいいのですけど」
「食べ物もとてもおいしいですわね。アンチョビのパスタも嫌いじゃありませんわよ」とセシリア。
「このあたりは漁業もできますからね。鮮度もとてもいいですよ」とアルジャー。
そのあともたわいのない話をしていると電車が目的の駅にとまった。
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「こちらが会場ですのね」
花をあしらったワンピースを着たセシリアが会場を見回す。
会場ではいくつかの区画があり、近くの区画では狙撃銃を掲げたシチリア学園の女生徒が
遠くで出現したクレーを狙っていた。
アルジャーにつれられて会場を歩いていたセシリアがふとそちらをみた。
その女学生は狙撃銃で遠方の的を狙い、しぼるように引き金を引いた。
銃身の薬きょうが炸裂し、爆発的に膨張する薬品が弾頭を加速させ、
加速した弾頭がライフリングにしたがって回転し安定性を得る。
そのまま加速し発射された弾頭が空気を切り裂いて的へと疾走した。
その弾頭がすんでのところで空中をとぶクレーからそれる。
少女が発射した第二射がクレーを粉々に破壊した。
セシリアがそちらのほうを眺めていると、的は空中を飛ぶクレーと、地面から出てくる人型の的。
それを6装式の狙撃銃で狙撃する、というようなものらしかった。
「やぁアルジャー君。今回も来たんだね」
セシリアが声がするほうを向くと、長身で黒い短髪の眼帯をした男がアルジャーに話しかけていたのがわかった。
彼はたしかマッツィーニというシチリアのマフィアだ。
「あなたはたしか、マッツィーニさんといいましたかしら、何か御用がありまして?」とセシリア。
マッツィーニは片手を上げていった。
「いや、警戒しないでくれ。俺はハースニールさんの友人に手を出したりはしないよ。魅力的な女性だとは思うがね」
マッツィーニが言葉を切って続ける。
「今日は純粋に大会に参加してるだけさ。おい!ダンバル!」
マッツィーニがひとつの狙撃区画に向かって叫んだ。そちらのほうには黒髪で長髪の男が狙撃ライフルを構えていた。
男はライフルを構えたまま動かない。
「ちっ、あいつまた入ってやがる」マッツィーニがうめくように言った。
セシリアとラウラにアルジャーが説明した。
「やはりダンバルさんも来てましたか、彼は狙撃大会の優勝の常連ですよ。私もダンバルさんにいつも勝ちを持っていかれるんですよ」
セシリアにはマッツィーニが言った『入る』と言った意味がわかった。
狙撃銃を狙って神経を集中すると、その集中が一定を超えたときに何も聞こえなくなり、あたりが静寂に包まれるのだ。
男が狙撃銃を続けて二発連射した。狙撃銃のはるか遠方で空中を飛ぶクレーが二つとも真芯をとらえられて粉々に砕けた。
マッツィーニが男を呼ぶと、ダンバルと呼ばれた男がこちらに歩いてきた。
「やぁアルジャー。来ると思ってたよ」とダンバル。
「こちらのお嬢さんたちも大会に参加するのかな?」
ダンバルがセシリアとラウラのほうを向いていった。
「もしよかったら俺と勝負しないかい?俺が勝ったら今日一日付き合ってもらうってことで」
言われてラウラが鼻を鳴らした。
「フン、私には既に嫁がいるし、この大会に参加する気もない」
「わたくしはかまいませんわよ」セシリアが言った。
アルジャーがあわてる。
「え、いいんですかセシリアさん」
「よし、じゃぁ決まりだな」とダンバルが小さく笑って言う。
「ただし」セシリアが付け加える。
「もしわたくしが勝ったら、それなりのものを要求させていただきますわそうですわね」
セシリアが人差し指をアゴにやって少し考えていった。
「マッツィーニさんたちはパーティを開けるようなクルーザーを所有してるんでしょう?それを5隻ほどお貸しいただけますかしら」
「セ、セシリアさん」とアルジャー。
「だいじょうぶですわよ。わたくしたちは日本の学園生ですし、マフィアとの癒着ということにもなりませんわよ。どうです?」
言われてマッツィーニがこたえる。
「ふむ、こちらはかまわないよ。ダンバルが負ければね」
「それじゃぁ大会前に少し練習をいたしましょうか」
セシリアがそういって8人用の無人の射撃区画に歩いていく。
「じゃぁお手並み拝見といこうか」
ダンバルたちもそちらのほうに歩いていった。
セシリアがその射撃場をひとしきり確認すると、狙撃用のライフルを目の前の机に並べて、一本を手にとった。
「ラウラさん、バディをお願いできますか?」
「私か?うん、かまわんぞ」ラウラがセシリアの横に位置どる。
マッツィーニが標的の起動スイッチに手をやっていった。
「それじゃぁスイッチを入れようか。500m向こうにクレーと人型の標的が出るからそれを撃てばいい」
セシリアが6連装の狙撃ライフルを構えてはるか遠方を狙った。
「準備できましたわ。いつでもかまいませんわよ」
「それじゃぁやってみよう」マッツィーニが言って、スイッチに手を伸ばした。
500m先に、クレーがひとつ飛んだ。
セシリアはそれに銃口を合わせて引き金をしぼった。
高速の弾丸がクレーを粉砕する。
次に人型の標的がひとつとクレーがひとつ。
セシリアはそれらを正確に射抜いた。人型の的の中心をとらえる。
次に空中に4つのクレーが疾走した。
この狙撃区画は8人用で、相応の標的があらわれるようになっている。
セシリアはその標的を狙っていった。
「ラウラさん、ライフルを」
言われてラウラがセシリアにライフルを手渡す。
セシリアはそのライフルを受け取り両手にライフルを構えると、続けざまに4連射した。
狙撃銃から高速で疾走した4つの弾丸が4つのクレーをすべて破砕する。
さらに人型の標的とクレーが多数あらわれる。
セシリアはそれらを両手のライフルですべて射抜いた。
ガキン
6連装の狙撃銃が弾切れした。
「ラウラさん、次ですわ」
ラウラがさらに二つの狙撃ライフルを手渡す。
セシリアはそれを手にとって構えると、
500m先にあらわれる標的をすべて射抜いていく。
「次ですわ」
ラウラからさらに狙撃銃を手にとり遠方の標的を打ち抜く。
次の瞬間、500m先で4つのクレーと二つの人型の標的があらわれた。
そのときセシリアは標的を見据えて、両手の狙撃銃を空中に放り投げた。
2本の狙撃銃が回転しながら空中を舞う。
同時にセシリアが横にクルリと回転する。花をあしらったワンピースがふわりと浮いた。
セシリアが一回転したときに回転しながら落下してきた二本の狙撃銃を手に取り、その瞬間に6発のライフル弾を連射した。
6発の弾丸が空気を切り裂いて疾走し、4つのクレーと2つの人型の標的を芯をとらえて打ち抜いた。
「ビュ、ビューティホー・・・」それを見ていたマッツィーニがつぶやくように言った。
「ふぅ・・・」
セシリアが言って狙撃銃を机に置いた。
「ウォームアップはこのくらいでよろしいかしら。それじゃぁダンバルさん。大会ではよろしくお願いいたしますわね」
言ってセシリアがニッコリ笑った。
言われたダンバルが両手を挙げた。
「いや、いいよ。俺の負けだよ」
ダンバルが言ってマッツィーニに目配せする。
「わかったよ。ええと、大型クルーザー五隻だったかい。すぐ手配しよう。操縦主つきでいい」
「あら、いいんですの?ご厚意に感謝いたしますわ」セシリアがほほえんで言った。