昼下がり
紺碧に輝くエーゲ海の上に5つの巨大クルーザーが浮かんでいた。
その中のひとつのクルーザーの甲板から白い帽子のつばを揺らしながらセシリアがエーゲ海を眺めた。
「きれいな眺めですわね」
クルーザーのしたには熱帯魚が遊泳している。
5隻のクルーザーにはIS学園とシチリアの学生たちがそれぞれ乗ってきていた。
すずしい乾いた風を楽しんでベンチに座るものやバーベキューをしているものなどさまざまだ。
と、セシリアの眼下の熱帯魚が突然モリで突かれ海面から飛び出した。
セシリアが驚いてそちらを見ると、ウェットスーツに身を包んだサラ=ハースニールが顔を出した。
「セシリアさん。魚をとったんだけど食べないかい?フライがおいしいんだよ」
クルーザーの広い甲板の上でバーベキューの炎がパチパチと音を立てている。
「明日の調査の大筋は大体決まったよ。シチリアIS学園都市のほうからもだいぶ注文が入ったけどね」
サラが言ってバーベキューの肉を裏返した。
ラウラはベンチに座ってISの雑誌を読んでいた。
「ラウラさんはここでもISの雑誌をお読みになるんですのね」
少しガックリした様子でセシリアが言った。
「ふむ、なかなか興味深い記事もあるぞ。セシリアもどうだ」
セシリアが丁寧に断るとラウラはまた雑誌に目を落とした。
こういうときくらい別のことに目を向ければいいのに。セシリアは思った。
ラウラのこういう趣味がISの豊富な知識につながってはいるのだが。
「狙撃大会はどうだったんだい?」サラがアルジャーにたずねた。
「ええ、結局セシリアさんが参加しませんでしたから、ダンバルさんが優勝しましたね。もっともダンバルさんは少し複雑そうでしたが」
とアルジャー。
「それはそうかもしれませんね。セシリアさんとの勝負には負けてしまったわけですし」とハリー。
アルジャーはどうだったのかとサラが聞くとアルジャーは頭をかいた。
「私ですか、私は・・・3位でした・・・精進します」
「狙撃の感覚は経験でとげる部分も少なくありませんから、回数をかさねることにも意味がありますわよ」とセシリア。
「アルジャーが優勝するのはまだ先のことになりそうだね」とサラがカラカラとした様子で言った。
その後日が落ちるとセシリアたちはシチリアIS学園都市の楽団を鑑賞して、夕食をとってから宿に向かった。
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海上コテージ
日が落ちてしばらくたちあたりが暗くなっていたとき、セシリアは寝る前に
バルコニーでコテージの明かりに照らされて青く光る海の音に耳を傾けながら、
紅茶を飲みながら本を読んでいた。
もう一人のルームメイトは今日は別のコテージの友達のところに泊まるらしく、
コテージにはセシリアがひとりだけで波の音以外は何も聞こえなかった。
セシリアが本のページをパラっとめくっていると、玄関に誰か尋ねてきているのがわかった。
セシリアが本を置いてそれが誰か確認すると、それはサラ=ハースニールだった。
「セシリアさん。今時間はあるかな?少しいいかい?」
「ええ、かまいませんわよ。どうぞお入りになってくださいな」セシリアがサラをコテージに招きいれた。
セシリアはバルコニーのイスにサラを座らせると、新しく紅茶を入れて、向かいのイスに座った。
「明日は大空洞の調査だね。このことについてはIS学園側の協力がなかったらできなかったことだよ。本当にありがとう」
「いいんですのよ。お役に立てて光栄です。オルコット家の誉れというものですわ」
「そういってもらえるとありがたいよ」と、サラ。
セシリアがはじめてサラにあったときからサラの目のまわりには白い肌と対照的に黒いクマが覆っていたが、今はそれがもっと濃かった。
ずいぶん疲れているのかとセシリアは思った。
「そういえばセシリアさんはイギリスの貴族の人なんだったよね」と、サラ。
「ええ、そうですわ。イギリスの社交界でオルコット家の名前を知らないものはおりませんわ」とセシリア。
セシリアはオルコット家を守るために小さいころから血のにじむような努力を重ねてきた。
その結果としてイギリスの代表候補生になったといっても過言ではなかった。
「そうか、一筋縄じゃなかったというわけだ」とサラ。暗い海を眺めて続ける。
「ちょっと湿っぽい話になるけど、昔の話をしてもいいかな」とサラ。
「ええ、是非お聞きしますわ」とセシリア。
サラがありがとうと言って話はじめる。
「私の故郷はスイスの東部でね。ある古い街に暮らしていたんだ」
サラが言葉を切って続ける。
「私が6歳のときだ。いつものように学校から帰ると、街が燃えているのが見えたんだ」
「街が?ですの?」セシリアが驚いて言う。
「一機のISが街を燃やしていた。私の両親はISの研究者だったらしいんだ。私は幼かったんでよくは覚えていないんだけどね。
それで街が狙われることになったのかもしれない。街の生き残りはほとんどいなかったよ。私とあとは数人だけ」
「それは、お気の毒ですわね」とセシリア。
サラが続ける。
「それでスイスの中央よりの学校に移ったんだ。そこでISの機動について学び始めたな。最初はアーマードスーツを使った訓練からだった」
サラが古い記憶を思い返すような眼になる。
「シャーリーや、フレッド。いい友達にも恵まれたよ。それにいい先生にも恵まれた。みんなその先生が大好きだったな」
昔を思い返すサラの瞳に苦いものが混じる。
「それから3年たったあとだ。移り住んだ街が再び炎につつまれた。私の故郷を焼いたISがあらわれたんだ。街の地下組織の抗争がかかわっていたなんて後から聞いたけど、実際のことはわからない」
「私の同級生も全員死んだよ。そのISにやられたんだ」
「まぁ・・」セシリアは言葉をつまらせた。
「私はシャーリーが運んでくれたASに乗って、そのISと戦った。なんとかしとめることができたけど・・・」
セシリアはそれを聞いてさらに驚いた。ASでISに勝つなど、聞いたことがなかった。記録にも見たことがないので、おそらく非公式なものとして処理されていたのだろう。ASでISのシールドをやぶったとなると、ISの背後のシールドの弱点を突いたのだろうか。
「そのISの搭乗者は私たちの先生だった」サラがこぼすように言った。
「私たちが大好きな先生がなぜこんなことをしたんだと思ったけど、そのとき先生はもう動かなかった。私が殺したんだ」
セシリアが言葉をつまらせていると、サラが自嘲気味に笑った。
「私の目にいつもクマがあるだろう?今でも夜になるとそのことがフラッシュバックしてね。よく眠れないんだよ」
「そしてそれらの問題は、結局力をどう使うかという問題に帰着するんじゃないかと思う」
サラが言って紅茶のカップを傾けた。
セシリアはその話を聞いて、調査を受けてよかったと改めて思った。
「サラさん・・・」セシリアがサラに話す。
「今日はわたくしと一緒に寝ませんこと?」
え、といってセシリアを見るサラに、セシリアは優しくほほえんだ。
電気が消えた涼しい部屋の中でセシリアのベッドにサラを招きいれて二人で毛布にくるまっていた。
「どうです?誰かが近くにいると心がやすまりませんか?」とセシリア。
「ああ、悪くない気持ちだね」サラが言ってゆっくり目を閉じた。
セシリアがサラの頭に手を回して柔らかく抱きしめてやる。セシリアの小さな体にサラの長身がアンバランスだった。
「今日はゆっくり眠れそうだよ。でもこんなことシチリアのみんなには頼めないな」サラが小さく笑っていった。
ほどなくしてサラは寝息をたてはじめた。
セシリアは寝息を立てるサラを抱きしめたまましばらくして眠りについた。