落第騎士と一撃男【旧版】   作:N瓦

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理事長先生のお部屋はアニメ第1話を想像していたいだければ……。




9.目覚め

(ん……ここは)

 

『破軍学園』は騎士学校であり、いつ怪我人が出ていいように病棟が隣接している。

そのうちの一室で寝ていた少女が目を覚ます。暗くなった部屋で目覚めた彼女────東堂刀華は、窓から差し込む月明かりを手掛かりに自分がどこにいるか──即ち病室で寝ていたことに気付く。確認すると時刻は午後8:00過ぎ。

 

数秒、天井をぼんやりと見つめて────ふと生徒会の仲間と一輝、ステラ達の顔が頭をよぎった。

 

(そうだッ‼︎ 私たちは『暁学園』に……っっ)

 

あれから何日経過したか分からないが、とにかく状況を確認しなければならない。

みんなは大丈夫なのか?ステラたちの事を守りきることはできたのか?

考え始めたら居ても立っても居られなかった。刀華はベットから跳ね起きて病室から出た。

 

 

 

 

他の部屋にはまだ他の役員達が眠っていた。未だ攻撃を受けたダメージから回復していないのだろう。

幻想形態は身体的ダメージは受けないが、痛みと共に精神的なダメージを負う。例えば首を斬られれば意識はブラックアウトするし、腕を斬られると、場合によっては神経が断ち切られたと"錯覚"してそこから下は動かなくなることもある。

 

だったら何故、《月輪割り断つ天龍の大爪》という、あらゆるものを粉微塵にするような大技を食らった自分が1番先に目覚めたのだろうか。

そんな疑問も抱きながらまず一輝の寮部屋に向かった。

 

 

 

 

「はぁはぁ……っ(黒鉄君とステラさんはいない……)」

 

結論から言うと、部屋には誰もいなかった。チャイムを鳴らしても応答がなく、扉には鍵もかかっていた。

なぜ一輝の部屋に訪れたかというと、生徒会の皆が意識を未だ取り戻していないのならば、彼らの他にこの一件の顛末を知っているのは恐らく彼らであろうと思ったからだ。

 

(もしかして黒鉄君とステラさん達は『暁学園』にやられて─────)

 

代表生が捕らわれ、『暁』に敗北してしまったのだろうか。そんな最悪の結末が頭をよぎった刀華だが、その考えは捨てる。

第一に他の病室には一輝とステラはいなかったし、それに『暁』が代表生を全て捕らえるつもりならば貴徳原が病室にいるのはおかしいと思ったからだ。

 

「大丈夫……。きっとステラさん達は無事」

 

一度心に芽生えてしまった不安を振り払うように言葉に出し、頭を冷やして次に向かうべき場所を考え────

 

(なら……そうだ!理事長先生ならまだ学園にいるかもしれない‼︎)

 

その考えが思い浮かんだ時には刀華の足は既に動き始めていた。

 

 

 

 

理事長室に続く廊下を走り抜ける。夜の校舎は暗く、刀華にとって些か怖いものだったが今はそんなもので足踏みしている暇などなかった。

 

数分走ると、理事長室が見えてきた。部屋の電気は───

 

(ついてる!理事長先生は中にいる!)

 

扉の前に立ち、息を整える。部屋の中からは、何やら話し声が聞こえてくる。

 

「はぁはぁ………ふぅ。……失礼します」

 

扉をノックして中に入る。

 

「東堂さん……!」

 

そこには黒乃、黒鉄兄妹、そしてサイタマがいた。

 

 

 

 

(この方は確か……サイタマさん。何故ここに?)

 

合宿が終わりサイタマは別れた筈だが、こんな夜に理事長室にいる理由が分からなかった刀華だった。しかしそれよりもまず聞くことがあると、その疑問は棚に置いた。

 

「東堂、目が覚めたのか?」

「はい。それで…理事長先生。『暁学園』の襲撃の後、どうなったかを教えていただきたいのですが…」

「まあ焦るな、東堂。どうやら病室から飛んできたようだ。自分がどれくらい眠っていたかすら分かっていない訳ではあるまいな?」

「あっ……ええと……。すいません、分かりません」

「やはりな。今日が何日かすら確認しなかったのだな」

 

月影総理が発言したことにより、情報は今や拡散され、ネットに溢れているはず筈。なのに刀華は理事長室に入るなり、事の顛末を聞いてきた。つまり生徒手帳を見るほど余裕がない状況で走ってきたのだろう。

 

「彼の隣が空いているからそこに座って落ちつけ」

 

黒鉄兄妹が並んで座り、テーブルを挟んでサイタマが座っており、その隣の椅子が空いていた。そこに刀華は腰を下ろした。

 

「東堂さん、もう大丈夫なのですか?」

「えぇ。もう体は問題ありませんよ」

「王馬兄さんと戦ったって聞いた時はひやりとしましたよ」

 

王馬は向かい合った相手には容赦や情けはかけないような人間だから。例えそれが血縁兄弟であっても。

刀華は苦笑いをしながら一輝に返答する。

 

「まぁ結局、まともに傷すらつけられずに《月輪割り断つ天龍の大爪》でやられちゃったんですけどね」

「────いや、それは違うぞ」

「え?」

 

刀華の発言は黒乃によって否定され、彼女は驚きの声を上げる。

刀華は《月輪割り断つ天龍の大爪》を受けてからの記憶が無かった。だから王馬のその技を食らって意識を失ったのだと思っていたが……。

 

「まず、東堂。"今日の"午後5時過ぎに我々は《暁学園》に襲撃された。つまりお前はまだ二時間半しか寝ていないという事だ」

「えぇ⁉︎ 本当ですか⁉︎」

「ああ」

 

いよいよ、《月輪割り断つ天龍の大爪》を受けて尚、2時間で目が覚めた理由が分からなくなってきた。あれほどの技が直撃したならば、幻想形態だったとしても一週間近く眠ることになるだろう。

 

「だったら何故!」

「『《風の剣帝》の技を食らってそんなに早く目覚められたか』、だろう?」

「!……はい」

「そのことはサイタマ氏に礼を言うべきだ」

「サイタマ『氏』は辞めろって言っただろ、さっき……」

 

刀華は隣に座るサイタマを見た。

 

「それに、もし彼がいなければ『破軍』の七星剣舞祭出場はどうなっていたか分からなかったぞ」

 

 

 

 

刀華は黒乃と、そして一輝から説明を受けた。

 

《月輪割り断つ天龍の大爪》が当たる直前にサイタマが刀華を助け出した事。

サイタマが『暁学園』が逃げた葉暮姉妹を追いかけないように足止めした事。

そして───《風の剣帝》を一方的に追い詰めた事。

そこに、葉暮姉妹を保護した寧々が駆けつけて事態は収束した様だ。もしサイタマが駆けつけてこなかったら葉暮姉妹は『暁』に捕らわれていたかもしれない。それほど寧々が駆けつけたのはギリギリだったと言う。

 

因みに、刀華が気を失ったのは、恐らく加速により身体を破壊する様な《建御雷神》の反動が大きかったのだと説明した。

放つだけで気を失いかける欠陥技に加えて、《月輪割り断つ天龍の大爪》が当たる直前の極度の緊張が重なった事が原因だろうと、校医は言っていたらしい。刀華にとっては非常に情けないことではあったが。

だから、早く目覚めるのは必然だったといえるのだ。

 

それらを聞いた刀華は礼を言わずにはいられなかった。

 

「サイタマさん……ありがとうございました」

 

迫り来る暴風から自身を助けてくれたこともだが、『破軍』を危機から救ってくれた事に対して。

彼女は椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。

 

「お、おい。礼なんて辞めろって。俺は一輝に呼ばれただけだし、それに結局校舎も一つぶっ壊したしな」

「……サイタマ先生って学園に来るたびに何か壊していきますよね」

「それは言うんじゃねぇ」

 

刀華はサイタマと会ったのは合宿が初めてだったが、一輝の口ぶりから学園を壊したのはどうやら初めてではないらしい。

 

「そこで、だ。」

 

黒乃が指をパチリと鳴らすと、空中に黒い画面が浮かび上がる。

 

「東堂にもこれは見せておきたい。ちょうどさっきまでこれを見ていたところなんだよ」

 

一輝が体力と傷を回復していた時間や、黒乃が事後処理・情報収集をしていたことにより、実は今の今まで襲撃の件についてあまり話をする事ができなかったのだ。

黒幕のことは黒鉄兄妹はニュースを見て知っていたが、その時に寝ていた刀華はもちろんそれを知らない。まずはそこからだと、黒乃は画面に映る動画を再生する。

 

「これを見てくれ。今晩のニュースの録画だ。数分程度の映像なのだがな」

 

その言葉とともに動画が流れ始めた。画面の中の男は囲み取材を受けている様だ。

 

「これは……月影総理ですか?」

 

その男とは月影獏牙。映像の始まりは、彼が首相官邸にて取材陣に質問されたところからだ。

 

『────総理!『暁学園』を名乗るテロリストが『破軍学園』を襲撃したことについて、総理大臣として何かありませんか⁉︎』

 

この未曾有のテロ行為に対するコメントを国の最高責任者として求められた月影。

しかし、まず彼は──それを否定した。

 

『……テロリスト?

いやいや。それは違うよ、君。彼らはれっきとした国立学園。そしてその理事長は───私が勤めている』

 

その一言で刀華は悟った。

 

「なっ⁉︎ まさか『暁』のバックにいたのは……!」

「そうだ、東堂。お前が気づいた通り、"国そのもの"だ。」

 

映像はまだ続く。

 

『つまり、総理はテロの加担者であると⁉︎』

『テロ行為では無いと言っているだろう?両校は "同意の上で試合を行い、『暁学園』は実力を示した" のだ』

 

理事長、即ち襲撃の裏にいたのは総理大臣たる月影。そしてあれは襲撃ではなくあくまで試合であると彼は主張した。

衝撃の発言を受けて取材陣がいくつも質問を飛ばし、月影は悪びれもせずに『暁』の強さと素晴らしさを語った。

 

『私が『暁学園』を設立した目的はただ一つ。これからの日本を担う『暁学園』による七星剣舞祭制覇を以って、我々は《連盟》から脱退するつもりだ。────そして私は強き日本を取り戻す』

 

その言葉を最後に画面はブラックアウトした。

 

「これで映像は終わりだ」

「……まさか……月影総理が…バックにいただなんて…」

「これは私の推測だが…恐らく『暁学園』は七星剣舞祭に出てくるぞ」

 

今後の反響がどうなるか大方予想はつく。月影獏牙という男は国民から絶大な支持を得ている。ならば黒を白にすらできるだろう。

 

"襲撃は誤報であり、あくまで試合だった"

"《連盟》から脱退することこそが正しい"

 

そんな考えが世間に広がるのも時間の問題だ。これからも《連盟》に所属し続けるのか、脱《連盟》か。意見は真っ二つに別れるだろう。

今から大人が動いたところで世間は止められない。例えサイタマが実力行使で『暁』を再起不可能に追い込んでも、世論は動き続けるのだ。だからこそ、その命運は七星剣舞祭にて優勝する者に委ねられた。

 

だが───

 

「けどよー、"そんなことは一輝たちに関係ねぇ"んだろ?」

「えぇ。僕も"そう"思います」

 

───大人の思惑など些事なもの。

サイタマと一輝はそう言っているのだ。七星剣舞祭の本来のあり方は、日本一の学生騎士を決めるところにある。

なんて事はない。《七星剣王》《天眼》《氷の微笑》《剣士殺し》────表の実力者に加え。《解放軍》たる裏社会の実力者も揃い踏みの第62回七星剣舞祭となるわけだ。

そこで優勝したならば、それこそ真の学生騎士日本一だろう。

 

「ふふっ。確かにそうですね。表も裏もひっくるめて黒鉄君が優勝したならば────それは誰も文句のつけようのない学生騎士の王者ですね」

 

刀華は一輝の意図を察し、そしてエールを送る。

 

「黒鉄君なら優勝できると信じています。私は応援する事しかできませんが、頑張ってください」

 

本来ならば、負けた者が勝った者へ激励の言葉を送るという感動の場面なのだろう。

 

「東堂、それは違うぞ。お前の意思次第で七星剣舞祭に出ることもできる」

「────え⁉︎」

 

刀華、今日2度目の驚愕の反応。彼女は『応援する事しかできない』という訳では無かった。

 

「実はな、有栖院と葉暮姉妹から七星剣舞祭出場の権利を譲渡したいという申し出があったんだ」

 

アリスは責任を感じての出場辞退。そして、葉暮姉妹は『暁』の強さを見て怖くなったのだという。

だが『破軍』代表枠に穴が空くのも事実。そこで彼らは権利の譲渡を考えたという訳だ。

 

「最も、それを受け取るか否かは───君達の意思次第だがな。さて、黒鉄珠雫」

「はい」

 

この部屋に入ってから一輝の隣にいるだけだった珠雫が返事をする。

 

「有栖院はお前に七星剣舞祭に出てもらいたいと考えているようだ。お前はこの一件で唯一の勝ち星を挙げた。しかも相手は《隻腕の剣聖》だ。誰も文句は言わん。……どうする?」

「喜んで参加させていただきます」

 

ノータイムで珠雫は返答した。事前にアリスから話は聞いていたのだろう。

 

「分かった。

そして東堂刀華。君は、葉暮姉妹から出場権を受け取ることができる」

 

刀華の冷静な判断で葉暮姉妹は『暁』の攻撃を受けずに済んだのだ。結果的に圧倒的恐怖に打ち負けたとしても、彼女の判断のおかげで助かった事には変わりない。葉暮姉妹の中ではそのことへの感謝が大きいのだ。

 

「どうする?東堂の意思次第で、君も参加できるよう調整するが」

「……っ」

 

いつもの彼女なら即決していた。『喜んで参加します』と。

『若葉の家』の想いを剣に宿し、伐刀者となった刀華だ。そして彼女は一流の騎士であり。自分を負かした《無冠の剣王》と再び公式の場で戦いたいと思うのも事実だ。

 

しかし今はすぐに返答できなかった。

泡沫禊が。貴徳原カナタが。兎丸恋々が。砕城雷が。

未だ目を覚まさない彼らが心配だった。それに泡沫が受けたダメージは深刻で、どうやら一週間程は目が覚めないという。刀華は、幼馴染であるそんな彼の現状を放って、七星剣舞祭に出場できるはずがなかった。

故に、『保留』という形をとった。

 

「………考えさせてください」

「ふむ……。今は考えることも多かろう。

しかしこちらの事情もあってだな。大変悪いのだが期限は明日の正午までだ。それを過ぎたら出場者変更はできない」

「…はい。それまでには必ずお答えします」

 

参加したい‼︎……けどそんな薄情なことをできるものか。仲間想いの刀華だけではその答えを出せるはずもなかった────。

 

さて。と、黒乃が話を区切った。

 

「本当ならばもう少し話をしていたいのだが……何分、夜も遅い。これではわざわざお越し頂いてるサイタマ氏に迷惑がかかってしまうな」

「俺は別にいいけどな」

 

『暁』襲撃の情報を更に共有すべきではあったが時刻は現在午後9時手前。刀華が広大な学園を走り回り、そして理事長室で話し込んでるうちに時間が経ったのだろう。

 

話にひと段落をつけた後に黒乃に言われて、ドアに1番近かった刀華から続いて部屋を出ようとしたところ。

 

「あぁ。1つ思い出した」

 

黒乃の声に足をとめた。

 

「黒鉄、ヴァーミリオンから伝言を一つ預かっている」

「ステラから、ですか?」

「あぁ。『七星剣舞祭まで寮に帰らない』と言っていた」

「そうですか…。分かりました」

「そして『私がいないからって珠雫を部屋に入れないように』とも言っていたぞ」

「お断りします」

「あはは…」

 

珠雫の即答に一輝は苦笑いで返す。

 

「それにしても…ステラさん、一週間も帰らないなんてどういうつもりなのでしょうね」

「────ステラにも色々思うところがあるんだ。きっと」

 

思い出されるのは、先ほど刀華達が医務室に運び込まれた時の彼女の姿。ベットに横たわる彼女達を見ながら、鬱血するほど手を握りしめていた。

 

────弱い事が……こんなにも辛いことだったなんて……っ

 

ステラの震えるその声を一輝は忘れない。

 

どこで何をしているかは話には聞いていた。七星剣舞祭まで奥多摩の合宿所に泊まり込みで特訓すると言っていた。またこの場に《夜叉姫》がいない事も考えれば────特訓相手が誰だかも自ずと導き出される。

今頃、彼女に頼み込んで奥多摩へ出発した頃だろう。善は急げとはよく言ったものだ。

ステラは挫折している暇すら要らない。敗北にクヨクヨしている時間があったならば、さらに強くなるための一手を打つ。それがステラ・ヴァーミリオンの魅力の一つだ。

 

そして一輝は信じていた。彼女がきっと殻を破ってくれるということを。

 

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