落第騎士と一撃男【旧版】   作:N瓦

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どーせリメイクするし、告知する意味も含めて、没って消した話を最後に上げようかな、と。5.強化合宿の前に入れる予定の話でした。

リメイク版について活動報告「連載について」をお読みください。今のところ1話だけ投稿してます。
こっちは、多分もう投稿しません。



【没話】
没.教師と師匠


結局、あの後黒乃と寧音は会場でサイタマに会うことが出来なかった。

会場には万単位で人がごった返していて、加えてサイタマが試合が終わってすぐにその場を立ち去ったのだからやむを得ないのかもしれない。

 

 

ただ、第一訓練場から飛んできたような軌跡を地面に描き、数百m離れた場所に赤座守が転がっていた事はちょっとした騒ぎになった。

彼の顔面には拳がめり込んだ跡もあり、これはサイタマの仕業だと彼女らは踏んでいた。

一輝とステラを思っての行動だったのだろうと推測できる。

 

 

また一輝はあの時、生中継されているにも関わらず大観衆の前で駆けつけたステラへのプロポーズを成就させた。

 

その直後に意識を失い、1週間も眠り続けた。

査問会での疲労、薬物の中毒症状、《一刀羅刹》の反動。

これらを考えると1週間眠り続けたのは当たり前なのかも知れない。

それほどの極限の中で彼は《雷切》に勝ったのだ。全てを勝ち取ったのだ。

黒鉄一輝は七星剣舞祭代表そして選手団団長に任命され、全国という舞台に歩を進めた。

 

 

最後に───

黒乃と寧音には1つ、やり残した事があった。

 

 

「任命式も終わったし、合宿始まるまで黒坊もウチらも暇なんじゃね?会いに行くなら今っしょ。」

 

 

 

 

 

 

「─────と、言う訳で理事長達を連れてきました。」

「……師匠からの命令だ。この際、お願いでもいい。後ろの2人を連れて帰れ。」

 

 

彼女らがやり残した事とはサイタマと会う、という事。

会場で会えなかった為に、一輝が連れてきた黒乃と寧音がサイタマの家に押しかけてきた。

一度はサイタマが『破軍学園』に来るよう一輝に言ってもらったのだが、サイタマはこれを断固拒否した。

行ったらまず間違いなく面倒な話をされるに違いないとサイタマが考えたからだ。

 

しかしそれでは埒があかない。

そうして決行された強引な押しかけ作戦。

 

 

「…じゃそういう訳で。」

 

 

そっと扉を閉めようとするサイタマを黒乃が止める。

折角、家の前まで来たのだ。何もしないで帰るわけにはいかない。

 

 

「待て。貴様は私の学園の訓練場を破壊しただろう。それも2度も。」

 

 

1度目はステラとの手合わせの時に観客席ごと吹き飛ばして大穴を開け。

2度目は赤座をぶん殴った時に。

 

 

「…………それ言われると弱い。」

「それに関して話がある。それでも私たちを中に入れないつもりか?」

「あー!分かったよ!入れ!入れればいいんだろ!」

 

 

理詰めでゴリ押しされ、半ばやさグレた感じで一輝らが家に入ることを許可したサイタマだった……。

 

 

───まず部屋に入っていきなり、電球の光がサイタマのつるつるの頭に反射しているのを見て寧音が吹き出した。

 

 

「はははははーーー!!!! ほんとにピッカピカにハゲるぜ、こいつ!!」

「(…なぁ、一輝。なんだこのガキは。なんで連れてきた。)」

「(あー…えーと。彼女はうちの講師です。)」

 

 

そのままサイタマの部屋に入った3人を床に座らせ、お茶をだす。

 

 

「部屋、せめーな。」

「文句言うなら帰れ。」

(案外、師匠と西京先生っていい組み合わせなんじゃ……。)

「で、俺が壊した壁の事だったっけ?」

「ああ、そうだな。」

「壁ぶっ壊したのはすまん。」

 

 

サイタマ黒乃に向き直って軽く頭を下げる。

彼だって少しくらいは悪いとは思っていた。

最も、素直に謝罪した理由の大半は謝ったらさっさと帰ってくれると思ったからなのだが。

 

 

「許しても良いが、条件が一つある。我々、『破軍学園』の強化合宿に同行してもらいたい。」

 

 

毎年、七星剣舞祭を前に『破軍学園』は強化合宿を行う。

それへの同行が黒乃が提示した条件。

 

『破軍学園』は今年こそ七星剣舞祭で優勝を狙うべく強化を図っている。

そもそも黒乃が理事長に就任したのはその一環だった。

そこへ外部コーチとしてサイタマが来るのなら鬼に金棒だ。

彼とまともに相対できるようになれば《七星剣王》になる事など、朝飯前だろう。

 

 

「それに…ヴァーミリオンと手合わせして逃げる時に黒鉄に稽古を付けるとかなんとか、言っていたんだろう?」

「い、言ってたような言ってないような…。言ってないよな、一輝!?」

「いえ、サイタマ先生は僕に稽古をつけてくれると仰ってました。」

「あ…そうすか。」

 

 

この場にサイタマの味方なんていなかった。

 

 

「黒鉄以外にもヴァーミリオンや他の代表生もいる。可能ならば彼らにも稽古を付けてくれるなら助かる。

サイタマには外部コーチという形で参加してほしい。送迎は我々のバスに乗ってもらって構わない。」

 

 

サイタマは知らない事だが、黒乃の能力で壁自体は即座に治るのだ。

被害は無い。だが、サイタマが壊したのは事実。

故にこの取り引きは初めから黒乃の勝ちが決まっていた。

 

 

(…確かに壁を壊したのは俺だ。許してもらう条件としては結構ゆるいんじゃないのか?)

「どうする?」

「…三食はつくのか?」

「無論。」

「参加するのに幾らかかる?」

「私から来るよう言ったんだぞ?金などかからないに決まっている。」

「よし…なら決定でいいぞ。」

 

 

即答。

 

 

「!…感謝する。」

「いやいや、元々は俺が壁をぶっ壊したのが悪いんだろ?」

「それもそうだな。」

 

 

ここにサイタマの合宿参加が決定した。

外部コーチという形で参加し、一輝以外にも稽古をつけてくれるそうだ。

………サイタマがまともな稽古を付けてくれるかどうかは置いておこう。

 

ちなみに三食付くかをなぜ聞いたかと言うと、丁度卵や野菜を切らしそうだったのだ。

このタイミングで三食付くような合宿に無料で行けるのなら…サイタマにとってもメリットはそれなりにある。

 

 

話がひと段落つくと、寧音がサイタマに質問した。

 

 

「……なぁ。1つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

 

 

寧音は扇子で口元をスッと隠し、サイタマに質問を投げかける。

 

 

「────アンタ、()()()()どーやって手に入れた?」

 

 

 

♣♣♣

 

 

 

サイタマの家から『破軍学園』まで帰ってきた彼ら。

黒乃と寧音は理事長室、一輝は寮の自室に、既に戻っていた。

 

 

「くーちゃん、どう思った?サイタマは。」

「ああ。思った通り、恐らく《魔人》だろうな。」

 

 

《魔人》は通常の伐刀者とは雰囲気が違う。

確かに彼は星の巡る運命の外側に身を置いていた。

それは数多くの《魔人》と面識のある黒乃と、本人が《魔人》である寧音だからこそできた判別法。

 

 

「それを踏まえて《覚醒》に至った経緯、くーちゃんは信じる?」

「にわかには信じられん…。だが嘘をついているようにも見えなかったのも事実だ。」

 

 

 

 

 

 

寧音が最後にした1つの質問。

サイタマの強さの秘密を問うたもの。

どうやら一輝はもともと知っていたらしいが、彼の回答は黒乃と寧音の思考を凍らせるには充分なものだった。

 

 

『俺がここまで強くなるまでに何をしたか、お前らも知りたいのか。』

『…黒坊は知ってるのかい?』

『えぇ。聞いたことはありますが…恐らく理事長と西京先生は信じられないと思いますよ……。』

『そんなにハードな稽古なのか?』

『勿論だ。』

 

 

サイタマは即答する。

 

 

『だが、このハードなメニューを毎日継続することが大切なんだ。普通の就活生だった俺は、3年間、このトレーニングを続けてここまで強くなった。』

(( たった3年で…《魔人》に至ったのか!?一体どうやって!!!? ))

 

 

サイタマは一拍置き、目を見開いて力強く答える───ッッ!!!

 

 

 

『腕立て伏せ100回!

上体起こし100回!

スクワット100回!

さらにランニング10km!これを毎日やる……!!!!』

 

 

 

『『……は?』』

 

 

 

『初めは死ぬほど辛かった。1日くらいは休もうかと魔が差した事もあった。

……だが俺は子供(ガキ)の頃から強いヒーローになりたかったんだ。それを叶えるためにはどんなに血反吐をぶちまけてもトレーニングを続けることが出来た。』

『ちょ、ちょっと待て。サイタマ、貴様は()()()()()()()()()()()()()()()のか!?』

『それだけ…だと?甘いんじゃないのか?』

(( このハゲ…………本気か!?本気で言ってんのか!!!? ))

『このハードな訓練を通して俺が変化に気付いたのは1年半後だった。俺はハゲていた。そして───強くなっていたんだ。』

 

 

サイタマは曰く

ハゲてしまうほど己を追い込むことで強くなったのだという。

 

それが寧音の問いに対する答えだった。

 

 

 

 

 

 

「本当にふざけているのかと思ったよ。」

「黒坊の方が百倍キツイメニューこなしてるっての。」

 

 

たった3年の訓練で《覚醒》するなんてほとんどありえない事だ。

《覚醒》の条件がいかに厳しいかは彼女らはよく知っている。

そんな黒乃だからこそ、彼女は一瞬の間にその過酷なトレーニングの想像を巡らせた。

 

だが蓋を開けてみれば一般的なトレーニングメニュー。

もっと言え一輝の方が何倍もハードなレーニングを何年間も続けていた。

 

それに…彼女らにはまだまだ疑問点が残っている。

 

 

「くーちゃんは"《魔人》になったら身体能力がめちゃくちゃ上がった"って話聞いたことあるかい?」

「…あるわけないだろう。それに、他にも私は気になったことがある。

お前はハゲと《覚醒》の間に相関があるなんて聞いたことあるか?」

「………あるわけねーだろ。」

 

 

寧音はやれやれと言った感じに肩を竦めて答える。

 

彼女らの疑問は今までの魔道騎士の歴史をなぞっての発言だ。

《魔人》に至ったからと言ってパンチの風圧だけで森まで消し飛ばせるはずがない。《覚醒》を経たところで普通の人間の肉体レベルが異常に向上するはずもない。

また、地球という星に生まれた数多くの《魔人》が《覚醒》に至ると同時にハゲたという前例も無い。

 

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

その仮説が黒乃の中に生まれたのも当然の事かもしれない。

 

 

サイタマは《魔人》であって《魔人》ではない───。

 

 

サイタマは何もかもが前代未聞。

彼は黒乃や寧音の常識の外側にいる存在だった。彼女らが解を導けるはずも無かった。

 

 

 

 

 

 


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