落第騎士と一撃男【旧版】   作:N瓦

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5.強化合宿

山形県、東北の名門『巨門学園』が保有する合宿所。

 

そこでは七星剣舞祭を前にして、『巨門学園』、そして『破軍学園』の代表選手は合同で強化合宿に臨んでいた。

 

何故『破軍学園』が奥多摩にある合宿所ではなく『巨門学園』との合同合宿に臨んでるかというと、それは奥多摩の合宿所は巨人についての騒動があったことに起因する。

未だ全貌が不明瞭なあの事件があったために、危険と判断して使用出来なかったのだ。

 

代表選手が響かせる数多の剣戟の中で《紅蓮の皇女》はサイタマと手合わせをしていた。

 

 

 

 

「今の攻撃はなかなか良かったぞ」

「ふん。余裕こいてられるのも今のうちよ。」

 

ステラは若干息を荒げながら、サイタマを見る。

そして──────獰猛な笑みを浮かべた。

 

彼女は強い伐刀者を求めて海を渡ってまで、日本へやって来たのだ。

そして目の前の敵は自身の遥か先に住まう怪物。彼女は今、日本に求めた存在と相対し、自ら望んだ場所に身を置いていた。

 

(最高じゃない…サイタマ。)

 

今の自分が手の届かないところにいるサイタマと戦う───それだけで《紅蓮の皇女》は幸せを感じていた。

 

 

ステラとサイタマはまさに剛力のぶつかり合い。

一輝が最高の「技」ならステラは最高の「力」。

そしてサイタマは究極の「暴力」。

技量の面ではステラの方が上だが、サイタマには技すら押しつぶす力を持っている。

先ほどから、紙一重で直撃は防げているものの、捌ききれずにサイタマの拳がステラを何度も襲っていたのがその証拠だ。

 

しかし、だからこそステラがサイタマに勝つのは接近戦以外ありえない。

 

力ではサイタマが圧倒的に格上。

ならば本当に細い一筋の勝利への道筋、それは技が介入できるクロスレンジにしかない。

 

 

「かかってこないのか?」

「まだよ!……蒼天を穿て煉獄の炎 焼き尽くせ‼︎《天壌焼き焦がす竜王の焔》────ッッッ!!!‼︎」

「おお」

 

ステラが放ったのは《天壌焼き焦がす竜王の焔》。彼女が持つ最大火力の範囲攻撃だ。

しかしサイタマがとった行動は正面突破。大地を焼き尽くす焔の竜をものともせずにくぐり抜ける。

 

「 お 」

 

だが、ステラにとって《天壌焼き焦がす竜王の焔》はサイタマへの目隠しでしかなかった。

サイタマがくぐり抜けたその瞬間、目の前にはステラがいた。

スピードを上乗せして剣を撃ち込もうとステラはサイタマへ走り込んでいた。

 

 

 

両者の間合いが交わる──。

 

 

サイタマはカウンター気味に右ストレートをステラに繰り出す。

 

(ここ!!)

 

だがサイタマのその行動はステラが予想していた可能性の1つだった。

サイタマの次の手をいくつも想定し、加えてステラ持ち前の身体能力を以ってステラはギリギリ左───つまりサイタマから見ると死角である右側───に回避する。

 

 

「ハァッッ!!!」

 

 

ステラは体を流すこと無く、がら空きのサイタマの右ボディへ《妃竜の罪剣》を叩き込む。

この攻撃は流石ステラとしか言えないほど素晴らしい返しだった。

 

第一にサイタマの右ストレートなど並の身体能力ならば、例え予測してたとしても躱すことすら叶わない。

第二に躱したとして、その勢いのままカウンターの一撃を胴に入れるのは体が流れてなかなか厳しい。サイタマのパンチを躱すというのはそれほどの速さで動くしかないのだから。

 

 

 

(もらった!!)

 

 

 

しかし───

 

 

 

(……え……?)

 

突然、ステラの視界が揺れ、同時にステラの視界からサイタマが凄まじい速度で遠ざかっていく。

 

───いや、これはサイタマが遠ざかっているのではない。

ステラが吹き飛ばされたのだ。

飛ばされる身でかろうじてサイタマを見ると、体をひねり、右肘を曲げていた。

 

つまりステラは顔面にエルボーを叩き込まれたのだ。死角から圧倒的な速度で剣を撃ち込もうとするステラへ、一瞬でエルボーを叩き込んだのだ。

 

 

 

 

派手な音を立ててステラは吹き飛ばされ、決着となった。

 

「いつつ……」

 

吹き飛ばされたステラのもとへ、刀華がタオルを渡しにきた。

 

「ステラさん、お疲れ様です。タオルどうぞ。」

「ありがとうございます、トーカさん。…………う〜〜っっ!!また負けた!!悔しいーー‼︎‼︎‼︎」

 

 

すでに合宿が始まって5日目が経過している。

 

ステラはサイタマと今回を含めて三度の手合わせをしていたが……全敗である。

サイタマにまともにダメージヒットを与えることすら叶わないのが現状だ。

 

ステラは刀華とも模擬戦をして全国レベルの試合感覚に身を馴染ませると同時に、自分の力を試していた。

サイタマと交互に模擬戦を繰り返し、刀華とは二勝一敗、サイタマとは零勝三敗と記録していた。

 

「おーい、大丈夫かー?」

「えぇ、大丈夫よ。」

 

サイタマに返答しながらステラは制服についた土をパンパンと払いながら立ち上がる。

 

 

そもそも何故、この合宿所サイタマがいるのか。

それは弟子である一輝が頼み込んだからだ。

元はと言えばステラと手合わせした後に「あとで一輝に稽古する」と言ってしまったのが原因なのだが。

その一言のために一輝はサイタマに頼み込み、外部ボランティアコーチとして合宿への同行を承諾させた。

もちろん理事長である黒乃の許可もある。

 

 

「それにしてもイッキは羨ましいわね。」

 

ステラは一輝に目をやると、《闘神》から何かを教わっているようだ。

 

「まさか、あの《闘神》とマンツーマンだなんて…」

「黒鉄君がA級リーグのプロ騎士を全員倒したのも驚きですが、だからって『巨門』がお師匠様を呼ぶだなんて思ってもいませんでしたよ」

 

 

 

────《闘神》南郷寅次郎

 

 

日本を戦勝国へと導いた英雄の名だ。

また彼は日本人で唯一人、世界最高峰のリーグである《闘神リーグ》を制覇した。

今では数え切れないほど多くの弟子をとり、その多くが伐刀者の世界で活躍している。刀華もその1人であり、また西京寧音も南郷が師である。

 

要は《サムライ・リョーマ》と共に、世界へと名を轟かせる伝説の男なのだ。

 

 

そんな南郷がこの合宿に来たのは……サイタマ同様にこれもまた一輝が原因だ。

『巨門学園』がコーチとして呼んだ国内リーグのプロ騎士三人を一輝が模擬戦で倒したのだ。

つまりこの合宿で一番強かったのは『破軍学園』が用意したボランティアコーチ、つまりサイタマであった。『巨門』にとっては素性のよく分からない男だ。

 

ならば『巨門』のメンツは立つはずもないだろう。

 

そこで取られた対処が───《闘神》南郷を特別コーチとして呼ぶことだった。

 

もちろん全員、肝を潰した。

当然だ。南郷はそれほどの知名度、実力の持ち主だ。知らないものなどいるはずもない。

 

ここにいる世間に疎すぎる男以外は。

 

 

(一輝と話してるあの爺さんは誰なんだ)

 

 

 

 

あの後、ステラの腹が鳴き止まず、そのまま夕食をとることとなった。

サイタマは一人で食堂で食べている。

当のステラは一輝とともに合宿所から10キロほど先にある商店街へと夕食がてらジョギングをしにいった。お腹が空いたと唸っていたのに底なしの体力だ。

 

ちなみにご飯を食べる時間/場所は各自自由だ。

伐刀者の能力は個人個人で違って、まさに十人十色。

スケジュールを決めて訓練するのはかえって非効率となる。

故にこの合宿は自由度の高いものとなっている。

決まっているのは起床時間と就寝時間くらいだろうか。

 

 

サイタマが黙々と夕食を食べていると、唐突にガヤガヤした食堂が一瞬で静まり静まり返る。

そこへサイタマの向かい側に老人が、その隣には刀華が腰を下ろした。

 

「ちょいと向かい失礼」

「ん?」

 

その場にいる全員の視線がその老人、そしてサイタマへ集まる。

 

「君がサイタマ君かのぉ?」

「……ん?」

 

ご飯を食べながらサイタマは見上げると、向かい側の椅子に座っていたのは南郷だった。

 

 

 

 

手始めに南郷はサイタマを見る。

サイタマのことは黒乃と寧音から軽くだけ聞いていた。

曰く、黒鉄一輝の師匠であると。

そして《魔人》の領域に踏み込んでる可能性が大きいと。

 

南郷は自身が《魔人》であるが故に、サイタマが同じ領域に踏み込んでいることを一目で見抜いた。

 

(……これは"本物"じゃのぉ。日本にワシと寧音以外にも《魔人》がおったとは。

もっとも、本人は無自覚なようじゃがの。)

 

そして刀華は南郷がサイタマと話したがっていたという旨を伝えた。

 

「すいません、サイタマさん。お師匠様がどうしてもサイタマさんに会いたいって。」

「刀華と……じいさん、誰だ?」

 

 

「じ、‼︎⁉︎」

 

 

刀華は驚きと憤りから声を上げた。

初対面で南郷のことを「じいさん」呼ばわりするのは失礼────いや、それ以前に《闘神》南郷を知らぬ日本人がこの世に存在していたとは思えなかった。

刀華からすると尊敬する師である南郷を愚弄するような、そんなふざけた発言に聞こえた。

 

「ひょっひょっひょ。ええよええよ。じいさんでも。なんの問題なかろうて。」

 

しかし南郷はサイタマの心拍音、体温などから本当に南郷のことを知らなかったからこその発言だったと気付いていた。

おそらく名前くらいは聞いたことあるだろうが、あまりに世間への興味関心が薄いサイタマは、《闘神》の顔までは分からなかったのだろう。

 

「わしは南郷っちゅーもんじゃ。よろしくたのむわい。サイタマ君はあの小僧の師なんじゃろ?」

「あー。………まぁ。師匠らしいことは何もしてねーけどな。」

「そうかのぉ?ワシにはあんたと小僧がいい関係に見えるんじゃがの。」

「そーか?

(そーいやこのじいさん、一輝となんかやってたな…)

じいさんから見て一輝はどうなんだ?」

「ひょっひょっ。弟子のことが気になるか。……アレは末恐ろしい小僧じゃよ。剣技だけならすでに龍馬を超えとる。」

 

そう。南郷と向き合って一本も打ち込ませないどころか、むしろ隙あらば剣を叩き込もうとしていた。

南郷ほどの実力者になると剣の間合い=死地といっても過言ではない。

にもかかわらず、一輝は少しも萎縮せずにむしろ南郷を開始線から一歩も動かすことすらさせなかった。

 

「じゃが……あの小僧はまだ若い。『剣士』として武を極めることばかりに目がいくと思っとった。」

 

南郷が言う通り、剣技だけなら確かに全盛期の黒鉄龍馬を超えていた。

しかし一輝はまだ17歳。だからこそ視野が狭い。

このままなら一輝は剣技の鍛錬のみをし続けて七星剣舞祭に臨んでいただろう。

一輝の実力ならそれでも十分だった。

しかしそこへ助言を与えた者がいたようだ。

 

「どうやらサイタマ君が一枚噛んどったらしいのぉ。君の言葉で『魔導騎士』として強くなる方向性もつかんだようじゃ。」

「え?黒鉄君がお師匠様から教わってたのって剣技のことじゃなかったんですか?」

 

刀華は一輝が南郷と何かやっていたのは剣の技についてだと思っていた。もちろんステラや他の代表生も同様に思っていた。

 

「ひょっひょ。あの小僧に剣技で教えることは何もなかろうて。」

 

一輝はとある剣技を一つ見ればその流派の根本─────つまりは理を理解し、さらに昇華させた剣を作り出す。

体術に至っては達人クラスと評するのも生ぬるい。

おそらく一輝なら対人の技である《抜き足》を対軍に使うことも可能だろう。そんな芸当ができるのは他には南郷と寧音くらいだ。

だからこそ剣術指南として南郷が一輝にできることは手合わせくらいのものである。

 

「黒鉄の小僧がワシに聞いてきたのは、"魔術の使い方"じゃ。」

 

そう。一輝が南郷に指南を受けたのは剣術ではなく、むしろ魔術。

無論、《闘神》南郷は体術のみならず魔力運用も世界最高級だ。当然ながら剣士として武を極めても、魔導騎士として魔力の運用を効率良くすることはできない。

 

「魔術……ですか?」

 

その答えが意外だった刀華は少し驚きながら聞き返す。

 

「あの小僧、魔力の使い方が効率悪すぎるんじゃよ。」

「あ…もしかして黒鉄君が《一刀修羅》を使うときの青い光って………」

 

(《一刀修羅》って一輝の切り札だっけか。…ん?待てよ?

つーことは、俺が一輝にしたあの一言がまともに役に立っちまったってことか?)

 

「それこそが小僧の魔力の無駄じゃ。あんなに漏れてしまってはあまりにも非効率じゃろうて。」

 

刀華が気づいた通り、《一刀修羅》を使った時に立ち上る蒼光こそが漏れた魔力の正体だった。

 

「サイタマ君が黒鉄のになにかしら言ったんじゃうな。小僧のあの態度から見るに、直球に言ったわけじゃないじゃろう?」

 

つまりサイタマはあえて曖昧な助言をし、一輝に自ら考えさせるように仕向けたと南郷は解釈していた。

そしてサイタマ本人は何と言ったか明確に覚えている。

 

「べ、別にそんなすげーこと言ってねぇから気にするなって‼︎ そうだ。それがいい‼︎」

「ひょっひょ。謙遜しなくてええんじゃぞ。」

 

サイタマは内心では汗ダラダラだ。

 

確かにサイタマは一輝に助言をした。

いや、助言ではない。

正確には一輝から選抜戦最終試合の感想を聞かれて答えただけだ。

それも適当に。

 

誤解がないように注釈をつけておく。

「適当に」とはあまり悪い意味では無い。

ご存知の通りサイタマは『武』に関することの一切は無知だ。

 

あの試合は、突っ込んだ一輝が途中で加速し、そして刀華より早く斬り伏せた……サイタマの目にはただそう映った。

いや、事実そうだったし、そこに小手先の技の介入など許されないほどの極地だった。

だがサイタマは、一輝が何らかの感想を求めてきたいうことは、そこに何かの技が介入したからだろうと思っていた。

その技が何か、全くわからなかった。

だからこそどんな感想を一輝に言うべきか全くわからず、しかしながら師匠としてかっこいい一言を言おうと試みたのだ。

 

サイタマは決して悪くない。

 

 

ダラダラに汗をかきながら刀華を横目で見ると期待した目でこちらを見ていた。

まるでサイタマが至高の師であるかのような。

「どんな素晴らしいことを言ったんだろう。」と期待している目だ。

……実は南郷自体はそこまで深い意味を持たず興味本位で質問しただけだっただが、そんなことサイタマは知る由もない。

 

一見、退路が断たれたように見えるが決してこの場から逃れられないというわけでも無い。

サイタマは強引に話を終わらせる作戦に出る。そうすれば追求される事もない。

 

 

「俺が一輝になんて言ったかなんて、別に知らなくていいだろ?」

 

 

南郷がピクリと動く。

だが相手が何か言う前に、サイタマは持ち前の反射神経を使って立ち上がり、言葉を続ける。

 

「それに一輝だって悩んでたんだぜ。その悩みを言うってのはあんまよくねぇことだろ。

弟子の悩みを一緒に背負うのも……師匠ってもんだ。」

 

この言い訳が通用したかどうか。

サイタマは二人を見ると、これ以上追求してくるわけではなさそうだった。

 

 

(危ねぇぇえ……これは完璧に決まった。)

 

 

だったらあとはこの場から逃げるだけだ。

 

そのままサイタマは安堵の表情で食堂を出た。

 

 

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