落第騎士と一撃男【旧版】   作:N瓦

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くっそ端折ってます。
ご容赦ください。




6.暁

合宿も全行程が終了し、今は帰りのバスの中。

昼前に山形を出発したにも関わらず今は夕暮れだ。

長旅も終わり、学園への到着が近づいている。

ちなみに家が学園と近いサイタマも、つい先ほどまで乗っていた。

この合宿は各々が弱点を潰し、そして新たな課題を発見した有意義なものだった。

 

おしゃべりしたりお菓子を食べたり、和気藹々とした雰囲気の車内。

そんな中、肩を落としている者が一名。

 

「はぁぁぁぁ〜〜〜〜〜。……ううぅぅぅうう」

「元気だしなよ、ステラ。」

 

元気が無いのは《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオンだ。

 

「どったのステラちゃん。」

「お姫様、車酔いなの?」

 

葉暮姉妹が通路を挟んだ席からステラを心配して声をかけてくる。

彼女達は一輝と同じく『破軍』の代表を務めている実力のある学生騎士だ。

そんな彼女達に一輝は事情を説明する。

 

「どうやら東堂さんに勝ち越せなかったのが悔しいみたいです。」

「あ、そういえば何度も戦ってたな。戦績はどうだったんだ?」

「……二勝二敗。」

 

ステラは現時点では格上だと思っている刀華に合宿中に勝ち越して、七星剣舞祭への自信をつけたいと思っていたのだが。

結果は引き分け。

その上、ステラが悔しがっている原因はさらにある。

 

「そういえば、ステラはサイタマ先生と何回も模擬戦してたよね?」

「サイタマ先生?……………あー、あのハゲた人か。」

「あの人のことはよく分からなかったの。結局、一回もお話ししなかったの。」

 

サイタマは外部コーチとして参加したものの、一輝かステラにつきっきりで行動していた。

その為、その他の人から見れば「よく分からないハゲ」という印象だった。

 

「で、ステラちゃんがその さいたませんせ って奴と模擬戦をした結果はどうだったんだ?」

「…………………………四戦四敗。……まともに剣を当てることすらできなかったわ。」

「……えぇ‼︎Aランクのステラちゃんが歯が全く立たないほどあのハゲって強いのか⁉︎」

「それは驚きなの‼︎」

 

刀華との模擬戦の結果を答えるよりも長い沈黙の後にステラは答えた。

それほど積み重なった敗北は彼女に応えたのだ。

Aランク騎士としての確かな矜恃がズタボロになった気分だ。

サイタマとは合計四回の模擬戦を繰り返したが、結局サイタマを膝をつかせることはおろか傷つけることすら叶わなかった。

クロスレンジで剣を打ち込めたのもたった一度きりだった。

 

もともと勝てるとは思っていなかった。

不思議と、心のどこかで「サイタマには勝てない」と納得してしまっている自分がいた。

 

だからといって負けたことを悔しいと感じないのは違うだろう。

 

サイタマという世界屈指の実力者にボコボコにされ、ステラは自分の無力感を味わった。

 

「…でもイッキは三回手合わせして、何回もサイタマに剣を撃ち込んでたじゃない……。」

 

加えて、一輝がサイタマと模擬戦をした時に、サイタマへのヒット回数が0じゃなかった。

その事もステラに追い打ちをかけていた。

もちろん、勝敗を分けるような攻撃は一度もできなかったが。

 

「でも3.4回だけだよ?」

「1回と3.4回じゃ訳が違うわ!

……………………………………………………ああああぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎‼︎

思い出しただけで、もっと悔しくなってきたわ!!」

 

ステラは立ち上がって拳を握り締める。

 

「じっとしてられるもんですか! イッキ‼︎」

 

そして一輝を見る。

 

「なに?」

「七星剣舞祭までまだまだ時間はあるわ!学園に着いたら特訓するわよ‼︎」

「!……ははは。うん、わかったよ。

それでこそステラだ。」

 

圧倒的悔しさも次に繋げて、それを糧に成長しようとする。

そんなところも一輝が愛している女性の魅力の一つだった。

 

しかし一輝は少しばかりの焦りを感じる。

ステラの眠るポテンシャルはあまりにも大きすぎるのだ。

まさに才能の金山。

掘れば掘るだけ眠った才能が目を覚ますかもしれない。

 

(……僕も負ける訳にはいかないな。)

 

もちろん一輝はステラに勝ちを譲る気は少しもなかった。

ステラを見て改めて気を引き締めたその時─────

 

「きゃぁぁぁ!」

「うわぁぁぁ!」

 

唐突にバスが急停止した。

乗車していた全員が慣性により、身を前に投げ出される。

 

「ど、どうしたの砕城君!」

 

真っ先に生徒会長である刀華が砕城に駆け寄り、急ブレーキの意図を問う。

 

「も、もしかして何か轢いちゃった⁉︎」

「いや…そうではないのだが……」

 

ゆっくりと震える指先でフロントガラスの先の光景を指差す。

指の先を見ると『破軍』のその校舎から黒煙が立ち上っている。

 

 

「あれは……学園ではないか?」

「─────え?」

 

 

黒煙立ち上る『破軍学園』を目の当たりにし、その場の全員が驚愕に目を見開いた。

 

 

ただ1人。自分の席を立とうともしなかった有栖院を除いて。

 

 

 

 

破軍学園を襲撃していたのは『暁学園』を名乗る集団だった。

 

彼らが言うには『暁学園』の目的は七星剣舞祭出場。

 

ただ、彼らは新設されて間も無く、あまりに無名すぎた。

そんな学園の参加など、実行委員会が認める訳がない。

そこで『暁学園』がとった行動は明快だ。

 

「…つまり『破軍』を壊滅させて自らの力量を示し、我々に成り代わって7校目として七星剣舞祭に出場するというわけね。」

「────流石は《雷切》。理解が速くて助かりますよ。」

 

飲み込みの早い刀華に《道化師》平賀冷泉は感嘆の言葉を漏らす。

しかし刀華には、"示し"を行ったからと言って七星剣舞祭に参加できるとは到底思えなかった。

 

「……そんなことがまかり通ると思ってるの?」

 

懐疑的な刀華に帰ってきたのは確信に満ちた肯定だった。

 

「フフフ……。ええ。私たちは必ず出場しますとも。必ずね。《騎士連盟》は我々の存在を認めざるを得ませんからね。」

 

曰く。歴史ある『破軍』を壊滅させた新勢力をみすみす見逃す、そんな事をしたらそれは敗走に他ならない。

だから実行委員会の母体である《騎士連盟》は必ず『暁』を認めるだろう、と。

その敗走は《騎士連盟》のブランドを揺るがしかねないだろうから。

 

ではそろそろ、非常に残念なことですがみなさんにはここで倒れていただきますよ。我々の踏み台としてね?」

 

説明をし終えた平賀は「破滅を受け入れるほか、道はない」と言わんばかりに通告し、両者の緊張は最高に達する。

 

「ここまで好き勝手コケにされて、『はい、そうですか。』って引きさがれる訳ないじゃない。やれるものならやってみなさい‼︎」

 

全員が己の霊装を顕現させ、自分達を滅ぼさんとする『暁』との全面衝突へと発展する。

 

「フフフ……ではいきますよ?」

 

火蓋が切って落とされようとしたその瞬間

 

『─────先輩!!!! アリスちゃんは他校のスパイです!! 気をつけてください!!!!!!!!』

 

強制通話モードにて、一輝の生徒手帳から大音量で加賀美の声が響く。

 

彼女からの警告は─────1歩遅かった。

 

既に全員が動き出し、

 

 

そして

 

 

「《影縫い》」

 

 

有栖院が─────『暁』全員の影を縫い付けた。

 

 

 

 

実は十分前ほど、それこそ黒煙立ち上る学園を発見した時に有栖院から全員へ説明があったのだ。

 

襲撃者たる『暁学園』の存在とその作戦。

そして有栖院の作戦を台無しにしたい意志。

 

その全てが彼の口から伝えられ────

 

そして奇襲は見事成功した。

 

有栖院の伐刀絶技はその性質上、奇襲を最も得意とする。

それを最大限生かした最高の攻撃と相成った。

 

 

 

 

「やぁぁああああぁぁ‼︎‼︎」

 

『破軍』の各々が、相対した相手を斬り伏せる。

身動きとることすら許されない状態からの致命打。

これはぐうの音も言わせない完全な勝利と言えるだろう。

皆が自身の刃に手応えを感じて安堵の息を漏らす。

 

そんな中、ただ1人。黒鉄一輝の表情はあまりにも硬かった。

 

(…………あり得ない……)

 

目の前に倒れ伏している兄である《風の剣帝》黒鉄王馬は間違いなく本物だった。

 

振る舞いも。

放つオーラも、

気迫も

声も何もかも。

 

 

だからこそあり得ない。

 

 

あの黒鉄王馬が自らの足元に無様に横たわることなど、例え天地がひっくり返ろうがあり得ない事なのだ。

 

(王馬兄さんがこんなにもあっけなく───)

 

そこまで考え、ふと先日のことを思い出す。

ステラと商店街へジョギングした時のことだ。

その時に出会った少年──────彼も『暁』のうちの1人であり、名を紫ノ宮天音という──の行動を思い出した。

 

その時に彼のとった行動、そして加賀美から貰った彼に関する情報。

 

全てを加味し、考慮した結果……一輝は一つの結論に到達した。

導かれたそれは一輝を戦慄させるには十分すぎるものだった。

 

(ッッッまずい!!!!!!)

 

つまりこれは────奇襲ですらなかったという事だ。

全ては予知された未来に起きた、想定範囲内の出来事だったのだ。

 

 

 

「気をつけてアリス‼︎ これは罠だァァ!!!」

 

 

 

 

「あ〜あ、残念だなぁ。もう少し早ければ避けられたかもしれないのにさ。」

「え、っ……え?」

 

一輝の警告は間に合わず、既にアリスの体には数多の剣が突き刺さっていた。

 

そしてその背後には、

 

切り倒したはずの紫ノ宮天音が両手に剣を持ち、そして満面の笑みで立っていた。

 

 

 

つい先ほど『破軍』の面々が斬り伏せた『暁』は全員が偽物だった。

 

見ると紫ノ宮以外の『暁』の面々も何もなかったはずの空間から現れる。

その中の一人。着衣がジーパンとエプロンだけの少女───《血濡れのダヴィンチ》サラ・ブラッドリリーの伐刀絶技《騙し絵》により加工された、ただの木偶を斬っただけだったのだ。

 

「アタシの芸術は本物より本物らしいってこと。」

「フフ…王馬君の能力で姿を隠していましたが、木偶を斬ったくらいで安堵する姿はとても滑稽でしたよ。フフフ。」

 

完全に想定外の出来事に驚く『破軍』の代表生を見て平賀は愉快な声を上げ、倒れた有栖院を担ぎあげる。

 

「それではあとは皆さんにお任せします。スポンサーの『可能な限り圧倒的な、議論の余地のないほどの壊滅』というオーダー通り、徹底的に叩き潰してくださいね。

ボクはこの裏切り者をヴァレンシュタイン先生の元へ連れていかなければならないので。

では。」

 

そして有栖院を連れたまま、ひとっ飛びで戦域を離脱する。

 

「っ待て!」

 

このままだと有栖院は連れていかれる。

おそらく────殺されるだろう。

珠雫の為にもその事態はなんとしてでも避けなければならない。

一輝は連れていかれる有栖院を追いかける。

もちろんこのままだったならば余裕で追いつけただろう。

 

黒鉄王馬が立ち塞がらなければ。

 

「っっ!!」

「散れ。」

 

容赦無く野太刀である霊装《龍爪》を振るってくる。

 

(まずいっ!このままだと《陰鉄》ごと叩き斬られる!)

 

王馬の強さの一つは1mを軽く超える《龍爪》を扱える怪力にある。

中途半端に剣を受け、このまま無理にでも突破しようとするならば霊装ごと叩き斬られる未来が一輝には見えた。

ならば全霊を以って受けに徹するしかないと体制を整えたとき、

 

「はぁぁああぁぁ!」

 

《龍爪》は炎を纏う黄金の剣によってその軌跡を阻まれた。

 

「ステラ!」

 

自分を守るように間に入ってきた彼女の名を叫ぶ。

ステラはそのまま王馬と鍔迫り合いをしながら一輝に告げる。

 

「イッキ、シズクがアリスを追いかけて行ったわ!」

 

一輝の視界の先に、全速力で平賀を追いかける珠雫の背中が見えた。

 

「コイツらシズクを素通りにした!多分先に罠があるのよ!1人で行かせたらまずいわ!!」

「分かった。ここは任せるよ!」

「ええ!こんな奴ら、全員ここで叩き潰してやるわよ!」

 

ステラの威勢のいい言葉に背中を押され、一輝は珠雫を全力で追いかける。

 

 

この時、実は一輝には躊躇いが生じていた。

「『暁』をこのままステラ達だけに任せていいものか」と。

《雷切》を始めとした生徒会役員や葉暮姉妹という代表生もいるため大丈夫か、そう考えたが─────

 

 

(多分、今のステラじゃ王馬兄さんには勝てない……)

 

 

一輝は兄のストイックさ、そして王馬の「強さ」以外に興味のかけらもないその性格のことをよく知っている。

 

姿を消してから6年。

どのように生き、どれほどの死線をくぐり抜け、どんな成長をして来たか。

一輝には分からない。

だが、そんな王馬の性格や、姿を消した当時の強さ、予測できる成長速度……どう考えても現時点ではステラより王馬の方が強い。

強者であるステラも刀華もいるが、王馬はそれ以上の傑物だ。

 

(……このままだと『破軍』は負ける)

 

一輝は冷静に現状を見極める。

 

かと言って自分が戻って加勢する可能性は皆無。

1人で有栖院を助けに行った珠雫の手助けをした方が良いのは自明だ。

一方で、何も対策を打たないと『破軍』の壊滅は逃れられない。

 

一輝は学園から続く坂を駆け下りながら、生徒手帳を取り出し、ある人へ電話をかける。

 

このままだとジリ貧だ。

ならば───助けて貰えばいい。

 

しかしながら寧音も黒乃も今は東京にはいない。KoKの手伝いのため大阪にいるだろう。

 

だとしたら一輝は誰に電話をかけているのだろうか─────

 

長いコール音の後に相手が電話に出る。

 

「……もしもし‼︎」

『んぁ。なんだ、一輝か?どーした?』

 

 

 

 

「ッッ─────‼︎⁉︎」

 

一輝の推測通り、ステラは王馬に力負けしていた。

《天壌焼き焦がす竜王の焔》と《月輪割り断つ天龍の大爪》。

圧倒的な光熱と暴風の衝突は全てを吹き飛ばし、万物を焼き払う嵐となって吹き荒れていた。

 

互いに拮抗していた最高火力の伐刀絶技。

 

だが、やがて《紅蓮の皇女》は押し込まれ始める。

規格外の膂力を自慢とするステラの両手に、感じたのことない圧力がかかる。

その圧力から足が地面にめり込み、亀裂が生じる。

サイタマに《天壌焼き焦がす竜王の焔》を打ち消されるのとは感触が全く違う。

サイタマの一撃は一瞬の元に炎の竜を消し去ってしまう。

だが、《風の剣帝》による少しずつ、しかし着実に《天壌焼き焦がす竜王の焔》を押し込んでくるこの感覚は、ステラが体験したことのないものだった。

 

そして拮抗は完全に崩れる。

 

《月輪割り断つ天龍の大爪》は炎の竜を砕き、そのまま勢い衰えずにステラの頭上に降りかかる。

 

(や、ば─────)

 

数瞬前まで全身で踏ん張っていたステラは回避行動に移れない。

 

そしてこの高次元の争いに付いていけるものは誰1人としていない。

学生騎士の中でも実力者であるこの場の全員が自分の身を守るのに必死だった。

それこそが灼熱と暴風の衝突の威力を物語っていた。

 

この一撃は避けられない。

 

 

 

 

 

今ここに《雷切》東堂刀華がいなかったならば、の話だが。

 

 

 

 

「ステラさん!」

 

刀華は伐刀絶技《疾風迅雷》を以って降り落ちる災害から紙一重でステラを救出した。

刀華はこの場にいる学生騎士の中で、この別次元の戦いにもついていく事の出来る唯一の伐刀者だった。

 

その災害が降り落ちた地面見ると、悉くが粉砕されていた。

《月輪割り断つ天龍の大爪》は校舎、訓練場……そして瓦礫すら粉々にしたのだ。

まるで龍の爪で全てをえぐられたかのように。

 

もし刀華がステラを助けなかったら──考えただけでもぞっとする。

そこでステラは助けてくれた刀華へ礼を言おうとしたが、

 

「ありがとう!助かったわトーカさ─────づっ⁉︎」

 

しかし途端にステラの声は詰まった。

刀華がステラへ直接電流を流し込んだからだ。

 

「どう、して…」

「ごめんなさいステラさん。でも、私と引き分ける程度の今の貴女では王馬さんには勝てない。」

 

何か言いたげな顔をするもステラの意識はブラックアウトした。

 

「桔梗さん!牡丹さん!」

「えっ⁉︎」「きゃあ!」

 

そして刀華は気絶したステラを葉暮姉妹へ投げつけ、彼女達はステラを受け止める。

 

「貴女達はステラさんを連れて逃げてください‼︎」

 

今この場で最も冷静な判断を下せたのは刀華だけだった。

先ほどまでは『暁学園』を蹴散らすことこそが最善手だった。

しかしステラが王馬に敗北した今、無策に挑むのは"最悪の結末"に繋がる可能性すらある。

つまり「『暁学園』が『破軍学園』に代わって、7校目として七星剣舞祭へ出場する」という事態に陥る可能性が、現実的なものになりつつあるということだ。

 

それを防ぐための最適解は七星剣舞祭代表生を守りきること。

 

「今ここで『破軍』の代表である貴女たちが敗北するようなことがあってはいけません!!」

 

刀華の冷静な指示を聞き、学園から逃げ出す葉暮姉妹────だが、『暁』は当然逃しはしまいと動く。

 

「逃すと思うか?」

 

言葉とともに王馬の後ろから風祭凛奈と多々良幽衣が飛び出し、三人を追いかける。

 

しかし『破軍』もそう簡単には追わせない。

 

「《マッハグリード》‼︎」

「《クレッシェンド・アックス》‼︎」

 

生徒会役員の二人がその前進を阻止する。

 

「追わせると思いますか?」

 

刀華は目の前の王馬を見て《鳴神》を構え直す。

彼女の横には親友である道徳原カナタが立っている。

 

「カナちゃん……」

 

彼女もまた『破軍』の代表。

しかし彼女はここに残り、刀華とともに戦う決意をしていた。

 

(……ありがとう。)

 

『暁』との二度目の衝突。

これが正真正銘の死線と成るだろう。

 

「やられっぱなしは破軍学園生徒会の名折れです。この借りは倍にして返しますよ!」

「「おうっ!!」」

 

皆を鼓舞し、未だ抵抗しようとする刀華らを見て王馬はつまらなそうに言い返す。

 

「かかってこい。決着が少し長引いただけの事だ。」

 

 

 

 

一方。

 

一輝と珠雫はしばらくバイクを走らせた後、『暁学園』に到着したのだが────

 

一輝が唐突に運転していたバイクを急停止させ、その勢いのまま珠雫はつんのめる。

幸い、珠雫の前には一輝がいたために放り出されることはなかった。

 

「お、お兄様⁉︎ どうしたんですか⁉︎」

 

珠雫は当然ながら驚きの声をあげる。

この急停車の理由を理解できなかったのだ。

しかしそれはしょうがないことなのかもしれない。

武人として未熟な珠雫は理解できなかったのだ。

 

今この瞬間、一輝と珠雫が『魔人の領地』へ踏み込んでしまったということに。

 

 

一輝はバイクを降りて、五臓六腑が押し潰されそうな重圧に耐えながらなんとか《陰鉄》を顕現させる。

 

絞め殺すような圧力を耐え、恐怖を押し殺して天を仰ぐ。

暁学園 本校舎。その屋上に"彼女"は佇んでいた。

 

即ち────純白の戦乙女。

 

「敵ッ⁉︎」

 

珠雫も《宵時雨》を顕現させて構えるが、一輝はそれを手で制する。

どうやら純白の戦乙女は珠雫に興味がないかのように一輝だけを見つめていた。

 

「……珠雫。アリスはこの中だね?」

「え、ぁ、はい。」

「なら先に行ってくれ。」

 

「一対一にこだわる必要は無い。」そう言おうとした珠雫だが、一輝の顔を見るとそのようなことはとても言えそうに無い。

一輝の顔はそれほどまでにこわばっていたからだ。

 

「それほどの、敵なのですか?」

 

珠雫は一輝の態度から相手の力量を読み取る。

その確認に肯定が帰ってきた。

 

「……まぁね。……それに急がないとアリスが間に合わなくなるかもしれない。ここまで来たんだ。珠雫はアリスを助けに行くんだ。」

「で、でも────」

「珠雫。頼む。」

 

それほどの敵だからこそ2人で戦うべきだろう、そう思ったがここまで言われれば珠雫も理解できた。

 

珠雫がここにいれば、一輝は彼女を守りきることができないのだ。

 

「……わかりました。ここはお兄様にお願いいたします。」

 

珠雫がこの場を一輝に任せ、一人校舎へと入っていく。

 

それを見届けた一輝は、その女性を見上げる。

 

(………仮にも学園を名乗るくらいだから先生役がいると思ったけど─────まさかここまでとは、ね。)

 

一輝は覚悟を決めて《陰鉄》を強く握りしめ、その女性へと話しかけた。

 

「……剣の道を志すものであれば貴女を知らない人はいません。

捕らえられることを諦められた世界最悪の犯罪者でありながら。

すべての剣の道の果て、その頂に立つ世界最強の剣士。

貴女こそが────《比翼》のエーデルワイスで間違いありませんね?」

 

「確かに。私こそが《比翼》です。」

 

《比翼》。

その名の通り彼女の剣はまさに一対の翼。

彼女を純白の天使に見間違えても仕方がないような、そんな神聖さすら併せ持っている。

 

《比翼》は一輝を見て怪訝な顔をして言葉を続ける。

 

「………しかし分かりませんね。

私が誰かを分かっていて尚、剣を抜くのですか?

私と貴方の力量差がわからない訳ではないでしょう。そうでなければあなたはそれほど怯えるはずもない。」

「……強がっていたつもりなんですがね。」

 

さらに続ける。

 

「それに……私は無闇に子供を傷つけることは望みません。初めから貴方も貴方の妹も殺すつもりはありません。ですが、もしも向かってくるのならば子供でも容赦はしません。

ここで貴方が倒れる事こそが、『破軍』で戦う者にとっても貴方の妹にとっても"最悪の結末"なのではないですか?」

 

(……全くその通りだ。)

 

一輝は『破軍学園』はステラ達に任せ、珠雫とともに有栖院を助けに来た。

だが、何をどう間違っても眼前の天使には一輝は勝てない。一輝は今から蝋の翼で太陽に飛び立とうとしているようなものなのだ。

 

目の前の女性は正真正銘『世界最強』。

 

今の一輝などと比べていい次元の相手ではない。

勝負にすらならないのは明確だ。

だからこそ《比翼》は引き返すチャンスを与えるために警告している。

 

しかし─────だからこそ。

一輝は逃げられない。

 

「…………貴女は一つ、間違ってますよ。」

「……………。」

 

《比翼》は無言で一輝の言葉を聞く。

 

「珠雫は僕にここを託しました。ならばそれを応えるのが僕の役目です。

それに…………僕は向こうの心配はなにもしていませんよ。」

 

半分笑みを浮かべながら話す一輝に《比翼》は疑問を覚える。

これは強がりからくる笑いではない。

本当に少したりとも心配していないのだろう。

 

 

「……それは、何故。」

 

 

《比翼》がその理由を問うと、自慢げに、軽く笑いながら一輝は答えた。

 

 

「だって今頃、僕の『最強の師匠』が駆けつけてくれているところですから。」

 

 

 

「……『最強』……………ですか。」

 

《比翼》を前にして『最強』という言葉を使う────この意味を一輝がわからない訳ではない。

だが、あえて使った。

一輝は自らの師を紛れもなく『最強』だと思っているから。

 

「それに、『世界最強の剣士』ともあろう貴女が剣を抜いた敵に戦意を問うとは意外ですね。」

 

《陰鉄》の切っ先を屋上に聳え立つ純白の天使へと突きつける。明確な戦意と共に。

 

「確かに、この問答は無用でしたね。」

 

それが皮切りとなる。

 

《比翼》は屋上から一輝の前へと舞い降り

 

その刹那、彼女を中心に剣気が爆裂する。

 

(〜〜ッッッ‼︎)

 

それに呼応して黒鉄一輝を構成する全てが彼に警告する。

 

─────逃げないと オマエ ここで シヌぞ、と。

 

 

だが一輝は歯を食いしばり、恐怖を押し留めて《比翼》へ向かい直す。

 

「我、頂にして終焉。一対の剣にて天地を分かつ者。我が名は《比翼》のエーデルワイス。」

 

もう《落第騎士》と《比翼》の激突は、誰にも止められない。

 

「少年よ。世界の広さを知りなさい。」

 

 

 

 

『暁』との戦いが行われていた『破軍学園』。

見れば立っているのは今や刀華のみ。

相対するのは無傷の《風の剣帝》黒鉄王馬。

他の生徒会役員は、全員倒されてしまった。

 

単純な実力差だったら刀華も既に倒されていただろう。

だったら何故、刀華はまだその足で立っているのだろうか。

彼女の伝家の宝刀《雷切》や、技を以ってその実力差を埋めていたのだろうか。

 

否。

 

その理由は、王馬が戦いが始まってから微塵も動いていなかったからだ。

刀華は何度も斬りつけたがその攻撃の全てを受け入れ、逆に霊装の顕現すらせずに一切攻撃していなかった。

無論、刀華は《雷切》も幾度となく放った。正面から。完璧に。

しかし結果はご覧の有様だ。

 

「そろそろ諦めたらどうだ?

俺とお前だと鍛え方に天地ほどの差がある。」

 

彼が少しも動いていないのは、"少しでも傷をつける事が出来れば戦ってやる"と彼が言ったからだった。

未だ刀華は王馬に傷一つつける事が出来ていない。

だから黒鉄王馬は動かない。

 

刀華も予想していなかっただろう。

ここまで実力差があったなんて。

こうなったら捨て身の一撃以外、王馬へダメージを与えることは叶わない。

そう断じた刀華は身を投じた。

 

 

「《建御雷神》───ッッッ!!」

 

 

《雷切》は東堂刀華は自分の前方に特殊な磁界を形成し、強烈な磁場が働くトンネルへ突っ込む。

王馬へ"傷を1つでも付ける"ための己の身すら犠牲とした、特攻以外の何物でもない攻撃だ。

 

異常な加速をした刀華が王馬と激突し、同時に多量の血が迸る。

 

─────ただしその血全てが刀華から出たものだが。

 

王馬に《鳴神》を突き立てた右腕や、《建御雷神》の反動による全身からの出血である。

対してまさに鉄壁の防御力を誇る《風の剣帝》は胸から多少の血が滲む程度。

あの《雷切》東堂刀華がここまでしても、ほぼノーダメージ。

 

しかし、それも納得できるような証拠が破れた服から覗かれる。

そこには数え切れないほどの傷、傷、傷、傷傷傷傷、傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷…………

 

「貴方……表舞台から姿を消した後、何をしていたの……?」

 

対して王馬の答えは単純な拒絶。

 

「自分の事など語る趣味は無い。」

 

そしてその手に《龍爪》を顕現させ、告げる。

 

「こんなものでも傷といえば傷だ。約束通り相手をしてやろう。」

 

そう言うと《龍爪》を中心に暴風が吹き荒れる。

そう。

これこそが《紅蓮の皇女》最高火力の伐刀絶技、《天壌焼き焦がす竜王の焔》すら飲み込んだ王馬の伐刀絶技。

 

「《月輪割り断つ天龍の大爪》」

 

振り下ろされる竜巻の剣。

 

(みんな……ごめん……っっ!!!)

 

刀華は《建御雷神》により過電流を纏ったために、反動で1mmたりとも動けない。

 

暴風は彼女を飲み込み、無情にも意識を消し飛ばす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───はずだった。

 

 

 

 

「………!」

 

 

王馬は見た。

《月輪割り断つ天龍の大爪》が刀華を切り裂く刹那。

"誰か"が超高速で視界をよぎったのだ。

その者が刀華を《月輪割り断つ天龍の大爪》から助け出した。

 

だが、一体誰が?

 

この場に動ける『破軍』の者など、もういないのに─────

 

 

 

王馬がゆっくり右を見ると

 

 

そこには刀華を抱えた男が立っていた。

 

 

汚れひとつない純白のマントを羽織る男だ。

風でなびくマントから黄色いスーツが見える。

 

背中を向けられているため、顔はよく分からない。

 

その男は横抱きにした刀華を、優しく地面に下ろす。

 

 

「……何なんだ、貴様は。」

 

 

その男を見て問わずにはいられなかった。

男が醸し出す不気味な、しかしながら確かに香る強者の匂い。

数多の死線をくぐり抜けてきた王馬はそれを嗅ぎ取っている。

 

王馬は直感で悟っていた。

"この男は王馬が今まで戦ってきた者とは訳が違う" と。

 

 

「俺か?」

 

 

その男はゆっくりと王馬に向き直る。

 

 

「─────俺は、趣味でヒーローをやっている者だ。」

 

 




果たしてこの男の正体とは⁉︎
次回乞うご期待!
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