すまない。就活の準備とか期末試験の勉強とかでなかなか時間が取れなかった。気付いたら2週間以上経っていたよ…。
しばらく書いていないとクオリティが落ちるのは必然なので、ご容赦を。
「……殺す、殺すわ。アンタは今すぐ、わたしが殺す」
————殺意が、荒れ狂っていた。
少女の青い瞳は赤く染まり、制御しきれなかったマナが魔術式を経ずに稲妻に変わる。彼女に相対する敵は、無言のまま。
————やめろ、と言いたかった。
しかし、身体が動かない。呼吸どころか、心拍も停止している。意識が飛んでないのはただの奇跡。酸素がなくなり脳の機能が停止すれば、もう二度と目覚めることはないだろう。
(…それが、どうしたっ)
自分の身など、些細な事だ。見ろ、彼女を。血塗れになりながら、憎悪を振りまくその姿を。
内から湧き上がる
————彼女の存在が、別の何かに塗り潰されていく。
少女の姿をした怪物は、本性を現した。
「—————————ッ‼︎」
「………ッ⁉︎」
目を覚ますと、リーナの顔が目の前にあった。そして、自分が砂浜で居眠りしたのを思い出す。
「兄様、大丈夫?魘されてたみたいだけど」
心配そうな顔をするリーナを見て、グレンは先程までの動揺を無理矢理押し隠した。妹に無闇に心配を掛けることは、彼の本意ではないのだ。
(……つーか、近い)
眼福だが、同時に生き地獄。可愛い義妹が水着姿で至近距離にいるのは、あらゆる理由で心臓に悪い。
「あ、ああ…。少し悪い夢を見ただけだ」
「…なら、いいけど」
そう、ただの夢。世の中には未来の映像を夢で見る異能者もいると聞くが、少なくともグレンはそうではない。大方、アルベルトが余計なことを言ったせいであんな悪夢を見る羽目になったのだろう、とグレンは考えた。
…だが。
ただの夢なのに、妙にはっきりと記憶に残っている。感覚すらも朧げになる中、視界の中心に入っていた、怒り狂う少女は————
「…兄様?もしかして、具合が悪いんじゃ……」
「…いや、なんでもねーよ。昨日馬鹿どもの相手をして睡眠不足なのが祟っただけだ。で、何か用でもあるんじゃねーか?」
半ば強引に話題を逸らす。そうでもしないと、このまま話が先に進まなくなる気がした。
リーナはそんなグレンの様子に誤魔化す雰囲気を感じつつも、それ以上追及することはなかった。
「ええ。ビーチバレー、やらないかしら?」
「…らあぁッ!」
グレンの渾身の一撃が炸裂し、ボールが砂浜に突き刺さる———寸前。
「ふっ!」
地面すれすれを滑空するように飛び出したリーナがボールを打ち上げ、
「はあぁッ!」
打ち上げられたボールをシスティーナが打つ。黒魔【フィジカル・ブースト】によって強化された身体能力によるスパイクが一直線に飛び出し、相手チームは為すすべもなく点を取られた。
「……………」
「これでもまだ、ハンデが足りないのかしら?」
そのリーナの挑発的な発言に、グレンは悔しげに顔を歪めた。
そう、ハンデ。
これは、魔術ありの変則バレー。当初こそ『魔術は攻性呪文でなければなんでもあり』で行っていたが、リーナとシスティーナ、リィエルがあまりにも強過ぎるため途中からチームを変え、『女子vs男子』のバレーに。しかしそれでも
総合的な身体能力で劣っている、というのは有り得ない。魔術抜きならば、確実に男子側が圧勝するだろう。身体能力に優れたカッシュやギイブル、そして元帝国宮廷魔導士のグレン。この3人がいれば、負ける事などまず有り得ない。
———しかしその結果をひっくり返すのが『魔術』。
たとえ身体能力を増強させるだけの【フィジカル・ブースト】であっても、その効力は魔術の実力に依存する。そして、システィーナ、リィエル、リーナは女子の中でも特にこの呪文に秀でた者たちであると同時に、それなりに体を鍛えているという共通点があった。男子が敵わないのも無理はないだろう。
(…だが、それがどうした!兄が妹に負けるわけには…!)
しかしグレンとしては、何がなんでも頼れる兄を演出したいところ。たとえ相手がアピールする対象であるリーナ本人でも、負けるわけにはいかないのだ。
その気持ちをを後押しするように、不可抗力で参加していたギイブルが叫ぶ。
「このままで良いんですか、先生!この体たらくで、何が男ですかっ!」
当初は「これは遊びで来たんじゃない」云々となかなか参加しようとしなかったギイブルだが、結局は成り行きで参加することになり、今では一番情熱を燃やしている。彼の中の男に火がついたのだろう。こういう情熱は、嫌いではない。
「…へっ。そうこなくっちゃなっ!」
何度やられようと、決して諦めない。その決意が、グレンの中で固まった。
————しかし。
(…なんだ?)
猛烈な違和感が、グレンを襲った。
(なんで、こいつらは悔しがらない?)
カッシュやロッド、カイといった男子連中。彼らは、あまり悔しがっていなかった。
(やる気がない…?いや、それはねえな。こういう体を動かすの、こいつら好きだし)
ならば、その原因は何だ。ふと、カッシュの目線を追うと————。
(…あ?)
山が、あった。それは、男子諸君を誘惑してやまない双丘。分かりやすく言うと胸である。
————その持ち主は、ルミア。
「あの、先生?」
ギイブルが訝しげに声を掛けるが、当然グレンには聞こえない。
グレンは他の男子の視線を追う。カッシュはルミアの胸部装甲にやられていたが、他の男子は様々な女子の双丘に目移りしまくっていた。
———ただし、リィエルとシスティーナは除いた、全ての女子に。
(ああ、なるほどなー。要するにこいつらは、うら若き乙女の胸部から放たれる精神系白魔術にやられてたってわけか)
今は水着。そして、ビーチバレーだ。海水浴の後で水滴の伝う肌と、バレーという激しい運動はさぞやその魅力を振るったことだろう。
なるほど、納得だ、などとグレンは頷き。そして。
「てめえらああっ!」
「やっべ、先生にバレた!逃げろ!」
「ああ、楽園がぁっ!」
「諦めろ!リーナちゃんが関わった時点で、こうなることは分かってただろ!」
グレンは激怒し、男子を追いかけ回す。その楽園を惜しむ声と、それを諌める声。サイネリア島全土を舞台とした、リアル鬼ごっこが始まる。
「……兄様、いきなりどうしたのかしら?」
「…さあ?」
残された女子は、わけも分からずにキョトンと首を傾げるばかりだった。
『あなたが、リィエル=レイフォード?』
それは、彼女————リーナ=レーダスが特務分室にやってきて半月程経った頃だった。任務の前の小休憩中に、彼女が話しかけてきたのだ。
それまで全く接点のなかったわたしと彼女だが、不思議とすぐに打ち解けることができた。———今思えば、特務分室の中でグレンやアルベルトの次に親しかったかもしれない。
彼女との話題は、グレンのことばかり。リーナの話すグレンの日常はわたしの知らないことで、その代わりにわたしはリーナにグレンとの任務のことを話した。『兄様の幸福の為に環境を最適化する』とか『外道魔術師鏖殺計画』とか、リーナはわたしには分からないことを言ったりすることが度々あったけど、それでも心がポカポカする時間だった。
リーナは真夜中の任務にだけ参加した。だからわたしと話せるのは夜の時間の、任務前のほんの僅かな時間だけで、同じ任務に行った事は一度もない。いつか同じ戦場で戦いたいな、という思いが日に日に高くなっていった。
———なのに。
リーナは突然、姿を消した。グレンと同じように、あっさりと。
でも、この前の任務で再会できて、嬉しかった。なぜかわたしのことを覚えていないと知って、胸がじくじく痛んだけど、それでも、前と同じように会話ができる、と思って。
でも、以前ほど多くの会話はできていない。
システィーナとルミアが、なぜかわたしをリーナから引き離した。引き離されたのは『思い出してはならない』かららしいけど、よく分からない。
引き離されなくなった後も、リーナとたくさん話すことはなかった。リーナはあまりわたしに近づこうとしなかったし、わたしもまた、あまりリーナに関わろうとは思えなかった。……なんだか、リーナがわたしの知るリーナとは全然違う別人に思えて。
グレンもリーナも、みんなわたしから離れていく。
頭の悪いわたしは、どうすればいいのか分からなかった。
「夜は夜で、とても綺麗ね!」
「でしょ?ほら、システィも!早く早く!」
「…うう。やっぱり、不味いわよ」
夜。
旅籠の消灯時間過ぎの時間帯に、海岸に近づく4人の少女達の姿があった。言わずもがな、システィーナ、ルミア、リィエル、リーナの4人である。
物腰や普段の態度に反してやんちゃな面のあるルミアが夜の海を鑑賞する事を提案し、リーナがそれに賛同。リィエルも半ば成り行きでついて行き、規則違反を案じたシスティーナがそれを追う、という経緯で今に至る。
「もう、そんなこと言って。システィだって、見てみたいくせに。……ほら、もうリーナは遊んでるよ?」
「…え?あ……」
バッシャーン、という水の音と共に、リーナが海に飛び込んだ。いつの間に着替えたのか、その肢体は水着姿に包まれている。
それを見て、システィーナは諦めたようにため息を吐いた。
「……もう、しょうがないんだから」
それからのシスティーナに迷いはなかった。水着こそないが、全く水遊びができないわけではない。なるべく制服を濡らさないように気を付けながら海に近づいていく。
「ほら、リィエルも遊ぼう?」
「?…遊ぶ?」
「そう。例えば、こんな風に!」
ルミアはリィエルの手を引いて海に入ると、足元の水を勢いよく巻き上げた。突然の不意打ちに為すすべもなく、システィーナの全身がずぶ濡れになる。
「…ちょっ、ルミアっ⁉︎」
「…よく分からないけど、水をかければいいの?」
「これは、システィーナの分!」
リィエルがルミアに問う間に、リーナがルミアに攻撃。ルミアと同じように水を掬い上げ、見事システィーナの仇を討った。
「ちょっともう!びしょ濡れじゃない!」
「あははははははっ!」
————そんな少女達の姿を、見つめる人影が1人。
「…全く、持って来て良かったな、これ」
彼————グレンの手の中には、両手にすっぽり収まるくらいの黒い箱があった。かつてリーナが発明した、小型魔導射影機である。従来の射影機とは異なり、魔術師にしか使えないという欠点こそあるものの、どんな暗闇でも撮像可能であり、何より
夜空には星が瞬き、海面はその星々の輝きを映し出す。その宝石箱のような光景の中には、無邪気にはしゃぐ4人の妖精たち。見ていて全く飽きない絵だ。
パシャ、と小さな音と共に、小型魔導射影機がその風景を撮像する。小さな音、そして何より光も何も出ないため、彼女たちの戯れを邪魔する心配はなかった。
———グレンは知らない。この機械が、グレンを盗撮する目的で開発されたという事を。
「本当に、良い絵だ」
男子たちを追い掛け回し、グレンの体はクタクタ。しかし彼女ら4人のこの光景を見ていると、その疲労も吹き飛ぶというもの。
彼は、4人が海から引き上げ、旅籠に帰るまでずっとその光景を見守り続けた。
……実は、忙しいのは就活の準備と期末試験の勉強のせいだけじゃないんだ。
俺が、ゆゆゆにハマってしまったからなんだ。今まで勉強とかの合間を縫って執筆してたけど、その時間がゆゆゆ の動画を見たりとか、ゆゆゆいの本編を進めたりしたせいでこんなに遅れたんだ。
本当にすまない。