ヒーローはいなかった。   作:ぷにぷに

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主人公の個性

 誰もいない時間の中で、俺はただ一人孤独を強いられた。

 

 どうして誰も何も言ってくれないんだ。どうして誰も抱き締めてくれないんだ。俺が何をした。何が悪かったんだ。

 誰か、誰でもいいから、どんな答えでもいいから……。

 

 ―――誰か、応えてくれ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 入学式――春の出会いの季節における、始まりの日。

 

 この日は、全国的に多くの学生がほんのちょっぴりの不安と胸いっぱいのドキドキを抱え、各々の学び舎へと足を踏み入れる日。

 私も内心では不安と期待が入り混じったような気持ちでいっぱいで、歩き方もいつもより弾むようだ。いや、私の『個性』もあるし、もしかしたら無意識にふわふわしちゃってるのかもしれない。

 

 でもそれもその筈だ。

 だって私がこれから入学するのは、全国に存在するヒーロー育成学校の頂点。あのオールマイトも卒業した"雄英高校"だ。寧ろ興奮を隠すなって言う方が無理だよね。

 新しい制服に身を包んで、校門を潜る。

 ちらほらと見える雄英生も、新入生はすぐ分かる。真新しい制服に、私と同じで興奮を隠せない初々しさ、やっぱり気持ちは皆同じらしい。

 

 さて、合格通知に同封されていたプリントを取り出す。

 そこに書かれている私のクラスは1年A組。

 教室の場所も校舎の見取り図があったから、それに沿って行けば大丈夫な筈だ。時間的にもまだ少し余裕がある。ちょっと早く来すぎちゃったかな?

 プリントを見ながら歩く。地図があるとはいえ、流石は雄英高校……広すぎて地図と差がありすぎる。ともすればこれ、地図あっても迷っちゃいそうだよ。

 段々道が良く分からなくなってきそうな感覚に、思わず眉間に皺が寄り、無意識に顔がプリントに近づいていた。

 

「おーい、そこの貴女。危ないですよ」

 

 すると、ふと横から男の人の声が掛かった。心地の良い穏やかさを感じる声色で、人の多い環境の中でも自然とはっきり聞こえる声だ。

 

「ふぇ? あうッ!?」

 

 私がプリントから顔を上げると、目の前に道はなかった。けどそのまま直進して目の前に現れた何かにぶつかってしまう。普通に痛い……おでこを抑えながら前を見ると、そこには白い柱があった。

 どうやらプリントに注視し過ぎて前を見てなかったみたい。周りを見れば、どうやらここは校舎の玄関前だ。扉の横にある柱にぶつかったんだね、うん。

 

「大丈夫ですか?」

「え、あっ、はい! あはは、すいません……ちょっと前を見てなかったです」

 

 ちょっと恥ずかしい気持ちのまま、声の主の方へ振り向く。

 するとそこには私よりも頭一つ背の高い男の人が立っていた。制服を着ているから同じ雄英生だろうけど、三年生かな? ちょっと緊張してしまう。

 でもなんだろう、先輩なのに威圧感は感じない。抱いた緊張も、直ぐに緩んで消えていくのを感じる。

 

 私も昔からうららかな空気だね、なんて言われて癒し系と評されていたけれど、そういうのとはなんか違うみたい。なんというか、この人の傍に居ると落ち着くなぁって感じ。そういう『個性』なのかな?

 

「ああ、怪我もないみたいで良かったです。入学初日から躓いていたら損ですからね」

「あはは、そうですね。ありがとうございます、先輩!」

 

 やっぱりいい人だ。多分『個性』じゃなくても、この人の持つ独特の雰囲気なんだ。人に好かれる人ってこういう人なんだろうな。

 さっきもわざわざ声を掛けてくれたし、ヒーローといっても少女漫画の主人公みたいだ。イケメンで高身長で優しい……あれ? 本当に少女漫画の主人公やん!

 

「…………先輩?」

「へ?」

 

 頭下げてお礼を言い、頭を上げた時、そんなイケメン先輩が目を丸くしていた。

 

 

 ☆

 

 

「うぅ~……! は、恥ずかしい……!」

「ッハハハ、そうかそうか。俺を先輩だと思ったのか。悪いね、同じ新入生だよ」

「言わんとって~……うぅ」

 

 玄関での一悶着の後、怜と少女――麗日お茶子(うららか おちゃこ)は、共に1年A組の教室へと向かっていた。怜もまた、お茶子と同じ1年A組に所属することになっているのだ。

 怜の隣を歩くお茶子は両手で耳まで真っ赤になった顔を隠し、半分空中に浮きながら歩いていた。彼女の『個性』――"無重力(ゼログラビティ)"が無意識に発動しているようだ。

 

 あの後、怜はお茶子と自己紹介を終え、誤解を解いた。

 怜が同級生と知ったお茶子は、柱にぶつかったことに加え、先輩と間違えたことで羞恥心が頂点に達した。怜も最初こそ敬語だったが、そんなお茶子の姿を見ていると自然と砕けた言葉になったようだ。

 

「まぁ、そう気にするな。そういうこともあるさ」

「うぅ……ん! 気にしてたら切りがないもんね!」

「その意気だ」

 

 ははは、とお互いに笑う二人。お互いに穏やかな人格の持ち主故か、二人の醸し出す空気は相乗効果で非常にゆるやかなものになっている。

 まるで麗らかな日にぽかぽかとした日の光を浴びている様な、そんな穏やかさである。

 

「あ……か、風隼君っ……と、あの時の!」

「ん? ああ、出久じゃないか」

「あー! 地味目の!」

 

 そこに現れたのは、緑谷出久。1年A組の教室の前で、ばったりである。

 するとどうやらお茶子も彼と顔見知りだったらしく、大きな声を上げて反応した。どうやら試験会場が一緒だったようだ。試験中に関わり合いになるようなことがあったのだろう。

 期せず縁のある三人が再会したのだ。その出会いに、お茶子も出久もテンションが少し上がっている。

 

「まぁ、此処で屯するのもなんだ。教室に入ろう。此処にいるってことは出久もA組なんだろう?」

「あ、うん!」

 

 ガラリ、と異形型の生徒の為か、かなり大きめの扉を開けて中に入る。

 中には、錚々たるメンバーが揃っていた。

 柄の悪い吊り目の少年や、服だけ空中に浮いている……制服的には少女、眼鏡のいかにも真面目といった少年、異形系の生徒も数名いるし、ヒーローを目指すだけあって中々個性的なメンバーだ。

 

 故に、教室の中はざわざわと喧騒に包まれていた……だが、

 

「おはよう」

 

 怜が教室に入った瞬間、空気が変わった。

 騒いでいた面々はぴたりと会話を止め、新たな入室者である怜とその後ろにいる出久達を見た。

 怜の醸し出す空気が、ほんの少しピリッと張りつめていた教室内の緊張感を緩めたらしい。その証拠に、言い争いをしていた吊り目の少年と眼鏡の少年が、ぴたりとソレを止めたのだ。

 

 出久がその片方、吊り目の少年のそんな様子を見て驚いているが、怜は気にも留めずに教室内へと入っていく。

 

「えーと、俺の席は……此処か」

「チッ……」

 

 そして自分の席になんともなしに座った。隣は先程の吊り目少年――名前は爆豪勝己(ばくごう かつき)である。隣に座った瞬間舌打ちされたのは何故だろうと思う。

 とりあえず挨拶は必要だろうと思い、怜は爆豪の方へと顔を向けると、そのまま握手とばかりに手を差し出して挨拶した。

 

「初めまして、俺は風隼怜……これからよろしく頼むよ」

「あァ? うるせーぞ端役(モブ)が! 死ね!」

「個性的な挨拶だな」

「チッ……」

 

 あのかっちゃんが大人しく引いたっ!? と出久あたりが驚愕に目を見開いていたが、怜はそんなことは露知らず、楽しげに笑ってその手をひっこめた。

 それにつられてか、クラスの面々も大人しく席に座り出す。出久とお茶子も自分の席を確認して着席した。

 

 すると同時、教室のドアが開いた。

 

「……開幕から全員着席してるとは、ヒーロー科にしては中々珍しいクラスだ」

 

 そこに居たのは、寝袋に入ったまま器用に立っている男。長髪に無精髭が目立つ男で、そんなことを言った後、その場で寝袋を脱いだ。

 中から現れたのは、全身真っ黒に白いマフラーのなんだがいかにも怪しい男である。猫背に眠そうな目は、なんだかヒーロー科には似合わぬ無気力さを感じさせた。

 

「ま、その方が合理的で良い……さて、俺の名前は相澤消太(あいざわ しょうた)……お前らの担任だ」

 

 まさかの担任!? と驚きの声が上がるも、それを片手を上げて抑える相澤先生。

 

「早速だが……お前ら、コレを来てグラウンドに出ろ」

 

 彼が取り出したのは、この学校の体操着であった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ――ようやく、ここまで漕ぎ着けられたか。

 

 雄英高校のグラウンド。日本一のヒーロー育成機関としての側面を見せるだけあって、かなり広い。普通の高校なら、二三校くらい同時に体育祭を行っても平気なんじゃないかと思う位だ。

 相澤先生によると、此処で俺達は『個性』の能力テストを行うらしい。今まで『個性』無しでやっていた身体能力テストを、『個性』ありで行うというもの。『個性』によっては常識で考えられない結果を出す者もきっと多い筈だろうな。

 

 俺の『個性』もある種、相性の良い種目になれば驚くほどの性能を見せてくれる。何せ、俺の『個性』はシンプルかつ汎用性も高いからね。

 

 

 ☆

 

 

 今まで出会った生徒の中でも、今年のクラスは中々に粒揃いと言っていい。

 まぁ、そうは言っても全員がそうという訳ではないがな。

 ヒーローと言ってもその種類や活躍の場は違うことが多い……この学校に所属している"13号"先生の様に、救助活動に徹するヒーローもいれば、"オールマイト"の様に直接戦闘を行うヒーローもいる。

 それは何をしたいかというよりは、己の『個性』を活かせる適正によって選べる選択肢は変わってくる。戦闘狂だからといって、『個性』が治療系なら後衛に下がるしかないのと一緒だ。

 

 さて、この『個性』における限界を知るテストで、こいつらが何処まで出来るか――見せて貰おうじゃないか。

 個人的に気になる奴もちらほらいるしな。

 入試試験などの成績を鑑みて注目している生徒といえば、まぁ爆豪、轟……緑谷も違う意味で気になってはいるが、アレは正直ダメだと思っている。

 

「……だが、」

 

 俺が一番気になっているのは、風隼怜だ。

 あいつが一番意味が分からない。

 なにせ入試試験では、開始の宣告がなされた後、全ての敵ロボットの破壊に奴が関わった上で、導入した全ての敵ロボットが破壊されるという異常な結果になっているのだ。

 分身系の『個性』かと思えば、個性届けに記載されていたのは『加速強化』という純粋な身体強化系の『個性』……まさか全ての敵ロボットの下へと高速で移動し続けたとでもいうのか? そんな筈がない、それが本当なら奴のスピードはオールマイトすら超えている。

 

 故に、このテストではっきりする。奴の『個性』がなんなのか。

 

「100m走……次、風隼怜と芦戸三奈」

「はーい!」

「はい」

 

 俺が呼んだ二人がスタート位置にセット。

 奴の力が届け通りなら、この種目は相性抜群だろう。何せ、スピードを純粋に競う種目だ。先にやった同じスピード系の『個性』である飯田天哉も、この種目では3秒台という驚異的な記録を出していたからな。

 芦戸には悪いが、此処はお手並み拝見といったところか。

 

 では、

 

「よーい、スタート」

 

 合図を出した。ストップウォッチが動き出す――

 

「ストップです」

「ッ!?」

 

 ――瞬間に、スタートボタンに掛かっていた俺の指の上から、ストップウォッチが停止させられた。気付けば目の前に風隼が立っており、何事もないかのように笑みを浮かべている。

 まさか、今の一瞬でここまで来たというのか? ありえない、どんなスピードだ。

 

「っと……記録は、0秒05ですか。うーん、思ったより時間掛かった。やはり発動のタイミングを図るのは難しい」

「0秒05なんて化け物染みた結果の癖に何を言ってる……というか、ちゃんと走ったのか?」

「走りましたよ? ちゃんとスタート地点からゴールまで一直線に走り抜けて、それから先生の所に来たんですから」

「……芦戸三奈、すまんが最後に回ってもう一回走ってくれ」

「えー! ……はーい」

 

 同じくスタートしていた芦戸のタイムが図れなかったので、もう一度走ってもらうことにする。あまりに予想外なスピードに驚きを隠せなかった。これでは瞬間移動と言っても過言ではないな。

 しかし、ちゃんと走ったと言ってる以上走ったのだろう。これは瞬間移動ではない……だが、オールマイトを見れば分かる。それ程のスピードならその走りには余波が生まれる筈だ。

 それなのに砂埃一つ立てず、何の音も聞こえないままに走り抜けるなど出来るのだろうか。

 

「風隼……お前の『個性』は身体強化と聞いている、偽りはないか?」

「はい……俺の個性は嘘偽りなく身体強化系ですよ」

「……なら良い」

 

 身体強化系……コイツのソレはオールマイトすら超える『個性』なのかもしれない。

 まぁこの後も種目は残っている。じっくり判断させてもらおうじゃないか……と言っても、コイツの場合『個性』以外にも色々おかしい部分はあるんだがな。

 

 生徒達は誰も思わないだろうな、

 

 

 ―――コイツの年齢が、未だ5歳(・・)なんてことは。

 

 

 

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