『個性』の能力テストは、恙なく終わった。
あの教師はこのテストが始まる前、『個性』を使って全力でやっていいということに浮かれていた空気に対し、そんな心意気なら最下位は除籍とすることにしようと言った。
まぁ、俺には特に関係ないことだが、それで多少は緊張感が戻る。正直、その方が張り合いがある……勝つのは俺だけどな。
名前は特に覚えてないが、雄英に受かるだけあってクラスの奴らは、今までのモブより多少マシのようだった。つっても、俺のが強いけどな。
そんな中で俺が一番ムカついてるのは、なんも出来ねぇ『無個性』のクセに、なんでか雄英に受かったデクのことだ。俺の母校から唯一の雄英高校合格者っつー箔を付けたかったってのに、邪魔しやがった野郎。
しかも、デクの野郎は俺の目の前で派手な『個性』を使って見せた。今まで俺に内緒で強力な『個性』を持っていたらしい。
ハッキリ言って、頭にくる。今でも俺にビビってるくせに、調子に乗りやがって。
一発ぶっ飛ばしてやろうと思ったが、あの教師に邪魔された。
デクが騒いでいたが、どうやら『個性』を消す『個性』を持ってて、イレイザーヘッドとかいうプロヒーローらしい。
「クッソ……!」
「まぁ、落ち着けよ勝己……何怒ってるんだ?」
抑え込まれ、結局デクには何も出来なかった。除籍もウソだったから、デクの除籍も無しだ。畜生が。
それに苛立っていると、後ろから肩に手を置いてそう言ってくる奴がいた。
馴れ馴れしい奴だと振り向きながら睨み付けると、そこには今日デクと一緒に教室に入って来た男が立っている。俺よか背も高く、直感的にやり辛い相手だと分かる奴だ。
なんというか、突っかかっても暖簾に腕押しとばかりに受け流される。俺自身も、コイツに対しては敵愾心を持ちづらかった。
本当にやり辛い。
今更ながら肩に置かれた手を叩き落とす。普段なら振り返りざまに即刻叩き落としていた筈が、置かれた手を嫌ではないと感じたのか? この俺が?
「この……ッ……名前で呼ぶんじゃねぇよ」
「ああ、すまないな。俺はいつもそうなんだ」
「チッ……」
そういえばコイツの成績、別に上位って訳じゃなかったが……確か『個性』と相性の良い種目じゃ誰よりも良い成績を取ってた気がする。
100m走じゃ0秒台という化け物染みた成績だった。何気なく見ていたが、動き出しからゴールまで、全く見えなかったのを覚えている。
気になって結果発表でコイツのデータを見る。
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握力 82㎏
立ち幅跳び 4m89㎝
走り幅跳び 9m98㎝
反復横飛び 78回/20s
上体起こし 53回
長座体前屈 75㎝
ハンドボール投げ 802m
100m走 0秒05
1500m走 3秒76
シャトルラン∞
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基本的に身体強化系の『個性』だからか、普通よりは飛び抜けた記録を出してやがるが、こと走るタイムを測るものに関しては、このクラスでも飛び抜けている。
シャトルランに関しては∞だ。つまり、スタミナに関して言えば無尽蔵とも言えるカラクリがある。瞬間移動並の超高速移動……目で捉えられないってのは中々脅威だ。
まぁ、俺なら爆破の広範囲攻撃でどうとでもなるが。
ようはスピードという分野でいえば、コイツに敵う奴はいないってことだ。やっぱりムカつくな。
「勝己の『個性』は派手だし汎用性高くていいな、しかもそれを扱うセンスもずば抜けて高い……これは中々手強そうだ」
「あァ!? 何分析してんだ、死ね!」
「良いじゃないか、どうせお前も今俺の記録を見て色々考えてたんだろう? お互い様だ」
「っく……チィィッ!」
見透かしたような口振りで図星を付いてくる。それがまたイライラさせてきた。
まどろっこしいのは面倒だ。直接聞けばいい話だろう。
「テメェの『個性』は何だ? 単なる増強系であんなマネが出来るわけがねぇ」
本当なら誰かにこんな問いをすることはしねぇ俺だが、興味が湧いたこととコイツの持つ訊きやすい雰囲気がそうさせたんだろう。
それに、正直コイツの『個性』は見てても理解出来ねぇだろう。増強系の力なのに、このテストで理解出来ないってことは、どうやったって理解するのは難しいってことだ。
俺の問いに対し、コイツは顎に手を当てながら少しの間思考に耽る。教えるのかどうかを考えているのかと思えば、どう説明したものかな、なんて呟いていた。
どうやら本人にとっても説明が難しい力らしい。そうしてしばらく待つと、考えが纏まったのか不意に口を開いた。
「えーと……説明が難しいんだが、そうだな。勝己はどんな風に考えてるんだ?」
「分からねぇから聞いとんだろが」
「ッハハ、それはそうか。んー、簡単に言えば……人間の感知出来ない速度で動き回れる『個性』って感じだよ」
人間に感知出来ない速度……だと? だが、それではさっきの100m走は説明が付かない。それ程の速度なら、それに見合うだけの余波が生まれる筈だ。オールマイトの速度も埒外の領域にあるが、それでもそれ相応の衝撃や風圧が生まれている。
昨年のヘドロ事件でも、ソレは身を以って実感したのだから、確実にそうなる筈。
「だから説明が難しいんだけど……もっと言えば『個性』を使ったとき、俺から見れば世界は止まったも同然なんだよ。さっきも、止まった世界を歩いただけなんだ……つまり、人間の感知出来ない速度ってのは、空気や自然現象すらも置き去りにして動くことが出来るってこと。どうやったって、歩いて衝撃波は出せないだろう?」
「……ッ!?」
「ようは時間を止められるのと同じレベルで、速くなれるってことだ」
反則。話を聞いて真っ先にそんな言葉が頭に浮かんだ。
時間を止めるのと同じレベルで速い……それはつまり常人のスピードの中であれば躱せない攻撃はないのと同じだ。おそらく奇襲も通用しないレベルの速度になるだろう。
そんなの、どうやって勝てばいいのか、パッと思い付く案はなかった。
絶句している俺に対し、苦笑する奴の姿は、正直苛立つより先に次元の違いを見せられた気がした。
「……クソがッ!」
授業は終わった……これ以上コイツと関わっていると頭がおかしくなりそうだ。
俺は足早にその場から離れ、教室へと戻る。正直、勝負する前に敗北を感じられそうになったから逃げたと思われてもおかしくないが、俺はそう言われて否定出来るかどうかは、分からなかった。
☆
授業が終わり、今日は午前中で終わりだから皆もそろそろと帰ろうとしていた。
とはいえ体操着だから着替えないといけない。相澤先生がさっさと帰っちゃったから、今は皆で着替えを取りに教室へ戻っている所だ。
私も、デク君と怜君と一緒に教室に戻っている。仲良くなったから、自然と一緒に居るようになった。
そういえばさっきデク君と怜君に、眼鏡の真面目そうな人……確か飯田君、が話し掛けていたっけ? 二人とも少しずつクラスに打ち解けてきているみたいで、良いなぁ。
「二人とも、さっきは飯田君とどんな話をしてたの?」
「ん、100m走では俺が勝ったからね。彼もスピードには自信があったみたいだから、認めてくれたようだよ」
「ぼ、僕は受験の時にちょっと会ったから、その時のことで少し」
「へー! そうなんだ!」
色々縁があったみたい。
それに、100m走では怜君凄かったもんね。まさか0秒台が出るなんて思わなかったし。後々聞いた話だと、時間が止まるレベルで動き回れるほどの加速だって話だし……凄いなぁ。
デク君も最下位だったけど、ハンドボール投げじゃ凄い記録を出してた。
二人とも増強系だけど、それぞれ得意分野が変わってくるみたい。デク君は単純に凄いパワーだけど、怜君はスピードの方が目立つ。増強系も色々なんだなぁ。
「で、でも風隼君凄かったね! 同じ増強系として何かコツとかあれば聞いてみたいかも」
「コツか……まぁでも、『個性』は結局どう使うかだからな。一瞬だけ使うか、常時使うか、攻撃時に使うか、防御時に使うか、使い方は多種多様だ。増強系は身体に直接作用するシンプルな力だから、自分の身体の内側を感じることが大事じゃないか?」
なるほど、これは為になるね。私は増強系じゃないけど、力をどう使うかっていうのは勉強になる。私も、重力を消すのと解除の二通りだけじゃない可能性を、模索してみるといいのかも。デク君もぶつぶつとアドバイスを踏まえて考えている。
私の力は、物に掛かる重力を失くすこと。デメリットは使い過ぎると気持ち悪くなっちゃうこと……でも、そういえば私自身この『個性』をあまり知らないのかも。軽く出来る重さの限界や、持続時間、同時に出来る数、今度色々確かめてみよう。
それにしても、怜君の力って反則染みてるよね。ようは時間を止められる訳だし、戦闘だけじゃない色んな所できっと役に立つんだろうなぁ。時間を止めれば治療が一瞬で出来たり、救助活動も一瞬で完了出来たり、大量の案件を短い時間で解決出来たりするよね。
「よっ! 風隼だったよな!」
「んん? ああ、お前は上鳴電気か」
「おう! さっきは凄かったなお前! やっぱ、そういう『個性』だと人生楽勝って感じだよな!」
そこにやってきたのは、上鳴電気君。電気を使う『個性』を使うクラスメイト。
電気系の力は、持っただけで勝ち組と言われるくらい稀少かつ有用な『個性』だ。事実、その力を持った人の多くは大なり小なり成功しているらしいからね。
私としてはそんな力を得られれば良かったんだけど。お金も稼げそうだし、色々生活にも使えそうで良い。
「……まぁ、そうでもないよ。これでも色々しんどいことも経験してるさ」
すると、ふと怜君の様子がおかしいことに気付いた。
もしかしたら怜君は『個性』関係で何か過去にあったのかもしれない。あまり触れない方が良いのかな……まぁ強力な『個性』には、それ相応のリスクや扱い辛さがあったりするし、上手いことばかりではないんだろうなぁ。
「っと、そりゃそうか、すまねぇ! 無神経だったな」
「いや、気にしなくていい……風隼怜だ、これから一年間よろしく」
「ハハハ! そう言ってくれると助かる! 上鳴電気だ、よろしくな!」
怜君ってかなり大人びてて、違う意味でも凄いと思う。
相手に気落ちさせないで嫌なことを流せるなんて、相当人が出来てないと難しいよね。なんというか、私たちより二、三年くらい長く生きててもおかしくないくらい落ち着いてるよ。
握手している怜君と上鳴君を見て、そう思う。なんにせよ、この一年間は良いスタートが切れた気がする。これからも頑張って行こう!
☆☆☆
――この時私たちは思いもしなかった。まさか怜君の過去にあった出来事が、まさしく地獄とも言えるものだったなんて。
ねぇ、怜君……貴方はどうしてそんなことがあったのに、ヒーローを目指そうと思ったの?
私には……私たちには分からない。ううん、それはきっと"
いつか、分かる日が来るんだろうか……怜君の抱えるその闇を。