遺伝詞が見える少年   作:リボルビングバンカー

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――おお勇者よ、睡眠薬で倒れてしまうとは情けない

悪かったな、貧弱な人間で!!

さて、ほとんど何もない日常回です。



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「は? 温泉?」

 

「そう、温泉。行こうよ、楽しいよ」

 

 えぇ~、本当にござるかぁ~?

 なんて口にしたら運命の刃が飛んでくるので死んでも言えない。おい、殺気しまえよそこの家主。

 まあ、従者も温泉に行くらしいしどうしようもないか。

 勝手に調理場とか使ったら怒られるしな。

 

「まあ、暇だしネ?」

 

 個人的な理由で外出する必要もなくなったし、最近は神形具を作る必要もなくなった。

 色々と仕込むのも終わったし、自分の神形具は既にある。

 というか、神鉄(エムブレム・ストーン)なんてもう見つからないだろうからな。

 

 とはいえ、だ。サブウエポンを作るくらいは何度もやっている。

 主に恭也が壊すから。

 

「で、温泉はいつ行くんだ?」

 

「明日!」

 

 ……。

 

「馬鹿か貴様、今から準備しろと?」

 

「大丈夫、夏休みや冬休みに備えて宿泊荷物を作ってるのは知ってるから」

 

 原因は今ニマニマと笑っているあいつか。許さねえ。

 宿泊荷物にはテントや寝袋なんかも入っているのに。

 

「……数時間よこせ、荷物を詰めなおす」

 

「わかった。お茶会にも顔を出してくれると嬉しいな」

 

 軽くチョップを入れたけど、悪くないと思う。

 段々とこちらを振り回すのが上手くなっていくすずかに、ため息をついた。

 

 

 

 

 

 こう、なんだろう。家主たちには勝てないのだと実感してきた。

 

 荷物を詰め直し、ボストンバッグ一つまで減らす。

 サバイバル用品を抜いて、日数分以上の着替えも省いただけだが。

 f●ck

 予定を決めるなら数日前に言えと何度も言っているだろうに。何でもできる、何て思われていやしないだろうか?

 困ったな、『一番なんて畏れ多い』のに。

 

 

 

 

 

 

 

「何だお前ら、暇人か?」

 

「待ってた人への一言とは思えないわね」

 

「待っててくれとは言っていないからな」

 

 狂犬のようにアリサが食いついてきた。

 野犬(ベル・フント)字名(アーバンネーム)を譲り渡す必要があるかも知れないとさえ思う。

 

「さて、急な予定が入ったせいで荷造りをする羽目になってたわけだが、一体何の話だ?」

 

「急な予定って……ほとんど毎年行ってるじゃない」

 

「二年前から去年までは授業をサボって旅に出ていたし、それ以前はそもそもこの屋敷にいなかった」

 

 あー、と三人が口を揃えた。

 喪失技術(デステクノ)を探し回っていた頃は長期休暇に屋敷にはいなかった。

 それどころか学校自体最低限しか登校していなかった。

 

「そういえばまともに学校で見たのって去年からよね……」

 

「ああ、そういえばそうだったかも」

 

「いつの間にか旅立ってたからね」

 

 どこへ旅立っていようと自分の勝手だろうに。

 まあ、授業期間であったところがまずいのだろうが。

 

「まあ、中途半端に残ってた記憶と現在に残ってる資料を探りに世界を旅していたな。

 金だけは両親がアホのように振り込んで好きなように生きろと言わんばかりだったし」

 

「両親はどんな仕事してるのよ」

 

「貿易商だ。売れるものなら売るし、買えるものなら買う。

 宝石の原石を現地で買い取って、ブランド店に売りに行ったりもしているな」

 

「ああ、確かに儲かるわね」

 

 なのははよくわかっていないようだ。

 

「しかも、今は書き入れ時だからな。紛争が多いおかげでかなり儲かっているそうだ」

 

「ふぇ?」

 

「アルフレート、そこまでにしておいて」

 

「……わかっているとも。ついでに本名(ワイルドネーム)で呼ぶな」

 

 

 

 

 

 なのはの質問をのらりくらりと躱しつつ、

 

「で、こんな三連休に温泉旅行とか暇人か?」

 

「いや、三連休を七連休にして外国に言ってたやつのセリフ?」

 

 という、カウンターが飛んできたので笑って済ませる。

 彼女の残した世界を見たかったというのもある。

 

 

「それはそれとして、ジュエルシードの方はどうなってるんだ?」

 

「えっと、あの日の猫以来発動は起こってないです」

 

「結構。問題がないならいい」

 

 何様よ、と突っ込まれたので人様だ、と返す。

 神格は相変わらず切り離したままだが、それでいいだろう。

 両親に施した封印もそのままにしておきたい。

 あんな事件、忘れてしまえばいいんだ。

 

「さて、そっちの会議は終わったのか、忍」

 

「あら、気配を絶ってたはずなんだけど」

 

「気配を絶ちすぎて、ほかの気配まで消してたら意味がないだろうに」

 

「ふむ、気を付けないとね」

 

 苦笑している恭也が、

 

「アル、稽古に付き合ってくれ」

 

 と続けた。

 

「ああ、問題ない」

 

 そう言って鉄芯入りの木の直刀を投げてくる。

 

「じゃあ、ちょっとじゃれてくる」

 

 指先で峰を弾いて、回転しながら降ってきた柄を掴む。 

 

「暇だし、観戦するわよ」

 

「そうね、恭也が負けたらどんないたずらしてあげようかしら?」

 

「お、お手柔らかに」

 

 あ、死んだなと男ふたりが悟った。

 どっちが勝ってもどっちかが玩具にされる流れだこれ。

 

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