馬鹿な―にも救いはあるということを
だから、武器には"運命"とでも名付けよう
いきなりドアを叩いて現れるものであり
あなたの手を取り離さぬものであり
そしていつもあなたの傍らであなたを信じるもののことだ
カシャカシャカシャカシャ、カシュカシュ、カシャカシャカシャ。
「ルービックキューブ回すの早すぎ。回しすぎとかないの?」
「指で一回弾いたら丁度1/4回転だ」
お菓子とお茶でワイワイやってるであろう高町車とは異なり、カップル+αの乗ってる月村車。
自分は高町車だ。
「よし出来た」
「早いなぁ」
「戦闘中に角度計算とかで頭使わないのか?」
「いや、そんな状況早々ないから」
ないらしい。読み合いになると振り抜く角度でさえ気を使うのに。
「そういえば、そんな高速戦闘を経験させたことがなかったな」
「アルを貸すから高速戦闘の練習でもする?」
「あ、あははは。遠慮しておきます」
(逃げたね)
(逃げたわね)
(あとで特訓だろうな)
運転手の士郎氏もアララと言わんばかりの表情をしているのがバックミラーに写って見える。
基礎稽古しかしてなかったというのがよくわかる。
「しかし、よくもまあそんな短時間に四×四ルービックキューブなんてクリアできるな。
正しい手順で解いてないだろ」
「あ、わかります?」
男二人で盛り上がりかけているところでアリサと桃子が肘打ちを入れて止める。
最近ではよくある光景だ。
「温泉かぁ。
前世では戦争で忙しかったからそんな機会はなかったし、今世でもそれほど機会がなかったな。
で、なんで昼間から酒なんて飲んでるんだ?」
「大人の特権というやつさ」
「左用で」
未成年のお前には飲ませられない、と言いたいのだろう。
だがな、
「まあ、怪しげな気配がしてるのに酒なんて飲めるかよ」
「ブッ」
気づいてなかったか。
「お土産売り場あたりかな、真っ当な生物とは違う遺伝詞が見えてたぞ」
ゲホゲホ、と噎せて
「そういうの、先に言えよ」
「遺伝詞が見えない人間に言ったところでなぁ」
「ご尤もで」
さて、
「どうしたものか」
「女性陣は長風呂だろうしなぁ」
「まあ、忍もいるし大丈夫だろ」
「ユーノ、なのは経由で伝えておけ」
「あ、はい。
で、お二人は?」
「そろそろ上がろうかな」
「俺は露天かね。
しかし、失敗したなぁ」
実に失敗した。ミスが大きすぎて泣けてくる。
「ん? 父さんたちに言えないからどうしようも」
「そうですね、家族旅行に水を差すわけにも」
違う、そうじゃない。
「いや、ユーノを女湯に沈めてくればよかったなぁと」
「お前、フェレットとは言え男にになんてことを」
「流石に、その、勘弁してください」
思春期なのか。ああ、若いっていいねぇ。
「思春期のフェレットを女湯に沈めたらそれはそれは楽しいだろうに」
「忍もいるし、させないけどな」
「恭也さん……助かります」
まあ、裸を見たら締めるって言ってるんだが、どうでもいいか。
それはそれとして、
「ユーノ、先部屋に戻ってろ。
恭也に運んでもらえ」
「え、はい。露天に行くんじゃ」
「ん~、哨戒、かな。神形具持ってきておいて正解だな」
何かあったら連絡しろ、とだけ告げられて二人と分かれる。
さて、
「何が出るのやら」
世界で二番目に正解率を誇る直感に悲しみを背負いつつ、
「さて、と」
浴衣を着て、スラックスを下に履いて公園へと向かう。
さっき感じた気配はこの辺だったんだが……。
「アル、どうしたんだ?」
「いや、変な気配を感じてね。一応見に来たんだが……ここじゃないのか」
士郎氏と合流してしまった。
できるだけかち合わない方が良かったんだが、仕方ない。
「ふむ、俺にどうにかできる話か?」
「あなた」
「いや、封印、崩壊、遡行の何れかができないと対処できないから無理だな」
「そうか。無理はするなよ、なんなら恭也を使え」
「カップルの間に割って入れと」
必要ならな、とだけ言って夫婦で去っていってしまった。
「勝てないなぁ」
ハァ。強い人だ、色々。
「で、出てきたら?」
「おや、気づいてたんだ。意外だね」
「……違うな。まあいい、何のようだ?」
オレンジの髪、額に宝石のようなもの、そして
人のことは言えないが、もう少し世間に馴染もうとか、思わないんだろうなぁ。
「あんた、フェイトの敵だね?」
「知らんよ、そんな人物。俺は、俺の平穏を乱すものの敵だ。
なにせ、俺は世界で二番目に平穏が好きな男だからな」
「世界で一番じゃないのかい?」
「世界で一番だなんて、そんな自信過剰な」
「プッ、フフフアハハハ。
あーなるほど、馬鹿なんだ。はぁ~。
じゃあ、死にな」
人外の膂力で首を折りに来た。ちょっと想定より早い、が捉えられないわけでもない。
というか、銃弾より遅い。見て、考えて対処できる。
「ふむ、この程度か」
半歩下がり、振り下ろされる手を掴んで、力をそのまま流用し
「なっ!」
片手で投げて地面に押し付けて、首を神形具で押さえつける。
「動くな、半秒あれば首を切断できる」
「くっ、油断した!」
襲いかかっておいて油断するなんて、バカなのか?
「さて、目的は?」
「……」
「黙り、か。となると、以前に対立しただれかの手先だな。
フェイト、だけじゃ男か女の判別はできないな。
が、美人局の動きがないってことは子供だな。しかも状況判断が甘いと」
甘いというか、ゲロ甘だな。
「っ!」
「で、ふむ……女か。
目的もわかれば苦労しないんだが……。
この条件となると父親を牢獄に入れられた恨みか最近の事件のどちらかだな。
ふむ、……なるほど、ジュエルシード、ね」
「あんた!」
「ア」
「っ!?」
「次は首だ」
動こうとしたところを、首の隣を五行して動きを改めて封じる。
とはいえ、巻き込まれて首に傷ができたが、動くほうが悪い。
「考えてることがある程度読めるんだよ。
顔の表情とか、遺伝詞の変化でさ。
集めてるんだ、ジュエルシードとやらを。ババアの命令で、ねぇ」
「クッ」
「ふむ、こんな街に元からあるわけないから、落としたのもそのババアの仕業か。
ははぁ、つまり、元凶は鬼ババアなる、女か。なるほど。
後は、ババアの情報があれば用はないな……プレシア・テスタロッサ、か」
「っ、ゴメンネ、フェイト!」
背後か。
「グッ!」
背骨に体重を乗せた膝をいれ、その反動で距離を取って射撃を避ける。
折れなかったか。随分と強靭な肉体だ。
「アルフ」
「大丈夫、治療魔法でなんとかなるレベルだよ」
ふむ、コイツがフェイト、か。
「ん? ああ、あの前衛的なファッションのニコラさんか。
名前はフェイト・テスタロッサっていうのか。
で、襲いかかってきたのはそっちだし、頭下げて逃げるんなら見逃すけど?」
「アンタ、数の差がわかってないのかい?」
「ああ、見せたことなかったな」
徐に石を五行する。
「は? 消し飛ばしただけじゃ……「違う、結果はイレイザー」イレイザーって、消滅!?」
「命が惜しくないのならかかってこい。
生憎だが、こっちは非殺傷とかできないんでな。
運命が使えれば多少手加減ができるんだが……まあ、前世の話だしな」
運命は壊れたままだし、直す手立てもない。
さて、どうくるか。最悪殺すことも視野に入れるか。
相手の行動も決まったらしく、構えてきた。
こちらも、
「ハァッ」
足元に大量に射撃してきた。煙幕が目的か。
「……逃げられたか。まあいい、今の余波で揺れたとこを叩きに行きますか」
損害、登山道の風景、ジュエルシード・1。
折角の登山道脇の木々が……まあ、仕方ないか。