転移魔法、とか言うもので怪しげな場所へと連れてこられる。
駕発動しかできない壊れ切った"運命"と豪皇だけを持って。
一体、何をさせようというのやら。
壁は古く、老朽化の兆しはないが二十年は経っているだろう。
気になったので、男の方に聞いてみることにした。
「(あの狼はどうした?)」
「(ちょっと、ボスと喧嘩して)」
「(プレシア・テスタロッサと?)」
「(ああ、ワケアリってことで一つ)」
ワケアリ、か。この場合のワケアリってのは大抵録でもない。
来て損をした気分だ。
「少し待ってて、母さんに話を通してくるから」
「遅くなってもいいぞ」
袋からガムを取り出し、暇つぶしに噛み、ついでに紙の束を取り出して読み始めた。
「随分と準備がいいね」
「あ? バスの時間に間に合わなかった時の暇つぶし用だよ。
本来ならあと一時間は訓練するつもりだったからな」
予想より体力が足りなかった。まだまだ子供か。
「自衛隊で訓練って……一応聞くけど何歳?」
「九だ。前世は世界で二番目に健康的だったから九十は超えていたはずだ」
「……その時はどこで何をしていたのさ」
ふむ、
「1943年までは反独隊の援護をしつつ、逃がし屋の仕事をしていた。
当時は異族、半分以上が人間じゃない種族を独軍が大手を上げて狩っていたからな」
「えっと、年代と年齢が釣り合ってないんだけど?」
「ああ、そこからか。
この世界は何度も壊れ、作り直されてきた。
少なくとも六度は文明が廃れ、その度に新しい時代を開拓している」
「六度? そんなにも世界は壊れたのか?」
「一部、地球で生活できなくなっただけの時代もあるがな。
ともあれ、大きな時代の変遷は六度だ」
「……ええと、それで、君はそれのうちのどこの出身だ?」
「
嘲るように、かつての過ちを哂うようにそう言った。
自分の身の程を知らず、愛した女を殺しかけた馬鹿には丁度良いだろう。
「ふぅん。それで、どういう時代だったのさ」
「そう、だな。数年前に
「ええと、現代のユダヤ排斥運動みたいなものかな?」
「その認識でいい。
そういうわけで、伯林から異族を外国に逃がすのが俺の仕事だった」
困ったように笑っているが、当時は当たり前のことだった。
戦争は普通に起こるし、都市は様々な個性を持っていた。
この時代にはなく、当時にはあったものが多い。とはいえ、逆もしかりだが。
「……来て、母さんが呼んでる」
「……はぁ。碌でもないことになったな」
ガムを口から出し、傷の増えたフェイトという少女についていき、扉を潜る。
「よく来たわね。取り敢えず話を聞かせてもらおうかしら」
配点マイナス。
「用があるのはそちらであってこちらではない」
「生意気な小僧ね。フェイト、もうひとりの少女からジュエルシードを奪ってらっしゃい」
はい、とだけ言って出て行った。
「さて、有意義な話を聞けると期待しているわ」
「有意義かどうかは知らんよ。勝手にそっちが期待しているだけだ」
袖に仕込んだナイフのギミックを操作し、準備をしておく。
「チッ、私が知りたいのは、人間の蘇生、及びクローンの生成だけよ」
全く興味のない分野だった。
「知らんよ。そんな技術」
「っ! 馬鹿にして!」
手足を拘束し、杖を鞭に変えた。拷問しよう、って腹か。
「ア」
右手のナイフを使い、拘束を五行する。
「俺は基本的には穏便で平和主義なんだがな」
「よく吠えるわね、そんな仕込みまでしておいて」
さて、
「何もかも勘違いしているようだから言っておこう。
今の俺は壊すことしかできんよ。作れるとしても自動人形だけだ」
「減らず口を!
それだけの技術があるのなら、アリシアを蘇生させることだって出来るでしょうに!!」
なんだ、やっぱりただの哀れな女か。
「完全な死者蘇生はない。
条件付きで、尚且つ条件を満たすと死体に戻る。その程度だ」
「嘘よ、嘘よ嘘よ嘘よ!!
有るはずなのよ、死者を完全に蘇らせる方法が!!」
「そんなものがあるのなら、この世に墓なんて存在しないんだよ。
それすらもわからないのか、哀れだな」
遺伝詞を読むまでもない。固まりきってこじらせてる。
もう、永くはないだろう。あと二、三年と言ったところか。
「っ! 死になさい!」
「ア」
飛んできたムチを粉砕し、更にムチの背後に隠れていた雷撃も砕く。
そのまま通り過ぎて壁の向こうに攻撃が流れる――
「アリシア!」
――のを身を張って止めていた。
右腕は砕けただろう。それでも立ち上がるのは、腹を痛めて産んだ子のためか。
「クローンで満足していればよかったんだ。
あんたは、諦めるべきところを間違え、求めるべき場所を間違えた。
そんな単純な事実にさえなぜ気付けない、プレシア・テスタロッサ」
「黙れ」
「死者は蘇らない。人生は一度きりだ。
一度しかないから価値があり、それを尊ぶ。そんな当たり前さえわからないのか」
「黙れ、黙れ!
死者だって蘇るのよ、アルハザードにはあるはず!」
ああ、ダメだ。コイツはもう手遅れだ。なら――
「一応、そこまでにしておいてくれるかな。
死なれると困るし……何より、人殺しを見たくない」
止めたのは俺を連れてきたもうひとりの男だった。
「フェイ、何の真似?」
「一応、恩くらいは返しておこうかと。
この先に僕らは不要でしょう?」
「……そうね、どこへなりとも好きになさい」
「……ありがとう。ジュエルシードと座標を入れ替えてくれると助かるかな」
「……フン」
二人だけの、密やかな何かがあったのだろう。
それは、秘密を隠し持っていた同士の華で、
「じゃあね、プレシア」
そして、今後交わることのない、別離だった。