Q.なんで色気のかけらがないんでしょう?
精神的な年齢差?
犬が興味を持ってないから?
「ただいまー……すずかの友人が来てるんだって?」
そうノエルに質問する。
「ええ、車椅子の八神はやて様が」
「あー、朝にでも挨拶するか。取り敢えずなにか食うもんあるか?」
「皆様食事が終わってらっしゃいますから、簡単なものになりますが……」
「頼む」
そう言って、クラフト生地のピザを作ってくれた。感謝しかない。
「いい匂いだね、アル」
「すずかか。アリサ共々さっきまで働かされてたからな。ハラが減って仕方がない」
フーン、といって冷蔵庫から牛乳を取り出し飲んでいた。
「はやてが来ているそうだな」
「あ、後で挨拶でもする?」
「そうさせてもらおう。風呂から出た後に向かう……一時間後くらいか」
寝ちゃうかもよ、なんて言ってから出て行った。
両手にジュースを持って。
「……急ぐか」
ピザを急いで食べ、治療後の違和感がないかを確認したあとシャワーを浴び、髪を乾かしてすずかの部屋へと向かった。まだ話し声がしている。どうやら間に合ったらしい。
ノックをして待つ……少し待たされた。あの声は電話の声だったらしい。
「どうぞ、遅帰りさん」
「好きで遅くなったわけじゃない」
「こんばんわ、おじゃましてます」
「気にするな、俺の家じゃない」
それ何か違う、と言われた。確かに何か違うが、他に言うセリフがない。
「珍しいな、家の人はどうした」
「なんか、帰ってくるんが遅くなるゆうてたからお邪魔させてもらうことにしたんや。
あ、みんなの分の晩御飯は作っておいたから安心してええで」
なるほど、と言いつつ壁に背を預ける。
「……やはり字我崩壊がゆっくりとだが進行している」
「バランスフォール?」
「わかりやすく言うと、自分の状態が保てなくなって、流体にも還元されず消滅することだ」
「どこが簡単やねん」
「……急性死する、と言い換えてもいい」
「あー、それならわかるけど、そこまで重い症状やないで?」
「どうかな、結構深刻だと見ているんだがね」
軽く見ただけでも流体の供給が腰から下にかけて止まっている。どこかに奪われてでもいるように。
「まあ、原因を特定しないと治すのも困難だから何か判ったら言うといい。
少なくとも、君の敵になるつもりはない」
えへへ、と顔をほころばせ、逆にすずかが冷徹な顔になる。
「ところで、俊介はどうした?」
「あ、彼は自分の家に帰ってるらしいねん。
余り家が好きじゃないらしいからよくウチに泊まりに来るんや~」
所帯染みてるな。声には出さない。出したら怖いことになる。
「羨ましい限りだ。ウチの家は……随分と荒れに荒れたからな」
血が濃すぎた。脈々と受け継がれてきた僅かな因子が、自分の代で覚醒してしまった。
「隔世遺伝というんだったか、それのせいで随分と夫婦が揉めたからな。
茶髪と黒髪からどうして銀色の髪の子供が生まれるんだ、とな」
「あー、DNA検査したんや……」
「よく知っているな。その通りだ。そのせいでちょっといろいろトラブったがな」
些細な不幸だった、よくある話だ。それがたまたま生まれた時に巡ってきただけだ。
「まあ、はやての話を聞かせてくれよ。
さっきの話題の後だ、できるだけ楽しい話題がいい」
ほな、ウチらの話をしよか。という一言から話が始まった。
翌朝、ノエルが車ではやてを送り、それを見送ってから工房に入る。
相変わらずの臭いだ。鉄の匂い、鉛の匂い、錫の匂い、それらが合わさって慣れないものが拒むような臭いがしている。毎日換気しているが、臭いが取れる日はない。
「さて、
今日から作るのはデバイスの刃の部分。
ストレージデバイスでは演算が追いつかず、インテリジェントデバイスではラグが生まれる。
そこで目をつけられたのがアームドデバイス。武器の形をしたデバイスらしい。
剣と薙刀の刃を人数分作り上げるのが暫くの課題だ。
指輪を右腕の中指にはめ、形を打ってあるフレームを五行して、
ドイツにある実家には倉庫があり、その奥底には五行師の記録と宗主の手記が残っていた。
子供の頃の趣味はその手記を読みあさることだった。懐かしかった、といえばいいのだろうか。ともかく、読んでないページなどないくらいに読みふけった。
しかし、デバイスのフレームに使われる素材は意外と軽いな。
神形具は重要な部分がほとんど金属で作られるから結構重くなる。
明日は月曜だし、出来るだけ仕上げたい。取り敢えず、アリサの得物優先で。
俺とすずかは直接攻撃の手段があるからいいものの、アリサは風水で二秒ほどロスしている。
魔法で時間稼ぎしている間に風水できたほうがいいという判断からだ。
まあ、すずかは最終的に神形具でも成立するんだけどな。草薙は発動までが短いし。
心地の良いリズムで五行の音が鳴っている。
フレームには、刃をつけることにした。戦う、ということに覚悟を持って欲しいから。
空腹を覚えたので屋敷に戻ることにした。
取りあえずで、ソーセージ、チーズ、葉物、コメでリゾットを作って適当に済ませようとする。
「あ、それ私の分も」
異常な嗅覚で状況を察知した忍に捕まえられた。
滅多に料理しないから俺の料理はレアなものらしい。不味くはないが旨くもないと思うのだが……。
「私より美味しい時点で嫌味よね、それ」
とのことらしい。すずかは習い事の前に翠屋に遊びに行ってるとか。
人参の葉、大根の葉を細かく切り、ソーセージを薄切りに、オリーブオイルを引いた片手鍋にニンニクを入れて香りを付ける。後は適当に米、ソーセージ、葉物、ブイヨンの順に加えて仕上げにチーズを入れるだけだ。
多少時間がかかるが、手軽で簡単なメニューでもある。
「で、忍と恭也は協力しないことにしたんだったか」
「そうね、態々首を突っ込むこともないかなって。平穏が一番だもの」
「そう、だな」
「お互い脛に傷を持つ者同士、そういうの嫌なのに――どうして手を貸すことにしたの?」
「この道に引き込んでしまったアリサが協力する、と言い出したからな。
せめて道を造るくらいはしてやらないと、ってところだ」
「そっか。
まあ、私は精霊石駆動炉を作るので忙しいし、そんなことしてられないってね。
面倒事は大人と興味本位な若者にやってもらおうということですよ」
「で、見つかったのか?」
「古代ドイツ語ってね、かなり読むの疲れるの……」
「らしいな。読めるから気にしたことないが」
オノレ、と呪詛を吐いているが、古代ドイツ語を読む機会があった人間だぞ、と。
「ああ、倉庫の奥の手記って古代ドイツ語だったんだ。そりゃ読めるわよねー。
ねえ、アルフレート」
「断る。自分で読め」
「デスヨネー、知ってた。じゃあ、私も作業に戻るわ。頑張ってね」
「おう、お互いにな」
ありふれた日常、こんなものさえ過ごせない人達がいる。
故にこそ、これを望むのだ。
A.小学生のお泊りに色気があったら犯罪だから