「で、なんで俺まで連れ出してきてるんだ?」
「一番戦闘に詳しいのアルだからじゃない?」
「いや、多分ガジェットの予想向上化プログラムが原因と見ました」
「どっちにしたって後で講評すればいいだろ」
ガムを噛みつつ文句を垂れる。
「一応、ぶっちぎりで相性のいい人間をぶつけたらどうなるかってのを見てもらおうと思ってね。
後は基本の出来具合を是非見てもらおうかと」
「マジでどうでもいい理由で呼び出しやがったのな」
「どうでもいいって……新部隊の新人訓練なんですけど……」
グッと背を伸ばしたあと目を閉じて座禅を組む。
暫くするとシミュレーター前にデバイスを準備した新人がやってきた。
「あの、なのはさん、そこの式にいなかったふたりは?」
「一応技術班の人で、私たちの幼馴染。ついでに嘱託の警備員……かなぁ?」
「管理局法が著しく固有技能と相性が悪いので入局する気がないだけだ」
「は?」
「具体的に言うと物理変化を伴う改変が得意でな。わかりやすく言うなら、非殺傷設定とやらが著しく苦手だ。
もうひとり非殺傷が苦手な奴もいるんだが、そっちはデバイス管理が主な仕事だからあまり関係はないな」
「こんな人呼んで何か役に立つんですか?」
言いたいことはわかるが、
「まあ、特殊な部隊で特殊な相手がメインだからいろいろあってね。
相手の実力は初訓練で体感してもらえばいいかなって思ってるんだ。
早速第一段階を始めようか。とりあえず軽く八体かな」
「動作レベルC、攻撃精度Dってとこですかね」
「うん、よろしく」
旧市街、いわゆる廃墟街を再現した立体投影システムを起動させ、仮想敵を配置する。
「私たちの探してる捜索指定ロストロギアは主に魔導機械の敵が追ってるんだ。
だから、回収任務には当然のようにこの戦闘用の呼称名"ガジェット"が敵として出てくるの。
と、いうわけで第一段階はこれを全部壊しちゃって」
「「「「はい」」」」
「俺は?」
「このまま上で見てて。判断力と経験を一緒に確認して欲しいかな」
「了解した。どうせ危なっかしい行動が多いんだろうけどな」
クスクス、と笑って誤魔化された。
「減点1、魔力が消されるのに消されやすい魔力の足場を使っていること」
「まあ、それは体験してもらわないとわからないだろうし……」
「減点2、アームドデバイスを所持しているくせに物理衝撃の耐久を確認できていない。
ついでに言えばあれ魔力変換資質だろ、機械に電気を流すだけで壊せるだろうに」
「あー、魔力が通らないって聞いてそこで諦めたってことですか」
「最後の減点は力尽きて倒れてるところだな。戦場を舐めすぎだ」
「最後のは本当の現場でそんなことされると困るからそこだけ注意だね」
<みんな、とりあえず最初の場所に戻ってもらえるかな>
ぞろぞろと帰ってきた。疲労困憊、といったところか。
「あれ、次はないんですか?」
「ぶっ続けで走れるほど後衛に余裕がないだろうが。
前衛は前衛で後ろを見てないし、後衛は後衛で指示が甘いし」
「うぐっ」
「とりあえず上行って見てろ、遊びにしかならんが手本を見せてやる」
「出来るんですか? 非殺傷設定も苦手なのに?」
「射撃魔法を使わなければ殺傷も非殺傷も関係ないからな」
「えっと、物理攻撃に魔力を乗せないんですか?」
「物理で殴るだけなのに魔法なんて必要あるのか?」
物理攻撃に不思議な力なんて必要ないだろうに。
それともあれか、魔法が便利すぎて肉体を鍛える意味を理解してないのか?
<とりあえず、危険だから上がってきてね。シャーリー、両方ともAの10機で。
スコア上だともう少しいけるんだけどこれ以上は参考にならないから>
「準備だ、ハイランダー」
《Angfang》
服は制服のまま待機状態だけを解除する。
<じゃあ、スタート>
なるべく参考になる動きを心がけたほうがいいのだろう。
逃げ出したのを確認し、急加速して追いかける。
「相変わらず遅い」
突きで
一つ、
「射撃は結構正確だな」
蹴りを叩き込んで二つ目を破壊。
続けて神形具で本体を叩いて五行、これで三体。
「ア」
自分の遺伝詞を増幅して大気を五行する。
二つまとめて叩き割ってこれで五か。
「さて、遊んでいきますか」
それから五分程度で全滅させ終了。久しぶりの戦闘にしては動けたほうだろう。下で待っていれば全員が降りてきた。
「お疲れ様、できれば五行はしないで欲しかったんだけどね」
「そういうのは先に言え。とはいえ殆ど叩っ斬っただろうが」
デバイスを待機状態のリストバンドへと戻す。
「蹴りだけでぶち壊してませんでした?」
そう茶髪のオペレーターが尋ねてきた。
「ああ、古武術の中に通し、という技法があってな。
鎧とか盾を無視して内部破壊ダメージを与える技なんだが……どうした?」
新人を見れば呆れているのか呆けているのかわからない顔をしている。
「先程は失礼しました。強かったんですね」
「ん? ああ、元々武術を学んでいたからな。なのはのクロスレンジの訓練も手伝ったし副隊長と技術交流もしてた。最近は頭脳労働ばかりで腕が少し鈍ってるのが難点か」
「あれで鈍ってるんですか、Bランク試験なんて余裕じゃないですか?」
「一応持ってるわよ?」
「へっ?」
「二人ともBランク陸士の資格なら持ってるの。
ちょっと必要になった事案があってね」
コネはカリムから貰ってきた。一応教会の仮想敵に資格もない人間が、とかいう意見があったからだとか。
「あの、ブリッツアクションのコツを教えて欲しいんですけど」
「体幹を崩すな、必要以上に魔法に頼るな」
「えっと」
えっと、名簿の……ライトニングの赤髪……
「エリオだったか。魔法を使いこなそうとするのなら俺たち異常者の真似はしないことだ。二度は言わない、忘れるな」
「え?」
ポケットから水を取り出して飲み、告げる言葉を考え、
「俺とアリサは体術による加速累積と呼称されている古代技法を利用している。もうひとりは
「もうちょっと噛み砕いて説明してもらえますか?」
「結構、勉強熱心で何よりだ。
エネルギー保存の法則を知っているか?」
「エネルギーの総量は変化しない、ですね」
「そうだ。ついでに言えば人間は加速する際に力を上下に分散させ、さらに体幹のブレで左右に分散させる上に摩擦で分散させる。ここで、分散を肉体で可能な限り抑え余った力を加速に用いることができれば、等と考えて実践した連中がいる。その技術を拡大解釈し現代で手直したものが俺とアリサの今用いている加速だ」
「できるんですか、そんなこと?」
「可能か不可能かで言えば可能よ」
ただし、
「多少のセンスと頭のおかしい訓練量を必要とするわ」
「まあ、少し見ていろ。アリサ、頼んだ」
「はいはい」
歩いてそこそこ高いビルに足をかけ、トンと軽く踏み出して重心を意識しつつ、バランスを崩さずに素早く足を運んでいく。
"壁走り"と呼ばれる技術だ。
屋上にたどり着き、今度は壁を走って降りてきた。
「とまあこんなもんだ。重力を振りきれるほど加速したにすぎない。AMFがなければ飛べばいい。その程度だ」
過ぎないって……などと言っているが、加速できれば同じだろうに。
「とりあえずエリオの加速術式はフェイトちゃんに任せるとして、なにか聞きたいことはある?」
「は、はい! なんで訓練の必要のない二人を呼んだんでしょーか!?」
「なんでって、連携訓練のための仮想敵だけど?」
新人の顔が青ざめた。先ほど手加減が苦手だと自分で言っていた筈、なんて顔をしている。
「旗とり?」
「そうそう。ほぼ遠距離のないアルくんと全レンジのアリサちゃん好きな方を選んで、そっちと旗とり合戦。
勝利条件は過半数以上の旗の確保中の時間切れかアグレッサーの撃墜、もしくは旗の全確保の三つ。
一応ハンデとしてアグレッサーの使用傾向の高い魔法を選ばなかった方に聞いていいことにします」
「時間と旗の情報は?」
「時間は30分、旗の数は5本、旗の位置はアグレッサーのみ知らないこととします。じゃあ、考えてみてね」
いつもの場合、俺をチョイスしてくることが多い。
使ってくる魔法とある程度のスペックが判明するからだ。
が、今回の場合正解はアリサをチョイスすることである。
特化型と汎用型、どちらを相手にするのが楽かは本人たちのスペックしだい、という面が大きいが今回の場合メインアタッカーが近接に寄り過ぎている。
それに、アリサと俺だと攻撃速度の差がある。
「アリサさん、助言お願いします」
「了解、作戦までは考えないからね」
この後一人ずつ暗殺していった。最後に震えるキャロの姿を見てやりすぎたと反省はする。
一先ず旗を見つけ、拠点とする。
オプディックハイドで接近し、フェイク・シルエットで近づいたように見せて油断したティアナから不意打ちで仕留め、倒したあとはオプティックハイドで連行し、拠点の旗の前で吊るした。
あとは建物に入った瞬間を狙って前衛を各個撃破、拠点に吊るしてを繰り返し、魔力感知で三人を救出しに来たキャロを背後から強襲した。
なのはに叱られる途中に後ろ手で寝起きドッキリの写真をフォワード陣の方へ流し中断させた。
後日(一緒に写っていた)フェイトにも怒られたが、ドッキリの主犯ははやてだったりする。
しかもネガの持ち主はすずかだ。
「さて、言いたいことはいろいろあるんだけど、どうだった?」
「無防備ですね!」
スッと超低温の視線を浴びせられスバルは黙りこんだ。
「来るのが女性ばかりだからって下着も着ないで玄関に来るとか何考えてんだろうな」
「アル君うるさい! 脳天にディバインバスターブチ込むよ!?」
「その程度で最上位級の異族にダウンを取れるつもりか?」
「はいはい、そこまでにしないと小学校の頃の赤裸々なエピソードを語ることになるわよ。
なのはの」
「なんで私だけ!?」
だって、小学校の頃アルは……ねぇ。
あーそういえば。というひどい納得を受けた。
「まあ、小学校なんてまともに通ったことないな」
「あの八ヶ月だけじゃないの?」
「だなぁ。飛び級で早々に大学も卒業したし」
最終学歴はベルリン大卒だ。
「えっと、話を戻そうか。
闘ってみてどうだった?」
「やけに手馴れてるな、と感じました」
「間合いの取り方がうますぎて訳がわからなかったです」
「幻影魔法の使い方が上手かったとしか」
「正面から腹を殴られたはずなのに全然気づきませんでした!」
うんうん、となのはが頷いている。
「基本スペックでゴリ押されて負けるから戦術を考えないといけない目標だね。
ティアナを倒したあとは魔法すら使ってなかったし……いろいろ反省しないとね」
「えっと、オプティックハイド使って攻撃してきたんじゃないんですか?」
「あー、あれは歩法って言って」
すっと体を動かし、フォワードの背後に回る。
「そのように認識を逸らして行動するっていう
「えっと、アルさんいつの間に後ろに?」
「歩法、と言っていたあたりだな」
「魔力反応で感知するかあからさまに違和感に対応するしかないからね」
で、やってみてどう思った? などと尋ねられたので、
「そう、だな。接敵して急に逃げたら陽動の可能性を考慮しないとな。声に出す前に司令官は仕留めさせてもらったが、脳筋はいかんよ。
で、建物に入る時くらいハンドサイン使えとまでは言わないからクリア確認しろ」
「そうね、安全確認は大事よ。みんな揃ってはいドーン! みたいな入り方するから急に味方が消えても気づかないんだから。ねぇなのは」
「うん、お兄ちゃんとアリサちゃんに散々叩き込まれたもんね。
演習中に部屋に入った瞬間刀でフルスイングしてから"どうして安全確認もせずに入った!"なんて怒られるのはひどいと思います」
「ああ、今でも覚えてるわよ、そのシーン。
プロテクションで防いでカウンター狙いのなのはが顎に一撃食らって吹き飛んだのは笑えたわ」
新人が恐怖する。ついでにシャーリーも変な顔になった。
「すずかさんの部屋に痺れ薬が仕掛けてあったのもその教訓ですか?」
「それは盗難対策でしょ。重要機密の書類の入った部屋に仕込んであることが多いわね」
もう新人はお腹いっぱいという顔だ。
「まあ、広所や閉所への侵入ってのは一番危険な行為だ。
罠は仕掛けやすいし、対策もしやすい。優秀な司令塔がいるならそこを狙うのは当然だ。
後は場数だな。優先度の高い行動を把握しろ。以上だ。後は教官に聞きつつ自分たちで頑張れ」
「無理言ってごめんね~」
「ああ、俺がいないせいで俺のデスクが荒らされてても俺のせいじゃないからな」
「……待って、すごく嫌な予感がするんだけど」
「写真を受け取ったのが今日だったんだ。さっき蒔いたのはサンプル」
じゃ、と言って去る。
待って、止めないでシャーリー! アルの机の中を点検しないと!
はいはい、訓練の続きのあとでやってくださいねー!
強かだな、通信担当。