『うーん』『ううーん』『どうしよっかな』
「何を唸っておるのじゃ、球磨川よ」
『いや何、そう大したことでもないさ』
問うた信長に、括弧つけて球磨川は答える。
『ただ、ノッブちゃんのパンツはやっぱり黒なのかなあと思って悩んでただけさ』
「本当に大したことじゃないですね!?」
沖田が横からツッコミを入れた。それに対して、いい目をしておるなと返す信長。
「確かに黒い日もあるが、今日は赤フンじゃ……って何を言わせとるんじゃ!」
『いてっ』『自分から答えておいて理不尽過ぎない?』『あ、ちなみに沖田ちゃんは……』
「ノーコメントで」
『ですよねー』
雑談を交わしながら、彼らは豪華な王宮の中を歩いていく。球磨川は世界史にも建築様式にも詳しくなかったので、これがどのくらい立派な建物かよくわからなかったが、『ノッブちゃんが暴れれば簡単に壊れそうな建築』として適当に把握した。
『それにしても悪いノッブちゃんが、話のわかるノッブちゃんで本当に助かったぜ』
「わしは話の分かる君主として有名じゃったからな! ま、是非もないよネ!」
「悪いノッブも良いノッブも大して変わらないっていうだけの話では……?」
肩を組む二人を見て、沖田はやれやれと肩を落とした。
事の顛末は簡単である。沖田と球磨川の芸術的土下座を見て、信長は「んー、まあ助けてやってもよいが……それ、わしにどういう利益がある?」と品定めするように言い放つ。引鉄からは手を離さない。
『利益?』『おいおい、第六天魔王ともあろう者が、そんなことも分からないのかい?』
「……ふう」
煽った瞬間、球磨川は蜂の巣になっていた。ただの時間稼ぎだったか、と大きく深く嘆息し、信長は銃口を沖田に向けるが――
『ちょっと待てよ』『か弱い女の子にそんな物騒なものを向けるなんて、天が許しても僕が許さないぜ』
「!?」
既に動かぬ体となったはずの球磨川が、彼女を庇うように立っていた。どういうことだ、何の魔術だ? いやいや、魔術とするならば、ソレはあまりにも異質な――
「まあよい」
「――はあ、はあ――!」
『もう、やめてよね!』『死なないからって、別に痛くないわけじゃないんだからさ!』
さながら転んだ直後か何かのように、学ランについた埃をぱぱっと払い、おどけて笑う。優勢であるはずの信長の顔は、焦燥に満ちていた。
「――球磨川さん」
『ん、何だい沖田ちゃん?』『君を守る僕の後ろ姿に惚れてしまったなら、いつでも責任はとるぜ?』
「いえ、小さい背中だなーと思っただけなので、そこはお気になさらず――そうじゃなくて、痛覚を『なかったこと』にしちゃえば済むんじゃないですか?」
『いや、それじゃ生きてる感じがしないじゃん』『週刊少年ジャンプじゃないんだから、命が軽くなるような真似はおちおち出来ないぜ』
狂戦士のようなことを言って、球磨川は螺子をくるりと回転しながら構えた。信長も銃を持ち直したが、球磨川は別に戦うつもりはなかった。
『そっか、悪いノッブちゃんは昼間いなかったから知らないのか』『僕の
「スキル――じゃと?」
『そ』『例えば――『
台詞と共に、球磨川が手に持っていた螺子が
『僕の螺子を『なかったこと』にした――』『こんな感じで、色んなものを消せる面白手品が僕のスキルだぜ』『ああ、念の為言っとくと種も仕掛けもない――僕にそんな上等なものを考える脳はないからね』
「ふむ――それで、その特技があるからおぬしを生かしておけ、と?」
『ああ』『僕は君の家臣になろう』『僕さえいれば君は、みーんな
「そんなの――是非もないよネ!」
ニヤリと笑い、ハイタッチ。織田信長は、未知の物に寛容な将軍であった。
「え、私まだ何も言ってないんですけどもしかして家臣になる流れですか!?」
「嫌ならここで消えるだけじゃぞ?」
「か、客将待遇なら……」
「ふむ、まあ……おっけ!」
「わあい!」
回想終了。そんなわけで、彼らの時空の戦いは終わり、それぞれの野望を秘め――球磨川と共に第二特異点へと転移した。急に帰ってきたと思ったら、何も言わずにそのままローマへレイシフトした彼らに対して、恐らく戻ったら上の方々からの激しい説教が待っているだろうが、『そんなことより人理の方が大事だろう』と、冗談みたいなことを考えながら球磨川は歩く。
「ローマ……じゃったか? わしが新しく国を作る時は、こんな様式の建物を作るのも面白いかもしれんなあ」
頭上のシャンデリアっぽいものを見上げ、信長が言った。そうですね、と頷きながら沖田も話す。
「私は普通に和式な方がいいですねー」
「洋式トイレの方が使いやすいんじゃから、洋式の方が偉いに決まっとるじゃろ」
「確かにトイレは洋式の方がいいかもしれませんけど建築はそんなことありませんって! さてはノッブ金閣寺銀閣寺法隆寺に奈良の大仏とか見たことありませんね!?」
「あるわ! 普通に好きじゃし! わしが国作る時にはあの辺の建築物移植してくるもんね!」
『ノッブちゃん、寺とか焼いちゃうから駄目でしょ』
軽口を叩くうち、廊下は終わりを迎えた。城の中にレイシフトしたものだから何となく散策していたが、そもそもここはどこなのだろう。この時代にこんな豪華な場所は限られているだろうから、間違いなく要人の家だろうが――人気がなさすぎるのが、少し不気味であった。
「開けますよ」
ごごご、とそれっぽい音を立てて扉が開いていく。まず、中央の玉座が目に入る。宝石が散りばめられ、王と呼ばれるに足る人物が座りそうな荘厳な椅子。だがそこには誰もおらず、代わりに、その横に緑色の帽子を被った人物がいるのが見えた。
「やあ、久しぶりだね。球磨川禊くん」
『あ!』『あなたは!!』
ベージュ色のネクタイを締め、人のよさそうな笑みを浮かべ。緑のスーツを着こなす、彼こそは因縁の――
『――えーっとすいません、誰でしたっけ』
「レフ・ライノールだこのクズゥゥゥ!!」
レフ・ライノールは顔を歪めて激昴した。