「バイタル安定、付近に敵性反応もなし……よし、無事レイシフトに成功したみたいだね。聞こえるかい、藤丸くん?」
『はい、大丈夫です』
ひとまず藤丸が無事現地に到着したことに対し、スタッフ一同、安堵の息を漏らす。三回目とはいえ、何せ毎回
『青い空、白い雲、綺麗な海……何処かの島にレイシフトしたって感じですかね?』
「そうみたいだね。そこそこ大きな島のようだし、生命反応もある。ひとまず現地住民に接触して情報を得てほしい」
『了解!』
藤丸の元気な返事に、ロマニは安心したような笑みを浮かべた。
『……? マシュ、どうかした?』
海を見つめたまま、一向に動く様子のないマシュに藤丸は声をかける。彼女自身無意識にそうしていたようで、藤丸の声に気づくとハッとしたように『すみません、先輩』と言った。
『オーダーの途中で気を抜いてしまいました……本やデータでは知っていましたが、実際の海がこんなに広くて、こんなに大きくて──こんなに美しいなんて思わなくて』
マシュの瞳は雲一つない晴天に煌めく海を見つめている。その瞳は、光を映してキラキラと輝いていた。藤丸はそれに強く頷く。
『ホント、めちゃくちゃ綺麗な海だよね! この海を本当に取り戻すためにも、この特異点を修復しないと!』
『はい、そうですね!』
──いつかこの後輩を、自分たちの世界の海に連れて行ってあげたい。藤丸は密かに、そう決意した。
『あ、そういえばドクター。禊くんは今どうしてます?』
その問にロマニは、バツが悪そうに答えた。
「あー、えーっと球磨川くんは……今は部屋で休んでもらってるよ」
『……そっか』
禊くんともこの海を見たかったな──その言葉は、寸でのところで飲み込んだ。
*
『ポン』
「なんの、チー」
「カンです」
「アンタら鳴いてばっかだなー」
『リャンピン切るね』
「「ロン!」」
「いやマジかよ!? 普通そこアガり牌な上に揃うか!?!?」
『はあ、やっぱり変な手は狙うもんじゃないね』
無難にいこうが勝てなかっただろ、という言葉は、サーヴァントという立場上全員が飲み込んだ。親しき仲にも礼儀ありである。『やることなさそうだから部屋で英気を養ってるねー』『あとはよろしく!』という二言でサポートから抜け出した球磨川は、サーヴァントたちと麻雀に興じていた。ちなみに現在キアラが親で50000点、ジルが34000点、アンリが18000点で球磨川が-2000点である。
「流石ですマスター。麻雀でこのような点数を取られるなんて……」
『はっはっは、過負荷の肩書きは伊達じゃないからね』
「もはや過負債だろ」
残っていた山を乱雑に崩し、ジャラジャラジャラジャラと球磨川は牌を混ぜていく。しかし途中で『そういえば最終局だったね』と呟いて、
『やっぱり勝負事は向いてないなあ』『次はどうする? トランプでもやるかい?』
「ダーツはいかがでしょう!」
「私はツイスターがよろしいかと」
「俺はパース」
アンリは立ち上がって、無機質な開閉音とともに部屋を出ていく。
「腹減ったし、傷の舐め合いなんざ不味くてとてもじゃないが喰えないからな」
振り返りもせずに手を振って、下ろす頃に扉は閉まった。取り残された三人はしばし何も言わずに黙っていたが、布切れの擦れるような音と、『とりあえず、脱衣麻雀のルール的に僕がパンイチになればいいんだよね?』という発言とともに、ツイスターに勤しみ始めた。