Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第四十八敗『羨ましくなっただけさ』

「獲りました、マスター!」

 

「よし、みんなも無事だね!?」

 

『ああ、立夏ちゃんたちの尽力のおかげだぜ』

 

 全員、ほとんど無傷で戦いは終わった。球磨川のスキルによって、イアソンの魔神柱化を食い止められたことが大きかっただろう。

 

 

「お、あ、が……メディア、めでぃあ、めでぃあ……」

 

『元の体に戻れてよかったね、イヤホンくん!』

 

 聖杯により変質した魔力が抜けきったからか、どうにか元に戻ったイアソンが、満身創痍の様子でメディアを見つめている。

 

「──はい、イアソン。どうなさいました?」

 

「……なおしておくれ、ぼくのめでぃあ。いたいんだ、いたいんだよぅ……!」

 

 陽を受けて輝いていた金髪は乱れ果て、その双眸は苦痛の色で満ちている。

 

「…………」

 

「なにをやっているんだ、こののろま……なおせと、いっているだろう」

 

 治癒と防衛しかできないと言っていた魔女は、瞳を伏せていた。

 

 

「──できません、イアソン。ごめんなさい」

 

「…………………………え?」

 

「だって私も、もう倒れます。残念でした。本当なら、あなたと共に世界は沈み、幸せなまま終わることができたのに」

 

「……おまえ、やっぱり……」

 

 メディアは空いた胸から血を流しつつも、天を仰ぐ。

 

「この私には関係ないことだけど、たしかに彼女(メディア)はイアソンのことが大好きだった。どうしようもなく残酷で、弱い癖に、どこまでも無邪気で、人を惹きつけて放さないあなた。そんなイアソンに、彼女(わたし)は恋をした」

 

 その瞳は憧憬を抱いていた。彼に、そして彼女に。それはまるでベッドの中で聞かされた、御伽噺に憧れるように。

 

「でも、あなたはすべてを裏切る。そういうふうにしか、生きられない人だから。だったら──裏切られないよう、世界ごと沈んでしまった方が楽でしょう?」

 

「まじょ、め……うらぎりの……まじょめ……!」

 

 翡翠の双眸に、憎悪と憤怒の色が混ざった。

 

「しね、しね、くたばれ! ちくしょう、ちくしょう、畜生──!」

 

 恨み言を吐きながら、イアソンの体は消滅した。それを見守ってから、メディアはぽつりと呟く。

 

「……ごめんなさい、イアソンさま」

 

『彼もきっと、君を恨みきっていたわけではないさ』『最後のアレはきっと、自分の弱さが許せないが故の本音だろう。気にしないであげてくれ』

 

「……ええ、きっとそうなのでしょうね」

 

『立場は違えど、君のやりたかったことを否定はしないぜ』

 

 ふっと微笑を浮かべ、メディアは瞳を閉じた。

 

「ごめんなさい、イアソンさま。彼からあなたを守りたかったけど、私には手段がなかった」

 

 慌てたようなロマンの声が響く。『メディアの霊気反応が消滅しかかっている……いや、その前に! 藤丸くん、彼女に質問を!』

 

 

「あっ、あなたもレフの仲間だったんですか!?」

 

「……それを口にする自由を、私は剥奪されています。魔術師として私は彼に敗北していますから」

 

『それは、つまり──』

 

「ええ、どうか覚悟を決めておきなさい。遠い時代の最後の魔術師たち。魔術師では、あの方の力には絶対に及ばないのです」

 

 もっとも、魔術師じゃない方もいらっしゃるようですが──と、能天気に笑う球磨川に視線がいった。

 

 

「勝つために、星を集めなさい。いくつもの輝く星を。人間の欲望にも、獣性にも負けない、嵐の中でさえ消えない、(そら)を照らす輝く星を──」

 

 

 メディアもまた、イアソンの後を追うように逝った。彼女のいた後に残った、金の杯をマシュは拾い上げる。

 

 

「消滅確認。聖杯の回収も完了しました。残敵もなし。時代修正──完了です」

 

 

 

 

 

 

 戦いは終わった。

 共に戦った海賊たちが、英霊たちが、笑いながら、惜しみながら、されど朗らかに消えていく。

 消える間際、ダビデとロマンにより魔神柱やソロモン王に関する議論が繰り広げられたが、理解は進んだものの答えが出ることはなく、別れの時が来た。

 

「さて、僕もそろそろいくよ。また何かあったら呼んでくれ、それなりに力になるよ」

 

「頼りにしてるよ、ダビデ」

 

「それから……球磨川くんだっけ?」

 

『ん、呼んだ?』

 

「君からはちょっとだけソロモンに似たものを感じるね。愛人が十人くらいいたりしない?」

 

『生憎、恋人すらいないよ』『キスもまだのウブなねんねだから、たぶん他人の空似だね』

 

「そうかもね。まあ──もし彼に会えたなら、仲良くしてやってくれ」

 

 それじゃ、と手を振って、ダビデは光になった。

 

「アタシもそろそろかな?」

 

「船長、お世話になりました!」

 

「こっちこそ、アンタらとの旅、楽しかったよ!」

 

 忘れちゃうのは切ないけどね、と続ける。

 

 

「ほらマシュ、何辛気臭い顔してんのさ。旅は道連れ世は情け、出会いと別れは紙一重だよ? これまでもそうだったんだろ? 一々気にしてちゃキリがないさ」

 

「……そうですね。あの、ドレイクさん──」

 

 

 マシュは滔々と、旅の最中指摘されていた、マシュ自身の旅の中での目的、抱える葛藤を語る。それにドレイクは、海賊らしい刹那的な、それでいて底抜けに明るく、前を見つめた死生観の話で返して、これからの旅への激励(エール)が贈られた。

 

 

 その様子を、球磨川はどこかぼんやりした様子で見つめていた。

 

 

『どうしたんだい、球磨川くん』

 

『いや』『大したことじゃないんだけどね、少し羨ましくなっただけさ』

 

 眩しいものでも見るように、球磨川は二人を見つめる。

 

 

『彼らはどこまでも真っ直ぐだ』『(ぼく)とは違う』『願わくば、そのまま進んでくれることを願ってしまうよ』

 

『……僕から見れば、球磨川くんも相当まっすぐだと思うよ? 悩んでも苦しんでも、それでも共に戦ってくれたし、それに──』

 

『みなまで言わなくていいぜ、ドクター』

 

 括弧つけた青年は、大海を眺めて笑う。

 

 

『彼らこそ、燦然と輝く一番星だよ』

 

 

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