城ヶ崎家の長男はめんどくさがりのプロデューサー? 作:all
「お兄ちゃん、楓さんが最近ネックレスつけるようになったんだよ」
出勤途中、今日も今日とて妹の美嘉を助手席に乗せてタクシーの運転手状態のお兄ちゃんこと俺。美嘉はそんな俺にそう言った。
あ、それあれですね、俺がやったのですね。つけてくれてたのね、よかったわー、あれで気に入られてなかったら涼太郎泣いちゃう。
「へえ、そうなのか」
取り敢えず、そんな気のない返事を返しておく。
いや、だって知られたくないし。お兄ちゃんそんなキャラじゃないってわかってるから。
「うん、それでたまにネックレス見て顔赤くして微笑んでるんだよ」
「へえ、そうなのか」
え、なにそれ、俺知らない。そんなことになるなんて分かるわけ無い。なに、あれそんな嬉しかったの?いや、違うな。うん、違う。
「適当だね~、嬉しくないの?自分がプレゼントしたネックレスつけてもらえて」
「へえ、そうなのか。って、…はぁ!?何でお前がしってんの!?」
「アハハ!莉嘉とアタシがお兄ちゃんのことで知らないことがあるとでも…?」
「いや、何でそんな誇らしげなの?普通に怖いから、いや、マジで。止めてほしい、そういうの。と言うか止めて、止めろ、止めてくださいお願いします」
何故か自信満々の目映い笑みでさらっと怖いことを言う妹に軽く恐怖を覚えてしまった。
お前ら俺のこと好きすぎるだろ。
「照れてるの~?」
「照れてない。断じて」
ただ、妹が怖いだけである。俺の個人情報どこ行った。あれか、家出か。俺の個人情報が妹達のところに家出したのか。多分冗談でいっているのだろうけど…。
十数分後、馬鹿な事、というか意味不明な事ばかり考えていると、目の前に346プロのビルがあるではないか。
なんだこれ、体が覚えてんのかなー?おかしいなー、そんな社畜になった覚えは無いんですが…。
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「おはようございます。城ヶ崎君」
プロデューサーとそのアイドルに用意された仕事部屋兼休憩所に向かう途中、背後から俺に声をかけた人物がいた。
振り返ってみると、そこには凶悪な目付きの背の高い男性、俺の先輩にあたる武内さんがたっていた。
「おはようございます、武内さん。今日もスカウトに行くんですか?」
武内さんは首に手を回して困ったような仕草をする。この人の場合、表情があんま出ないから仕草で判断する必要があるんだよなあ…。
「はい…今スカウトしている子がいるんですが、まだ成功していなくて」
「あー…確か4日位前、交番に迎えに行ったときのあの子ですか?大変ですねぇ…」
ホント、大変そうだよな。入社一年ちょっとの俺でもあの数のアイドルと仕事だ。武内さんはもっと大変そうだ。
「いえ、城ヶ崎君程ではありません」
「え?なにそれ。俺だけなの?あの量の仕事。馬鹿なの?あのクソ上司。入社一年であの仕事量はおかしいと思っていたけど、まさか俺だけ?」
武内さんから語られた衝撃の一言。成る程、これで全て謎が解けた。同僚や先輩、はたまた清掃員からトレーナーの人までから向けられて来たあの視線があわれみの視線だったとは…。なんだよ、ちょっと嫌われてんのかと思ってたわ。
「まあ、君は書類を纏めるのがとてもうまいですし、プロデューサーとしての才能もありますから」
「はあ…そんなことないと思いますけど?仕事は才能云々よりも経験でしょ」
実際、慣れない事をやるのはきつい。俺が何度止めようと思ったことか…。
「経験も確かに大事な要素ではあります。ですが、貴方には人を輝かせる才能がある。そう思います」
いつになく真面目な風に言う武内さん。いつもとの違いなんてあってないようなものだけども。
しかし、人を輝かせる才能、ねえ…。もしアイドルを宝石に例えるなら、武内さんは原石を見つける才能があると思う。そして俺は研磨して、仕上げる人か?
何かもっといい表現がある気が…。
あ、そうだ。
「なんか、シンデレラ見たいですねえ。アイドルは灰かぶりの娘で、俺達プロデューサーは灰かぶりの娘を導く魔法使いってところですかね?」
なんとも俺らしくもない、メルヘンチックな表現だこと。自分でいっていてなんだが、自分が嫌いになりそうだ…。俺はもっと現実主義者だった気がするんだが。
これも全て、この目の前の情熱的な鉄仮面の影響なのかねぇ…。
「んじゃ、また今度呑みにでも…。俺はそろそろ失礼しますよ。どうせまた昨日まではなかった書類がつまれてるでしょうし」
俺は武内さんに背を向けて個室に向かう。今日はどのアイドルも仕事もレッスンもない日のはずだ。コーヒーでも飲みながら、ゆっくりまったり一人で仕事をこなすとしよう。
「あ、また交番迎えに行くことになるのはキツいんで、そこら辺よろしくお願いしまーす」
エレベーターに足を踏み入れた瞬間、一番言いたかった事を思い出して、武内さんの方を向いてそう言った。