冷えきった朝の階段を昇りながら、西野が思い出したように言った。
「そういえば昨日メールで言ってたけど、駿介くんの友達三人はもう来てるのかな? 」
「どうだうな。大草と真中は来てるかもだけど」
そんなことを言いながら駿介が図書室の扉を開くと、中には三人。大草、真中、小宮山が四人掛けのテーブルに座っていた。教科書ノート参考書等が入っているであろう鞄をテーブルに乗せてある。
小宮山は駿介達三人が入ってくると待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、入口の所へとやって来る。
「いやあつかさちゃん、今日も相変わらず美しい」
「止めろ馬鹿。仲間の彼女なんだぞ西野さんは」
小宮山が通路をふさぐせいで、西野と東城の二人が図書室の中に入れない。真中が彼の腕を掴み、何とか退けようとするが如何せん体格差にあまりに違いがあるせいか、微動だにしない。
「よし小宮山、とりあえず退けような」
先に入っていた駿介がいとも軽々と小宮山の腕を掴み、二人が入れる為のスペースを作った。真中は彼の細い腕のどこにそんな力があるのかと思ったが、この友人はそういう少し不思議な所も魅力なんだろうなと得心した。
「じゃあ六人が揃った事だし、勉強するか」
「そーだよね。勉強のために早起きしたんだから」
「えー、もっとつかさちゃんとおしゃべりしたいのに」
駿介は席につくとノートなどを取り出し、言った。西野の言う通り、早起きして来たおかげで一時間近くの勉強時間があるとはいえ、受験生である彼等に残された時間はあまり多くはない。
勉強する気のない小宮山の発言は完全スルーである。
席順等は決めなかった。各々が好きな場所に座った。
しかし、この中で一番成績が優秀な東城と決して成績がいいとは言えない駿介、真中、小宮山の席はそれなりに重要である。
故に駿介の隣に東城。その向かいに真中と小宮山が座った。ちなみに同じテーブルではないが、人一人が通れる隙間を挟んだテーブルに大草と西野が座る。駿介を東城と西野が挟む形である。
大草は推薦で入学が決まっている事と、西野が不得手な数学の成績がいいのでほぼマンツーマンで分かりやすく問題を解説していく。それでも分からない問題を東城に聞くという形だ。
「だーかーら、その訳だと意味が分かんなくなるだろ? だから、ここをこーして」
と駿介が二人に英語を教えていく。あまり成績がいいとはいえないが、英語だけが唯一ダントツで学年一位なのだ。しかし他の科目が平均点なのだ。悪くはないが、決して良いとは言えない。故に彼女である東城から懇切丁寧に教えてもらう。
何だかんだで真面目な真中と小宮山は教えられた通りに問題を解いていく。駿介も東城の教えがいいのか、すらすらと問題を解いていく。
「あ、そのペン駿介と同じやつ? 」
「うん。ストーカーばりに駿介くんをずっと見てたら、気付くと同じの使ってたんだよね」
大草の問いに顔を上げることなく問題を解きながら答えた。もちろん静かな図書室だ。東城の耳にも入ってきた。彼女もまた、駿介と同じメーカーのペンを使っている。幸い駿介は難問に当たったのか、うーんと頭を悩ませているらしく耳には何も入っていないらしい。
(西野さんも同じなんだ。本当に同じくらい好きなんだ)
小宮山に問題の解き方を教えながら、そんなことを考える東城。
「もしも、もしもだよ。もしも駿介がこれからハーレムを増やしていっても、西野は彼女でいるの」
「当たり前だろ。もしも、もしも駿介があたしのことを嫌いになっても、また好きにさせるくらい大好きだからさ」
ご馳走様ですと両手をあげる。大草もまさか西野がこれ程までに一人の男を、それも友人である駿介を好きなんだと思わなかったがーーようやくその思いの真剣さと深さに気付かされた。
そんな熱烈な告白を受けながらも、苦手な漢文に四苦八苦する駿介にはやはり聞こえていないが。
「可愛いでしょ。あたし達のカレシ」
「はは、もう本当にな」
普段はクールというか飄々とした印象の駿介だが、その実は可愛いらしい面もあるらしい。流石彼女てあるな、と大草は思った。
そんな話を聞かされた東城だが、確かに駿介君は可愛いと内心何度も頷いた。その時、思わず手にていた消しゴムを落としてしまう。
やはり再び小宮山に解き方を教えている最中であった。
消しゴムに手を伸ばした拍子に小宮山の腕に彼女の豊満な胸が当たり、ふわりと沈んだ。
刹那、小宮山は噴水のように鼻血を吹き上げ倒れてしまう。
こうなると、勉強どころではない。
慌てる東城を落ち着かせ、男三人で小宮山を保健室へと運ぶことにした。
後の些細な片付けを二人に頼んで。
「東城綾ちゃん、すゎいこうー」
と何やら呻いていたが、三人は保険医に彼を任せて教室へと戻って行った。