いちごの輝き   作:むらさきみどり

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第11話

 その日の放課後。

 駿介は西野の家に来ていた、帰り道で勉強を一緒にしたいなあと誘われたからた。

 

 それにしても、と駿介はベッドに腰を下ろしたままゆっくりと辺りを見渡した。

 ベッド以外にあるのは教科書や参考書の置かれた机と、鏡のついたタンス。チェックのカーテンや並べられたぬいぐるみなどが女の子らしさを感じさせる。

 

「これーー」

 

 何のへんてつもない猫のぬいぐるみ。しかし他のぬいぐるみと比べると、すこしばかり歴史を感じさせる。汚れては洗いを繰り返してきたような、そんな感じだ。

 

「まだ持っていたのか」

 

 駿介は小さく笑みを漏らし、その猫のぬいぐるみの鼻をつついた。これはかつて、まだ小学校に入る前。西野の誕生日に貯めていた小遣いで生まれて“初めて”誰かにプレゼントした物なのだ。

 

「お待たせーって、何で駿介くんーーじゃなくて!ぬいぐるみ持ってるのもー!!」

 

 気のせいだろうか。つかさの頬は少しだけ赤くなっていて、俺からぬいぐるみを取り上げると元あった窓際に戻した。

 

「あとココアどーぞ」

 

「ありがと」

 

 つかさは持ってきたココアを俺に渡すと、隣にぽーんと座りそのままどさっと上半身をベッドの上に投げ出した。ちなみにつかさは先程一口だけ飲んだココアを机の上に置いている。

 

「ちょうどいいよ、ありがとう」

 

 適度にぬるめのココアを飲んで、俺も机の上に置いてベッドに座り直し、わざとぬるくしてくれたであろうつかさに感謝する。

 

「あはは、まだ猫舌なんだもんね、ちゃんと知ってたからねあたし。ふふーって、きっと東城さんも知ってるかあ」

 

 とつかさはベッドに横たわったまま自身の前髪をつまみ、じっと眺めていたかと思うと「あたしちょっとずるいね」と、無意識だろうか、唇を小さな舌でなめた。

 

「あたしね、東城さんとは友達だっておもってるんだ。もちろん、駿介くんの彼女仲間、っていうのか分かんないけど。もっと仲良くなりたいって思ってる。だけど、同時にライバルでもあるのかなとも思うんだ。どっちが先にキスしてもらえるか。どっちが先にーーって、ごめん!ちょっと恥ずかし過ぎるなコレ」

 

 ごろんと寝転がりつかさは背を向けた。

 俺はどんな言葉をかければいいのだろうか。ちゃんと平等に好きな人達に接すると、いうのは簡単だが行うのは本当に難しい。そんな事すら、俺はまだちゃんと理解できていない。

 

「こっち向けよ、つかさ」

 

 でも、向き合わなければダメなのだ。もう逃げない。そう決めたのだから、彼女の中に芽生えた小さな罪悪感をぬぐいとりたい。本当にずるいのは自分なのだから。

 

「もー、絶対あたし顔真っ赤……ん、ゎ…ん」

 

 キスをした。初めてのキス。ちょっとだけ甘い、ココアの味がした。駿介くんは顔を反らし、「悪いのは俺だけだから」なんて可愛い事を言った。顔はいちごみたいに真っ赤で、本当に可愛い。改めて好きだなあなんて思って、今度はあたしの方からキスをしてやった。ハトが豆鉄砲をくらったみたいに驚いた顔も、やっぱり好きだなって思った。

 

 

 

 

「ごめんなさい!今日は親戚の人が来るみたいなの。二人で帰ってくれるかしら」

 

 と、言って一人急いで帰ってきた東城は不機嫌なまま、自分の部屋で参考書を開いていた。

 実は親戚が来るという話は嘘だったのだ。昨夜、駿介と付き合い始めたと両親に報告したのを聞いていた弟の正太郎が、何とかしなければと思いそんな嘘のメールを送っていた。

 

 普通に考えれば、二股だ。同時に二人の女の子と付き合うなんて、あり得ない。だけど、普通じゃ無かったとしても私は幸せを感じている。そう。生まれて初めて好きになって、愛した駿介君と一緒にいられる喜びは、生活の全てにおいて輝きとなっている、そんな気がするくらい。

 

「正太郎の気持ちも分かるけど、それでも、それでも。私は駿介君と一緒にいたい。出来ればもっと好きになってほしい」

 

 今ごろ何をしているのだろう。

 今日の昼休み、西野さんが言っていた。「あたし達は将来、家族になる仲間だと思うんだ。だって、ずっと駿介くんと一緒にいたいもんね。でも、仲良しなだけじゃダメだと思うんだ。お互いがライバルみたいな、ちょっと上手く言えないんだけど」と。

 言いたいことはなんとなく分かった。同時に、その通りだとも思った。

 一言でいうなら、メリハリ、だろうか。

 

「私は西野さんみたいに可愛いくないけど、頑張ろう。今はまだ勝てなくても、いつかきっと勝てるように」

 

 その為に今出来ることをしようと、東城は自分の頬をぺちぺちと叩き、再び参考書に目を向けた。ひた向きに、ひた向きに。彼女もまた少しだけ強くなったのだ。

 

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