滅び行く王国センシア。その国の王女であるアリスティアは自ら先頭に立ち、剣を振るう。戦姫と呼ばれる程の女性だ。その美貌も相まって、センシアを手中に入れんとする周囲の国々に彼女の存在が瞬く間に広まっていく。同時に、そんな彼女を狙おうとする存在もどんどんと増えていった。彼もまた、その中の一人だった。
ぱたんとノートを閉じて、駿介は読み終えた東城の小説の物語を噛み締める様に目を閉じぼんやりと高い天井を見上げた。
そこは高級ホテルのラウンジを思わせるような部屋だった。駿介はゆったりとしたソファに腰掛け、約束の時間を過ぎてもやって来ない待ち人を待っている。暫く待つだろうと分かっていたので、ゆっくりと小説を読めたのだ。
「……よく帰ってきたじゃねえか、駿介」
まだ帰って来ないだろうと考えていたせいで、思わず少しばかり驚いてしまう駿介。そんな彼を見て、帰ってきた父親の仲間徹は笑いながらどかっと駿介の対面に座る。
年齢は45歳。しかし服装や髪形等が若く、10歳以上若く見える。
国内外から音楽はもちろん、彼のルックスの評価が高い事も頷けるほど、美形である。駿介の線の細い感じと違い、筋肉質な為に少し荒々しく大きな印象であるが。
「それは、呼ばれたら来るだろ。普通に」
「今まではメールも電話も全部無視だったがな」
くっくっくと笑う父親に駿介は「ぐぐぐっ」と返す言葉が無い。彼は中学に入って以来ずっとこの実家に帰って来なかったし、父親や母親達からの連絡を無視してきたのだ。母親達には時おり返していたりもしたのだが。
「まあいい。実は今日はやっと明菜が帰って来るんだ。久しぶりに家族皆で揃いたいだろう」
「母さんがーー? いやでも、母さんは父さんの事が嫌になって出ていったんじゃ……」
「誰がそんなデタラメ言ったんだ、ふざけてるな。明菜は新しい遺跡が見つかったとかで、今までアマゾンの奥地に行っていたんだぞ」
ぴしりと駿介のこめかみに皺がよる。怒りを抑えられないといった様子である。
「父さんが言ったんじゃないかバカやろおおおお!!!」
駿介の叫びは家中へと響き渡るのだった。
暫くして、母親である明菜が帰ってきた。時刻は七時を少しばかり過ぎた頃。駿介は四人の母親達に聞かれるまま最近の近況を話していた。父親である徹は両手を後ろで縛られ、椅子に座らされていた。駿介の家出の原因の一つを作っていた事を知った四人に縛り上げられていたのだ。
「なに、どうしたのこれ」
そんな事情など知るよしもない明菜がそう疑問に思ったのは仕方がない事だろう。
「おかえりなさい、母さん」
「おかえり明菜」
仲良し家族である。全員の声が見事に一致した瞬間だった。
ちなみに徹の声も見事に一致していた程だ。
「反省した? 徹さん」
「反省しました。本当にごめんなさい。いや、まさか信じるなんて思わなかったしーー」
事情を知った明菜に怒られる徹だが、二人の間に流れるのは穏やかな空気である。駿介が家出していたことなどに驚いてはいたが、それも息子の成長に繋がったのだろうと分かっているからだ。何だかんだで仲のいい二人に、駿介達も思わず懐かしいなあと目を細めた。
「まぁ、俺も今まで逃げてばっかりだったし、俺も悪かったよ」
「でも、今は違う。闘う男の目をしてる。それでこそ、あたし達の息子だよ」
「ふっ計算通りだな」
空気を読まない徹に母親たち五人が取り囲み、再び彼を縛り上げた。つい先程、食事のために解かれていたのだ。
しかし、こんな光景も駿介には懐かしくあった。昔から全員仲が良いのだ。
「……俺もこんな家庭が作れるかな」
駿介の思わず口に出た呟きに全員が手を止め振り返った。父母の六人が息子の成長に胸を打たれ、泣きそうになったり、中には涙を流している者もいた。
「大丈夫だ。お前は俺の」「私達の」「息子なんだから(な)!!!」
真の意味で駿介が、自宅へと帰ってきた瞬間だった。