駿介は自分のアパートへと帰ってきていた。
相変わらず、何もない質素な部屋である。きらびやかな装飾に彩られた実家の大豪邸とは天と地の部屋だ。
『小説すげえ面白かった』
『本当に? 凄く嬉しいわ』
メールを送り、一分もせずに返事が返ってきた。そして、続けざまにもう一通メールが届く。内容は“つかさにも読ませてあげることになったから、もし読み終えたらつかさに直ぐ渡すね。だから続きは受験が終わってからになるかもしれない”という事だった。
つかさが綾の小説を読むことになった、とはどういうことだろうか。いやもっと言うと、今までは名字で呼んでいたはすだ。それが今来たメールを見ると、名前で呼んでいる。
さて、何があったのだろうと思うがーー二人の仲が深まったのだろうということは分かった。思い出した。確か今日はつかさの友達であるトモコなる子と三人で帰ったらしい。
ふむ。あまり仲のいい友人がいなかった綾にとっても、今日という日はいい日になったのかもしれない。
そう思うと、嬉しくなって思わずにやけてしまった。
『駿介くん綾から聞いたー? あたしも綾の小説読むからね! 楽しみだなー』
今度は俺と綾、つかさの三人で毎晩してきたグループメールにつかさからのメールが届く。綾の絵文字の無い文章とは少し違う、ワンポイントで添えられたハートの絵文字が可愛らしい。
『聞いたよ。マジで面白いからな、本当に!』
駿介君のメールにつかさが『知ってるよ、だって今読んでた小説だってもう本当に面白くて面白くてすっごく泣いちゃったもん』と可愛いハートの絵文字をつけて返信した。
思わぬ形で感想を聞けてもちろん嬉しいし、少し照れ臭い。だけどそれ以上に気になった事がある。つかさのメールと私のメールの違い。
絵文字の有る無し。それだけ、と言われてしまうとそれまでに過ぎない。だけどーー負けたくない。そう、負けたくないっ。
『二人にそうやって褒めてもらえて私も凄く嬉しいわ。だけど、もう来週の今日にはもう受験だって忘れてない? 特に駿介君!』
綾のメールの雰囲気が少しだけ変わった気がした。
犬の絵文字がついただけじゃない。何となく、強くて暖かな気持ちになるような感じ。上手く言葉にはできないけど。
『忘れてないから! ただ、綾のおかげでかなり自信はついたけどな』
『それは駿介君が頑張ってきたからよ。つかさも苦手な数学を本当に頑張ってきたし、二人ともきっと合格できるわ、、私も油断しないで頑張らなきゃいけないわ』
『綾なら余裕で合格だよ。ていうか、皆で合格しないと意味がないけどね? 特に駿介くん!』
『あ、私の真似? でも確かに駿介君がこの中だと一番不安なんだから、油断しちゃだめよ? 』
綾とあたしののメールに駿介くんが『分かってるよー』と困り顔の猫の顔文字を使って返してきた。ふふ、可愛い。
だけど、確かに最後まで頑張らないとダメだな、うんうん。
『それじゃあ、今日のメールはここまでにして勉強しますか! 』
と俺のメールに二人が同意の返事をしてきた。
既に夜も遅いが、きっと二人はまだこれから勉強をするに違いないと思うと、眠気なんてどこかに吹っ飛んでいった。と自分に言い聞かせながら、俺は苦手な古典の教科書を開いた。
夜はまだまだ長いと、三人はそれぞれに机えと向かうのだった。