いちごの輝き   作:むらさきみどり

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第17話

 確かに三人の第一志望は泉坂高校の受験日は来週だった。そう、泉坂高校の受験は。

 しかし滑り止めである集英高校の入試は今日だったのである。

 思えばいつも通り早く起きて、いつもの待ち合わせ場所に着いても俺とつかさしかいないおかしい状況にもっと早く気付かなければいけなかったのだ。

 答えを与えてくれたのは、綾だった。

 十分、二十分と経っても来ない綾を心配してメールを送ると『今日は皆で集英高校の受験でしょう? 』と心なしか心配そうなメールが返ってきた。

 

 不幸中の幸いは、朝が早いこと。今から受験票などを取りに帰っても、余裕で集英高校に着けるはずだからである。

 

「つかさ、急ぐぞ! 奴らにこの事がバレたら末代まで笑われる」

 

「小宮山君たちだね! バレない為には落ち着いていかないとダメだね 」

 

「その通り。さぁ行くぞ!」

 

 

 なんて事もあったが、無事に受験を終えた綾と大草を除くいつものメンバーである。

 ちなみに大草は泉坂高校にスポーツ推薦で決まっているし、綾の場合は集英高校というレベルがあまりに低い高校の受験を教師が認めなかったので、この場にはいない。

 

「あー、やっと終わったー!」

 

 小宮山が両手を伸ばし空に向かって叫ぶように言った。

 真中も続いて同じポーズ。

 しかし駿介はもちろん、西野もそんなことはしない。ただでさえ西野の可憐さに注目が集まっているのに、そのようなことを出来るはずがなかった。西野がいなければ、駿介はしていた可能性が極めて高かったが。

 

 

「いいからよぉ、俺達と遊ぼうぜって言ってんの」

 

「そうそう、俺達と遊べばすげえ楽しいし、気持ちよくなれるって」

 

「ほら行くよ」

 

「だから止めてってば! 」

 

 ふと足を止めるとセーラー服の女が派手な身なりの男たち三人に囲まれ、壁を背にしていた。

 男が女の腕を掴むと、女は茶色の長いポニーテールを揺らしながらその手を振りほどいた。見るからに少しばかり気の強い女に見えた。

 しかし男はまさかそんな事をされるとは思わなかったのだろう。顔をみるみるうちに真っ赤にしていき、腕を振り上げた。

 つかさが俺の裾をつかみ、不安げな顔を覗かせていた。真中と小宮山も急な出来事に思わず身をすくめている。

 “女が困っている時に、迷わず助けられる男になれ”そんな父の言葉が頭を過ったーーその時には、俺は男達を遮る様に女の前に立っていた。

 

「人の女に手ぇ出してんじゃねえよ」

 

「はぁ? ふざけんな、この女は俺達がもらっていくんだよ。優男は消えな」

 

 突然現れた駿介に、真ん中にいた男が苛立ちを隠す事なく駿介の胸ぐらをつかもうとした。が、駿介は半歩後ろに下がりそのまま男の肩に手を乗せたかと思うとーー刹那、駿介は跳ねるように飛び上がり、その勢いのまま男の顔面に膝をぶつけた。

 

「真中、小宮山、この子を頼む」

 

 駿介に遅れてやって来た二人に女を任せ、一回転。いわゆる回し蹴りを呆然としていた男に叩き込み、最後の一人には最初の要領で飛び膝蹴り。

 

「がはっ……」

 

「………ちょっとやり過ぎたか」

 

 まさに一瞬の出来事だった。

 西野も普段は見せない駿介のそんな姿に驚きを隠せない様子だが、彼女の眼は目に見えて分かる程にハートになっている。

 

 

「あ、の。ありがとう……助かった」

 

 ぺこりと頭を下げた女の長い茶色のポニーテールが揺れた。

 その小さな身体は震え、今にも泣いてしまいそうだ。

 駿介は恐怖で体が固くなってしまっているだろうと思い、そっと彼女の手を取り、両手で挟んだ。

 

「怖かったな。でももう大丈夫だから、安心しな? 」

 

 それは東城と西野二人が、先日二人で話ながら話題になった駿介の微笑みだった。まるで優しさで全身を包まれるような、天使の微笑み。西野は思う。ああ、あの子も駿介くんの虜になるなあと、ぼんやりと。

 

 

 あたしは助けてくれた男と、その彼女に家まで送ってもらっていた。そう、彼女と。

 何なのよもう!王子さまみたいにっとか、らしくないことを考えていた自分が忌々しい。今も二人はあたしを挟んで、何やら彼の体の心配をしている。あ、あたしだって助けてもらったんだし、心配してるんだけどーー緊張して、上手く言葉が出てこない。まだちゃんとお礼も言えてないし、自己紹介すらできていないのにーー

 

「そうだ。自己紹介がまだだったな、俺は仲間駿介。それでこっちが」

 

「西野つかさです! よろしく、ね? 」

 

 あたしの前に彼女が立った。

 くっ……彼と付き合っているだけの事はある。テレビで見るアイドルなんかより全然可愛いなんて、こんなの勝ち目が無いじゃない。ま、まぁ胸の大きさだけで言えばあたしのほうが勝っている。圧勝だ。だけど、彼は大きな胸は好きでは無いのかなーー

 

「おーい、大丈夫ー? 」

 

「まだ怖かったのかな……? もう大丈夫だから、俺がついてる」

 

 本当に、本当に優しい。

 心が暖かくなり、熱が全身を包んでいく。彼にーー駿介、君の彼女である西野さんが羨ましい。心の底から。

 

「……ありがとっ、でももう大丈夫だから! あ、あとあたしは北大路さつき。貴方に恋をしました! 」

 

「え? 」「え? 」

 

「え? 」

 

 あ、た、し、今なんて言った?

 アナタニコイヲシマシターーあなたにこいをしましたーー貴方に恋をしました!!!

 二人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、まじまじとあたしを見ている。それはそうだ。突然告白をされるなんて、それも彼女の目の前で告白するなんてーー

 

「あり得ないでしょあたしーー!!!」

 

 

 北大路つかさと名乗った少女は目尻に涙を浮かべながら、大きく腕を振って走って行ってしまった。凄く綺麗なフォームで。

 

「陸上部なのかな」

 

「うん。今言うことじゃないよね、絶対」

 

 取り残された二人の間に少しばかり気の抜けたような、生ぬるい空気が流れるのだった。

 

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