数日が経った。
結果から言うと、見事に俺達四人ーーつかさ、真中、小宮山、俺ーーは滑り止めの集英高校に受かった。かなり早い結果発表であるが、恐らく大丈夫だろうと思っていたので喜びはそれほどない。それ以上に、明日の本命、泉坂高校の受験が少しばかり不安だった。彼女達だけが合格ーーなんて事になったら、冗談ではすまない。ようやく逃げないと誓ったのだから、合格しないといけないのだ。
「そういえば、あの子とは最近会ってないの? えっと、北大路さん、だっけ」
昼休み。お母さんと作ったらしい弁当の卵焼きを口に運びながら、つかさが思い出したように言った。
隣にいた綾が、「集英の受験の時に逢った私より……むね……が大きかった人? 」と胸の所を控えめに言った。続いて何の話だと何時もの面子が聞いてくるが、取り合えずはスルー。
「いや、会ってないよ。そもそも名前しか知らないしーーもしも運命ならまた出会うんじゃないかな、とは思うけど」
駿介君は何時もと変わらない調子で言うと、手作りらしい小さなハンバーグを頬張った。お料理も上手だなんて、本当に王子さまみたい。
ふとつかさの方を見ると、顔がほんのりと赤くなっていた。運命だなんて、きっと普通に生活して聞くことはないから、気持ちは分かる。私も恥ずかしいような照れ臭いような気持ちになっているから。
ちなみに、その北大路との出来事については当日にメールで聞いた綾であった。
「でも、本当に凄かったよな。あの胸は。一度でいいから触れてみたい」
「うんうん」
「お前らなぁ……そんなにか、そんなになのか? 」
珍しく大草まで加わる始末。
小宮山と真中は妄想に突入したらしく、にへら~とよだれをたらしふにゃけた顔で宙を見る。
「……取り合えず、人の彼女の前でセクハラはやめような」
駿介の突っ込みに大草だけがすまんすまんと謝り、二人は妄想二人は嬉し恥ずかしそうに真っ赤になった顔を隠した。
見慣れた光景なのか、クラスメイト達もまたかと遠い所を見るだけだった。
そして泉坂高校受験日の朝が来た。
駿介はつかさと綾と待ち合わせをして、泉坂の校門をくぐった。泉坂は数年前に校舎が建て直されたばかりで綺麗だし、設備もかなり整っているらしい。
「ここが泉坂高校かぁ……あたしたち、春からここに通うために頑張ってきたんだよね!? 頑張ろうね、綾! 駿介くん! 」
晴天の空に燦々と輝く太陽にも似た笑顔でつかさは言った。
綾も「頑張りましょう! 」とつかさと二人で手を繋ぎ先に走り出した。
「どうしたの、早く行こ(行きましょう)」
慣れたが二人は時おりこうしてハモる事が多くなった。二人がどんどん仲良くなっていくというのは、嬉しいものだ。
「今行くよ! 」
最後のチャイムが鳴り響く。ようやく試験が終わったのだ。
チャイムと共に小宮山が両手を上げて叫んだ。
「終わった~~!!! 」
余程自信があるのか、それともただの馬鹿なのか。ポジティブ小宮山は生き生きとした笑顔で、「あとは合格発表を待つだけだな! 」と駿介と肩を組み言った。駿介もそれなりに解けたらしく、笑顔で「そうだな! 」と言っている。同じ教室で試験を受けた西野と東城も、そんな彼を微笑ましく眺めていた。
しかし一人だけ、打ちのめされて完全に参ってしまっている男が一人いた。真中淳平その人だ。
「ん? どうしたんだよ、真中」
ようやく友人のそんな様子に気付いたらしい駿介が労るように声をかけた。
「……今の英語、俺、解答欄を一個ずらして書いちゃった……」
「……何それ、いつかの俺のうそなんだけど」
「うう……訳が分からないことを言うなよ、ばか駿介……」
信じられない、といった様子の駿介。しかし当の本人である真中にとっては夢への第一歩である道を踏み外したかもしれないのだ。笑えるはずもない。
「えーっと、一個ずれるってどういうことかしら? 」
「……どこかで一個飛ばしちゃって、最後に解答欄が一つ余ったんだよ」
ようやく雰囲気が変わったことに気付いた二人がやって来て、聞こえたらしい疑問を東城が投げ掛けた。
返ってきた答えはそれはもう絶望的。彼女達二人は憐れむような表情で真中を見ている。駿介もまた同様だ。
しかし、そこにもう一人ズレた男が言った。
「え? あれって、どの教科も一個余るんじゃねーの? 俺、そうだったけど」
「んなわけないだろ!? だいたいなんで一個余分に解答欄があるんだよ! 」
「え…えーっと、その、よ、予備? ……に……」
「さすがに……ちょっとありえない、かな。小宮山くんのミス、スケール大きすぎ」
「そ、そうかなぁ? 」
駿介の突っ込みに小宮山がしどろもどろに答えた。流石の駿介も言葉を失い、力が抜けたように椅子へと座り込んだ。
代わりに答えたのは西野だった。しかし、未だその想いが奥底に眠る小宮山である。何故かにやけながら頭を掻くのだった。
後日その話を聞いた大草が腹を抱えて笑い、あまりに笑いすぎて階段から落ちる事を彼等が知るよしもなかった。