いちごの輝き   作:むらさきみどり

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第20話

 とうとうやって来た泉坂高校、合格発表の日。

 駿介と東城、西野の二人は駅前にあるドーナツ店にいた。

 合格発表を見たあと中学校へ報告に行った帰りである。

 

「駿介君、流石にそれはちょっと食べ過ぎなんじゃないかしら……」

 

「綾のいう通りだよ! 十人前くらいあるんじゃない? 」

 

 正面に並んだ二人の小言に駿介はしゅんと、小さくなって二人を見上げるように言った。「だめ? 」と。

 すると二人は仕方ないなぁもうと言って、自分たちのドーナツを食べ始める。

 ずる賢い男。それが駿介なのである。

 

「……でも、全員合格って本当に凄いよね! 特に小宮山くん。全部の教科で一問ずれてるのに合格だって凄すぎる! それもこれも、きっと綾のおかげだけど」

 

 西野が思い出したように言った。

 そう、全員が受かっていたのだ。あの真中と小宮山も。そしてもちろん俺も。

 最初は無理な可能性の方が圧倒的に高いのに、だ。

 

「そうだな。俺も、綾がいなかったらヤバかったし。本当にありがとう」

 

「そそんなことは無いと思うけど、そう言ってもらうと嬉しいわ。それに、駿介君とこれからも一緒なんだなあって思うとーーあれ、どうして涙が出てくるんだろ。あはは、おかしいわね」

 

 東城は目尻にたまった涙をその細い指で拭った。釣られて西野もなみだぐんでしまっているが、駿介はそんな二人を見て笑う。

 

「ずっと一緒だよ。俺たちはずっと、ずっと」

 

 空はうっすらと橙色に染まっていき、カラス達がどこかへと並んで飛んでいく。

 それからしばらくして、体育教師の白鳥がやって来てロッカーに三人で隠れたりするのだがーー彼等が知るよしもない。

 

 

 そして数日が経ち、卒業式当日。

 駿介は“両親”に挟まれ車に乗っていた。正確に言うと、異様に長い車の中で父親である徹と五人の母親達に囲まれている。

 ちなみに運転をするのは徹のマネージャーを務める男なのだが、そんな光景にも慣れているらしく淡々と運転をしていた。

 

「だーかーらー、親父が来たら混乱するじゃん! 分かる? 迷惑がかかっちゃうの! 」

 

「安心しなさい。この私がメイクアップしているんだから、絶対に気付かれないわ。声を出さなければね? 」

 

 母親の一人、恭子は駿介の抗議を一蹴した。

 そう。徹は現在、何処にでもいるようないわゆる普通の父親に扮していた。漫画に出てくるような父親の姿はどこか現実味が無いのだが。

 

「それに、一応俺がいくことは連絡してるしな」

 

 止めの一撃。父親の言葉に被せるように産みの母親であり、冒険家である明菜が優しく駿介の頭を撫でながら言った。

 

「大事な息子の記念すべき卒業式だ。胸張っていくんだよ。それにーーあんたの彼女達もちゃんと見ておきたいしね? 」

 

「結局せそれが目的だろおお!!!? 」

 

 そんなことがあったと、駿介は二人に話した。

 もちろん、西野と東城の二人である。

 

「つ、つまり駿介君のお母様方に会えるってこと? 」

 

「どうしよどうしよ、緊張して卒業式どころじゃないんだけど!? 」

 

 二人は驚きを顕にし、手鏡を取りだし髪型の確認等を行う。互いに可笑しい所が無いかなどと触りあったりもしている。

 教室の後方。隅の方とはいえ、学校一の美少女二人がそんな事をしているというのに生徒達はまたかと、生暖かな表情で彼等を見つめる。

 こんな光景も、見納めだと誰かが涙ぐむ。小宮山だ。釣られて真中も鼻をすすり、涙を浮かべた。

 

「お前らなあ、泣くところ間違ってるからな? 」

 

「だってよお! もし泉坂に受かってなかったら、つかさちゃんと東城を見ることも出来なくなると思うとーー」

 

「徹底してんのなーー流石小宮山」

 

 呆れたように大草が笑い、駿介達三人に視線を向けた。

 確かに、少し寂しいかもと思いながら。

 真中は涙する理由が泉坂に受かっていないかもという不安に切り替わっているのだが、そんな事には誰も気付かなかった。

 

 

 

 名前が呼ばれていく。

 名前を呼ばれた者は壇上に上がり、卒業証書を受け取り自らの席へと戻っていく。

 最初に、別のクラスである西野が呼ばれた。

 西野は駿介を見ると微かに笑う。すると体育館全体が揺れたのでは無いかと思うほどのどよめきが起こった。

 東城が呼ばれ、駿介を見た。晴れやかな笑顔だったが、目尻には涙が溜まっている。そして西野の時と同じくらいのどよめき。

 余談だが、大草が証書を受け取った時には黄色い歓声がわき起こった。

 

「仲間駿介君」

 

「はい」

 

 立ち上がり、壇上へ上がっていく。

 卒業証書を受けとると、その重みがぐっと感じられた。

 卒業。すべてから逃げてきて、ようやく自分の生きる道に戻ってきた。連れ戻してもらった。大切な恋人である二人に。

 

「ありがとう」

 

 壇上。二人を交互に見て、そっと呟いた。

 ついでに後ろにいた親父と母さん達にも視線を向ける。

 誇らしげに笑い、涙を堪える父親。涙を流し、自分の姿を目に焼き付けようとする母親達。

 二人のおかげで、家族の事も受け入れられた。本当に、どれだけ感謝してもしたりない。

 

「ありがとう」

 

 もう一度呟き、世間から見れば歪な家族を見た。大切な家族を。

 まだ面と向かっては言えないが、心からの思いと言葉だった。

 

 そうして、卒業式は幕を下ろした。

 

 

 校庭に出ると綾が大勢の男子生徒に囲まれ、次々に写真を撮られたり握手を求められていた。慣れていないせいか、真面目な綾は一人一人に誠実に応対している。

 

「……退いて退いてーっと。行くよ! 」

 

 人の波をかきわけ、中心にいる綾の手を掴んだ。

 すると一瞬だけ驚いたが、俺の顔を見ると破顔し大きく頷いた。

 走り出す。後ろから嘆きの声が聞こえたが、その大半が綾に見惚れたせいか数は少なかった。

 

「はぁはぁ……ありがとう。助けてくれて」

 

「まぁーー彼氏として、当然だろ? 」

 

 自分で言いつつ、彼氏という単語に照れてしまう。

 綾も同様だったらしく、うつ向いたまま顔を真っ赤に染めあげていた。

「綾」

 そっと手を伸ばした。

 熱い。綾の頬は燃え上がるように熱かった。きっと自分の顔も同じくらい赤いし、熱いはずだ。全身に熱を帯びていくのが分かった

「駿介君」

 

 綾は目を閉じる。

 両手を胸の前で組み、まるで聖女が祈りを捧げるように。

 そっと彼女の肩に手を置いた。一瞬、びくんと震えた綾が「ありがとう」と囁いた。

 

「俺の方こそ、ありがとう」

 

 唇と唇が触れあった。

 きっと時間で言うとそんなに長くはなかったはずなのに、体感する時間はまるで永遠にも感じられてーーいちど唇が離れると、再び重ねた。

 

「むー…」

 

 すると草の茂みからがさがさと音がして、つかさが現れた。

 頬は膨らみ、手には花束。何故か全身が草や泥で薄く汚れているのが気になる。

 

「あ、あの違うのつかさ。これはえっと……」

 

「別に、いいんだよ? あたし達は彼女同士で友達でライバルなんだから。ただあたしとしては、あたしも囲まれてる所を助けられたかったなー? 」

 

 どうやら綾を連れ出した事を知っているらしい。残念ながらつかさを見つけられなかったので助けられなかったとはいえ、彼女に寂しい思いをさせてしまった事も事実。

 

「ごめんな? 助けられなくて」

 

 素直に謝るとつかさは少し慌てた様子で、頭を上げてと言った。

 そうだ。綾が囲まれていたのだから、つかさだって同じ状況に陥っている事など簡単に想像がついたはずなのにーー

 

「んっ!? 」

 

 と悩んでいると、首に腕が回された。

 細くて、しかししなやかな長い腕ーーつかさだ。

 目を閉じたつかさの綺麗な顔が目の前にあった。ふと、睫毛が長いなあと思ったがそんなことを考えている場合ではない。

 つかさは背伸びして、俺に口付けをしたのだ。

 綾と違う、ぎこちなく舌を絡ませるーー背伸びした少女の口付け。

 綾は顔を真っ赤にしたまま顔を覆った。がしかし、指の間からしっかりと俺達を見ている。そんな事に気付くほど、感覚が研ぎ澄まされていく。

 

「つかさ……?」

 

「……もっと」

 

 全身につかさの甘い香りが伝わっていく。

 手と手を繋ぎ、指を絡ませ舌を絡ませーー終わりが見えない甘美な時間は唐突に終わりを告げた。

 

「ーーはいっ、おしまい。キスは負けちゃったけど、大人のキスはあたしの勝ちい! だから、引き分けかな」

 

 つかさはそっと手を離すと、駿介からするりと離れてそう言ってのけたのだ。

 綾は恥ずかしさのあまり、「そ、そそそそそうねと」言うだけだった。

 

「でもーー」

 

 と不敵に笑うつかさ。

 問答無用と言わんばかりに俺に抱き付いたつかさは、俺の第二ボタンに触れる。

 

「第二ボタンはあたしが勝つからね! 」

 

 そう言うとつかさは俺の腕を掴んだまま、第二ボタンにキスをしてーーそのまま口でボタンを取ることに成功した。

 

「私もほしいっ」

 

 綾もも負けじと俺にに抱きつくと、ブレザーを脱がし中に着ていた白のカッターシャツの第二ボタンを口で取って見せた。

 

「流石綾だね、その発想はなかったよ」

 

「つかさだってその、大人のキスは凄かった。負けたくないって改めて思わされたわ」

 

「ふふふ、あたしは負けないからね」

 

「私たって」

 

 手を繋ぎ、笑いながら話す二人を駿介はぼんやりと眺める。

 キスをしちゃったなぁと、ウブな事を考えて顔を真っ赤にしながら。

 

 

「あたしたちを母親にしてくれてありがとう」

 

「俺の方こそ、父親にしてくれて感謝してるよーーさあて、帰るか」

 

「そうだね」

 

 と、三人を見つめていた六人の影が遠ざかっていく事など、まったく気付かずに。

 

 

 駿介はふと振り返り、校舎を眺めた。

 すると二人も駿介の両隣に立ち見上げた。

 

「駿介君と付き合えてよかったわ」

 

「かーなーり、待たされたけどーー今はすっごく幸せだもんね」

 

「これからもよろしくな」

 

「「こちらこそ」」

 

 

 空は晴天。

 彼等は晴れやかな笑顔で、中学校を卒業した。

 

 ちなみに、真中と小宮山も泉坂高校の入学が決定した。

 




ようやく中学校卒業まで書き終りました。
小説を書くことの難しさを痛感しました笑
続きはまたちまちまと書いてから一気に更新できればなぁと思います。もしも楽しんで頂けた方がいたら嬉しいです。が、どうなんでしょうねえ……
ということで、読んで頂きましてありがとうございました。
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