いちごの輝き   作:むらさきみどり

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まとめて投稿する予定でした。しかし我慢が出来ませんでした、、、


第21話

 買い物をしようと街に出た。だけど街には春休みに入ったせいか、学生らしき若者で溢れていた。あたしもその一人なんだけど。

 

「んーー今日はいっか」

 

 踵を返しあたしは少しだけ散歩する事にした。春の柔らかくて暖かい日差しが気持ちよかったから。

 見慣れたはずの土手を歩いていた。川の流れは緩やかで、緑も芽吹いている。ふと見上げると、桜の木にポツリポツリと花も咲いていた。

 

「綺麗だなあ」

 

 普段は花なんて見ても、足を止めることなんてなかった。

 あの日あの時、彼に出会うまでは。

 最初はちょっと頼りないそんな印象だった。だけど違った。そう、全然違った。

 何度断ってもしつこく誘う男達は、かなり怖かった。いつもなら蹴りでも入れてやるのに、その時は体がすくんで腕を振り払う事くらいしか出来なかった。

 

 あたしを助けてくれた男の子ーー仲間駿介。

 もしかしたら、泉坂に行くんじゃないか。なーんて最近は毎日のように考えていたりする。あたしはギリギリで滑り込んだ補欠合格だけど。

 きっとまた会える。何でなのかは分からないけど、あたしは確信していた。

 ただそう思えば思うほど、自分の事が嫌いになる。自己嫌悪だ。

 

「はぁ……絶対、変な女だって思われたし。そもそもあんなに可愛い彼女がいるのに好きになっちゃうなんて」

 

 あたしは近くにあった桜の下に行き、大きな木の幹を背に大きく溜め息。もう何回目なのか分からない溜め息だった。

 

「え、えーー!? 」

 

 顔をあげると、視線の先に件の彼の姿を発見。思わず漏れた叫び声を押し殺し、しゃがみこむ。

 彼は気付く様子も無く小型犬と戯れていた。無邪気に。屈託無く笑う姿はあの時のちょっと大人びた雰囲気とは全然違うけど、これはこれでいいなあなんて思った。

 

「なかま、くん。なかま……仲間」

 

 初めて名前を口に出して言ってみた。下の名前で呼ぶのは照れくさいし、だけどくん付けも何だか距離を感じたから、外して呼んでみた。悪くない、と思った。仲間、仲間ともう一度呼んでみて。不思議と距離が縮まったような気もして嬉しかった。もちろん、気のせいだって事は分かってるけど。

 

 

「何だか、犬に遊ばれてる感じ? 」

 

 あたしは無意識に携帯のカメラを使い、彼の姿を撮していた。

 一歩、また一歩と近付いてーー仲間がボールを持ったまま振り返った。

 目と目があった、と思う。一瞬だけ考える素振りを見せたけど、きっとあたしのことを思い出したに違いない。彼はボールを持った手で大きく手を振った。

 

「あっあ、やだ、何これ!!!?? 」

 

 彼の事ばかり見ていたせいで足下なんてぜんっぜん見ていなかった。そのせいで、何かに躓いてしまったらしい。転びそうになってしまったけど、あたしはもう一歩踏み出した。そのせいで、勢いのまま滑ってしまいーーぎゅっと目を閉じた。

 

 

 駿介は一人、川辺にて迷い混んできた犬と遊んでいた。

 実は東城の携帯に電話をしたのだが、出たのが彼女の弟である正太郎だった。シスコンである彼に嫌われている駿介は、何故彼女の携帯に出るのか聞く暇も無く切られてしまった。一応と思い、家の電話にかけても同様。諦めて、散歩に出たのだった。ちなみに、西野をなぜ誘わなかったかというと、現在彼女は家族で旅行に行っているからである。

 

「欲しいか、これが欲しいのか。うりうりー」

 

 と戯れ始めて数分。土手の上からいつか会ったポニーテールの女子がカメラを向けて立っていた。確か北大路さつきと名乗っていたはずの女の子。恐らく、恐怖のあまり間違って愛の告白をしてしまったのだろうが、その衝撃はあまりに大きい。

 

 景色でも撮っているのだろうかと思い、手を振ってみる。

 すると気付いたらしい彼女と目があった。

 上半身しか見えていなかったのだけど、彼女が近付いてくるにつれてミニのワンピースのから覗く細く長いカモシカのような足が目に入った。

 もっというと、上に羽織ったジャケットの開かれた胸の膨らみを一瞬だけ凝視してしまったのだが……きっと気付かれてはいないだろう。何故か彼女はどこかぼんやりとしていたから。

 

「あっあ、やだ、何これ!!!?? 」

 

 小さな悲鳴。何かに躓いてしまったのか、転びそうになってしまった。幸か不幸か前に転びはしなかった彼女だが、何故かスカートを捲らせながら滑り落ちてくる。

 

「間に合えーーっ」

 

 駿介は咄嗟に走り出した。比較的身体能力の高い彼は、何とか自分の身体をクッションにするようにさつきを抱き止めた。まではよかったのだが、その拍子に駿介は彼女の胸に顔を埋めてしまう。ミニスカートは捲れたままであるので、まるいふくらみを包み込む桃色のパンツがあらわになってしまっている。

 

「あ、ご、ごめんっ! 」

 

 みるみるうちに真っ赤に染まる顔。大きな瞳いっぱいの涙。

 駿介は直ぐ様離れると、膝をつき深々と頭を下げた。

 しかし返ってくる言葉も、行動もない。

 恐る恐る顔を上げた駿介の瞳に映るのは、女の子座りで顔を覆って涙するさつきの姿だった。

 

 

 

 

 

 絶対絶対嫌われた。そう思うと涙がこみ上げてきて、一度溢れると止まれと思っても止まらない。意思に反して、情けなく泣きじゃくってしまった。

 嫌われたくない。面倒くさいなんて、思われたくない。そう焦れば焦るほどに涙は止まらない。

 

 こんな事になるなら再会なんて、しなければよかった。

 運命なんだって喜んだ事を悔いていると、ふんわりと優しく抱き締められた。

 驚きのあまり、溢れていた涙が止まる。彼はちょっとだけ困ったように、下がり眉のまま「よかった」と言ってあたしを抱き締めたままポンポンと頭を撫でてくれた。

 すると今度は羞恥心があたしのことを支配していく。

 そうだ、さっきはパ、パンツを見られたしーー胸に顔を埋めてしまった。変な下着じゃなかったはずーーでも、今日は暖かかったしもしかしたら汗臭かったらどうしよう。なんて事が頭の中を渦巻く。

 だけど仲間は、そんなあたしの心中を穏やかにしてくれるような笑顔で言ってくれた。

 

「怪我とかしてなくてよかった。でも、さっきはごめんな? 」

 

 あたしは思わず抱き付いた。さっき抱き締めてもらった時より少しだけ強く、あたしが唯一持っている“武器”である胸を押し付けるように。

 もちろん、すっごく恥ずかしかった。だけど、仲間もあたしと同じくらい顔を真っ赤にしてて、驚いていた。

 よかった。大きな胸が嫌いなんて事ではないらしい。

 だったら、まだ可能性はある。と、すぐに弱気になってしまいそうになる自分を鼓舞する。

 

「前も言ったけどーーあたし、北大路さつきは貴方の事が、仲間の事が大好きだから。覚悟しててよね! 」

 

 顔を近付けて、言った。

 だけどまだキスはしない。本当はしてみたかったけど、我慢した。ちょっとでも期待をさせられた、とは思う。

 

「北大路さん!? 」

 

 跳ねるように仲間の腕の中から離れる。

 驚いたままあたしを真っ直ぐ見つめる彼の視線に、まだ身体に残る仲間の温もりが熱くなる。

 

「また会おうね! 絶対、絶対だからね! 」

 

 土手をかけあがり、振り向き様に大きく手を振った。

 立ち上がり振り替えしてくれる仲間の姿に、思わずまた抱き付きたくなった。

 だけど、今は我慢。絶対にまた会えるはずだって、信じているから。

 いつの間にかさっきの犬が飼い主らしきおばさんに抱き上げられていた。よし、今度はあたしが仲間にあの犬みたいに遊んでもらおう。きっと楽しいはずだ。

 楽しいことを考えていると体が軽い。あたしは走り出していた。

 桜の淡く優しい匂いを背にして。

 

 

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